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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
抗争

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287/937

個人的な理由

4/1 改稿の影響で、文章がつけたされています。夜投稿の最新話が無くて申し訳ありません。

追記:現在ミスで、280話に入るはずの『突然の風』が消えております。重ねて申し訳ありません。急ぎ復旧させてますので……

さらに追記:『突然の風』加筆した上で挿入しました。



「さて、きみにも報酬を渡しておこうか」

 そう言いながら、レイトンはズボンのポケットに手を入れると、金の鎖付きの懐中時計のようなものを取り出した。

「きみはよく戦った。これはぼくからの贈り物だよ」

「……えっと……?」

 差し出されたそれを両手で受け取ると、ずしりと重い。まるで中に空洞がなく、ただの金属の重りを詰めてあるかのように。

 懐中時計ではない? 懐中時計だったら、歯車などの部品の間に隙間があるはず。こんなに重くはないはずだ。


 竜頭の横に指をかけて蓋を開いてみると、そこには文字盤など無く、綺麗に僕の顔が映る。

「……!?」

 その小さな手鏡。その入手先と正体を察して固まった僕に追い打ちをかけるように、レイトンは真実を口にした。

「ルチアの使っていた神器だよ。ヒヒ、大事に使いなよ?」

「これ、貰ったら駄目なやつじゃないですか!」


 慌てる僕を、レイトンは本当に楽しそうに眺める。

 いや、駄目だろう。報酬としても高すぎるしそもそもこれを使えば不味い事態になってしまう。

「……真面目な話ですか?」

 恐る恐る聞く。その僕の様子に満足したのか、レイトンは優しげに微笑んだ。胡散臭い。

「冗談だよ。ま、欲しければ上げてもいいけどね。見た目ほど価値は無いし」

「価値が無いどころか厄介極まりない……」

 冗談。その言葉に、僕は胸を撫で下ろした。



 神器。それ自体の価値は高い。

 これを持ち、僕が王となり、あとは土地と暮らす人間を用意すればたちまち国の出来上がり。そういった野望を持つ人間であれば喉から手どころか触手のようなものまで伸びそうな逸品だ。

 金貨に換算すれば数千枚でもまだ足りない。国家の礎を成すこの道具はそれだけすさまじい価値を持つ。


 この鏡も例に漏れず、高価だろう。

 価値はある。だがこの鏡は、価値の他に不利益の種も数え切れないほど持っているのだ。

 目的なく持つと、不利益のほうが大きくなるほどに。



「ヒヒ、安易に飛びつかなかったのは褒めておこうか。もっとも、そのほうがずっと楽しかったけど」

 レイトンは僕の手から鏡を受け取り、指で鎖を弄ぶ。気安く扱えるものじゃないのに。

「持ってるだけで敵が倍々に増えていく呪いの鏡なんて、受け取れるわけないじゃないですか」

 犯罪の証拠。ハイブレス家から強奪したものだと言われれば言い訳できない。それだけならばまだいい。

 問題は、この神器はハイブレス家の持ち物だと知れ渡っているということだ。


 つまりそれは、僕や石ころ屋、その他の者が持っているだけで不自然だということ。争いになる理由が山ほどあるということだ。

 自分が持つべきだという野望のため、不当な所有権を認めないという正義のため、個人が持つよりも国のものにすべきだという大義のため、無関係だったはずの者までこぞって取り戻しに来るだろう。奪いに来る、といってもいいか。

 最悪、戦争まで招くような品物。

 その所有権問題をなんとかしないかぎり、まともな社会生活は営めなくなる。


 周囲に持っていることが漏れなければ問題ないともいえるが、そんな地雷を持ち歩くのは気が気でない。

 この世にいくつも無い宝物。ではあるが、僕にとっては、デメリットの方が大きく受け取るのに躊躇する品物だった。



「未来視でしたっけ。効果は良いですけど、エウリューケさんにでも使わせるんですか?」

 神器の起動には魔力が必要。ならば、グスタフさんやレイトン、あとニクスキーさんには使えないはずだ。他にも魔力を扱える人員はいるかもしれないが、使用者としてはエウリューケが僕の中では第一候補だ。使うとすれば、だけれど。

 僕の問いに、グスタフさんの方を見ながらレイトンは答えた。

「基本的には死蔵かな。ほとぼりが冷めるまでは、ルチアと一緒に行方不明のままでいてもらう。適当な時に出てくるように手配するよ。エウリューケに使わせてもいいけど、やはり誰かに見られると厄介だ。それに、効果が良いとも言い難いようだし、ね」

