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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
抗争

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281/937

突然の風

 



 妨害はある。そう予想はしていたが、その通り、姉妹の襲撃は事件の日の朝。

 馬車の襲撃予測地点。その付近を見張れる場所への移動中、路地に立ちふさがる影があった。



「……何か御用でしょうか」

 レイトンはルチアの居場所の特定のため別行動中。エウリューケは目晦ましのため現在別地点にて待機中。

 単独で動いているところを狙われたのだろうか。姉妹は、狭い路地を通れないように二人並んで立っていた。

 両者ともに、茶色いフード付きの外套を被り、口元には覆面までしている念の入れよう。見えるのは僅かな髪の毛の毛先と銅色の瞳だけ。変装の成果はあるようで、ミーティア人には見えない。


 髪の毛が長く、やや体の大きな姉の方が口を開く。

「今日はご主人様の晴れ舞台。邪魔はさせない」

「本当に晴れ舞台だったら、邪魔なんか入りませんよ」

 決意溢れる発言に、思わずそう返してしまう。

 それは確かに、人の成功を喜べない者もいるだろう。晴れ姿を憎々しく見る者もいるだろう。事前に舞台に立てぬよう、妨害もするかもしれない。

 けれど、本当に成功して晴れ舞台に立った者を、舞台上で邪魔することは出来ない。もしそれをするのであれば、そいつは集団の中でまず排除されるべき者だ。


 だが、今回は違う。


「もしも本当に、偶然襲われた馬車に遭遇。敵を撃退してお姫様を救う、なんてことだったら、僕は別に邪魔しませんよ。多分、視界の端に入れる程度で通り過ぎます」


 しかし今回の事件は自作自演。それも、それだけならばいい。その主犯は僕を殺そうとし、汚名を被せ、さらにそのために何も知らず食事中だった無辜の民を危険に晒した。

 そこまでするのだ。治安維持のために動員されている騎士や、たまたまいる通行人。彼らに被害が出ないとも限らない。特に騎士は、死んでも構わないとすら思っているかもしれない。


 騎士や衛兵、治安を維持する者が被害に遭う。それはどれだけ後々に悪影響を及ぼすことだろうか。

 治安維持組織の力不足が知れ渡れば、彼らの犯罪抑止能力は落ちる。目の前でやすやすと犯罪者を取り逃がすということ。それがどれだけ犯罪の発生を起こす原因になるかは想像がつかない。

 自己弁護でもあるが、僕が逃げたように、たまたま巻き込まれたというのならばまだわかる。そして仮に、本当に襲撃計画がありレヴィンがそれを阻止しようとしているというのであれば、それは勝手にすればいいだろう。

 しかし、彼らは確信犯だ。意思を持って騎士を襲い、治安を乱そうとしている。自らのために。


 ならば、弁護は出来ない。貧民街の住人(犯罪者)が増えることなど、誰一人として望んでいないのだ。



「……と」

 僕の言葉が終わると同時に、喋っていなかった妹の方が動く。狭い路地の壁を跳ねまわりながら、短剣を片手に迫ってきた。まるで、四足歩行の獣が飛び掛かってくるかのような動き。武器を持っておらず、シルエットだけならばきっと野犬と変わらない。

