民からの言葉
間違っていた、というのが何に対してかによりこれからの反応も変わるとは思うが、その暗い表情から、良い方向ではないだろうと思う。
だが、そこから先何を喋るのか。期待した僕は言葉の続きを待つ。秘密主義だらけのこの依頼、事情を話してくれるのはそれだけでとてもありがたいことだ。
「レヴィン様なら、ご自分のお力でどうにでも出来たはず……」
「反省点はそこですか」
だが、女官の漏らした言葉に対し、落胆交じりの言葉が僕の口から出た。
本当に後悔はしているのだろう、女官が強く瞼を閉じる。
「認めましょう、姫様を狙ったのは、私です。それだけを、それだけを狙えばよかったのに……」
「何故だ!? マリーヤ! 何故お前が……」
「貴方たちには、心当たりも何もないと申しますかっ!!?」
何故、と口に出されたソーニャの問いに、マリーヤと呼ばれた女官は目を見開き大きな声を上げる。ボブカットの黒髪は乱れ、叫びには怒りが混じる。流石に、その大声で騎士たちがこちらに来ては堪らない。慌てて外部に音が漏れないよう消音を施した。
「いえ、そうですね! 心当たりなど何もないでしょう! かわいらしくお優しい姫様に、侍女から家令へと異例の抜擢を受けたお気に入り! 貴方たちには到底わからない!!」
「ああ、わからないな! 姫様が殺されなければならない理由など、わかりたくもない!」
半狂乱という言葉が似合いそうなマリーヤにつられてか、ソーニャも少し声を荒げる。その声にだろうか、メルティが体を震わせたのがわかった。
「国が滅び、落ち延びてなお、そんなことを言えるのですか!?」
「それは、今は亡き陛下の……!」
そこで言葉を止めた。推察するに、言葉の続きは王の失政についてだろうか。ちらりとメルティを見たことといい、口に出すことなく濁したのはメルティに対しての配慮だろう。
「……もう革命は完遂してしまった! もはや、姫様を狙う理由は無いだろう!!」
「革命が……完遂……?」
震える唇でマリーヤは力なく笑った。
「いいえ! 革命は完遂してはおりません! だからこそ、私が貴方たちに付き従ってここまで来た! 涙を隠し、笑顔を張り付け、忍耐を重ねてここまで来た!!」
「玉座を簒奪し、これ以上革命軍は何を求めるというのだ!?」
「国を! 貴方たちのいない、国を!!」
叫ぶような大きな声での応酬が続く。
そこに水を差すようで悪いが、その意図がようやくつかめた僕は口を挟む。
「ならば、別にメルティ様を殺害する意味はないのでは?」
「部外者が口を挟むことでは……!」
「国が欲しい。ならば、メルティ様からそれを受け取ればいい。今のメルティ様ならば、聞く耳を持つと思いますけど」
メルティの方を見る。朝の様子とは全く違う。縮こまり、震えていた。
一見すると、恐怖で震えているように見える。自らを殺害する計画を立てた裏切り者や、いつも優しい家令が怒号を響かせているのに怯えているように。
しかし、真実は違うだろう。
「その女がおとなしく渡すわけがないだろう!」
「それはどうでしょう。贖罪の意識はあるようなので」
泣きそうな目で、力なくメルティは僕を睨む。これは、レヴィンの意志のせいだろうか、それともメルティ本人の意思だろうか。
「先ほど言いました、『信用できない護衛に連れられて』という部分。そちらはご承知だったと思いますよ。その上で、メルティ様はお出かけになられた」
この道中、全て彼女はそのために行動していた。
「危険な場所に、目立つように移動しようとしていた。……護衛の任に当たっていた僕は正直辟易していましたが、それもそのはず。メルティ様は、貴女に協力していたんですから」
「……どういう……」
「ずっと、自ら革命軍に襲われるよう行動していました。塀の中よりも、塀の外。僕が矢を握っているという明らかな異常事態を踏まえた上で、店の中より店の外。そして、安全だろうこの館よりも、五番街、と」
