表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
姫様の休日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

302/937

あとは若い二人に



「(先ほどの姿を消す術。カラス殿ならば、メルティ様に見つからずに周囲を警邏出来るのではないか?)」

「(いや、出来ますけど……)」

 出来る。出来るけれどそうじゃないだろう。

「(何の……ために……)」

 声には出さないが、絞り出すように質問を吐く。理解に苦しむ。どこの世界に、元一国の姫とどこの馬の骨とも知れない男を二人きりにさせる家令がいるのだろう。……どこの馬の骨とも知れないは言い過ぎか。

 少しめまいがしてきた気がする。体は健康なのに、不思議なものだ。



と、何かが飛んでくる。攻撃などそういったものではなく、生き物だ。そちらを確認すれば、明らかな指向性をもって鳩がこちらを目指して飛んできていた。

 僕がそちらに目を向けると、ソーニャもそちらを向く。それから、僕に目配せした。

「カラス殿、警戒はいらない」

「わかりました」

 声に出してはっきりと僕を制する。その一言だけで警戒を解いていいかとも思うが、先ほどこの鳩は見ているし、まあ大丈夫だろう。

 パタパタと羽音をさせながら舞い降りたその白い鳩を腕に止まらせ、足に巻かれた紙をほどく。

 メルティたちはまるで最初から鳩などいないように会話を楽しんでおり……。いや、本当に気が付いていないな。楽しそうで何よりだが、もうちょっとなんか周りを見たほうがいいんじゃないだろうか。

 鳩がちょんちょんと跳ぶようにソーニャの肩に移動し、僕の内心を透かすように、じっと僕を見つめていた。


 巻かれた紙を開き、ソーニャは眉を寄せる。ここからでは見えないが、何か不都合なことでも書いてあったのだろうか。それが、僕にとっても不都合なことでなければいいのだが。

 一歩ソーニャに近寄り、声に出して問いかける。

「……何かありましたか?」

「いや。先ほどの……」

 そこまで言って声を潜める。これは、メルティには聞かせたくない話か。

「(先ほどの男の素性が知れた、という話だ。それともう一つ)」

「(何でしょう?)」

「(その男から得られた情報だ。イラインへ、三十人ほどの規模で仲間が集結しているらしい。その潜伏場所までは頑として吐いていないそうだが)」

「(……わかりました)」 

 

 ……なるほど、そういう話か。

 不謹慎な話ではあるが、そういった力づくで解決出来る話であれば、特に問題はない。一番厄介なのはメルティの不在がバレるという事態だ。それ以外ならばどうとでもなる。


 だが一応、確認は取らなければ。

「(その方々は、集団でこちらに来そうな方々ですか?)」

「(……回りくどい聞き方だな)」

 ソーニャは苦笑を漏らす。誰のせいだと思っているのだろうか。直接聞いて教えて貰えそうにないから、こういう聞き方を取っているのに。

「(その聞き方では、もう知れているだろう。隠し立てする意味も無い。内容としては、狩人が指揮を執る農民たちが主体の集団だろう。つまり、徒党を組んでやってくる)」

 やはり、そういう集団か。仕事などではなく、恨みによりやってくる。正直、少しだけやりづらい。

「(このイラインで人を雇うなどは……)」

「(するかもしれないが、探索ギルドはカラス殿がいる限りそういうことは請けないだろうな。色付きの者を同士討ちさせる愚は犯さないだろうし、それ以下の者ならばそもそも意味が無い)」

 たしか以前レシッドが仕事中にニクスキーさんと遭遇したらしいが、そういったことはそうそうないということだし、まあそうなのだろう。

 しかし、その情報は僥倖ではないだろうか。


「(集結している、ということは襲撃を行う敵はそこにいる人たちだけということでしょうか?)」

 ソーニャは迷いながら頷く。

「(……今のところこちらで把握している分はその通りだ。一度目の襲撃失敗で、少人数での襲撃が無意味ということは知れただろう。次はこちらも無視できないほどの人数を動員するはず)」