「……どういうことです?」

 効果が良いとは言えない? 未来視などという絶対的な力、それを低く見るとは。

「たしかに使えはするよ? とても便利だとも思う。けれど、そう信用できるものでもないからさ」


 レイトンはもう一度、僕に手鏡を差し出す。困惑を浮かべながらも僕が受け取ると、レイトンはカウンターから手を伸ばし、奥の棚から二つ、空の木の杯を取り出し並べる。そして金貨を腰の小袋から取り出すと、カウンターにそれら三つを並べた。



「試してみればわかるよ。実はたいしたことがない能力だからさ」

「は、はぁ……」

 何をするというのだろうか。レイトンの言葉を待つと、レイトンは金貨を放り投げ、受け取った先からコインロールで弄ぶ。それから杯を見て、空いている手で二つ一緒に持ち上げる。

 金貨を持っている手をその下に滑り込ませると、勢いよく音を立てて杯を逆さに返す。

 杯の下を通った手から、金貨は消えていた。


「はい。じゃあ、この杯のどちらに金貨が入っているか当ててみてよ。その鏡を使って、ね」

 ずい、とその杯を滑らせる。その下のどちらに金貨が入っているか当てる遊び。魔力を使えば簡単にわかるだろうが、そういうわけではないだろう。

「……たしか未来視は一日に一度だけだったはずですが……」

「出来なかったら悪いけど、多分出来るからやってみてよ。ルチアを見た感じ、ごく短時間に何度も使っていた。未来視の時間制限は、魔力の方に依存していると思うから」


 ニコニコとそう返すレイトン。さらりと言ってはいるが、つまりそれは何度も未来視を使われたということじゃないだろうか。

 まあ、今は良い。そう言うのならば、ではやってみよう。


「じゃ、魔力を通して……」

 魔道具と同じでいいだろうか。あのときの懐炉と同じようにやれば……と思ったが、やはり感覚からして違っていた。

「……うわ、何だこれ……」

 気持ち悪い。まずそう思った。


 思考回路が繋がっているといえばいいか。思考に何かが差し込まれるような感覚。それも、多分この手鏡から何かが伝わってくる。魔力を感覚器官として使っているような感じではない。例えるならば、そう、手の先に誰かもう一人の自分がいるような……。

 自分でも何言ってるのかよくわからなくなってきたが、そんな感じだ。

 そして、魔力がガンガン吸われていく。目の前がふいにぐんにゃりと歪むほどの大量消費。まだ起動すらしていないにもかかわらず、だ。

 僕ですらこうなるのならば、確かに魔術師には日に何度も使えまい。何度も使っていたというルチアも、相当な魔力を持っていたのか、それとも使い慣れればなんとかなるのか、その辺りはわからないが。


