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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
姫様の休日

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それは増やさないで



 後ろの方に聞こえないよう、静かにソーニャは口を開く。

「正直、襲撃があるとは思わなかった。カラス殿は、内側に作る柵のつもりだったのだ」

 内側に作る柵。それは、通常使われない防備。つまり転ばぬ先の杖といったところだろうか。

「それは仕方がないでしょう。というか、襲撃があると予想出来ているのに出かける方がおかしい」

 実際に襲撃があるかは犯人にしかわからないし、襲撃があるとわかっていて外へ出るというのであれば、それは単なる自殺行為だ。

「……確かにな」

 くく、とソーニャは笑う。接待用ではない笑顔を初めてみた気がする。笑顔というよりは、苦笑している感じだが。

「カラス殿に依頼された名目。メルティ様の遊行のためというのに嘘はない。というのも、最近メルティ様は参っていてな」

「何か心配事でも?」

「……もはや知られていること。隠しておくのも変なものだな。メルティ様が、エッセンより北の国、リドニックの王女だということはわかっているはず」

 神妙な顔で、ソーニャはそこで言葉を切る。それから一度、後ろを確認して続けた。僕もちらりと見てみたが、ハイロはいくつ指輪を付けられるんだろうか。


「ミールマンの方で保護されていたところ、どこの指揮系統から発せられたかもわからない『ミールマンは危険』という警告の下このイラインへ移送されてきた。カラス殿も知っているだろう? その移送の時、襲撃を受けたことを」

 僕は頷く。知っているも何も、僕もその場にいたのだ。

「それからというもの、イラインの騎士たちに囲まれて拘禁生活を送っているのだよ。前から騎士たち護衛はいたが、その密度がぐっと高まった。いや、あの騎士たちに悪気はないのだが、拘禁生活ともいえるほどの息の詰まる生活だといえば間違っていない」

「……ああ、はい……」

 以前のルルたちの護衛の時と同様だろう。全ての行動に騎士が付き添い、食べ物は毒見済みの冷めたもの。なるほど、確かに僕だったら息が詰まる生活だ。特に、毎食あの冷めた料理は辛い。


「しかし、……つまり、護衛されるのが苦手なのですか?」

「そういってもいいかもしれないな。とにかく、姫……いや、メルティ様は自由でなければ耐えられないのだ」

なるほど、だから。

「だからメルティ様には、襲撃を悟られぬように、と」

 僕のまとめに、ソーニャは頷く。そういった話を最初にしてくれていれば、僕としても違う対応が出来たのに。相変わらず、警護に伝わる情報はどう選別されているのかわからない。


 了解した。メルティに知られたくないという事情。だから、雇い主はメルティではなくソーニャなのだ。きっとメルティは、護衛を頼もうとは思わないのだろう。

「姫様がカラス殿に気安かったのは、そういった事情があったのだ。すまない。だが、この仕事中の間だけで構わない。付き合ってほしい」

「……僕が姫様に付き合わなくても、今のところ大丈夫でしょう」

 少しだけ振り返る。そこには、メルティに遊ばれているハイロの姿がある。耳にびっしりと付けられた耳飾りは重そうで、少し頭を振ればオルゴールメリーのように勢いよく広がる。……付けるところに穴を開けるタイプじゃないというのは幸運かな。


「それで、先ほど狙ってきた男に心当たりは……?」

「それは……」

 僕の問いに、ソーニャは言い淀む。

 まあ、答えが無くとも予測出来てはいる。狙われ続けているのだろう、国を滅ぼした者たちに。

「……申し訳ありません。余計な詮索でした」

 そして、先ほど考えた『敵は狩人』という予測。その二つを合わせて考えれば、少し国の内情が読み取れた気がする。それも、本人たちには言えない方向のものが。

 背後から、ハイロのやや引きつった笑い声が聞こえる。もはや見る気もなく、僕はそれを聞き流した。



 リドニック(メルティの国)では革命が起きたと聞いている。

 革命。つまり王位が簒奪されたのだ。

 では、誰に? そこが重要だ。仮に、先ほど狙ってきた者が兵士ならば話が単純だった。誰か、兵権を持つ者が反逆を起こし、見事それを成功させたのだ。そして、王家の復権をさせないように、生き延びたメルティを狙った。

 しかし、今回の敵は狩人。それは勿論僕の印象でしかなく、実際はどうかはわからないが。そしてもしも狩人が殺しに来たというのであれば、少しだけ話の気色が変わる。

 革命を起こしたのは、兵権を持った者ではない。民衆だ。


 民衆が革命を起こす理由。その過程は色々と考えられる。

 だが、そこには必ず民衆と施政者の思想の乖離がある。即ち、リドニックでは王家から人心が離れていた。

 

 王家が何をしたのか。それとも、何をしなかったのか。それはわからない。

 しかし、一つ言えるとしたら。

 多分、メルティはリドニックの民から、憎悪の対象になっている。根拠は薄いが、そんな気がした。




 まあ、今更理由はどうでもいい。革命など僕には関係なく、明日の朝まで守ることが出来れば何も問題は……。

 そういえば、それもあったか。ついでに聞こう。


「もう一つ、いいですか?」

「何だ?」

 メルティの下へ戻ろうと一歩足を引いたソーニャを呼び止める。こちらは答えてもらわなくては。

「依頼の完了が明朝の日の出までというのは何故です? そのとき、どちらにいるつもりでしょうか?」

 今回の依頼は、ルルの時とは違い『到着』というものが無い。時間が終わればその場で解散、というものではないだろう。というか、本当に何故その時間を指定したのだろうか。

 ソーニャは一瞬黙り、それから絞り出すように言葉を口にする。

「……それも、とても言い辛いのだが……」

 ソーニャの額に薄っすらと汗が浮かぶ。何故だろうか、先ほどの敵の正体を尋ねた時よりも動揺している。取り繕うこともなく、素の表情を見せているというか……。

「日の出には、一番街にあるメルティ様に与えられた館に戻りたいのだ。……それも……」

「それも、何です?」

 歯切れが悪い返答。追加事項があるならば、先に言ってほしい。後から言われるよりマシだ。

 

「……護衛の騎士たちに見つからぬように、だな……。恐らく今、大慌てで私たちを……」

 

 前言撤回。やっぱり聞きたくなかった。

 




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最悪の仕事で草
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