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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
四色の雪

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閑話:温かい食事

度合い的には第二次クラリセン編より少し控えめだと思いますが(作者判断)、

やんわりとグロ注意です。

読まずとも、次の話である程度察せます。



「ただいま」

 少女は今日の家に戻る。

 リドニック王都に近いこの街で、一昨日から少女が世話になっている。小さな家だ。


 現在同居している男性は無言で彼女を迎えた。

 小さな肘掛け椅子に腰掛け、振り返ることもなく窓辺から外を見ていた。

 小さな窓。天井近くに備えられたその窓からは、青空しか見えないというのに。


「さって、今日の儲けはっと……」

 そんな男性に一声かけた後、少女は籠を地面に置く。

 雪に覆われたリドニックでも、街の外には花が咲いていることがある。

 その種類は様々で、雪に咲く種類もあるが、少女の持っていたそれは雪に咲くわけではない。雪が薄い箇所から、雪を割り花を咲かせるのだ。

 少女は懐から小さな袋を取り出す。

 少女の小さな手のひらと同じくらいの、小さな袋。それは、先ほど近づいた男性の腰から抜き取った袋。外見は小さな布の袋だが、中にはずっしりと何かが詰まっている。


 少女には自信があった。そこには硬貨が入っている。

 少女は、男性がその袋を取り出した姿など見たことがない。あまつさえ、その腰に袋があったことすら知らなかった。

 だが、歩き方からわかる。重心の取り方や、誰かが近づいたときにとる無意識の防御行動。そこから、その人が大事なものを持っているか。持っているなら、それはどこにあるか。それを判別するのは少女の得意技だ。


 かつては相棒の少女とともに、その仕事をこなしてきた。

 実行は自分。相棒は目くらまし。

 相棒が人の注意を引き、その隙に自らが何かを奪い取る。そうやって、二人で生きてきたのに。


 まあ、今考えても詮無きことだ。

 少女は今奪ってきた財布を逆さにひっくり返し、手のひらでその中身を受ける。

 だが、少女は中身を見て眉を顰める。結果はあまり芳しくない。


「銅貨五枚に鉄貨三枚……、しけてんなぁ……」

 寒々しい部屋の中に、景気の悪い言葉が消えてゆく。

 微動だにせずそれを耳に入れた同居人の男性は、やはり無言でそれを肯定したように見えた。


 舌打ちをしつつ、少女は自分の財布にその硬貨を流し込む。

「さっきの奴も、私のこと見てたし買ってくれると思ったんだけどなぁ。これじゃまだしばらく使えないじゃん」

 少女の花売りには、『花を売る』というそのままの行動の他にも意味がある。

 一つの理由は、先ほどの目くらまし。

 怪しまれぬように人に近づけるし、自らが往来を彷徨う理由になる。

 二つ目の理由は、裏家業による収入への理由付けだ。

 彼女のような孤児が金を使うのは、大なり小なり不自然なことになってしまう。小さな買い物すら、その金の出所を疑われてしまう。

『もしかしたら盗んだのではないだろうか』

『もしかしたら、衛兵に届け出るべきではないだろうか』

 そう、善意の第三者が思ってしまうほどに。


 だから、今日も彼女は成果の出ない花売りをする。

 親切な誰かによって花が売れれば、それは彼女がお金を得た理由になる。そこでの代金よりも少しばかり多めに使ったところで、言い逃れは簡単だ。

 誰も、彼女を見張って金の出入りを管理しているわけではないのだから。



 少女は財布から出てきた指輪に目を留める。

 ……勿体ないが、この指輪は廃棄だ。この家に置いていくとしよう。

 適当な机の引き出しを開けて、中に放り込む。

 布製品だったら燃やしてしまうこともあるが、金属製のものは始末に困る。そう薄く笑いながら。

 

 少女から見ても、高価そうな指輪。宝石が嵌まっているわけではないが、それでも高価なものなのだろう。裏に刻まれている名前は女性のものだ。恋人のものだろうか。

 少女には、一切の関係ないことだが。


 

 そういった商品を金に換えることが出来る店。それを彼女は嫌っていた。

 