 だが、その攻撃は鋭い。横薙ぎに払われた爪の代わりの短剣。その軌跡をしゃがんで躱すと、動きについてこれなかった前髪の端がパラリと切れた。

「ご主人様の腕を奪った! カラス! ここで死ね!!!」

「……奪った覚えはないんですけど」

 折っただけだ。内傷を与えながら。


 姉の方はまだ落ち着いているようだが、妹の方は殺意に溢れている。荒々しい攻撃。まるでサーロのような獣じみた戦い方だが、確実に急所を捉えてくる。


「避けるな! 早く! 斬られろ!!」

 幾度躱しても食い下がるように前へ出続ける。

 本当に、獣の戦い方だ。


 妹の、着地した片足を蹴り飛ばす。サーロであればすぐに態勢を整えられるだろうに、それだけで重心が崩れて倒れるその頭にまた蹴りを入れる。

 しかし、固い。まるで石を蹴り飛ばしたかのような重い感覚が僕の足に伝わった。


「グルァ!?」

 ダメージはあるようで、一旦引く。それに合わせるように、姉の方も一歩進み出ていた。

「二人でやるよ」

「……当然! っていうかお姉ちゃん遅い!!」

 目を合わせて、呼吸を合わせる。二人同時に踏み切ったその足音は揃い、別々の方向から合わせて僕に迫ってくる。

「…………っ!」

 手数が単純に倍、というだけではない。僕が防ぎづらい角度から、防げないタイミングでの攻撃に変化した。

 姉が加わった。それだけで、先ほどまでの戦い方とは打って変わって、武術とも呼べる何かに変化している。

 姉の突きに反射的に反応すれば、対応しづらい体勢的な死角から妹の手が伸びる。妹の飛び掛かりに備えて体を固めれば、斜め前から脇を狙って姉が縦に剣を振る。姉に向ける攻撃に腕を動かせば、その腕に妹が噛みついてくる。うねるように、一つの動きを取る二つの人間。もはや二人は獣ではなかった。



「すごいですね。レヴィンさんの下で武術でも学んで……?」

 小脳の発達によって体の動きがよくなるという話ではあるが、仮に凡人がここまで動けるようになるのであれば、驚異的なものだ。ミーティアで手合わせした、カルくらいはあるのではないだろうか。

「答えるわけがない……!!」

「……へえ……!」

 姉が、無駄口を叩く僕の背後に回り込む。凄い動きだった。僕の瞬きに合わせて、背後に回ってきたのだから。

 そこから、首の後ろを狙って放たれる突き。そんなものを受ける気も無く、ひょいと躱して腰の山刀に手をかけると、それを握ろうとした瞬間に体勢を崩すように妹の攻撃が迫った。


 ……面倒くさい。

 大した脅威ではないのに、決定打を与える隙が極端に少ない。片方を始末しようとすれば、必ずもう片方が邪魔をする。

 戦いにおいては正しいと思うが、対峙している僕からすれば、本当に面倒くさい相手だ。 



 仕方ない。一発くらいは受けてやろう。

 幸い、持っている武器への警戒は緩い。そこら辺はさすがに、本来爪や牙を使うミーティア人というべきだろうか。妹の武器を払い、強制的に手ぶらにさせる。そして、たたらを踏んだフリ。

 思った通り、単純な妹は乗ってくれた。

「……馬鹿……!」

 姉が気が付いたようだが、もう遅い。僕の左腕に、妹が食らいつく。文字通り、牙を立てて。


「ガアァ!!」

 噛みしめるように、牙に力が籠められる。食い込む牙に僅かに痛みを感じた。

「食らいつくなら、次の瞬間命まで奪わないと」

 その、妹の無防備な腹部に向けて、右手での掌底を一発。肋骨が潰れ、背骨まで折れた感触が、僕の掌に伝わった。



 意識はもう無いだろう。けれど、まだ顎に力は込められている。僕の腕にぶら下がるようにしてだらりと下がった体の重みで牙が食い込む。少しだけ、出血したらしい。

 溜息を吐いて、その腕を振る。強引に頭が引き剥がされ、ずるりと投げ出された体は、力なく壁に激突した。

「で、あと一人ですけれど……」

 姉の方を振り返る。その顔に違和感を覚えた僕は、足を止めて眉を顰めた。

「……なんで笑ってるんです?」

 僅か、口角が少しだけ上がっていた程度ではあったが、確かに笑っていた。

「…………っ! 黙れ!!」

 僕の言葉に一瞬で反応し、また飛び掛かってくる。こちらはやはり、妹と違って武術を使うようだ。

 その伸び切った腕を掴み、肘に蹴りを入れて逆に折る。半狂乱になって残った左腕で振られた剣を避けると、全力で跳び退さった。


 事実無根ならば、無視するか失笑するはず。もしくは聞き返すか。

 今の反応、自覚はあったのだろう。血を分けた妹が死んで、自分が笑っていたという自覚が。

「先ほどの連携は見事でしたが、実は仲が悪かったり?」

「よ、よくも私の大事な妹を……!!」

 僕の言葉に応えた、今更取り繕ったかのような言葉。やはりどちらかといえば、仲が悪かったのかな?

