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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
四色の雪

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上に立つ男



 壇上には一人の男。

 その壇からひとつ下がった後ろの方に兵士らしい鎧姿が見えるが、護衛は檀上には上がらないらしい。

 ただ一人立つのは、ぼさぼさの長い髪を後ろでまとめて、さらに鉢巻で残った髪を上に持ち上げている男。

 荒れた肌は浅く焼けており、無精髭を少しだけ隠していた。


「今日も皆、俺の前に元気な顔を見せてくれて礼を言う! 自己紹介の必要はないだろうが、それでも改めて、ヴォロディア・スメルティンだ!」

 名乗りを上げただけで歓声が上がる。場の温度まで少しだけ上がった気がした。

 それから両手を下げて一瞬黙る。

 ただそれだけで、歓声を上げていた民衆までもが静かになった。彼が次に何を言うのか、それを固唾を飲んで見守っている。 


「色々とあるが、まずは感謝の話。綺麗な道、新しい土、壊れていない建物。それを維持してくれているみんなのおかげで、そんな元気な顔も見れるんだ。住んでいる街のみんな、皆は凄いことをしている。誇ってくれ」

 そう言って笑いかけた方向にいる女性が黄色い声を上げた。精悍な男だとは思うが、そういう意味でも人気があるのか。

 そしてまた違う方を向く。

「さっき、俺は飯を食ってきた。そこで使われている野菜、塩、鳥獣の肉。それもすべてみんなの作ってくれたものだ。みんながいなきゃ、俺は生きていけねえ。ありがとう」

「とんでもねえ! あんたがいなきゃ!!」

 ヴォロディアの声に応えるように声が上がる。こういう場合にはサクラを使うのが常道だと思うが、そうではなさそうだ。

 大きな身振りをしたその声の主に向けて、兵士が反応していたのだから。


 少し噴き出すように笑い、足下を見て、それからまたヴォロディアは民衆を見た。

「恥ずかしい話、……俺がいなきゃってのはきっと多くの人が思ってしまっていると思う。ああ、自分で言ってて恥ずかしいな。でも、それは違う。みんながいなければ、俺はここには立っていない。俺がみんなを引っ張ったんじゃない、みんなが俺を支えてくれたからここにいるんだ」

 見回した民衆は反論しない。そうだと肯定しているわけではないだろう。ただ、次に何を言うか期待して黙っている。

「思い出したくもない話。みんなも覚えているだろう。前王の時代、暗黒の時代。皆は国に食い物を奪われ、自分のものを守ろうとすると罰せられ、縛り首になった時代。みんなも我慢できなかっただろう」

 うんうん、と苦虫を噛み潰したような顔で何人もの人が頷く。

「たまたま、俺は立ち上がっただけだ。誰も彼も、俺も立ち上がる力がなかったときに、たまたま立ち上がった。だから、みんなの力を背に受けられた。立ち上がった足は皆の足だ。振り上げた拳は皆の拳だ。だから、みんな、俺を讃える声は、そのまま皆を讃えている。そう思ってくれ」

「それでも、あんただからみんなついてくんだよ! ヴォロディア王、あんたじゃなきゃ!」

 また別の男が声を上げる。

 その声に応えて、そして会話をするようにヴォロディアは笑いかける。

「王、と認めてくれてありがとう。けれど、みんなに聞いてほしいことがある」

 それだけ言って、広場から見える王城らしき建物のほうに体ごと視線を向けた。



 ゆっくりと、またヴォロディアは口を開く。

「王城に籠もり、前王は何をした? ただ玉座に座り、兵に命令を下し、俺たちから実りを奪っていた」

「許せねえ!!」

 ヴォロディアは合いの手を入れるような声に、ただ苦笑で応えた。

「俺は、みんなから何も奪いたくない。本当は人は平等だ。平等に権利を持ち、平等に仕事をし、平等に生きている」

 そして、また民衆の方を向く。

「俺は刀鍛冶だ。玉座になんて座らない。いいや、玉座なんていらないんだ。王位なんて、いらない。この国に、もう王は必要ないんだ」

「では誰が!」


「みんなで決めよう! 王じゃない、国の一番を、みんなの入れ札で」


 ざわざわとざわめきが広がる。

 なるほど、王位を廃したいとしているとはこういうことか。


 しかし、この街から遠い街に暮らすササメも知っていたくらいだ。

 これが初めての発表でもないだろうに。それでも知らない民がいる雰囲気だ。


「任期を持たせて、時期が来たら交代し、また入れ札をする。これからは民が、民のための政治をするんだ。自分たちで決めることだ。厳しい税もなく、きっとみんな、民のための政治をしてくれる」