「それは、その馬鹿女が……!」
「狙われている自覚が無かったから、というのも若干違うと思います。実際この街で、目の前で臓物がはみ出た姿をご覧になられてますし、ね」
メルティは、青い顔で頷いたように見えた。
「というわけで、メルティ様、お渡しになったらどうでしょうか。神器。貴重なものです、多分持ち歩いていますよね?」
「カラス殿!? 何を言っているのかわかっているのか!?」
「はい。もはや革命は完遂……したといってもいい状況。国王は消え、国外まで革命軍が手を伸ばせるということは、もはや内部は安定しているのでしょう。その上で国を求める、というのはそういう事ではないでしょうか? マリーヤさん、でしたっけ」
愉快そうにマリーヤは唇を歪める。
「そうです、そうですとも! 新生されたリドニック、そこには荒れた国土がある、苦しみから解放された民もいる! けれど、私たちの仲間が王城を占拠したとき、そこに神器はなかった! 荒廃から民を救い、国に実りを持たせるはずの神器が!!」
「ああ、それで、メルティ様が持って逃げているのではないかと」
僕の意見とマリーヤの意見はそこで一致する。いや、王城になかったとかそういうところは今聞いた話であるが。
敵のはずなのに、少しだけ僕に警戒が緩んだようだ。マリーヤは、僕に言い聞かせるように続けた。
「事実はソーニャ様もご存知のはずです。でなかったら、イラインにこんなに厚く保護されるわけがない!」
「イラインはメルティ様ではなく、神器を保護している、と?」
マリーヤは怒りが混じった笑顔で頷く。半狂乱に見えるその姿でも、それなりに冷静らしい。
なるほど。一応それで、僕の疑問も解消された。
騎士が彼女らを守っていたのは、神器をもって亡命して来ていたから。国としては、神器のような戦略兵器は多ければ多いほどいいだろう。彼女らを保護している間は、イラインの力が国一個分増えていると捉えてもいいかもしれない。
……ならば、なおさらここで神器を渡しておかなければ不味い気もする。メルティのためではない。この国で暮らしている民として。
ならば、その方向に誘導すべきか。
「でしたら、やはり渡していただけませんか。それで済むのであれば、ソーニャ様もそのほうがいいのでは?」
「しかし、……いや、たしかに姫様の命には代えられないが……、だが……」
今現在、エッセンに保護されているのがその神器のおかげならば、狙われているのはその神器のせいだ。手放せば、保護される理由も狙われる理由も失われる物品。
親しかったはずの女官すら狙っていたのだ。他の人間が狙う理由だっていくらでも作れる。そして手放せば、狙われる理由がなければ、保護される必要もなくなる。事情があるか、身を守る自信があるのでなければ『手放す』一択だろう。
「メルティ様、いかがです?」
ソーニャの肩越しに、メルティに問いかける。仕事中もそうだったが、先ほどからメルティに話しかけているはずなのに、ソーニャが答えてしまうというのも何だか変な感じだ。
「わた……くしは……」
「神器の持ち主は、ソーニャ様ではなくメルティ様なのでしょう。そのメルティ様がお決めになることです」
選択を委ねる形だが、取る行動はほぼ指定されている。どんな形でどんな効果があるかは知らないが、神器をマリーヤに差し出す。安全性を考えれば僕が一回預かるなどしたいところだが、それはあとでいいだろう。
「ですがやはり、私は神器を差し出すことをお勧めします。戦争の芽は、早いうちに摘んでおかなければ」
「戦……争……?」
「はい。戦争です」
詳しくはわからないが、多分そうだろう。こればかりはここにいる人間の持っている情報だけでは確定できないので、明日にでもグスタフさんのところに行ったときに聞きたいところだ。
