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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
四色の雪

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閑話:決死の防衛戦

 



 防衛隊指揮官は歯噛みする。

「嫌な距離だ」

 そう呟く言葉は誰に言ったわけでもない。だが、それが聞こえた部下達はそれぞれ内心同意した。


 見据える先には氷獅子。一頭の雄を中心に十数頭の雌が従い集団生活する類いの魔物だ。

 その牙は鋭く、更に爪の一撃も馬鹿には出来ない。魔力を帯びたその爪は、抉れば鉄の鎧を貫き人の体に致命傷を与える。さらに、その内側に毒を帯び、万一生き延びても数日は気怠さが残る。

 千尋の谷から軽々と飛び降りることが出来る身のこなしに、それに耐える膂力。

 それらは、鍛えた人間であっても退治に死を覚悟するのに充分な能力だった。


 だが、この砦付近に現れるのはままあることであり、そう珍しいことではない。

 一応の、退治の定石はあった。


 それは単純で圧倒的な暴力。

 砦の前まで引きつけ、砦の上から大量の矢を浴びせる。そうして手傷を負わせた後、動きの鈍る氷獅子に剣や槍で止めを刺す。

 単純なものだ。


 だがその対抗措置のために必要な第一条件。

 それを、今回は満たせていない。それこそが唯一の問題であり、そしてそれ故にその対抗措置をとることが出来なかった。

 その第一条件とは、襲撃を察知したときの距離だった。


 矢を放ち、浴びせる。

 言ってしまえば簡単な動作ではあるが、しかしそれは簡単ではない。

 動く的に向けて矢を放ち、的確に当てることが出来るというのは一種の能力だ。


 当然弓を扱い慣れているはずの兵士でさえ、百歩離れた位置にある人間大の的を思い通りに射貫くのは難しい。十矢のうち、三本当たれば良い方である。


 そして、実戦での相手は生き物だ。である以上抵抗する。

 身を隠す、避ける、弾く。そうされてしまえば、更に命中率は下がっていく。


 そのためにとる対策として、近くから、大量の矢を放つのだ。

 十の矢を当てる必要があり、十に一つしか当たらないのであれば、百放てば良い。百に一つしか当たらないのであれば、千放てば良い。

 そして当然、近づけば命中率は上がっていく。五十歩まで近づけば、五矢は当たる。三十歩まで近づけば、八矢は当たる。そんな具合に。

 物量による面攻撃。多少狙いがはずれようとも、どれかは当たる。そうして、氷獅子は撃退されてきた。



 だが、今はそれが出来ない。


 ヴォロディアの政策。防衛費の削減がここに来てじわじわと兵士達を苦しめていた。

 矢の数に限りが有る。矢だけではない。弓も何度も使えば壊れてしまうし弦は痛む。日々の手入れに物資は必要だ。 

 故に、以前よりも矢は節約しなければいけない。圧倒的な物量を発揮することは許されない。


 それも、いつもは問題なかった。

 精鋭たちに弓を任せ、無駄にならない矢を効率的に放つ。そうした慎ましやかな努力で凌いでこれたし、指揮官も凌いでいく自信があった。


 だが、そこでこの距離の問題が浮かび上がる。


 今回氷獅子の接近が発覚したのは、いつも見張りが発見する距離よりもだいぶ近い。

 いつもはもう少し余裕があった。

 それこそ、こちらが氷獅子たちに気がついたことを氷獅子たちに悟らせるよりも先に弓兵の配備が済んだし、それでこそ伏して進む無防備な背中を精鋭たちが狙い撃つことが出来た。

