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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
副都イライン

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お大事にして下さい

 


「ぅ……」

 小さく声を上げて、気絶していたハイロが目を覚ました。

「ああ、目、覚めましたか」

 背中越しに声を掛けると、周囲の状況を探ろうと辺りを見回す気配がする。

 そして、僕に背負われているとわかると、驚きの声を上げて暴れた。

「え、あ、てめえ、何してんだ!?」

「暴れないで下さい、動けるなら降ろしますから」

 動く手足が体にぶつかる。面倒くさい。


 そっと身を低くし、ハイロの足を地面に付けると手を離した。

「何で俺がお前と一緒に歩いていてんだ?」

 そう言って、ハイロは瞬きを繰り返してこちらを見る。

「あれ? 俺、さっき何か高そうな袋をひったくって……?」

「それで捕まって袋だたきになってたんですよ」

「え?」

 その言葉を聞いて、ハイロは自らの腕を触り、叫び声を上げる。

「……っ痛ってぇ!」

「はいはい、リコの所についたら治療しますから、取りあえずそのままついてきて下さい」

 その言葉を聞いて一瞬不服そうにしたものの、ハイロは大人しくそれに従った。



 今のところ追っ手などは無いようで、すんなりとハイロ達の寝床に着いた。

 振り返ると、少し後ろの方を、ハイロが必死に歩いている。


 しまった。もっとゆっくり歩くべきだった。

 ニクスキーさんと僕が歩いていたとき、僕がこれで辛い目にあってたんだ。

 心の中で小さく謝り、ドアの横で待つ。


「どうぞ」

 ドアを開けて、ハイロを導き入れる。気分はコンシェルジュだ。

「なんだそりゃ」

 ハイロは苦しそうにしながらも、怪訝な顔でこちらを見る。それはそうか。

 ふらふらと歩くハイロに続いて、僕も家の中に足を踏み入れた。



「ハイロ!? どうしたのさ、その怪我」

 リコは多少元気を取り戻したようで、体を起こして壁に預けていた。氷枕はお腹に抱えられている。

「何でもねえよ」

 恥ずかしそうに、ハイロは横を向いた。意地を張れるような怪我でもないだろうに。



 さて、ハイロたちのアジトには着いた。

 もう帰ってもいいのだが、帰る前に先程言ったことを実行しないといけない。



 何の気なしに言ったわけではない。

 ハイロの怪我はたしかに身から出た錆だとは思う。しかし、レシッド達の会話の内容に気になる文言があった。

 その子供、つまり僕を始末すれば、親方が礼金を弾む、そう言ったのだ。


 レシッドは探索者だ。

 今は探索者を名乗り、そして金で動いている。

 間違いない。雇われているのだ。

 誰に? おそらくというか、これも間違いなくハマンに、だろう。


 何故かといえば、この前の喧嘩の一件のせいだ。

 グスタフさんの危惧したとおり、スラム住民への恨みを胸に、ハマンが動いている。


 襲われたきっかけは、ハイロの犯罪だ。

 しかし、ハイロがここまで酷い怪我をしたのは僕の責任が大きい。


 だから、この胸の罪悪感を消すために彼を治さなければならない。

 謝罪したところで、ハイロは僕のせいだとは思っていない、と思う。彼にとっては寝耳に水だろう。

 治したところで、本来負わずに済んだ怪我が無くなるだけだ。


 しかし、それぐらいはしないと申し訳が立たない。

 だから、治療はさせてもらおう。



「で、そこにじっとしてもらえます?」

「な、何だよ」

 ハイロは僕の言葉に戸惑い、壁際で固まった。


 僕は魔力を展開し、ハイロを覆う。

 体表の傷と筋肉の炎症、骨の損傷の情報がすぐに読み取れた。

「全身に酷い打ち身、頬や背中、腕に擦過傷。打ち身はすぐに治せますし、擦過傷は大したこと無さそうですが、右上腕部に変位を伴う完全骨折があります。これが一番酷いですね」

 何故かスラスラと口から言葉が出てくる。不思議なことだが、きっと前世の記憶絡みだろう。役に立つ間は、遠慮なく使ってしまおう。


「とりあえず、打ち身と傷は治しました。一応明日まで安静にしてくださいね」

 いつもの要領で、治癒魔法を使う。皮膚を形作り、筋繊維を修復する。血液は強引に血管から除去させた。一気に腫れが引き、綺麗な色の肌に戻った。こちらはもう問題ないだろう。

 問題は、骨だ。

 このまま繋ぐことは出来るだろうが、そのまま曲がって固まってしまっても困るだろう。

「腕以外、痛みはなくなりましたよね?」

「あ、ああ」

 冷や汗をかいているようで、額に汗の玉を作りハイロは頷いた。


「でもちょっと、いえ、かなり痛いことしますが耐えてください」

「え?」

 聞き返す音に、濁点がついていたような気がする。


 折れている箇所の両脇を手で押さえ、折れてる箇所に親指を当てる。


 そしてそのまま、グッと押し込んだ。


「い、痛、痛ええぇぇぇぇ!!」

 ハイロが絶叫する。

「やめろ! やめて下さい! もういいです! もういいです!!」

 ハイロの丁寧語という、珍しいものを聞いた気がするが、今はそんなこと気にしてはいられない。

 折れている形を確認しながら、念動力を併用して整復する。筋肉や神経を傷付けないようにするのは面倒だがやらなければいけないだろう。


 グリグリと動かし、ようやく真っ直ぐとなる。これで繋いでも大丈夫だろう。

 途中、邪魔をする手足が邪魔だったので念動力で固定したがそれも解いた。大丈夫なはずだ。

 しかし、怪我も治ったはずだが、ハイロはぐったりとして荒い呼吸を繰り返していた。


「あれ? 大体治ったはずなんですが、どこかまだ痛みます?」

「て、てめぇ……」

 ハイロがこちらを睨む。治してあげたのに心外だ。


「は、ハイロ? 大丈夫?」

 リコが心配そうに尋ねる。その言葉に、自らの体を確認したハイロが目を見開いた。

「あ? 治ってる? 治ってる!?」

 体をさすったり叩いたりしながら叫ぶ。さっきからうるさい。


「もう一度言いますが、明日くらいまで安静にしてくださいね」

 自己流の治癒魔法なのだ、法術とは恐らく違う。用心するに越したことはない。

「あ、ああ」

 狐に摘ままれたような顔をして、ハイロは返事を返した。

 まあ、リコが見ていてくれれば無理はしないだろう。ハイロの治療は、これでお終いだ。



 壁際でこちらを見ていたリコに目を向ける。その視線に、リコの肩が震えたように見えた。


 そんなに怖がらなくてもいいのに。




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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公自責観念すごいね。
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