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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
姫様の休日

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一方的な推理



 姿を見せたのはソーニャだけ。ソーニャが自ら単独行動をとることなどないと知っているのだろう。女官は、きょろきょろと頼りなさげに辺りを見回した。

「ええと……姫様はどちらに……」

「こちらにいらっしゃる」

 ソーニャの合図に合わせて、メルティの透明化も解く。僕も姿を現したが、それを見て女官は目を見開いていた。

「……ただいま戻りました」

「お、お帰りなさいませ!」

 女官は深々と頭を下げる。塔の前、猫の額ほどのスペースに、沈黙が満ちた。

 そして沈黙に耐えかねたように頭を跳ね上げ、それから流れるような動作でハイロから荷物を受け取った。

 

 用事は終わり、とソーニャが振り返り僕とハイロを見る。

「では、これでカラス殿とハイロ殿の役目も……」

「最後にもう一つ、しなければいけないことが」

 またしてもソーニャの言葉を遮り、僕は言う。表情が少ない中にも困惑が混じった女官を真っすぐに見ながら。まだ、終わらせられない。他にも脅威はあろうが、これは残しておいてはいけない類のものだ。


「しなければいけないこと?」

「ええ。メルティ様の護衛としての、最後の仕事が残っておりまして」

 ソーニャと女官の間にさりげなく体を滑り込ませて立ち位置を変える。塔の出入口に一番近いのが僕。塔の入り口の横に女官、僕の背に三人が立っている。

 何のことかわからずとも、薄々感づいてもいるのだろう。少しだけ、女官の頬の筋肉に緊張がみられる。

「な、何か……?」

「騎士の方々への対応はどうなっているでしょうか?」

「それなら、問題ありません。姫様は臥せっておいでで、誰とも会いたくないということで通せております」

「それは重畳」

 僕が褒めると、少しだけ緊張が緩んだ。

 

 だが別に、そのことについては心配などしていない。

 騎士たちはメルティの味方だ。僕の敵になったかもしれないが、それでもメルティの安全は確保される。

 メルティの安全が確保される。だからこそ、騎士は追ってこない。何よりもまず、この女官の目的を達成するために。


「レヴィン、という名前に心当たりはありますか?」

「……!?」

 名前を出した途端、顔色が変わる。わかりやすい反応だ。だが、この問いはついでだ。それよりも、はっきりさせておかなければならないことがある。

「……革命軍に情報を流していたのは、貴方ですね」

「……なんの、ことでしょう……?」

 繰り返される僕の質問。女官はそれに応えて引きつった顔で、ニコリと笑顔を浮かべた。

 否定はしている。だが、その表情だけで答えを言っているようなものだ。

「カラス殿、説明を求めたいのだが」

 後ろからソーニャが僕に問いかける。たしかに、不思議だろう。名前も知らず、初対面の女官に突然僕は失礼なことを言っているのだから。

 しかし僕には確信がある。……違っていたら全力で謝るが、ここまできたら決まりだろう。ソーニャの方を見ずに僕は答えた。


「言葉の通りです。彼女が今回の事態で重要だった黒幕。メルティ様を殺害しようとしていた主犯です。ついでに僕への嫌がらせも多分しようとしていましたが、それはまあ今は良いです」

「……根拠も無しに言えることではなかろう」

「はい。それなりの根拠をもって言っています。この場で僕だけが持っている情報と照らし合わせて、ですが」

 改めて、ソーニャの方を振り返る。僕が間違えていたのならば、即座に攻撃する。そんな視線が僕に刺さった。とすると、やはり当たりだろうか。

「そ、そんなこと、メルティ様を殺害する? そんなおぞましいこと、するわけないじゃないですか!! 私は、長い間メルティ様に付き従ってまいりました、そのようなこと……!」

