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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
戦う理由

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402/937

傾国の女官

11/17 作者の諸事情で最新話作成が遅れております。大変申し訳ありません。



 プロンデが、振り返らずにマリーヤを呼ぶ。

「マリーヤ殿」

「何でしょうか」

 自分の服の前についた血が気持ち悪いのだろう。プロンデの言葉に、マリーヤは照りのある生地を伸ばしながら応える。


「この火薬。在庫はどんなふうになっているかわかるか?」

「火薬……、ああ、そうでした。そうです、こちらも炭の粉が使われて……」

 マリーヤも、今気がついたらしい。縁が遠ければ、そうなるのもわからないでもない。


 だが、僕にとってはやはり恥ずべきことだ。

 銃を知っていた。そこで黒色火薬が使われることも知っていた。

 ()()火薬。炭の色を示すその名を知りながら、僕は気がつかなかったのだ。


 僕の内心は知らず、会話は進む。

「……その辺りはこの工房の職人達の管轄になっておりますので、資材とは別個に管理されております。なので、確認はしておりませんが……」

 マリーヤは、今ここにいる職人に目を走らせる。先ほど治療師を呼びに行っていた男だが、彼は心配そうに治療師と治療を受けている男を見ていた。

 マリーヤの視線を受けて、その目がこちらを向く。わずかに怯えが見えたその目で、僕らを捉えた。


「確認したいことがあるのですが」

 そう一声マリーヤが発すると、職人はおどおどと身を縮こまらせながらこちらに歩み寄る。

 その様を見て、ようやく動く気になったのだろう。ヴォロディアも一歩踏み出す。

 その一歩は、その職人の遙か後方で止まってしまったが。


 頭に起毛の布を巻いている職人が、瞬き多く口を開く。

「な、なんでしょう」

「こちらの火薬に関する帳簿を見せていただきたいのです」

「帳簿、ですか……」

 職人は倉庫らしき建物を一度見て、それからヴォロディアを一度見て、またマリーヤに顔を戻す。自分の言葉を整理しているような仕草だった。


「それでしたら……」

「何の話だ、マリーヤ」

 ヴォロディアが職人の後方から、一応歩きながらそう声をかける。職人の言葉を遮って。

 そして、僕の方を見て若干の敵意を見せた。


 プロンデは、ヴォロディアに対し跪く。そういえばそういう作法もあったか。

 僕も倣い、膝をつき頭を下げる。王城内の人間ならば廊下をすれ違うときやその日初対面でもない限りあまり必要もない仕草だろうが、僕らは外部の人間だ。

 その頭を下げた僕らに向かって、ヴォロディアが口内で舌打ちをしたのがわかった。

「火薬の話か? 今回は火薬のせいじゃねえよ。品質には問題なかった。多分、鉄を巻いたときに接合に不備があったんだろう。火力が足りなかったか、それとも……」

 マリーヤは、ヴォロディアの言葉を無言で聞き続ける

 まるで、言い訳を全て喋らせるよう。言いたいことがあるならば言え、と全身で訴えるよう。


 それから少しの後、ヴォロディアの言葉が止まる。たまの相づちしか打たないマリーヤに業を煮やしたように。

 それを待っていたのだろう。マリーヤは静かに口を開いた。

「私には、その辺りの原因はとんとわかりかねます。ですが、是非とも原因を究明してから開発は再開していただきますよう。銃というものは武器なのでしょう。武器は、予期せず己を傷つけるためのものではないはずでございます」