 そして思考に差し込まれる情報。

 ノイズのように混じる信号は何が何だかよくわからず、ただ気分だけが悪くなってくる。


 目を閉じこめかみを押さえる。頭痛までしてきた。

「お…………無……す……なよ」

 グスタフさんの声が聞こえるが、遠い。


 魔力切れの兆候ではない。けれど、思考が散らされているというのは同じだ。考えがまとまらない。


 深呼吸を繰り返し、どうにかその信号を整理し、発信源である神器にピントを合わせるように思考の焦点を合わせてゆく。

 だんだんと慣れてきたようで、信号が意味のあるような強弱を持っていることが分かってきた。


 目を開け、鏡を見る。

 そこにはあるべき像は無く、ぼんやりと何か別のものが映っていた。


「……ちょっと待ってくださいね……」

 信号に応えるように、適当に魔力を制御する。何となく感覚がつかめてきた。これは、僕の第二の脳のような働きをしているのだ。

 信号を与えると、計算して信号を返してくる。入出力に使うのが別言語とでもいうべき何かなためにしっかりと制御できないが、それでも曖昧な制御は出来るようになってきた。


「ヒヒヒ。神器を使う魔法使い、か。エウリューケがいたら喜んだろうに」

「……実験動物としてですか」

 軽口に返す余裕も出てきた。もう少し、もう少しで短時間の未来視が出来る。



 信号の流れは凡そ掴んだ。

 スカラーといったか。対話型の通信システム。質問に応じ、その時に指定された番号を返していくような、そんな操作方法。

 現在から未来に早送りをするように、鏡の像が少しずつ流れてゆく。場所の指定が難しいが、二つの杯が映る位置ならば問題ない。


 やがて、そこに像を結ぶ。レイトンの手により開けられた杯。右の杯の下に、金貨が一枚入っていた。



 もう一度深呼吸をして、僕は魔力を込めるのを止める。視界がクリアになり、鏡は元の普通の鏡に戻った。

「……こちらから見て、右の杯に入っています」

「ふうん。本当かな?」

 僕の答えに応えて楽しそうに鼻を鳴らすと、レイトンは杯をひっくり返す。

 先ほど見た光景。だがしかし、そこには先ほど見た物は無かった。


「と、まあこんな感じ。左だね」

「え……?」

 左の杯の下に輝く赤みを帯びた輝く光。確かに金貨はそこにある。瞬きを繰り返してみても、やはりそこに確かにあった。

「もう一度やろうか? といっても、結果は全部同じだけど」

「……この鏡、本当に未来を映しているんですか……?」

 軽く振ると、金色の鎖がちゃりちゃりと鳴った。

 これだけ苦労したのに外すなど、壊れているのではないだろうか。思わず疑ってしまう。いやしかし、答えが間違っていたということはそういうことだ。


「いや、その鏡は真実を映しているよ。ただ、こうしただけさ」

 もう一度、レイトンは杯の下に金貨を隠す。そして軽く振ると、サーッという音がする。

「……あ……」

「ね? こんな簡単に攻略できるんだ。そんな大したもんじゃないよね」

 得意げにレイトンはそのまま杯を弄ぶ。そのたびに、金貨は机の上を滑り、もう一つの杯に移動していた。


「僕の言葉で、変えたんですか」

 僕が右だといったから、左へ移動させた。なるほど、そこまでしか見ていないから。

「そう。加えて、『その鏡で予想させた』というのも大きい。普通に見れば稚拙な動きだろ?」

 レイトンはもう一度金貨を移動させる。なるほど、注意してみれば普通に見えている。

 これがミスディレクションというものか。先ほどは本当に気づかなかったのに。

「だから、大したものじゃない。その鏡はすごいけれど、そこに頼ってしまって視野狭窄に陥るのであれば、逆にそれは突くべき弱点なのさ」

「……参考にしておきます」

 鏡を返しながら、感嘆の息を吐く。簡単そうに言ってはいるが、これは駆け引きの問題だ。そして実際には、右の杯か左の杯か、などという単純なものでもないだろう。相手の出方を見てから動く。考える時間は極小。そうすると僕には、そこまで巧みな動きは出来そうもない。