 今回それは出来ない。

 その配備のために時間をとれば砦へ侵入されかねない距離だったのだ。

 だからこちらも身を晒し、氷獅子たちの前進を止めなければならなかった。


 そしてもう一つの厄介なことがある。


 氷獅子たちの前進が止まった。

 それは好ましいことだ。これで弓兵たちを配備する時間が出来る。

 しかし、その止まった位置が問題だった。


 精鋭たちでも、狙い撃つことが出来ないぎりぎりの距離。

 撃っても避けられてしまうことが簡単に想像できる距離に、氷獅子たちは止まった。


 あと十歩近づいてくれれば。

 そうすれば戦局を左右する矢が放てるのに。

 あと十歩近づくまでに気付くことが出来たなら。

 そうすれば、戦局を左右する矢が放てたのに。



 砦の前で約三十名の衛兵達が隊列を組み、その先頭に立つ指揮官は唾を飲み込む。

 動く的に矢を当てるのは困難だ。ここから、走ってくる氷獅子へ弓を射かけるのは得策ではない。それは恐らく、ただの矢の浪費で終わるだろう。

 そして、乱戦となればもう弓は使えない。弓兵に友軍を撃つ愚を犯させるわけにはいかないし、そうして徒に被害を増やすことは出来ない。



 見ている前で、氷獅子の雄が天高く吠える。

 まるで、『殺せ』と言わんばかりに。後ろの配下たちに、殺しを命じているように。



「総員、構え! 前へ!!」

 その姿を見て、指揮官は手を振り上げて指示を出す。

 皆が悟る。

 これからするのは、今までしてきたような、半ば一方的な狩りではない。

 殺しあいだ。


 先王の時代が懐かしい。指揮官は皮肉に顔を歪めた。

 あの頃であれば、矢の浪費も気にせず、圧倒的な物量で圧殺できたものを。


 そうは思うが、指揮官はそれを口に出すことはない。それを言っても詮無きことだ。

 国民は先王ではなく、あの男(ヴォロディア)を選んだ。

 自分たちが守るべき、国民の選択。衛兵達はそれに自らの身を委ねていた。



 殺し合いに、さして特筆すべきことはないだろう。

 予想どおり、それはすべて衛兵達の予想どおりに進んだ。


 襲い来る氷獅子の雌たち。

 その動きは速く、鋭い。その飛びかかる迫力に怯え、動きを止めてしまう兵士すらいるほど。

「グハッ……!」

「みゃっ……」

 見ている間に、飛びかかられた兵士が押し倒される。その氷獅子の横腹を打ち据えた他の兵の攻撃に救われるが、それでも起き上がった顔は戦意が萎えている様子だった。


 一人、また一人と爪を受け、牙を立てられ倒れていく。

 エッセンやムジカルなどよりも平均して練度の高いリドニックの北伐隊。

 それでもなお、魔物の相手は容易くなかった。


 接触してすぐにわかる明らかな劣勢。だが、と指揮官の目は死なない。

 頭部への爪を躱しきれず、引っかけられた傷口から血が溢れる。それでもなお、諦めてはいない。

「近づけるな! 一頭ずつ片付けていけ!!」

 手近な一頭を打ち払いながら指示を出す。まだ勝算は残っているのだ。



 氷獅子は手強い。

 だがしかし、脆い魔物でもある。


 一般に、闘気を帯びた魔物は硬い。

 体毛や皮、筋繊維から骨に至るまで人間には到達できない練度で強化された体は、それ以上の闘気や魔力がなければ歯が立たない。

 故に、強く、速く、そして厄介。闘気も魔力もない通常の野生動物ですら一般人の手には余るのに、その能力値が全て強化されていると考えればわかりやすいだろう。



 しかし、氷獅子は魔力を帯びた魔物だ。

 その事実が、指揮官が縋る唯一のよすがだった。


 魔力を帯びた魔物は、その全てが硬いわけではない。

 勿論、硬い種もいる。ネルグの湿地帯に住む三足亀などはその典型だろう。鋼よりも硬い甲羅を壊せる者は、聖騎士や色付きの探索者の中にもそうはいない。温厚な性格の上に、死ねばその甲羅も柔らかくなってしまい利用できないので誰も戦うことなど考えないが。