 盗品を捌くのは、本来簡単なことではない。

 通常は、業者を通し金に換えることすら困難なのだ。

 当然だろう。好き好んで、扱ったことがばれてしまえば後ろ指さされる商品を扱う者などいない。

 そのリスクを負ってまで扱う理由があるとすれば、そうするしかないか、そのリスクを甘受できるほどの利益があるか、だ。

 それでも、盗品を扱う商店はそれなりにあった。そして大抵の場合、それは後者の理由が主になる。

 即ち、安く買い、高く売る。高いというよりも、通常よりは少し安い、という程度で収まるが、それでも利益率は高い。


 だがその利益率は、当然のことながら彼女ら『仕入れ先』には還元されない。

 だから、彼女はそういった店が嫌いだった。


 扱うのは盗品ではなく、盗んだ金のみ。

 だがそれだけでも充分だった。彼女はそれだけでも、生きていくことが出来るのだから。




 少女は、窓際に……窓の位置の関係上壁際といった方が正しいが、窓際に座っている男性の手を取る。

 冷たく凍えた手。

 一昨日の夜は、この手が私を温めてくれた。

 昨日も、温かい湯の中で、私に快楽をくれた。


 花売りをするもう一つの理由が、その客の品定めだ。

 花売り。それは、売るのは花だけではない。


 この男性も、一昨日声をかけてきたのだ。花ではなく、もう一つの商品を目当てに。


 夜も更ければ、少女のまだ少し幼い体を目当てに声をかけてくる男性客がいる。

 別に、珍しいことではないし、少女もそれは承知していた。

 それに、彼女にはメリットばかりだ。


 一晩の相手をするだけで幾ばくかの金銭を得ることが出来る。

 年中雪が降るこの極寒の国で、野外で凍える寒さと戦う必要もない。

 そして、食事も手に入る。


 初めはやはり忌避感があった。

 けれどそのメリットは、自分以外は頼れない彼女にとって、わずかに残った尊厳を捨て去るのには充分な理由だった。



「さて、今から作るけどどんなものがいい? つっても、味付けするものなんかそんなになかったよね」

 カラカラと少女は笑いながら手を離す。

 男性の手は重力に従い、だらりと下げられた。


 台所に少女は立つ。エプロンもなく、ただ袖を捲るだけだがそれでもなんとなく様にはなっている。

「やっぱり一人暮らしだと食事も偏るもんね。それでも、ま、自炊していただけあたしにはありがたいかなぁ」

 家族がいるのならばまだしも、一人暮らしの男性だ。この国では自炊よりも、食堂に行った方が割がいい。作る手間もなく、洗い物をする必要もない。

 

 この家に来たのは一昨日が初めてだが、それでも少女は少しばかり感心していた。

 少女の体を買おうとする者は、ほぼ全てが一人暮らしだ。

 それもそうだろう。趣味によるだろうが、伴侶がいるのに、娼婦を家に連れ込む者などいないといってもいい。

 そして、一人暮らしの男性の家は往々にして小汚い。

 しかし、この家は綺麗に掃除され、自炊の跡もある。

 初日に至っては、男性から少女へ晩餐が供されたほどだ。いつも新しい街では食べられないもの。初日には食堂になけなしの金を払うという演技の末、幾ばくかの残り物をもらう彼女にとって、温かいスープはとても美味しかった。


「今日はどうしよっかなぁ……」

 男性宅の食料庫。勝手知ったる他人の家とはよくいったものだ。

 置いてあった包丁を手に、半分凍っている根菜を適当に切り刻む。鍋に雪を詰め、火にかける。この国では当たり前の光景だった。


 その包丁を手に、少女は男性に歩み寄った。

「ねえ、やっぱり飲み過ぎだよ。お腹に脂一杯じゃん」

 その、責めているのは男性のお腹にたまった脂肪。食道楽も手伝って、男性の体型は健康そうではない。

 もう一度、少女は男性の手を取る。

 それから無言で手を離すと、もう一度台所へ戻った。


 内臓の肉は腐るのが早いが、この寒さならば何日かはまだ平気だろう。

 そうだ、やはり今日は昨日残した腿肉を平らげてしまおう。そう思い直して。



 根菜には火が通っただけ。肉は色が変わっただけ。

 そんな彼女の適当な調理故に、昼ご飯はすぐに出来上がる。

「出来たー。温かいうちじゃなくちゃ美味しくないよね」

 男性の椅子を強制的に食卓に向け、その前に作りたてのスープを置く。一人分、だが充分な量だった。

「食べるよー。じゃ、いただきます」

 蒼白の男性。うつろな目でその食卓を見つめる男性の手は動かない。貧乏揺すりが癖だったその右足も、おとなしく収まっていた。


 じゅるじゅると、マナーも無視して少女は汁を啜る。温かい琥珀色のスープが喉を通り胃へと落ちる。

 肉汁と混ざった香辛料の辛みが舌をぴりりと突き刺し、脂がその痛みを和らげる。

 根菜は少し固くしゃりしゃりという感触だが、それでも噛みしめれば味がする。微かな甘みに混ざる青臭さも妙味というものだ。


 一心不乱に彼女はスープを啜る。

 生きるためには食べなければ。食べなければ明日は来ない。

 そう、親友をなくした彼女は、明日を生きる責任がある。


 スープは味を調えてある。

 食事とは快楽でなければいけない。故に、楽しむことは出来る。

 だがそれ以上に彼女にとって、食事とは儀式だった。

 他者の命を鍋でかき混ぜて、咀嚼し、飲み込み、自分の命へと作り変える。生きるための儀式。それ故、真剣なものだった。


 食事を終え、一息ついた彼女は席を立ち、男性の膝の上で対面になりしなだれかかる。

 彼は今日も彼女を温めてくれる。この街はあと何日いられるだろう。少女の経験上、一週間ほどだろうか。しかしその間は、彼女に温かい居場所と温かい食事を提供してくれる。

 

 嬉しそうに、その手を包むように握る。

 彼女は男性を愛していると言っても過言ではない。

 だが、この男性が特別というわけでもない。


 一夜限りの男性は無数にいる。

 けれど、彼女はその全員の男性を愛している。一心同体になって、自分の生を支えてくれている男性たち。彼女は彼らに、感謝してもしたりない。


 この男性も、これからは少女の血肉となって一緒に生きてくれるのだ。


 だから、感謝を込めて、彼女は言う。

 男性に残っている片方の手を取り、胸に抱いて。


「ごちそうさまでした」


 そうだ、明日の夕ご飯はこの腕にしよう。

 舌なめずりを一つ。

 明日の味を想像し、少女の笑顔に花が咲いていた。




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