 大げさな身振りも加えて、そうヴォロディアは付け加える。……きっと、彼の中では本気なのだ。

 そして少しだけ声のトーンを落として、呟くように言った。

「……今、そういう話し合いをしている最中だ。だからみんな、応援してくれ」


 その言葉に合わせるよう、パチパチといくつかの拍手が起きる。

 それにつられて、拍手が広がっていく。

 正直、異様な光景だった。


「この国をこれからも、みんなの手で守れるように! この国は、みんなの国だ!」


 おおー、と歓声が上がる。

 熱気が一段と濃さを増す。拍手は大きくなり、口々にヴォロディアを褒め称える声が響く。



「ね? これは見なくちゃいけないでしょう」

「うわ!?」

 後ろから突然声がかかり飛び跳ねる。誰かが近づいているとは思っていたが、まさかこんな近くで。

 振り返ればプリシラが、にんまりと笑ってヴォロディアを見ていた。

「ひひ、本当に、可愛い人。これだけの歓声と声援を受けてなお、自分が前に出ようとはしない」

「……謙虚、ってことでいいんじゃないでしょうか」

 内心の動揺を押し殺すように、僕は答える。気配は感じているのに驚くというのは、新鮮な体験かもしれない。

「そうかもしれないね。まあ、こういう催しは十日に一度しか開かれていないから、君はすぐに遭遇できて運が良かった」

「まあ、そうですね」


 とりあえず、顔を確認できたのは大きい。一人一人調べていくのは手間だし脳を再生させるのは主要な地位の人物だけにしようとは思っているが、彼はその最たる者だったから。

 革命時、一番前にいた。それだけで、レヴィンの影響を受けていたと断定してもかまわないはずだ。


 少しだけ他にも言葉を重ねて演説は終わりらしい。

 壇から手を振りながら、ヴォロディアが壇を降りる。

 

 彼を尾けていけば、きっとマリーヤも見つかるだろう。

 協力を仰ぎ、そういう仕事はさっさと済ませてしまいたい。

「うん? 君は彼に違う興味があるのかな?」

「……どういう意味でしょうか」

「そのままの意味だけど……。そうね、今の話はどうでもよくて、何か別な用事がありそうな感じかな」

 意味ありげな呟き。同意してもいいが、本音として、そこに同意も出来ない。

「今の話がどうでもいいなんて思ってませんよ。むしろ、エッセン国民としてはかなり重要なことですね。隣国の統治体系が変わってしまうんですから」

 僕がそう口にすると、プリシラはただ黙って微笑んで続きを促した。

「王制を廃したい、なんて無茶なことを。でしたら彼は、何を以てこの国を統治するんでしょうか」

「革命のとき先頭に立った。その実績だけじゃ駄目かな?」

「それだけで、みんなついてくるんならいいんでしょうけど」

 

 革命の立役者。

 人の前に立ち、声なき声を代弁し、国を落とした。

 なるほど、しばらくは確かに平気だろう。その人気は民を導くのに充分なものだろう。

 しばらくは大丈夫かもしれない。


 けれど、突然民が国をひっくり返し、そして王などいらないと声高々に宣言する。

 周辺の国からはどう見えるだろうか。

 王を頂点に据える、南の二つの大国からは。


「今のヴォロディア様には皆ついてくるでしょう。革命を起こして成功させた。王を倒したんです、それだけでも一応は王に相応しい。でも皆は、彼に多大な期待を寄せすぎている」

「何がいけないの?」

「皆がヴォロディア様についていくのは、ヴォロディア様が暗黒時代から今の状態へ国を変えたからです。それ以外にはない。だから、ここから失敗したら皆離れていく」

 彼は皆の心の声を代弁してはいる。だが、裏切り者だ。

 国を裏切り、転覆させた。そして裏切り者はまた別の誰かに裏切られるのが世の常だと思う。

「ヴォロディア様には失敗が許されない。それでなくとも、痛みを伴う改革すら出来ないでしょう」

 じきに改善されるから、と一時の痛みを我慢させる政策は取れない。仮にそれが有効なものであっても。それをしてしまえば、外見的には前王と同じだからだ。勿論、一つの失敗だけでどうにかなるようなものでもないだろうし、わかってくれる人もいるとは思うが。


 だがまあ、その辺りを詳しくは口に出すまい。

「と、その辺りは私のような市井の人間が言ったところでどうにもなりませんね。とにかく、色々と思うところはありましたので大丈夫です」

「うーん……。そういうところは可愛くないから、直した方がいいかなぁ」

 プリシラの発言に少しばかり気分を害しながらも、それでもなんとか対外的な笑顔を保つ。

 それから一応、頭を下げた。


「それではこれで。僕は今日の宿を探しますので」

「ひひ、そう。じゃあまたね」

「ええ。機会があったら」

 僕は踵を返し、それとなく宿を探しながら歩き始める。

 その視界の端に、ヴォロディアをとらえながら。


 しばらく歩いて振り返ると、プリシラはまだこちらを見ていた。

 その視線を切るように、僕は足を早める。


 プリシラの姿が見えなくなった頃。

 ヴォロディアは護衛とともに、やはり王城へ入っていく。

 それを見ながら僕は頷いた。


 ついでに、中の様子も把握してしまおうかな。

 そう思い物陰に入り、姿を隠した僕に覆い被さるよう、目の前には城の大きな門が聳え立っていた。





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― 新着の感想 ―
国民に一定の学もないのに民主制になったらいよいよ滅ぶなw 表面だけなぞって暴走してる感じがまさにレヴィンしてる
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