 だがそれも種や性格による。

 魔力を持つ魔物の場合、その能力は千差万別だ。牙だけを強化した魔物や、脆いが再生能力が図抜けているもの。体の頑丈さが通常の野生動物と変わらない種すらある。



 氷獅子の対策に矢が使われるのは、それもある。

 鏃以外が木製の矢は、通常闘気を帯びさせることは出来ない。それに加えて、闘気を伝わらせるには接触していなければいけない。つまり、飛んでいく矢は通常の矢なのだ。

 弓兵は、金属線の通る弓や、特殊な薬煉を塗るだけでなく染みこませた弦を使い、射出する装置を強化することしか出来ない。


 いくら熟練しようと鍛えようと、弓は弓。その勢いが増しても、それを伝える矢は手を離れた瞬間から闘気の加護を失う。

 なので、闘気を帯びた魔物に対して使えば、容易く折れてしまう。


 しかし、氷獅子の肉は膂力を増してはいるものの、強度はさして強化されていない。

 だから通る。だから、矢が使えるのだ。



 氷獅子の肉体は、通常の肉。

 闘気を帯びた衛兵達の一撃は通る。内傷すら簡単に起こすことが出来る。


「………なぁぁぁぁぁ……」

 猫の声とはまるで違う、野太い氷獅子の悲鳴。

 衛兵達の被害は甚大だ。足を食われかけて必死で戦っている者がいる。息も絶え絶えで、ただ槍を振り回している者もいる。

 明文化したわけでも、示し合わせたわけでもない、暗黙の了解。肉を食わせて骨を断つ、非効率な戦法。

 だがその甲斐あって、兵士達の苦悶の声よりも、氷獅子の断末魔の声がより多く聞こえていた。




 だが……。

 衛兵達の辛勝に傾きつつある戦場。それでも、まだ決着はついていない。

 指揮官は、力の入らなくなった左腕で槍を支えるのを諦め、腰の剣を抜く。

 視線の先には、小高い位置から戦場を睥睨する氷獅子の雄。鬣を雄々しく立てたその顔を、指揮官は睨み付けた。


(まずいな)

