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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
四色の雪

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雪、時々魔物

 



「これからだが……」

 雪が小降りになってきた頃、グーゼルは口を開く。たまたま行き会ったアブラムという男も加えて、三人の目がグーゼルに向く。

「あたしとカラス、あたしら二人は問題ねえ。だが、スティーブン爺さん、あんたは少し厳しい。防寒着を増やして、闘気を練って体温を保って……それで持つか?」

「無論じゃ。儂を誰だと思うとる? 月野流師範であるぞ」

 胸を張って、スティーブンは答える。その声は少し掠れているが、それでも雪が降る前よりは回復しているように見える。

 だが、その言葉はやはり意地やその類いの言葉だろう。

「強がりとかは今はいらねぇし。命に関わる重要なことだし、正直に言えって」

 真っ直ぐなグーゼルの視線。それを一身に受けたスティーブンは、背中を少し丸めて視線を逸らした。

「……この速度だと厳しいかもしれん。歩いていくならまだしも、先ほどのような高速の移動は体力が持たん」

「だろうなぁ……」

 グーゼルは頭を掻く。返答はもう既に予想済みで、ただの確認だったのだろう。落胆も見せなかった。


「けど、時間をかけても厳しいだろ? あんたの体力はだいたいわかった。そう長い時間、寒さに耐えることは出来ねぇはずだ」

「それもまあ、そうじゃが……」

 たしかに、それもそうだろう。

 この砦の中は暖房のために火が焚かれている。そのため肌寒い程度で済んでいるが、一歩出れば外は厳寒の地だ。

 それに先ほどの浄華雲のせいか、更に一段と気温が下がっている。多分、外に熱湯をまくと空中で凍る。それくらいに。

「北壁は、こことスニッグ(首都)までの距離よか短え。けど、寒さはまた厳しくなる」

 溜め息を吐きながら、グーゼルはまとめるように言葉を選んでいく。

「な、もうここで諦めるってもんじゃねぇ? 残念だけど、あんたにゃここを越えるだけの体力が残ってねえ。妖精の国探しは誰か他の奴に任せてよ、あんたはここで降りるってもんじゃぁ……」

「……しかし、誰も戻ってこなかったんじゃろ?」

「……ああ。昔より今は減ってるけど、それでも変若水は不老長寿の妙薬、求める奴は大勢いる。それに、妖精の国なんてもんがあるんなら、一攫千金目指して行こうとする奴もいる。魔物の発生源を突き止めたい、なんて妙な正義感を持って飛び込んだ奴もいる。でも……」

「そいつらは、どうしたんじゃ?」

 グーゼルの説得の言葉を遮り、スティーブンは疑問を口にする。


 そういえばそうか。

 僕もあまり考えてはいなかったが、『戻ってこなかった』ということは入っていった人もいるはずだ。

 そして、その求める物は不老長寿の妙薬。つまり、不老長寿の手段を持っていないはず。いや、一攫千金を夢見てということで、能力のある探索者やらが入っていったこともあるだろうが。


 だが、その疑問も僕の中ですぐに氷解する。

 彼らが北壁自体に辿り着けたと考えなければいい。


「スティーブン殿と同じく、吹雪に耐えきれず飲まれたんじゃないでしょうか」

 僕は予想を言葉に出す。それに応えるよう、グーゼルは頷いた。

「北壁まで行った奴もまあいないわけじゃねえだろうけど、大半が死体で見つかってる。寒さで死んだか、魔物に食われて死んだか……、それをあたしらが見つけてんだ。吹雪が引いたときにな」

 自らの胸を支えるように腕を組み、残念そうにグーゼルは眉根を顰める。

「あたしがいる以上、魔物は怖くねぇし、それは別に心配しなくてもいいよ。けどよ、あたしも人の寒さは何ともなんねえ。……やっぱ諦めろよ、爺さん」


 グーゼルの言葉にスティーブンは肩を落とす。

 残念だろう。遊行のついでとは思うが、この国に来た目的を、自分の能力不足で諦めなくてはならないのだ。

 無念だろう。誰に邪魔されたわけでもなく、ただ自分のせいで自分の目的が達成できなかった。

 それが、突発的な事故などであればその事故に対して怒りも湧く。矛先はそちらに向けられるだろう。

 だが今回邪魔しているのは、この国の北で常に吹き荒れていると言われている吹雪(自然現象)。納得ずくで来ているのだ。その原因に対して今怒れば、ここに挑戦するという決断をした過去の自分まで責めることになる。


 だが、そうだ。それさえなんとかすれば、スティーブンは北壁まで行ける。

 なるほど。たしかに偶然にしては行き過ぎだ。

 そうだ。ここに僕がいる。それは、スティーブンの考えがあってこそだったのだ。

 老人の勘も侮れない。

 僕は、解決法を持っている。その僕を、スティーブンは既に見出していた。


 それに、このままでは北壁まで行けない。

 一人でも行けるが、案内人であるグーゼルがいるうちに行ってみたい。というのは言い訳になってしまうだろうか。


「……魔物は任せても大丈夫、ですか」

「あん?」


 グーゼルの言葉。自分がいる以上魔物については心配するな。

 それを聞いて僕も思いつく。

 そうだ。グーゼルとスティーブン、二人だけで吹雪を越えることは残念ながら無理だろう。


 けれど、ここには僕がいる。

 そうだ。モスクやソーニャでやったことだ。

 何をうだうだ悩んでいたんだろう。こんな簡単なことなのに。


「では、寒さについては僕に任せていただければ。スティーブン殿は、僕から離れられなくなりますけれど」

「どういうこった?」

「僕から離れなければ、寒さは僕がなんとかしましょう。ただ、スティーブン殿は闘気を使うことが出来ません。いや、使っても構いませんが、その場合は僕の補助無しと変わらなくなります」

