表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
副都イライン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/937

子供が頭を下げるのは


「ええっと、ありがとう?」

 疑問形で、リコはお礼を言う。

「どういたしまして」

 笑顔を向けると、少し緊張が和らいだ気がした。しかし、リコにはお礼を言われる筋合いが無い。


「……怪我が治ったのは、お前の魔法か」

「そうですよ?」

 ぶすっとした顔で、ハイロが問いかけてくる。

「…………」

 そして、そっぽを向いて沈黙した。僕はどうしたら良いんだ。

「………………ありがとうございました」

 たっぷりと溜めた後、小さな、とても小さな声でハイロはお礼を言った。

 思わずため息が出た。

「はいはい、お大事にして下さいね-」

 そうして僕は立ち上がり、裾の埃を払った。

 もう、帰ろう。

「では、これで失礼します。さようなら」

 そう言って、出口までスタスタと歩いていく。


 グスタフさんへの報告と、探索者の就職についてはまた明日でも良いだろう。

 怒られるのが怖い。




「おい」

 後ろから声を掛けられて、足が止まる。振り向くと、まっすぐにハイロがこちらを見ていた。

「待ってくれ……ください」

「何です? いつもと言葉遣いも違いますが」

 そう笑い飛ばしても、ハイロは真面目な顔を崩さない。

「頼みがあるんだ」

「へぇ……」

 聞いてみるだけ、聞いてみよう。



「俺の怪我を治せるんなら、リコも治してやってくれないか」

「僕に、三日熱を治せと?」

「お願いします!」

 ハイロは頭を下げる。

 

 困った。どういう反応を返せば良いかわからない。

 正直、子供に頭まで下げて頼まれているのだ、引き受けてやりたいとも思う。けれど、僕にその能力があるかどうかは甚だ疑問である。なにせ、僕には病を治療した経験が無い。

 怪我は治せる、僕がよく負っていたから。しかし、病はこの前まで全く治す必要が無かった。何故か考えることも無かったのだ。


 黙る僕の態度に、否定を感じたのか、ハイロは懇願を続ける。

「あの店で、何とかするとか言ったけど、俺には無理なんだ。今ハッキリとわかった。引ったくりだって、リコと組まなくちゃ上手く出来ねえ。魚や鳥を捕ってくるのだって、いつも二人でやってたんだ」

 ハイロは顔を上げる。

「二人でなくちゃ、何も出来ねえんだ! でも、このままだとリコが……!」


 ヒートアップしていくハイロにいたたまれない様子で、リコが口を挟む。弱々しい声だが、先程よりはだいぶマシだ。

「ハイロ、大丈夫だよ……、さっきと比べて気分も良くなってきたしね……」

「まあ、三日熱の熱はすぐ収まりますからね」

 僕の時はやや長めだったが、三日熱はその名の通り、約三日ごとに短期間高熱が出る。今リコは一回目を乗り切ったところだろう。

 そして。

「このまま治っちゃう可能性もありますが?」

 自然治癒だってする。体が強ければ、ただの苦しい風邪扱いにもなるのだ。


「……それでも!」

 ハイロは一旦リコを振り返り、唇を噛み締めてまたこちらを見た。

「俺らみたいな弱っちい体の奴は、あと何回か熱が出たら死んじまうって聞いた」

 涙がうっすらと滲んでいる。

「だから、お願いします! リコも、何とかして下さい!」



 無意識に、僕の体の力が抜ける。肩がだらりと下がる。


 懇願にほだされたわけじゃない。

「……わかりました」

 子供に、泣いて頼ませるのが辛くなったわけでもない。

「治療しますが、僕は法術は知りません」

 ただ、僕が病に倒れたとき、自分でどうにかするために。


「治らなくても、怒らないで下さいね」

 病を治す、練習がしたくなっただけなのだ。





「といっても、凄く怖いんだけど」

 とりあえず毛布を敷いて、その上にリコを横にさせた。

「大丈夫、大丈夫ですよ、怖いことなんかありませんって」

 笑顔でそう言い、取りあえず熱がどれだけあるかを見る。

 首下を魔力で覆い、体温を推定した。

「下がり気味ではありますが、やっぱりまだ熱がありますね」

「うわぁ、僕何されてるんだろう……?」

 魔力を感じ取れないリコは、その言葉に戸惑っている。

「あの」

「何ですか?」

「ハイロみたいに、痛いことするときは言ってね……?」

「まあ、善処しますけど」

 そういえば、整復するとき酷く叫んでいたな。


 そこで突然思い出す。

「ああ!」

「何? 何ですか!?」

 リコが涙目で聞き返す。ビクッと慌てる仕草に小動物っぽさがあった。


 しかし、違うんだ。今思い出した。

 僕、鎮痛魔法も使えたじゃないか。


「いえ、こちらの話です。すいません、何でもないですよ」

「余計怖いんだけど……」

 ハイロの整復で、使えば良かったな。




 熱を測り、全身の状態を見ただけだが、よく考えるとここからの手立てを何も考えていなかった。

 テレットさんのように治療の法術が使えれば良いのだが、あいにく呪文を唱えるだけで出来るようなものだとは到底思えない。

 闘気の活性化も、どうすればいいか見当も付かない。

 せめて、治療するまでの方法を考えよう。

 魔法であれば、きっと出来る。僕はそう信じている。



 治癒するためには、何が必要だろう。

 まずは対症療法だろうか。

 三日熱に、発熱以外に目立った症状は無かった。めまいや寒気もしたが、あれは発熱による衰弱だろう。

 ならば、熱を下げれば良いのか。それならば、魔法ですぐにでも出来る。

 いやしかし、病原菌に反応して熱が出ているとすれば、強引に下げてしまうのはまずい。

 幻覚や妄想の様子も無いので、脳炎等の心配は今はしなくても良いだろう。というか、ほっとけばしばらくは下熱するから、熱に関してはあまり心配しなくてもいいかもしれない。

 あとは体力の回復も兼ねて、食事や水分を用意すれば充分だと思う。


 ならば、原因療法?

 抗生物質や抗ウイルス薬などがあれば何となるだろうが、そんなもの今手元には無い。グスタフさんの話では、一応三日熱の薬はあるそうだから、最後にはそれに頼れば良いだろう。

 しかし、それは最後の手段だ。

 あくまでも、今回は魔法で何とかしたい。それは、僕の意地だ。


 原因と言えば、細菌やウイルスだろうか。

 毒物の可能性もあるが、それならば同じ物を飲み食いしているハイロも罹っている方が自然だ。可能性は低いだろう。

 微生物を除去すればなんとかなる。とすれば、その微生物を特定する必要がある。

 

「うーん……」

 テレットさんのようにパパーっと何とか出来れば良いのだが、あいにく何も浮かばない。

 

 改めて、リコの全身を見る。

 細い体だ。栄養状態の悪さが見て取れる。手足に擦り傷が多い。こちらは治してしまおう。


 治療中、腕に虫刺されの跡があることに気付いた。氷枕を渡したときにも見えていたが、よく見ると結構前に刺されているようだ。

 

 ん?

 僕の脳裏に、原因の可能性が一つ浮かんだ。

 貧民街や、街の東側でのみ流行る病。

 街の風景、子供達の遊ぶ光景が頭の中に流れる。


「もしかして……」 


 僕の頭の中に浮かんだ原因が正しいのであれば、治療のめどはたつ。

 しかし、とても面倒くさいし厳しそうだ。

 これは、腹を据えてかからなければなるまい。


 ……治せるか?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
診断中にいきなり叫ばれたら確かに怖い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