「まあその辺りは不確定なので私の口からは何とも申せませんが、それで今回の事態を終わりにしたほうがよろしいかと。神器を差し出し、姫様は保護を失うけれども自由を得る。現リドニックは神器を得て、正式な国として活動を始める。誰も傷つかない終わり方でいいと思いますけど?」
口に出しながら思う。理想論だ、姫様を説得するための。
誰も傷つかないなど、そんなわけがない。すでに国では死人も出ているだろう。
けれど、事実を明らかにして説得する。それくらいが僕の頭に浮かぶ限界だ。その上神器を手放させて、一応の責任をとったという形を作る。
あとは、ハイロが何か励ましの言葉でも……。
ちらりとハイロを見るが、話についていけずにポカンとしてる。駄目だった。
だがとりあえず、そんな感じでどうだろうか。説得が失敗すれば、そして考える時間が出来ればメルティは舌を噛み切って死にかねない。先ほどから終了を伸ばしているのは僕だが、明日の朝までは一応僕も護衛の任を受けている。それまでは生かさなければ。
しかしやはり、待ったがかかった。
「……そんなこと、許されるわけがなかろう」
ソーニャが叱るように僕に言う。メルティと話しているのに。
「国の宝たる神器を王家以外に渡すなど、許されない。革命を起こした者たちに無条件に降伏すれば、要求はさらに大きくなってゆく。すでに、武力蜂起を起こした者たちだ。次に何を要求されるかわからない」
「まあ、そうですけど……」
次に求められるのは何だろうか。もはや身一つしかない元王女。あとは権威など、そんな形のないものしかないだろうが。
しかしそれでも、渡すとなれば結構な面倒ごとが片付く。もう少し粘ってみよう。
「ソーニャ様も『革命』と仰っているということは、その反乱には正当性があったと思っているのでは?」
もしも反感を持っているとすれば、『反乱』というはず。ならば、その革命後に王座に座った者は、敵であるソーニャすら内心認めている者だろう。
「でしたら、メルティ様たちではなく、これから国を導いていく者にこそ渡すべきです。それで……」
「ふざけないでください」
今度は別方面から異議申し立てか。マリーヤが、暗い顔で僕を見ていた。
「それで終わらせる? ふざけたことを。神器は渡していただきます。ええ、渡していただきますとも。リドニック十万の民のために、〈災い避け〉は渡していただきます。けれど」
大きな音を立てて、マリーヤはメルティたちの衣装を地面に叩きつける。そういえばまだ持ってもらっていたか。
ランプの光が、マリーヤの顔をオレンジ色に照らす。目にも炎が宿ったようにチカチカと反射していた。
「それで、私たちの恨みが消えてなくなるとでも? その女にも責任を取らさなければ」
「姫様に責任などないだろう!」
ソーニャが割って入って叫ぶ。ああもう、なんか面倒くさくなってきた。
「……国民の生活は苦しかっただろう。誰かが何とかすべきだと感じてもおかしくないほどに。……だが!」
まるで、自分にそう言い聞かせているように決意を込めてソーニャは言う。
「それは元々だ! 元々リドニックは過酷な土地。四色の雪が年中降り、実りは少なく生活するのも難しい。だからこそ、皆身を寄せ合って生きてきたのに……」
「身を寄せ合って生きてきた? そうですね、貴方たち以外は!!」
ソーニャの言葉が癇に障ったのか、またマリーヤが叫ぶ。
「荒れていた、そうですね、荒れていました! それでも身を寄せ合って、力を合わせて畑を耕し、少ない実りで何とか過ごしてきた! 貴方たち以外は!!」
頑なに、メルティたちとそれ以外を区別する。……革命が起こった理由がちょっとわかった気がする。あと、この後の流れも。
「重い税、厳しい法、そんな中で懸命に生きてきた者たちの苦しみが分かりますか? ソーニャ様が陛下と呼んだあの男が、どれだけ暗君だったか、わかりますか!?」
「……それは、国を維持するために必要だったのだろう。税を取り立てねば、北方の魔物の脅威から守るために、南方の大国エッセンに対抗するために、兵を養うことが出来ない。少ない実りを弱き者が奪われぬよう、法も必要だった」