「(なら、その人たちを全滅させれば……)」

 ひとまずの脅威は去る。警戒は続けなければならないだろうが、散発的な少人数での襲撃が無意味だと学習してくれていれば、襲撃自体がなくなるはずだ。

「(場所が分からぬ以上、手は出せないが、な)」

 片目を瞑り、ソーニャは小さく溜息を吐いた。



「あらー、お二人とも仲良くなったようでー」

 気の抜けた声が、僕に掛けられる。僕にというよりも、僕とソーニャに向けてだが。

 いつの間にかメルティはハイロと話すのを中断し、僕らの方を向いていた。

「お二人だけで、隠れて何をお話しになっていたのでしょうかー?」

「……今後のメルティ様たちの予定についてです。メルティ様のお邪魔をするわけにはいきませんので」

「本当ですかー?」

 ニヤニヤとした笑い。ハイロがさっきしたのと同じような種類の笑いに、少しだけイラっとした。

 一応誤解は解かなければ……、というよりも、その笑いが不快だ。毅然としてもう一度言い募ろうとすると、予想外にソーニャから言葉が発せられる。

「いえ。メルティ様。少しばかり、二人でここを離れてもよろしいでしょうか?」

「あらー? ソーニャ……ふふ……」

「おい、カラス、まさか……」

 

 ソーニャが何を言っているのか。

 意図を一瞬はかりかねて、ソーニャを見る。ソーニャの代わりに合図を送るように、鳩が首をしきりに上下に振っていた。

 ニコニコとしながら、メルティが口を開く。

「構いませんよー」

「ありがとうございます。では、カラス殿。行きましょう」

「え……?」

 饅頭の残りを口の中に詰め込むと、ソーニャが立ち上がる。それから僕の腕をがっしりと掴んだ。

「お二人も、どうかあまり目立つような行為は控えますよう……」

「わかってます。いってらっしゃいませー」

 ちっともわかっていなさそうな様子で、メルティが小さく手を振る。引きずられるようにしながら、僕はその場から引き剥がされた。


 

 物陰まで行き、メルティたちの視線が途切れる。それから一瞬だけ待ち、メルティとハイロがこちらへの注視をやめたことを確認してから、物陰から身を乗り出しソーニャはこっそりとメルティたちを見た。

「……説明してほしいんですが?」

 その後ろ姿に、少しだけ怒気を込めて問いかける。ソーニャの後ろ姿が、僅かに楽しそうに見えた。

「先ほどお話ししたとおりだ。現時点より、隠れたままあの二人を警護してほしい」

 振り返った顔は隠しきれない笑みを湛え、目が輝いている。よく見ないとわからない程度だが。

 つまり、それはあれか。さっき聞いた……。

「二人きりにしてほしい、というあれですか」

 その理由も聞いていないのに、強引に引き剥がされるとは、流石に僕は怒っていいんじゃないだろうか。

「したいことはわかりましたが、流石にこのやり方は……」

「先ほどの姿を見るに、カラス殿は目に見えない姿となれるのだろう? 私は物陰より見張っている故、ここからはそうして近くに控えていただきたい」

 だが僕の話を遮るように、もう一度命令を出す。出来なくはないが、……。


「何が目的です?」

「最近気の休まる暇などなかった。今日くらい、私からも離れて羽を伸ばしてもらいたい。それだけだ」

 だったらそこに、ハイロはいらないだろう。

「でしたら、お一人でも」

 視界の端で、ハイロたちが立ち上がる。移動するらしい。


 ……文句を言う暇もなしか。

「でしたら、物陰からと言わず……」

 仕方ない、ソーニャも巻き込み姿を隠す。今度は逆に、僕がソーニャの腕を掴んだ。

「一緒に行きましょう。音も消してありますし、色々と聞かせていただきたいです」

 

 若干遠慮が消えているのが自分でもわかる。だが本当に、この主従のわがままはこれくらいにしてほしい。

 僕はそう願った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