「まあ、貴方たち二人の仲のよさとか、実は別にどうでもいいんですけど」

 不仲でも、あれだけの連携が出来る。血は水よりも濃いとは言うが、やはり血のつながりはすごい。


 問答を打ち切り、もう一歩踏み出す。

 ここで逃がすわけにはいかない。レヴィンに、仕切り直しなどさせるわけにはいかないのだ。


 しかしやはり、逃げる気のようで姉は一歩引いた。そして舌打ちをすると、苦々しげに僕を睨む。

「……邪魔者が……! 見ていろ、次は必ず私の手で殺してやる! ご主人様を傷つけた報いを、必ず受けさせてやる……!!」

 最期の言葉にも、やはり妹の存在はなかった。

 まあ、それだけレヴィンに夢中ということだろうか。


 姉は足でわずかに地面を擦る。その次の瞬間、ぶれるように、僕の瞬きに合わせ、僕が足を踏み出せないようなタイミングで後ろへと移動しようとした。

 だが、させない。

 念動力で作った障壁。それを姉の背後に設置し、逃げ場所を塞ぐ。

 そのまま圧殺してしまおう。そう思い、力を籠めようとした次の瞬間。

 風が吹いた気がした。




 いつの間にか、という言葉がまさに当てはまる。

 姉の背中がトン、と何かにぶつかる。その上を見れば、そこにはレイトンの顔があった。


「……いつの間に」

 僕が声を掛けようとするが、それは無視された。代わりと言っては何だが、いつもと違う雰囲気。

 その違和感が何かはすぐにわかった。レイトンは、いつも張り付けている笑みを、纏っていなかったのだ。


「ヒッ……!?」

 驚き固まる姉。それはそうだろう。視界に入れていたにもかかわらず、僕ですらレイトンの出現に反応出来なかったのだから。後ろ向きでぶつかった姉の驚きは、想像に難くない。