 内心の焦りを隠すよう、構えをとる。背後の部下達の様子を気にかけながら、じりじりと近づいていく。

 氷獅子の雄。その戦意は消えていない。

 鼠が危険から一目散に逃げていくように、野生動物は命の危険に敏感だ。しかし、この氷獅子には一切の恐れが見えない。

 同胞が駆逐され、殺されていくその姿を見ても、ただそれを眺めているだけだった。


 まずい。

 その氷獅子の様に、指揮官は恐れを抱く。

 この衛兵達の群れを見ても、彼は危機感を覚えていないのだ。多分、無傷で全滅させることが出来ると、そう思っているのだろう。指揮官はそう予想した。



 わずか一分に満たない乱戦。

 しかし、それだけでもう部下達は半死半生のものまでいる有様。

 もはや壊滅状態だ。目の前の雄が参戦せずとも、全滅するかもしれないほどの惨状。


 最後の手段としては、自分たちごと矢で射貫かせる。

 それを指揮官も、そしてその背後で必死に抗っている部下達も、内心覚悟していた。



 それでもなお、指揮官は自らの責任を全うしようと自らの足に力を込める。

 効果があるかなど考えもせず、ただ氷獅子を睨みながら牽制していた。


「総員、動ける者は負傷者を連れて退避! これより援護が来るまで籠城戦に移行する!!」

 部下達の命を効率的に使い、魔物殲滅を優先する。それも指揮官の責任だろう。だが、このときの指揮官はそうは考えなかった。

 犬死にはさせない。死ぬのであれば、一番責任の重い自分からだ。そう考える。

 故に何の躊躇もなく、自らが囮になることを選んだ。


 もう既に手傷を負い、力の入らぬ四肢。

 それを気力のみで奮起させ、宙を返りながら撤退しつつある部隊の殿に飛ぶ。



「隊長! 先に!!」

「構わず入れ!! 門を閉めろ!!!」


 部下の気遣う声へ背中越しに応え、それでも氷獅子から視線は外さない。

 残っているのは雄一頭に雌が六頭。手負いとはいえ、雌にも自分は勝てないだろう。そう、諦めながらも腕の力は抜かなかった。


 これでいい。

 あとは自分ごと弓を撃たせるだけ。それで氷獅子たちの命を奪うまではいかないかもしれないが、左右の砦からの増援が来るまで籠城し、改めて殲滅する。その布石は打てた。


 そう考えて、少しだけ気が緩んだ。

 それを見逃さないよう、氷獅子の雄が口元を緩める。



「がはっ……!!」

 あ、と思ったときには遅かった。

 背後で部下が一人倒れる音がする。その攻撃の正体を見ていたからこそ、振り向くことが出来なかった。


 氷獅子は魔力を帯びている。

 その魔力で肉体強度を上げていないため、簡単に討伐できる魔物。

 そう思っていた。いや、そう思い込もうとしていた。


 しかし、それは違う。

 魔力を帯びている。それは即ち、肉体以外の攻撃手段があるということとほとんど同義だ。


 反射的に飛びかかる。

 まずは、手前にいる雌三頭。それを蹴散らしながら、雄まで辿り着き、その胸元に剣を突き刺す。

 そうしなければいけない。そうしなければ、部下はおろか砦まで危うい。


 厳しい判断。それすらも甘い考えだったということに気がついたのは次の瞬間だった。


 今度は発生までしっかりと見ていた。

 氷獅子が口を開ける。それに合わせて指揮官の視界の端。右の上に、氷の柱が生成された。

 躱す間もない。噛み砕く勢いで閉じられた氷獅子の口。その口の動きに合わせて、空中に現れた氷の柱が、氷の牙が指揮官の肩を貫いた。


「ぐわあぁぁぁぁ!!?」


 思わず叫ぶ。情けない、などとは言ってはいられない。

 溢れる血、噛み砕かれた肩。平衡を崩した体が横向きに倒れる。


 もはや、受け身をとるために手を出すことも出来ず、雪の上に指揮官は倒れた。

「隊長!?」

 部下達の声にももう反応できない。

 顔を歪めて歯を食いしばり、それ以上の叫びを上げないように精一杯に耐えていた。



 視界が狭くなる。心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 実際よりも遠くから聞こえる部下の声。もう、死ぬ。そう思った。