 からかうように嗜虐的な笑みを浮かべ、レイトンは改めて口を開く。

「さて、エウリューケは木偶人形を得た。ぼくも一応、得るものはあった。で、この報酬を受け取らないとするなら、きみは何を得たんだろうね?」

「何を……ですか?」

 意図はわかった。この抗争に参加して、僕に利益はあったのか、とそういう質問だろう。

 答えは決まっている。利益などなかった。けれど。

「得たものはありませんよ」

「へえ。きみがそんなに無欲だったとは思えないけれど……」

 僕の次の言葉が分かっているかのように、レイトンはそう続ける、一応、声に残念そうな響きを乗せて。

「得たものはありません。ですが、これから得るものを失わないようには出来ました。僕には上々の成果です」

 胸を張って答える。その動きに、何故かグスタフさんまでも微笑んでいた。

「ならいいや。これは探索者の先輩としての助言だけど、いつもそうやって利益の確保を先にしておくこと。そうしなければ、貧乏くじを引くのが落ちだ」

「一応心掛けているので大丈夫です」

 そう心掛けすぎているというのも僕的には問題なのだが、それは言わなくてもいいだろう。

「ヒヒヒ。じゃあ、これからもそうしなよ」

 僕は頷く。そうするつもりだ。それが出来るだけの余裕があれば、だが。



「しかし、エウリューケさんの木偶人形……って何です?」

「さて、その辺りはぼくの口から言わないほうがいいかな。彼女への報酬だからこそ、黙認されているものだからね」

 また、思わせぶりなことを言うレイトン。少し面倒くさくなったが、それを考える必要はなかったらしい。

 レイトンの後ろから気の抜けた声がする。

「人体だよ。そこから先は聞かねえほうがいい。あいつの、極個人的な用事だ」

 そうグスタフさんが答えてくれた。人体を手に入れた……というと、出所は馬車のあそこだろうか。

 襲撃のあったあと、僕も目を離していたから気が付かなかったのか。

 レヴィンのことを笑えなかった。エリノアの()()、僕は気にしていなかったのだから。





 石ころ屋を出て、適当に歩き出す。

 エウリューケの極個人的な理由。そこに踏み込む気は無いが、やはり皆なにか事情を抱えてはいるのだ。 そう考えつつ道を歩く。


『個人的な』という言葉。その言葉は、今日三回聞いている。

 法を守らないはずの彼らさえ、そこには触れたがらない。それはきっと暗黙の了解で、触れれば自らの痛い腹も探られてしまうからだろう。……なりふり構わず排除にかかるから、ともいえるか。

 だがやはり、皆一枚岩ではないのだ。

 僕が転生者だと明かすことに抵抗があるように、レイトンも過去を喋ることはない。以前、気になってグスタフさんの態度の理由をニクスキーさんから聞き出そうとしたこともあるが、本当はあれも探られたくない腹なのだ。


 ミーティア人の姉妹の姿を思い出す。

 僕らに殺された彼女らも、きっと個人的な理由で死んでいる。



 あれは、妨害ではない。モノケルと同じ厄介払いだ。

 僕らに馬車の襲撃を邪魔されては困るから、とそういう理由を姉妹は口にしていた。だが、真実は違うだろう。少なくとも、それを発案したルチアにとっては。


 本来、魔法使いというのは強大な戦力だ。……レヴィンを見ていると、とてもそうは思えないが。

 曲がりなりにも『片腕の魔法使い』の彼は、きっと奴らにとっての最大戦力だった。実際はともかく、<鉄食み>スヴェンよりも魔力による格付け上は格上だということを考えれば、そうなるだろう。


 そのため、馬車の襲撃と僕らへの妨害のための襲撃。その二つのうち、危険な方はと考えれば、明らかに妨害のための襲撃だ。馬車では、片腕の魔法使い(最大戦力)と共闘できるのだから。


 そして妨害のために、姉妹は使われた。


 その配置をした理由。それは二つ思い浮かぶ。

 一つは、彼女らが僕らに勝てるほどの強者だった。または僕に勝つ予知をルチアがしていた。

 だが、それはありえない。戦って見た感じ、とてもではないがそうとは思えなかった。そしてレイトンの登場が予想外だったということは、僕と戦闘することはルチアの鏡で予知していたのだろう。しかし結果、レイトンのような技術を使うまでもなく僕は勝利した。ならば、その結果は変わっていないはずだ。


 ならば、二つ目。ルチアは、姉妹が死ぬことを承知で妨害に配置した。

 レイトンが登場していないことまでは見ている。そこから先、勝負の決着までを見ていてもおかしくはない。先ほどの通り、僕に負ける予知をして、それを半端に姉妹に伝えた。



 今思えば、エリノアのときもおかしかったのだ。

 レヴィンは、エリノアが離脱してくると思い自分も離脱した。けれどもその時に至ってまだ、エリノアには逃げるそぶりも無かった。まるで、逃げることなど考えていないかのように。




 姉妹が僕らの妨害に出ているとは知らないようなレヴィンの言動から見れば、指示は全てルチアのものだろう。ルチアは姉妹をレヴィンには内密に僕らへの妨害に出し、エリノアへの離脱条件を伝えなかった。


 その理由は? というところまで考えてみれば、それはきっとモノケルの時と同じだろう。

 彼女らは、ルチアにとって邪魔な存在だった。


 もちろん、それが成功してもよかったのだろう。

 姉妹が予想外に健闘し、僕を始末できれば上出来。エリノアも、予定通りに行動できればそれでよかった。

 けれど、失敗したときには、それが自分の利益になるように行動していた。


 ならば、何故邪魔だったのだろうか。それははっきりとはわからないが、推測くらいは立つ。

 姉妹の不仲。あれは、姉妹間だけだったのだろうか?

 レヴィンの仲間のうち、唯一社会的に地位のある、()()()()()の女性、ルチア。彼女にとって、他の女性の地位は、どのようなものだったのだろうか。



 みんな死んでしまった今となっては、もはや真実はわからない。


 けれどきっと、やはりこんな事件は、レイトンの笑うような『くっだらない理由』で形作られているのだ。


 五歳の時に遭遇した竜騒動から、何年もかかってようやく溶かして消えた事件。

 幕切れは意外なほどにあっけなく、爽快感も何もない、嫌な事件だった。




 

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