「……答えてくれないことを前提に聞くんだけど、一応聞いておくね」

 優しげな声。だが張り詰めた雰囲気は、やはりいつもとは違う。

「その歩法、誰に教わった?」

「きさ、ま、レイトン・ドルグワント……! ここには現れないはずじゃ……!?」

「聞いているのは、ぼくなんだけど……」

 溜息を吐きながら、レイトンは視線を外す。その視線には、敵意が混じっていた。


 だがその敵意もすぐに消え去る。いつものように。

「まあいいや。こっちで勝手に調べるからね」

 レイトンは、もはや興味がないという風に振り返る。路地から抜けていく道に歩き始めて、それから何かに気が付いたかのように足を止めた。

「ああ、そうだ。カラスくん。ぼくはここには来なかった。その子は、キミが殺した。そうしておいてね」

「いきなりで色々と整理が出来ないんですけど」

 それから、レイトンはまた僕に振り向いた。いつものように、張り付けたような笑みで。

「気にしなくていいよ。これはぼくの個人的な問題だ。キミがレヴィンを殺すように、ただの個人的な理由だよ」

「…………」

 思わず沈黙してしまう。僕が理由を語りたくないように、レイトンも語りたくないのだろう。

 それを読み取った僕の沈黙に気が済んだのか、レイトンは改めて姉に微笑みかける。やはりもう、その嘲るような笑顔はいつも通りだ。

「しっかしまあ、キミらもここに送り込まれるなんて災難だね。今回の敵は、やはり邪悪だったようだ」

「何の……話だ……」

 振り返ろうとするが振り返れない。そんなもどかしさに臍を噛むように、苛立った様子で姉は聞き返していた。……こういう問答、何だか身につまされる。

「わからないならいいんじゃないかな。一応考える時間は上げるよ。ヒヒヒヒ、間に合えばいいけど」

 最後にまた笑い飛ばして、僕に向かって手を上げる。

「じゃあ、またあとでね」

 またレイトンは歩き出した。買い物にでも行くような気軽な歩き方で。彼を見ても、これから何をしに行くのか、言われなければ全くわからないだろう。

 不自然に固まった姉は、苦々しい顔で、背後でそれを見送っていた。



「……何者だ、あの男……、くそ、こんなところで……!!」

 ぶつかった姿勢のまま、姉は動かない。ただ、少し震えながら、困惑の言葉を漏らす。

「……ええと、何だったんでしょうね? 僕にもわからないんですが……」

 しかし、関係ないというからにはそうなのだろう。もしも僕に関わることならば、レイトンは多分そうとわからないように誘導するだろうし。

「で、続きを……」


 気を取り直して、とそう思った次の瞬間、僕もまた驚愕する。


 ぼたぼたと姉の体のいたるところから血が噴き出てくる。

 首や手首、見える関節以外も全て、だろうか。外套が線状に血で染まる。まるで、切り取り線が作られたかのように。

「……るっ…………」

 そしてその切り取り線が使われたかのように、姉の体は大小さまざまな肉片となって、崩れ去った。





「……ええぇ……?」

 困惑の声が漏れる。だが内心は、困惑というよりも驚愕だった。

 いつも驚かされてはいるが、今日もまたおかしなものだ。

 目の前には、もう死体というよりも肉ともいうべき物体が血に漬かり、先ほどまで少女がそこに立っていたなど到底思えない光景があった。


 やはり、警戒すべき攻撃だ。僕は今更ながらに唾を飲んだ。

 その攻撃の恐るべきところは、やはり視認できなかったというところ。僕は、いつレイトンが攻撃したのかわからなかった。いや、それよりもなにより、僕はレイトンの出現に気が付かなかったのだ。姉の方を向いて、その姉の背後に現れている。視界には必ず入っているはずだし、念動力を使おうと魔力を張り巡らせているにもかかわらず。


 しかも言動からすれば、レイトンと姉の問答が終わる前に攻撃は終わっている。

 なのに、それから姉が言葉を漏らせるくらいの余裕をもって、そして苦痛に喘ぐこともなく体は崩れ去った。姉の様子から見ても、おそらく僕が出現を知ると同時に、攻撃は終わっていた。


 視認出来ず、実際の斬撃から間を開けて効果のあらわれる斬撃。

 まるで遅効性の致死毒のような攻撃。


 今現在は敵ではない。

 しかし一応、対策を考えておく必要があるだろう。

 僕は、頭の隅に置いておくことにした。




「ウィヒヒヒ! やっぱり来たかえ!」

 僕の死体を眺めながらの考察が終わる頃、エウリューケが転移してきた。

 死体の始末をしてもらうため、襲撃があった場合は可聴域を外れた音を鳴らす、という取り決めだったはずだが……。

「早いですね……ああ、レイトンさんから連絡が」

「そうだけど、どったの? 何か不味かった?」

 体ごと傾けるように、エウリューケは首を傾げる。その仕草に、少し和んだ気がした……が、やはりそうも言っていられない。少し視線を外せば、肉片と血溜まりが目に入るのだ。凄惨な現場。和んでいるわけにはいかない。

