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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
副都イライン

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大きくなる問題

 



 目が覚めると、僕は廃屋にいた。

「目が覚めた!!」

 ハイロが大げさに叫び、顔を覗き込んできた。寝起きのドアップはやめてほしい。

 そうだ、僕はリコの治療中に気絶したのだ。混濁した記憶を呼び戻す。

「死んだかと思ったぜ」

「気絶してただけですよ。魔力の使いすぎです」


 魔力の枯渇で倒れたのは何年ぶりだろうか。開拓村で暮らし始めてから、初めてだった気がする。


 体を起こし、少し霞む目をこすりながら、周囲を見回した。外の様子は、倒れる前と変わっていない。

「僕はどれくらい寝てましたか?」

 そうハイロに尋ねる。その言葉に、指を折りながらハイロはリコを見た。

「十五分くらいか、な?」

「そうだね、それくらいかな」

 リコは、普通に立って歩いていた。顔色も良さそうで、少し安心する。


「じゃ、治療の続きをしましょう」

「え?」

 魔力はそれなりに回復している。全快ではないが、もう一度くらいなら血液浄化の魔法を使えるだろう。

 肩をすくめ、それからグウっと背筋を伸ばし、体をほぐす。当然のことながら、僕の身体に異常はなかった。


「え? もう終わったんじゃないの!? もう気分も良くなってるし?」

「大部分は終わっています。血液を綺麗にしたので、症状はなくなってるでしょうし、まあもう『治った』と言ってもいいんでしょうが……」

「言ってもいい、ってことは、完全には治ってないってこと?」

「また、熱が出るってことか?」

 ハイロが口を挟む。ハイロの方ももう元気らしい。今泣いた烏がもう笑うとはこのことだろうか。

「そうですね。まだもとの病気の原因が残ってるかもしれないんです。そいつが残ると、何年も何年も、熱が出続けます。そいつがいないと確認出来れば、もう完全に治ったといえるでしょうね」