 僕が解説を加えても、グーゼルは更に首を捻った。わからなくても仕方ないか。

「……僕の障壁内部に入っていただければ、寒さは感じません。なので、そのままスティーブン殿を運んでいけば良いかと」

 その場合はスティーブンも僕らと同じ速さで走れなくなるので、僕が運ぶことになるが。それはまあ構うまい。お姫様だっこをする気もないし、ただ浮かべていくだけだ。


「……お前、闘気使いじゃ……」

「何言っとるんじゃ? カラス殿は魔法使いじゃぞ?」

 片眉を顰め、グーゼルが疑問を呈した。だが、それにはスティーブンが答える。

「だってさっきまで……」

「いや、まあ、僕は魔法使いですけど……」

 指先に火を灯しそう説明を加える。この証明は今まで何度やったことか。

「その辺りの説明は面倒なので、どうしてもというなら後で詳しくしますけれど、今は勘弁してください。それよりも、今はスティーブン殿を運ぶ手段もある、という話です」

「あ、ああ、そうだな」

 戸惑いながらも、グーゼルは追究しない。ただ怪訝そうな目を僕に向けたまま頷いた。


「魔物も吹雪もなんとかなる。ならば、もう後はスティーブン殿の意思だけでしょう。で、どうします?」

 僕はスティーブンに尋ねる。もうわかりきっていることだが。

「……無論、行く。そうでなければここには来ておらんじゃろ」

「そうですね」

 単なる確認だ。しかしその言葉を聞いて、僕の体が少しだけ軽くなった気がする。

 本当に、何が変わったわけでもないのに。




 話がまとまり、もう雪も止む。

 明るくなってきた空。遠くには、青空すら見えた。


「んじゃ、そろそろ……」

 グーゼルが伸びをしながら僕らを促す。スティーブンは僕が運び、グーゼルは案内と近くに魔物が来たときに撃退する。そう役割分担も決まった。


 だがやはり、ことはそう簡単に運ばないらしい。

 どこからか、カンカン、と何度も連続して金属を叩く音が響く。


 その音は東の方から聞こえ、伝搬するように一拍遅れてこの砦からも同じような音が鳴る。この砦の場合は間を置いて何回も一つだけ鳴らされ、そして次いで西の方からも同じような音が聞こえてきた。今度は間を置いて二つ鳴らしている。

 砦によって鳴らす回数が違うのは、発信源がどこかわかるようにだろうか。

 その音を聞いて、弾けるようにグーゼルが顔を外へ向けた。


「隊長!」

「ああ!」

 グーゼルとアブラムが頷き合う。それからグーゼルが僕らを見た。

「悪ぃ! ちょっと手を貸してくる! 魔物の警報だ!!」

「やばいのか?」

「単独で確認された場合はその砦に駐屯してる兵が応戦してる! この音は、群れで確認された場合の応援要請だ!! しかも、近い!」

 初めに音が鳴ったところが目撃地点とすれば、この一つ東側の砦か。目視できる範囲ではあるので、本当にそう遠くはあるまい。

「では、儂も……」

「一般人のてめえらに戦わせられるわけねえだろ!! ここでじっとしとけ!」

「足手まといには……」

 言い募ろうとするスティーブンを視線で制し、そしてついでとばかりに僕を見た。

 いやまあ、僕は何も言わずこっそり手を貸そうと思っていたけど。


「何とか流の創始者だろーが探索者だろーが、衛兵でも騎士でもねぇなら一般人だ!! いいか!? 黙ってここで保護されてろ! いいな!?」

 そう言いながら、グーゼルは飛び出していく。アブラムもそれを追うように駆けだしていく。二人とも武器を持たず、素手で戦うのだろうか。

 そして少し遅れて、槍を持ち腰に剣を差した衛兵達が階段から転げるように降りてくる。

 彼らは僕らを見て一瞬驚いたような顔をするも、先ほどグーゼルが何か言い含めていったのだろう、すぐに納得したような顔で走っていった。


 上にはまだ気配がある。一応、警戒のために残らなければならないのだろう。

 だが人気がなくなりなんとなく静かになった砦内で、僕とスティーブンは顔を見合わせた。

「心配なさそうですし、おとなしく待っていましょうか」

「ぐぬぅ……仕方ないのかのう……」

 そう言って、揃って外を覗き、魔物がいるであろう方角を見た。


「……心配、ないですかね?」

「そう、じゃのう……」


 そして僕ら二人とも、何度か瞬きをする。

 驚きからだ。いやむしろ何故、東の砦の衛兵はここまで接近していることに気がつかなかったのだろうか。


 東の砦の前の方、北寄りに五十歩ほど。そこに人と魔物が対峙している。

 魔物の群れ。人よりも、一回りどころか五回りほど大きな白いライオンが先頭に立つ。

 その背後には、十数頭の雌ライオンらしき魔物もいる。



 恐らく狩りのために。伏せて息を殺してここまで近づいてきた。

 伏せれば雪に紛れ、視界から消えてしまいそうなほど真っ白なライオンたち。


 そして、気付かれたことに気付き、予定を早めたのだろう。


「ゴォォォォォ!!」


 先頭に立つ雄のライオンが、背後に向けて『襲え』と指示を出すように吠えていた。




早く北壁行けばいいのに

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