「いえ。お願いします」

「はいさー!」


 僕の言葉に応えて、エウリューケは元気よく飛び跳ねる。足元でピチャリと血飛沫が飛んだ。

 それから死体に歩み寄ると、懐から小瓶を取り出し、中の粉末を振りかける。姉妹の体にまんべんなく振りかけ、それが終わると静かに手を翳した。


 ぼこぼこと、姉妹の体が膨れ上がる。

「……ヴォ……ゲ…………」

 妹の体の中から発生したガスが声帯を震わせたのか、低い声がその口から鳴り響いた。

 すぐに、穴という穴から緑色の泡が噴き出てくる。多分、先程振りかけていた粉は、細菌の類だろう。カビのようなものが侵食し、死体はぼろぼろになっていった。身元が分からない程度に、だが、形は残っているように。


 満足げにエウリューケは胸を張る。

「これでじっちゃんの要望通り! ですな!」

「ええ。これで、グスタフさんの……」


 そう、これでグスタフさんの要望通り、奇怪な死体が出来上がった。

 しかし僕は、見ていられなくて少し目を逸らした。

 証拠隠滅のためでもなく、むしろ証拠を残すための死体の損壊。晒しものにするために行う損壊。

 惨い、と。僕はそう思った。


 僅かに苦笑する。

 たしかに惨い。だがこれは、僕の選択の結果だ。

 僕が今回協力しているのは、そういうことをする組織なのだ。そうしない選択肢もあった。僕単独でレヴィンたちを捜索し、決着をつけるというような選択肢。姉妹を殺さずに済む選択肢もあったのかもしれない。レヴィンの魔法で脳が変質している以上、とても難しいとも思うが。

 そう、これは僕の選択の結果。だから、目を逸らすわけにはいかない。もう一度、損壊した死体に目を向ける。

 何も見ていない妹の死体と、目が合った気がした。



 エウリューケも、僕の様子を見て何か察したらしい。だが何も言わず、少し微笑んで僕に手を差し出した。

「……さてさて、ここからも予定通りでいいかい?」

「はい。ここからは転移で大丈夫です。お願いします」

 その手を握り返す。次の瞬間には、景色が変わり、二番街の襲撃予測地点に跳んでいた。





 しばらくして、襲撃される馬車が二番街に入る。


 屋根の上で、僕は馬車の様子をじっと見つめていた。

 前後にはそれぞれ四人、横に一人ずつの騎士。合計十人の騎士が甲冑に身を固め、早足で歩いている。馬車に刻まれている紋章はイラインにいるエッセン国副王のもので、それが公式の馬車だとわかりやすく示していた。

「本来はこれくらいの人数が最低限なんだなぁ……」

 僕は、少し前の護衛の旅を懐かしく思い出す。あの時は騎士二人に探索者二人、それも探索者は一人不参加という少人数でしかも強行軍だった。今回のも名目上若干の強行軍だろうが、それでも余裕のあるその人数と態度は、やはりあの時よりも全体的に優美に見える。


 やがて、襲撃が始まる。

 物陰から飛び掛かっていったのは、一人の少女。

 黒く短い上下の服、その上に幅広い帯のような布を巻き付けている。


 始まった喧騒に、翻弄される騎士たち。瞬く間に騎士たちが片付けられていく。体に巻き付けられた帯から小剣を何本も取り出し、甲冑の間に差し込んでゆく。中の肉体ごと関節が固定され、動けなくなった騎士たちを道の端に蹴り飛ばしながら、馬車へと少女が迫る。


 本来の襲撃ならば、もう終わりだ。中の人物は引きずり出され、攫われてしまうか処理されてしまうか。

 だが、それでは終わらない。

 少女の手が伸び、馬車の扉が開かれる。次の瞬間受けた体当たりで、少女が吹っ飛ばされる。

 ごろごろと転がり態勢を整え、少女は自らを攻撃した騎士を睨む。睨んだ先にいる騎士は、槍を捨てて剣を静かに構えた。

 騎士から静かに立ち上る闘気の光は、色付き以上に見える。


 僕は黙って屋根の上で、その少女が処理される様を見守っていた。





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― 新着の感想 ―
多分主人公も石ころ屋の面々も、まともな死に方は出来ないだろうなぁ...
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