「アブラム! 右二頭任せた!!」

「了解!!」


 遠くから聞こえる声。そこに、部下達ではない者の声が混じる。指揮官にもその理由はわからなかったが、それが部下達の声ではないことははっきりとわかった。


 横向きの視界。指揮官はそこに、希望を見た。



 降り立った二つの影。男女だろう、その影が腕を振るう。

 豪腕、という感じではない。破綻のないその綺麗な拳の動きは、戦場であるにもかかわらず綺麗なものだった。


 瞬間、雌の獅子の頭部が弾ける。

 女性の拳が命中したかと思ったら、まるで雪だるまを叩いたように、血を撒き散らしながら破裂した。

 同じように、男性が振るった腕も、雌の獅子の胸を打ち抜く。脱皮するかのようにその背中が弾けた。


 瞬く間に倒れ伏す雌の獅子。

 横倒しになり、指揮官と同じような姿で倒れた獅子たちは、既に絶命していることが一目でわかった。


「いっちゃん強いのあたしがやる! 負傷者を回収して保護! 急げ!!」

 女性の声に応えて、男性が頷いた。

 それから指揮官を抱き起こすようにして運びにかかるその男性の服を見て、指揮官はようやく自らを助けた影の正体を知った。


 震える唇が、なんとか声を絞り出す。

「……紅血隊の……かたか……」

「喋るな。肺に傷が達している」

 冷たいようで、それでも力強い声。その声に、指揮官の目からわずかに涙が溢れた。


 運ばれたのは、門の前。それはもう既に閉められた後だった。

 それを薄情と責める気はない。指揮官は満足げに目を細める。

 部下達は務めを果たしていた。恐らく、死者はいない。そう、満足げに。


 痛む肺で必死に息をする。

 そして壁に背を預け、指揮官は黙って様相を変えた戦場を見つめていた。




 駆けつけた女性の武威に反応した氷獅子は、身を屈め臨戦態勢をとる。

 彼は今まで狩りの気分だった。つがいの雌たちが倒れ伏してなお、自らの強さに絶対の自信があったからだ。

 しかし、もうそうでないことをようやく悟った。

 目の前の人間の雌。それは、油断できる相手ではなく、そして狩りの対象となる弱者ではない。


 威嚇のためと、自らを奮い立たせるため。

 氷獅子は、目の前の女性に負けぬよう、力強く唸った。




 グーゼルは、怒りに震えていた。

 駆けつけた時にはもう遅かった。自らの同胞たる衛兵達は撤退し、辺りの雪は血に染まっている。

 善戦はしたのだろう。けれど、勝つまでは至らなかった。

 その力不足を咎める気はない。むしろ、よくやった。よくここまで持ちこたえてくれた。

 そう、誇らしい気持ちだった。


 だからこそ、怒りが胸に満ちる。

 その衛兵を、この氷獅子は狩りの対象と見なしていたのだ。戦いではなく、狩り。

 こちらも駆除対象と見ていることから仕方ない、などとは思わない。

 ただその態度に、必死に戦った仲間を馬鹿にされたと思った。


 故に、開始の声もなく、鬨の声もなく、ただ構えをとった。



 反応し、身をよじりながら爪を振るう氷獅子。

 その爪に蹴りを入れ、弾く。無論、それだけでは済まさない。



 グーゼルが開発し、研鑽する仙術という技術。

 実際はここに、武術の要素はない。


 ただ、その魔力を効率的に扱う術であり、本来魔力操作がほとんど出来ない魔術師に、魔力を扱わせるための技術だった。


 仙術では、人体を水銀を入れた袋として捉える。

 その体の動きでよどみ、動く水銀こそが魔力であり、それこそが本来魔術師が感じられない体内の魔力なのだ。


 その水銀を、周囲の袋を適切に動かすことで操る。

 故に彼女は魔力を操ることができる。本来魔術師であるはずの彼女の魔力を、体外まで広げることが出来る。


 そのため、振るわれる拳足は魔法使いの魔法に近い。

 今回グーゼルが込めた力は《破裂》。

 その力をまともに受けた氷獅子の前足が弾けて消えた。


「ギャアアアアア!!」

 氷獅子が叫ぶ。それは生涯初めての、激痛による叫びだった。


 それだけでは当然命までは奪えない。

 グーゼルの拳が乱れ飛ぶ。常人の目には見えない速度の打撃。その薫陶を受けたアブラムすら、その動きを把握することは出来ない。



 まるで、一枚の紙に子供が遊び半分ででたらめに穴を開けたように、瞬時に氷獅子の体に穴が開く。

 一拍遅れて鳴り響く連続音。風船が弾けたようなその音は、氷獅子の命が弾ける音だった。


 地面に落ちるまでに、既に原型を留めていない氷獅子の体。

 グーゼルはその行方に興味がない。


 返り血を浴びながら振り返る。

「そいつの傷の様子は!?」



 そう言って自らに走り寄るこの国最強の姿。

 それが、ただただ誇らしい。

 指揮官はふと微笑む。それで緊張の糸が途切れ、意識を保つ最後の支えが失われる。


 安堵と失血。それが指揮官の気力を容赦なく奪った。

 気力が尽きた指揮官の視界は、それを最後に黒く染まった。




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― 新着の感想 ―
[一言] >鏃以外が木製の矢は、通常闘気を帯びさせることは出来ない。それに加えて、闘気を伝わらせるには接触していなければいけない。つまり、飛んでいく矢は通常の矢なのだ。 >いくら熟練しようと鍛えよう…
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