「……わ()ってるよ。でもよ……」

「あちらの職人の方。あの方の今後を考えてみていただければ」

 ちらりとマリーヤが怪我をした職人の方を見る。もう治療はほぼ終わり、出血も止まり傷もふさがっていた。多分もう痛みもないだろう。

 けれど……。


「俺の、俺の、……」

 涙を流しながら、手首を押さえて倒れ伏す。それはけして、痛みからではない。

 もはやその手は自由に動く指を持たない。

 起伏のあるゴム鞠。そんな物体になっていた。


「利き手を失った彼と同じ悲劇を、けして繰り返しませぬよう。開発を続けるのは止めません。けれど、彼の痛みを、どうか忘れませぬよう」

「……仕事中の怪我なんざ、よくある話だ」

 痛みをこらえるよう、顔をしかめながら呟くようにヴォロディアはそう言った。

 マリーヤはその顔に気を止める様子もなく反駁する。

「手を失うほどの怪我がよくある話というのであれば、それは明らかに改善すべき点であるはずです」

「ある程度はな。けど、予想なんて出来ねえよ。俺たち職人の領分にまで口出しするんじゃねえ」


「今の貴方は、王なのですよ」


 マリーヤの言葉に、ヴォロディアの顔が強ばる。

 握られる拳。明らかな緊張。寒い国なのに、額に少し光が見えた。


「……見舞金を出しておけ。俺の裁量で使える分の予算があったはずだ」

「わかりました。彼の恩給として受け取れるよう手配致します」


 もう話は終わりとばかりに、ヴォロディアは踵を返す。いや、返そうとして立ち止まる。

 僕らの方を向いて、もう一度舌打ちしながら。

「んなことしてねえで、立てよ」

「お見苦しきばかりなれば」

「面倒くせえ話だから、そういうのも無しでよ」

 プロンデは、礼儀に則り一度断る。それから、ヴォロディアの言葉に従い、顔を上げた。僕もそれに続けて顔を上げる。

 初めて、ヴォロディアの顔を正面から見た気がした。


 何故か、そのヴォロディアから安堵の空気が漂う。唇が少しだけ緩んでいた。

「……お前ら、誰だ?」

「私の客人です。私が応対中だったのですが、こちらで起きた事故のために、駆けつけてくださいました」

 マリーヤの紹介に応えるよう、プロンデが胸に手を当て頭をわずかに下げる。

「プロンデ・シーゲンターラーと申します。ヴォロディア・スメルティン王に拝謁いたします」

 流れるようなプロンデの挨拶。

 ……これは、僕も続けなければ不味いだろうか。嫌な予感しかしないが。

 鼻を鳴らし、ヴォロディアは僕の方に向く。

 王相手に、名を秘すのは無礼でしかないだろう。

「カラスと申します。ヴォロディ……」

「お前が……!?」

 僕の挨拶を遮るように、ヴォロディアが口を挟む。一歩だけ身を引いて、身構えるようにして。

 明らかに、僕の名前を聞いたからこその反応だ。

 

 そして、大きな声で叫ぶ。僕から目を離さず、一挙手一投足に注目しながら。

「衛兵を呼べ!!」

 大きな声に注目が集まる。そしてヴォロディアの言葉であれば無視できないらしい。何人かの官吏が、廊下の奥に走っていった。

「ヴォロディア様?」

 マリーヤが、一瞬戸惑うように尋ねる。それから、事情を得心したようで頷いた。

「ヴォロディア様。ご心配には及びません。こちらは現在私の客人です。私の名誉にかけ、ヴォロディア様に害をなすようなことは……」

「黙って離れろ!」

 マリーヤに命令し、自らも一歩下がる。そんなに僕のことが嫌いか。

 

 プロンデも、僕の方を見て戸惑うように首を傾げる。

 目だけで問いかけられている気がするが、事情をどこまで説明していいものだろうか。

 まあ、この状況で口を開けば、悪化するしかないのが予想できるけれど。


 さすがに早い。

 近衛兵というのだろうか。一般的な衛兵よりも少し豪華な衣装を身につけた兵士が、十人ほどの隊で駆けつけてきた。

 慌てた顔で、槍を携え。


 僕らを見て、そしてヴォロディア王を見て、ある程度の事情を察したのだろう。隊長らしき、兜に鳥の尾羽をつけた兵士が腕を振る。

 その動きに合わせ、僕らとヴォロディア王の間に衛兵の壁が作られた。

 そして、その槍が僕らへと向けられる。

 緊迫感。衛兵の緊張感が僕らにも伝わるほどの冷たい空気が場に流れた。


「カラス、と言ったな。何をしにきた。レヴィンの腕を奪ったお前が、この国に何を」

 何か釈明をしなければ。そう思い、口を開こうとすると、マリーヤが視界の隅で首を振る。

「…………」

「黙るなよ。レヴィンの次は俺か? なあ、おい」

「ヴォロディア王。些か礼を欠きすぎでございましょう。彼は、私の客だと申し上げたはずです」

「こんな奴に礼儀なんて必要あるかよ」

 止めようとしたマリーヤの手を振り払うように、ヴォロディアが手を振る。

 その仕草に、兵士達の手に力が入ったのが見て取れた。


 満ちる敵意。王の命に従い、王の命を守る。それが仕事だ。仕方ないだろう。

 だが、近衛隊長だけは、少し違うタイミングだった。彼だけは、近衛隊長だけは先ほどの僕の名前が出たところで緊張した様子だった。他の兵士に変化はないので、彼だけは僕の名前を知っていたのだろう。その、知っている意味はわからないが。