「その税が、法が、民を殺していたのに!?」
「…………それは、民が、法を犯したから……」
たどたどしいソーニャの答弁。マリーヤの剣幕に、自分でも自信がなくなってきているのだろう。断固とした否定が出来なくなっている。
「極刑執行の記録と人口の推移資料をご覧になったことがおありでないのでしょうか。最盛期十五万以上いたはずのリドニックの民、そのうち二万は飢えで死に、三万は盗みや税としての作物を納めなかった罪、そして難癖に近い罪で、縛り首になっていました」
「それこそ、縛り首となるに値する……」
「少ない実りを家族で分け合い、税を払えないのが罪ですか? 飢えに耐えかね、兵舎から麦を盗むのが罪ですか? 確かに、そうかもしれません。ならば、その飢えを作り出した税、それを容赦なく取り立てるあの男こそ、まず裁かれるべきでしょう」
「……しかし、それは兵士のための……」
「だったら!」
マリーヤはメルティを指さす。礼儀上、明らかにしてはいけない行為だが、今は誰もそれを咎めることは出来ない。
「その女は何をしていました? 民が飢えに苦しみ、ボロをまとい、からっぽの土蔵の壁を剥がし中の木材を齧っている時、その女は!!」
「…………」
ソーニャは言い返せない。きっとその答えは、さらにマリーヤに反撃の材料を与えるものだから。
「言いたくないのであれば、私が言いましょう。美しい音楽が奏でられ、花々が咲き誇る庭で、香を焚き染められた衣服に身を包み、飽いた菓子を地べたに捨てておりました」
「……そこまでは……」
「私は事実を述べております! 貴方と同じくその女の側に侍っていたこの私が!」
ギリッと奥歯を噛みしめながら、マリーヤはメルティの方を向く、怒りのままに。
「お優しいお姫様、貴女に責任がないはずがない……! 国王の娘として、政治にかかわらずとも諫言出来る立場だったのに! 民のために施しの一つもせず、ただ神器の力と民から奪った実りを独り占めにして、ただ笑って過ごしていた。そして今ですら、何もせずにソーニャに任せっきり!」
マリーヤの言葉に、メルティの目に涙が浮かぶ。マリーヤの方は、もはやメルティなど見てはいなかったが。
なんだろう、聞いていれば、メルティの擁護も出来るはずなのにしたくなくなってきた。
「花や蝶やと育てられた、お人形のお姫様。ああ、嫋やかなはずでしょう! その体は何の重荷も背負ったことがないのですから」
ケタケタと笑うような勢いで、マリーヤは続ける。芝居がかったようにも見えるが、これは本気だろう。初めて、本人に言いたいことを言っているのだ。興奮しても仕方がない。
……やはり、ここまで両者の話を聞いていても、どちらかといえば僕は革命軍の味方になるのかもしれない。いや別に行動を起こす気はないが、もしも何も知らずにこの話を聞いていれば、僕が共感できるのは革命軍側だ。
大抵の木材よりも、お菓子の方が美味しい。
けれども、ここでマリーヤの好きにはさせられない。小刀を持たせたらメルティに飛び掛かりかねないくらいの興奮具合だ。それに、マリーヤは多分理解してはいないが、この話は地味にメルティに精神的なダメージを与えている。それこそ、ここで舌を噛み切りかねない。治せばいいけど。
したくはない。したくはないが、メルティの擁護もしておかなければ。
「……しかし、それはこの街に来る以前のことです」
「はぁ!?」
「先ほど言った通り、メルティ様も今や反省はしておられます。私の制止を振り切って、反乱軍の前に姿を晒そうとするほどに」
「その馬鹿女が!? するわけないでしょう! それに、もしそうだとしても何だというのですか!? その女が今何を思っていようが、罪は髪の毛一本ほども変わらない!!」
怒りが僕に向く。仕方のないことだけれど、とてもやりづらい。正直、マリーヤの意見に賛成だ。