 その言葉に、リコはゴクリと唾を飲む。

「まあ、今度は簡単です。すぐ終わるんで、そこに座ってもらっていいですか?」

 あとは、肝臓内の休眠体を退治すれば終わりだ。



 自分のお腹に手を当てて、肝臓内の物質を把握する。一度血液でやったからか、簡単だ。

 僕のお腹の中にもまだマラリア原虫がいないとも限らないが、そこはテレットさんを信頼するとしよう。


 そして、リコのお腹に手を当てる。

「ん……っ」

 こそばゆいのか僅かに体をよじるが、すぐに慣れたようで動かなくなった。

 リコの肝細胞を確認し、僕の中と違うものを探す。



 こうして何かを探していると、昔土中の虫を探して魔力探知したことを思い出す。

 規模は違うが、要領は同じだ。

 落ち着け、落ち着いて探すんだ。



 いくつも見つかるマラリア原虫らしき微生物を潰してゆく。

 一千個に満たない数しかいないようで、これくらいなら新しく魔法を作るまでもないだろう。念動力で充分だ。

 そのプチプチ作業は、三十秒ほどで終わった。


「はい、もういいですよ」

 手を離し、笑顔を見せる。

 リコはようやくホッとしたようで、力なく笑った。



「これでもう安心なんだね?」

「そうですね。これでもう今回のマラリア……三日熱は完治したと思います」

 推測通りの微生物がいて、症状も消えている。マラリアだという推測は当たったとみて良いだろう。

「あ、でも……」

「どうしました?」

 まだ何かあったのか? 僕は身構える。

「どうしよう、代金も何も払えないんだけど……」

 申し訳なさそうに、リコは俯きつつ話す。

「ああ、そんなことですか」

 身構えたのは無駄だった。

「いいんですよ。今回は僕の事情もあったので、ただ働きで結構です」

 手をヒラヒラとさせながらそう答えるが、リコはまだ納得いかないようで、何かを言いかけては口を噤んだ。


「いや、必ず礼はする」

 険しい顔で、ハイロは断言する。

「助けてくれた。俺は馬鹿だけど、助けてくれた奴を忘れるほど馬鹿じゃない」

「忘れて下さって結構ですよ。子供は、人に頼って大きくなるんですから」

 子供にはそんな責任なんてない。親や周りに頼って迷惑を掛けるのが当たり前だと、僕はそう思う。

 けれど、リコが呆れた顔で言った。

「君だって子供じゃないか」

「まあ、そうですけどね」


 悲しい事実だ。




 ハイロ達の住処を後にする。今日はもう帰ろう。

 グスタフさんとの話の続きと、今日の報告は明日で良い。

 久しぶりに魔力を使い果たし、酷く疲れた。体は疲れていないようだが、眠気と倦怠感が表れている。


 僕の住処に戻り、瓦礫の上に横になった。

 今日はよく眠れそうだ。





「あれほど勝つなと言っただろう……!」

 珍しく、語気を強めてグスタフさんは怒っていた。

 昨日の話の続きを聞きに、石ころ屋を訪れたところやはり注意されたのだ。

「すいません。でも、やらなきゃ殺されてたかもしれないので……」

 グスタフさんは溜め息を吐くと、渋い顔でこめかみを掻いた。

「まあ、事情は聞いている。探索者と戦闘したってこともな」

 耳が早いことだ。

「レシッドへの依頼は、『貧民街住民への私刑の代行』だったそうだ」

「あれ、そんなに簡単にわかるんですか?」

「調べたんだよ。首謀者が誰だか確認する必要があったもんでな」

 僕の脳裏に浮かぶ『首謀者』は、一人しかいないが。

「多分それは」

「ああ、わかってるだろうな。鉄器職人のハマンだ」

「予想通りですね」

 というか、今まで街中を歩かなかったこともあり、狙われる心当たりはハマンしかいないのだ。

 粘着質で、面倒くさい相手のようだ。


「たしかに、お前が殺される結果よりは良かったかも知れないが、やはりあいつらに危害を加えたのはまずい」

「やっぱりそうですか」

「特に今回は、前と事情が違う」

 事情? 何が違うというのか。

「今回、お前が叩きのめしたのは、〈猟犬〉レシッドと職人二人で間違っていないな?」

 間違いない。僕は頷いた。

「レシッドはまだマシだ。というより、何の問題もない」

「問題無い? 何故ですか」

 あの金髪のイケメンを叩きのめしても無罪放免? あいつもスラム出身だったとかか?

「あいつは探索者だからな。仕事中に怪我したところで何の問題にもならない。しかも、お前みたいな子供に負けたんだ。あいつとしても、騒ぎを大きくするわけにはいかない」

「自分の名誉を守るため、口を噤むと?」

「そういうことだ」

 グスタフさんは静かに首を縦に振った。

「だから、今この事件は『職人二人が貧民街のやつに突然襲われた』という話になっている」

「レシッドの存在が消えてますね」

「あいつが自分で火消しをしたんだろうよ」

 ご苦労なことだ、とグスタフさんは遠い目で呟いた。

「でも、職人二人が襲われたというのは前回と同じですよね?」

「ところが、そうじゃない」

「何が違うんでしょう?」

「今回は、ハマンがいないんだ」

「偉い人がいなかったということは、事件自体小さくなりそうですが」

 事件に巻き込まれた要人がいるかいないかで対応が変わるのはわかるが、いないと事件が大きくなる? どういうことだ?

「あいつがいれば、多少はあいつにも疑惑の目が行ったんだ。前回は、あいつの方から騒ぎを起こしたと考えるやつも大勢いた」

「えーと、……『待ってくれ、ハマンから絡んで返り討ちになっただけなんじゃないか?』という感じでしょうか」

「そうだ。貧民街住民と同じく、奴も多少(・・)は悪評があるからな」


「てことは、今回の噂は正しく言うと……」

「『罪もない善良な職人が、悪名高い貧民街の乱暴者に大けがを負わされた』ってとこだ」


 

 やはり、これはイライラする。

 荷物をひったくり、リンチされる原因を作ったのはやはりハイロだ。

 しかし、骨を折られ、全身に痣を作られるようなあの状況で、殺される寸前のあの状況で、反撃しただけでこの噂が流れる。


 依頼内容からして奴らは、腕っ節の強い探索者を雇い、スラム住民と出会うようにスラム近辺を歩いていたのだろう。

 僕らを害するために、わざわざ準備して訪れていて、反撃されるとこの様だ。

 何が、善良な職人なんだ。

 何が大怪我だ。ハイロの方が、よっぽど酷い怪我だ。



「さて、その件で悪い情報がある」

 グスタフさんは、一枚の紙を取り出し、広げながら話し始めた。

「何ですか?」

「さすがに立て続けに、善良(・・)な職人が怪我をさせられては治安の問題があるってんでな」

「ええ」

「この貧民街に、衛兵の捜索が入るそうだ」

「へぇ……」


 グスタフさんは、まっすぐにこちらを見ながら話し続ける。

 インクの瓶を開け、羽根ペンをそこに差した。入れられた勢いで、羽ペンがクルリと瓶の口を回る。


「簡単に言えば、お前を捕まえに衛兵が来るんだよ」

「マジですか」

 僕を探して、武器を駆る人員が僕の住処に集まる。この状況は、デンアの時を思い出す。

 あのときは、死ぬかと思った。


「だから、ひとつ提案があるんだが……」

 グスタフさんはそこで言葉を切る。躊躇っているのか、それとも勿体ぶっているのか。腹芸の苦手な僕には判断がつかない。


「お前、素直に捕まってみちゃくんねえか」


 でも多分、グスタフさんはこの状況を面白がっている。そんな気がした。





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