 いや、そんなことよりも今はこの場だ。

 多分、抵抗して逃げ出すことは出来るだろう。しかし、そうするとその制圧に正当な根拠を与えてしまう。悪心がなければ、抵抗することもないのだから。……いや、その場合はそもそも制圧されないということがあるので、理不尽な理屈か。


 このままであれば拘束され、何の罪かはわからないが多分個人的な感情で尋問にかけられる。

 抵抗すれば、それを以て拘束され、争乱を起こした罪で裁かれる。

 また詰んでいる。僕はこんなのばっかりか。


 僕はもう一度頭を下げて、ヴォロディア王を視界から外して答える。

「……私たちはマリーヤ様にお会いするためにこの城を訪れただけでございます。けして、国主様に害をなすようなことは……」

「黙らせろ」

「おやめください!」

 衛兵と僕らとの間にマリーヤが割って入る。槍衾の前にいるというのは、戦えない者にしては剛胆すぎるだろう。

 いや、その手が少し震えている。……本当に、申し訳ない。

 そして、マリーヤに槍を向けることは出来ないのだろう。隊長の指示もなく、衛兵達は穂先を上げて、傷つけないように配慮する。隊長すら、自ら。


「先ほど言ったとおり、彼らは私の客人でございます。何の謂われがあって、彼らを拘束するというのですか!」

「その男は、レヴィンの敵だ。それだけで充分な話だろう!」

「そんなわけが……!!」

 マリーヤが絶句する。衛兵達も、戸惑ったように顔を見合わせる。


 ぐ、っと唇を結んでから、マリーヤは言い返す。さっきから思っていたが、王様相手にまで大丈夫なのかこの女性は。

「レヴィン様の腕を奪ったのは、正当な決闘でのもの。その報復をするのであれば、それはレヴィン様の名を汚すことになるでしょう」

「卑怯な手を使ってもかよ」

「卑怯とは、それこそ何の話ですか。禁じられない限り、魔道具の使用も魔法の使用も認められております」

「それだって、なあ、……ああ……!」

 力なく、ヴォロディアが首を振る。反論が思い浮かばない様子で。

「……わかったよ! ただし、そいつがこの城で何かしたら全部お前の責任だからな!」

「ですから、私の客人、と申し上げております」

「わけわかんねーよ畜生!!」

 