「付き従ってきた、というのは確かですね?」

 女官を無視してソーニャに問いかける。嘲るような僕の質問に、少しの怒りを滲ませてソーニャは首を縦に振る。

「ああ。このイラインに来てからも残っている数少ない古参の女官だ。女中の仕事までやらせて申し訳ないが、彼女ほど信頼できる者はなかなかいない」

「それはそれは」

 信頼、それを壊したのがレヴィンかそれ以外かは知らないが、その信頼まで裏切るほどの何かがあったのか。気の毒な事……なのかな。


「まず、彼女がおかしなことをしているのに気が付きましたか?」

「おかしなこと……?」

 眉を下げ、悩む様子のソーニャ。今目の前に、そのおかしな行動の結果が見えているはずなのに。信頼という煙で、見えていないのだろう。

「……何故彼女は私を護衛に指名したのでしょうか」

「…………、……そういえば、何故だ?」

 ソーニャも女官に向けて問いかける。それを初めにしておけば、僕のところに仕事が来ることも無かっただろうに。

「……その姿かたちと、それに見合わない武勇で名を馳せた、カラス殿ならば条件に合うかと……」

「それがおかしいんです。貴女は、姫様と一緒にレヴィンに会っているのに」

 レヴィン、と呼び捨てにした辺りで反感の視線を感じた。この反応は、未だに支配下にあるのだろうか? だとしても、あいつに様づけをするのは公式な場でもない限りはしたくない。

「レヴィンに私の話は聞いたでしょう。腕を折り、内傷を与えた私のことを、あいつは褒めていましたか?」

「…………」

「自分の手柄を横取りし、竜殺しという嘘を吐いている……くらいには言ってるんじゃないでしょうか?」

 もしくは、決闘で魔道具を使った卑怯者、とか。別にそれは卑怯でも何でもないのだが。

「指名依頼とは、『その人でなければいけない』というときに出されると私は認識しているのですが、それならば私に出されるわけがないですね」

 

 では何故出したか。それが問題ではある。

 しかし、整理してみればそれも明白だ。


「つまり、女官様の取った行動は、『能力もなく信用できない者に、要人の護衛をさせる』。そこから考えられる理由は色々とあるんでしょうが……、私にはまずひとつ浮かびますけど」

「失敗……させるため……」

 ソーニャが予想し言葉を紡ぐ。僕が浮かべた行動理由とそれは一致していた。

「また、能力が無いということをその要人が知らないことを前提に、その要人を送り出す理由付けにもなりますね。『心配しないでください、護衛を一人付けますので』と。……今回、多分それはありませんけど」


 つまり、彼女のとった行動自体はすごく簡単だ。

「まあ、女官様のしたことといえば、メルティ様を街へと送り出し、能力のない護衛を付けて、そこを仲間に襲撃させる。そんな単純なことでしょう」

「待て、仲間に襲撃させる、というものの根拠が無いな」

「……一応は私たちも変装していましたが、そこを加味してもでしょうか?」

 実はちょっとこれは根拠が薄い。だが、それなりに筋は通るはずだ。


「一番街を出ることを提案したのはメルティ様です。ソーニャ様も、恐らくメルティ様に言われるまでは一番街から出るつもりはなかったのでは?」

「……その通りだが」

「これでも私は一応護衛の任を務めておりました。尾行にも気を付けていた。そして、尾けられてはいないはずです。にもかかわらず、変装して予定外の街に出現したメルティ様を、賊は的確に襲ってきた」

 予定外なのに、そこを計画的に襲撃する。この前エウリューケと一緒に受けた襲撃と同じく。それは、行き先が分かっているから出来ることのはずだ。

「五番街にいることを、鳩を使って報告しませんでしたか?」

 ソーニャが胸元の笛を押さえる。口を真一文字に結んで。

「……なるほどな。だから、先ほどの革命軍の集合も……」

「ええ。襲撃を急がせました。暗い夜道という絶好の機会。それも、メルティ様が孤立している状態。……準備のためにどこかに集まりますよね」

 ソーニャに出させた先触れ。孤立していることを伝えたかどうかは知らないが、『今すぐ帰る』というのは彼らにとって不味い情報だろう。ある意味メルティを餌にしたようなものだが、仮に誰が襲ってきても視界に入る前に対処できたから問題はあるまい。


 そこでハイロが初めて口を挟む。

「おま、だから……」

「すみませんでした。少し冷たい言い方でしたね」

 煽るために、わざと強く『駄目だ』と言った。そこを察せるというのは、やはり人付き合いの成果だろうか。


「とまあ、状況的には貴方は裏切り者なんです。穴が無いわけではないと思いますので、違うというのであればそう言ってください。考慮しましょう」

 そこまで否定の言葉もなく立ちすくむ女官に向けて言う。主にソーニャに対する説明に終始してしまったが、彼女への説明にもなっているだろう。


 まだ言っていないこともある。

 だが今はそれは置いておいて、女官の反応を待つ。


 しばらくの沈黙の後、女官は口を開く。

「……やはり、間違っていたのでしょうか」

 静かな言葉に、女官の持っている灯りが揺れた。




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