加害者がどんなに考えを変えようとも、罪は変わらない。被害者の側も考えを変えるということはあるかもしれないが、それを強制することは出来ない。
「まあ、ともかく、その話は明日以降してください。それまでは、ご勘弁願います」
そしてやはり、これ以上の擁護は出来ない。心にもないことを言うのは辛い。
「ふ、ざけるなぁぁ!!」
諦めた僕の言葉に、何を思ったのか照明を振り回して僕へと迫る。危ない。当たったらきっと熱い。
それを強化した掌で受け止め、膝裏を蹴り、腕を折り曲げ関節を固める。そのままうつ伏せに押しつぶすように制圧した。
「……っ痛……!!」
「やはり、それなりに良い動きですね。ハイロなら怪我してたかも」
これはお世辞ではない。真面目な話だ。そして、その原因も明らかな。
「……とりあえず、頭を治してからもう一度色々と考えてください。レヴィンの影響を消してから、どうか」
触った。そして、闘気も扱えない体だ。脳の探査はすぐに終わり、わかってはいたことだが結果は黒。小脳が異常に発達していた。
「……放せ……!! くそ! 大体、貴様はそんな女を何故守る!? 利己的な貴様であれば、すぐにわかるでしょう!? そいつを殺しなさい! そうすればリドニックでの名声も手に入る!! 貴様の願いも叶うのに!」
「えーっと、まあ、名声自体は特に要りませんし……」
口の端から涎を飛ばしながら、僕を自分の背中越しに睨むようにしてマリーヤが言った言葉を反芻する。言っている意味は分かる。僕が、レヴィンのメルティ襲撃を知った時に浮かべた理由とおんなじだ。国民に恨まれ、国を追われた悪女。その首をとれば、僕もリドニック国民から喝采を受けるというのだろう。
しかし、そんなものに興味はない。
「いや、別に、貴女に恨みがあるとかそういう理由があるわけでもないです。むしろ、今のところ心情的にはマリーヤ様を応援しているくらい。国民に木を齧らせて、自分はお菓子を捨てる王女など、あんまり歓迎は出来ませんよね」
「ふざけた……、いや、ならば、何故!?」
「お仕事だからです。貴女の策で、メルティ様に付けられただけですけど」
努めて真面目に、言い聞かせるように口に出す。だが、それ以外の理由はない。
「まあ、その辺りは別にいいでしょう。では、おやすみなさい」
言葉を無くした様子の女官の吸っている酸素を遮断。強制的に眠らせる。
あとは、朝知らず茸の丸薬を口に含ませ、嚥下させれば終わりだ。
作業が終わり、周囲を見渡せば三人とも違った表情で僕を見ていた。
だがどれも、呆気にとられた様子は混じっている。
その空気を壊すように、僕は努めて明るく言った。
「では、そういうことで。ソーニャ様、ここで私はお役御免……でしたよね」
「あ、ああ、そういうことだったが……」
僕がわざと止めていた部分を、僕の口から出す。雇い主がここまでと言っている。ならば、護衛の任はここまでで終わりだ。
僕は背嚢から畳まれた依頼箋を取り出し、ソーニャに差し出す。
「こちらに名前を。完遂したと、証明をお願いします。それでようやく、僕の任務は終わります」
墨の瓶を取り出し、差し出す。言われるがままに、ソーニャはそこに竹ペンで名前を記してくれた。
恭しく受け取った紙を折り曲げて、背嚢にしまう。これで、晴れて僕は自由の身だ。
「ありがとうございました」
軽く頭を下げてソーニャに、ついでにメルティに笑顔を向ける。これでメルティの身を守るという義務はなくなった。
少しばかり、危ないことも出来るというわけだ。
早く、足元に転がる体に注意が戻らないうちに。
義務はなくなった、けれども自分の言葉を嘘にもしたくない。
明日の日の出までは死なせない。
そのために処理すべき爆弾。残るは姫様自身。
ハイロには酷だが、しかたあるまい。それにハイロにはもう一つあるし、その前哨戦と思えばいいのではないだろうか。
この護衛依頼のストレスも少し発散して。ついでに神器も回収できるといいな。