 最後に大きく叫び、ヴォロディアは肩を揺らしながらドスドスと廊下へ歩いていく。

 衛兵達がその気勢を削がれて隊長を見ると、それに応えて隊長がマリーヤに頭を下げる。

「どうぞ、貴方たちの仕事をされますよう」

 静かに放たれたその言葉にもう一度頭を下げると、ヴォロディアを追って隊長は出ていく。

 衛兵達も、それに従い早足で立ち去っていった。



 マリーヤは静かに溜め息をつく。

 ヴォロディアがいなくなり、もう騒動は終わったと思ったのだろう。野次馬達も、ぞろぞろと試射場からいなくなっていった。

 残ったのは、僕とプロンデ、マリーヤの三人。それに加えて、治療師と職人二人、計六人だけだ。

 マリーヤが腕を失った職人に歩み寄る。それを確認し、治療師は一歩引いた。

「今日はもう休まれませ。明日、こちらの工房に恩給の必要書類をお届けします」

「お、俺の腕が、そんなもんで……!」

「生活に不自由はしませんよ。どうか、安らかな……余生を……お過ごしください……」

 後半は、マリーヤも口に出しづらいようで辿々しい。

 その言葉に、泣き崩れる男性には、もう誰も声をかけられなかった。




 一応、まだ診察などはあるという。泣きながら、治療師の男性に連れられて職人も立ち去っていった。

 それを見送り、とうとう四人だけになった。

「……大丈夫ですか?」

「ええ。慣れております」

 王様への態度と、職人への対応。そのどちらも含んだ僕の言葉に、マリーヤはどちらにも当てはまるように答える。寂しそうに笑いながら。

「それと、ありがとうございます。助けていただいて」

「私は私の客を守る。当然のことをしたまででございますよ。あれはただの、ヴォロディア王の言い掛かりです」

 こめかみにかかる髪の毛を払いのけて、もう一度マリーヤは笑った。

「しかし、あれはやりすぎだろ」

「否定は出来ませんね。プロンデ様も、そう思われますか。いえ、どのように思われましたか? 忌憚のない意見をどうぞ」

「……人の国だ。言いたくはないが、……」

「ご心配なく、ここだけの話にしておきます」

 にっこりとマリーヤが笑顔を作る。これはどちらかといえば、自分も今ヴォロディアの批判を聞きたいのだろう。笑顔の裏には、大分ストレスが溜まっているようだ。

 それをプロンデも読み取ったのか、重々しくプロンデは口を開く。

「自分が王だという自覚がない気がする。俺たちに頭を上げろと言ったあの言葉。多分、儀礼的なものではないだろ」

「……なるほど」

「しかし、それにしては身分を気にしているのか? 俺たちがこの場に来たときに、ヴォロディア王は壁際でただ見ていた。おそらくその場にいた中で、最も非力なマリーヤ殿が怪我人を必死に押さえていたのに。その辺りに、齟齬がある気がした」

 プロンデは天を仰ぐ。そして、もしかしたら、と続けた。

「最後の言葉を考えると、王になりたくないのかもな。法はまず王へ向く。国で一番責任があるから、一番力を持つ。一番力を持った王が法を守るから、皆が法を守る。その道理が、わからないわけではないだろ」

「……どうなんでしょうね」

 マリーヤの笑顔が翳る。それで、プロンデの批判も終わったらしい。

 

 ようやく、空気が途切れた。

「でも、大分恨まれていたが何したんだ? 決闘で腕を奪ったってのは」

「以前、そのヴォロディア王の盟友と決闘をしまして。その時に負わせた怪我を苦に、自ら腕を切り落としたそうです。その逆恨みですね」

「ウェイトが聞いたらまた喜びそうなもんだが」

「ウェイトさんのご期待には添えないと思います。その『レヴィン様』から申し込んできた、立会人のいる正当な決闘ですから」

 あれに関しては、僕は自らに恥じるところはない。

 儀礼的にも、法的にも、間違えたことはしていないはずだ。

「一応聞いておくか。その立会人の名は?」

「……オルガ・ユスティティアさん。当時探索ギルドの職員をしていました」


 その名を口にして、当時の顔が思い浮かぶ。

 旅から戻ってきたら、もう探索ギルドから姿を消していた彼女。言っていたとおり、今もどこかで伴侶捜しをしているのだろう。

 そういえば、彼女は今どこで何をしているのだろうか。


「ユスティティア……というと、ユスティティア家の令嬢か。会ったことはないけど、容姿端麗と聞いたな」

「ええ。お綺麗な方でしたよ」

 実際の年齢からすると、綺麗というよりもかわいいという感じだったが。そこは本人も隠しているのだ。僕からは言うまい。




「……それで、先ほどの話ですが」

 マリーヤが、唯一残った職人に目を戻す。そうだ、たしか、帳簿の話をしている最中だったか。

 突然話の中に戻された職人は、また肩を震わせるように驚き、瞬きを繰り返した。

「かかか火薬の帳簿ですね。いい今お持ちします!」

 緊張からだろうか。震える声でそうなんとか答えると、工房の建物の中に駆け込んでいく。

 それから、鍋か何かをひっくり返すような音を何度もさせて、ようやく一冊の本を持って戻ってきた。


 それをマリーヤが受け取り、静かに開く。

 中には、掠れた炭で乱雑に書かれた数字が並ぶ。だが、増減だけで現在の在庫は記されていない。

「……たしかにこれで充分なんですけれども」

「ももも申し訳ありません、数える必要なんてない、と親方……じゃなくてヴォロディア王が……」

 以前のページをパラパラめくると、昔はきちんとその時の数まで書いてあった。その横を見ると暗算できずに筆算を繰り返した跡のような文字が並んでいるため、ちゃんと計算していたのだろう。その計算が面倒くさくなったからか。


「昨日か一昨日はどうなっていますか?」

 僕は尋ねる。アブラムが持ち出したのが本当に火薬ならば、そこに何か書いてあるだろう。

 マリーヤが指で辿ったその欄には、やはりあった。


「昨日の朝、小樽九個が外部に持ち出されておりますね。一般的な荷車が十二個ほど積めるので、まあ妥当なものでしょうか」

「これを受け取りに来た男は?」

「ええと、名乗りませんでしたが、こ、紅血隊の方ですた」

 噛みながら、職人はそう答える。……これはもう決まりだろう。

「紅血隊が火薬を使うなんて、そうありませんが。その用途は何か言っていましたか?」

「なななな何も!」

 マリーヤに尋ねられると、一層声の震えが大きくなる。何というか、女性に弱いのか。

「……不審に思わなかったんですか?」

「そそ、そりゃ思いましたけれど、けれど、ヴォロディア王の……」

「ヴォロディア王の?」

「一筆書かれた、しょ、書状を見せられたので、こりゃ渡さなきゃまずい、と思いましてすいません!」

 マリーヤとプロンデに詰め寄られ、自分が何かまずいことをしたと思ったのだろう。勢いよく職人が頭を下げる。

 どちらも、その仕草を見てもいなかったが。


「決まりだな」

「ええ。アブラムは火薬を持ち出して、北の砦に持ち込んだ。それで出来ることといえば……」

 プロンデの言葉に応えて、僕は考える。

 まず考えられるとしたら、北砦の破壊。何のために?

「彼の素行とか、どんな感じだったんでしょうか」

「彼個人のものは調べておりませんが、紅血隊の皆様は概ね評判がいいですね。グーゼル様の薫陶を受け、鍛えられているのです。悪い噂などはないと断言できます」

「では、何のために……」

 というか、そもそもあんな砦など、火薬を使わずとも破壊できる。

 一般人には無理でも、彼らは魔術師で更に仙術という技能も持っている。昨日見た拳撃ならば、殴れば砦も大破する。


「そういえば、彼らは魔術などを扱えるんですか?」

「魔術……ですか? いいえ、紅血隊がいるということで、この国では魔術ギルドの力が弱く、彼らは加入していないはずです。グーゼル様は以前修行されていたとお聞きしたことがありますので、多少は使えるはずですが」

「何故だ?」

「いえ。例えば、火をおこせるのであれば火薬は不要だなぁ、と」

 規模はまあ人によるが、大規模な火がほしいのであれば魔術師一人いれば事足りる。しかし……。



「そういったことも、砦にいけばわかるだろう。あの様子であれば、ヴォロディア王に確認をとることは出来ない。レイトンたちも、既に向かっているかもしれない。俺らも出よう」

「……ですね」

 三人で顔を見合わせ、頷きあう。

 ヴォロディア王への対応は、申し訳ないがマリーヤに頼もう。


 僕らも工房から立ち去ろうとする。

 挨拶を交わし、プロンデは廊下に出る。



 だが、僕だけはさりげなく工房に残った。短時間だ、すぐに追いつく。

 だがその前に、聞いておかなければいけないことがあった。


 そう、その目的で一番重要な疑わしいこと。一応マリーヤに確認しておかなければ。

 マリーヤも察していたのだろう。いたずらっぽく笑いながら、僕を見ていた。

「なんでしょうか?」

「……アブラムは、革命軍に参加していましたか」

 その質問も予想していたのだろう。考えもせず、マリーヤは答えを口にする。

「いいえ。()()()には近づいてもいないでしょう。グーゼル様なら革命を阻止するために動くと思っておりましたので、紅血隊との接触は革命軍には厳に慎ませておりました。革命のその日も、大きな障害になることが予想された紅血隊の皆様は、全員砦に私が退避させておりましたから」

 ……つまり、革命はやはりグーゼルにとっては不本意だったということだろうか。

 ならば。

「それにしては、今よくこの国に従っていますね」

「グーゼル様が守りたいのは、この国であって王族ではない、ということでしょうか。その辺りは私が……」

 クフフとマリーヤが笑う。

 マリーヤは明言しない。だが多分、言いくるめたのだろう。わがまま姫の相手は、想像以上に話術を発達させるらしい。

 

「やっぱり、グスタフさんの目は狂っていなかったようですね」

「それはやはり、買いかぶりだとも思っております」

 

 笑い合う。

 そして、おろおろと見ていた職人にも一応会釈をし、僕もプロンデを追って走り出した。




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― 新着の感想 ―
カラスの様な、身近で起きた全ての事件に、何かしら自分の責任が存在すると信じ込む様なキャラクターは、こういった作品の主人公としてはありがちですよね。 でもこの作品が面白いのは、それに『魔法使い病』という…
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