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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
抗争

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戦後処理

 


 爆炎と煙が晴れる。手応えはあった。鬼程度なら跡形もなく焼けるような火力。だが、そこには死体が転がっているなんてこともなく。

「そういえば、そんな情報も聞いていましたね」

 晴れたそこには、地面に突き立てられた大剣が見えた。

 そしてその陰に隠れた気配は、まだ微塵も衰えていない。


 ゆっくりとモノケルが立ち上がる。小柄な僕ですら恐らくはみ出る大剣の陰に、モノケルは器用に隠れていたのだ。まるで、剣だけがそこに残されたかのように身を隠す。

 〈剣身〉モノケル。その傭兵は剣を盾にして、矢の嵐を防ぎきったという。


「どちらかといえば、曲芸の域ですけど……」

 ポツリと出た僕の軽口。その言葉に怒りを感じたのか、ダン、と地を蹴りモノケルが迫る。先ほどからワンパターンだ。次に来るのは、タックルのようなその速さと重さを乗せた剣撃だろう。

 スウェーで避けながらの鳩尾への蹴り。

 胸骨剣状突起が折れる感触。完璧に入った。



 だが、止まらない。


「……っ!」

 剣が振り切られ、開いた体。その軸足でない右足による前蹴り。それを弾くと、返す剣が下から上へ僕の頭の横を通り過ぎた。

「ハハ、後でレイトンに文句言わないと」

 自分で武器を渡したことを棚に上げて、僕の口はそう呟いた。やはり僕は戦いがどこか楽しいらしい。その高揚感に、独り言が増えるなど。

「貴様に『あとで』は無い」

「そうでしょうか」


 僕は右手に魔力を集中させる。使うのは、簡単な魔法。

 だってこんなに簡単に勝てるのだ。後のことなどいくら考えてもバチは当たるまい。



 横薙ぎをダッキングして避ける。

 モノケルの基本的な動作はもう予想できる。どの動作も、まず横に剣を振るところから始まるからだ。


 次の動作は恐らく距離と方向によって変化するが、……目の前、真下の今であれば、次に来るのは軸足を切り替えての蹴りだ。

 予想通りのその蹴りを手刀で受け流し、体勢を崩す。


「…………!!!」

 慌てた様子で体勢を整えようとするモノケル。だが、そんなことはさせない。

 空いた足で、振り切られた大剣を蹴り飛ばす。

 さすが()()。モノケルは大剣を手放さない。その重心を巧みに使い移動手段として、攻撃手段として使ってきた大剣が、思いもよらぬ方向に動く。それはモノケルにとって、平衡感覚を狂わされたに等しい。



 僕から返すのは、無防備な腹部への打撃。

 だが、打撃だけではない。


 掌の先にあるのは白熱した火球。竜の肉を食べるときに使った魔法だが、これを人間相手に使えばどうなるのか、それは僕にも予想がつかない。

 だから、これは実験だ。その結果、それはそれは恐ろしいことになるかもしれないが、そんなことは今は知らない。


 押し当てられる火の玉。それはモノケルの体に飲み込まれるように、めり込んでゆく。

 歪んだ球は弾ける。内部の温度は数千か数万か。とにかくその温度は、物を炭化させるに留まらない。

 魔法の火だ。延焼などはせず、対象を燃やせばすぐに消える。

 だがその間にも作用は起こる。


 ドパンと何かが破裂する音。


 そして残るのは、声もなく崩れ落ちる、半ば灰となったモノケルの上半身だけだった。




 一応、首から上はほぼ無傷で残っている。

 だがあまりの高温にまだ影響が残っているのか、首から下は見る間に白い灰となって散っていった。

 その首をひょいと持ち上げて見てみれば、まだ温かい。

 苦悶の表情や驚きの表情を浮かべることもなく、先ほどまでと何ら変わりない、無表情だ。


「なんとまあ、無口な方がさらに無口に」

 そんな軽口も、もはや誰の耳にも届きはしない。


 だが、そろそろタイムリミットだ。

 火災への興奮もそろそろ落ち着き、関心は他へも移るだろう。人殺し、と罵られるのも時間の問題だ。

 しばらくは、モノケルに崩された建物を目晦ましに使って逃げる。首実検のための生首。それを持ち歩くのは結構まずい。石ころ屋の監視員に手早く引き渡せられればいいけど。





「ごくろうさま。今回釣れたのは一人だけだったね」

 昼まで街の監視を続け、それでもやはり敵は訪れなかった。やがて鵲による連絡で、僕の帰投が決定される。そしてとりあえず石ころ屋に戻った僕に、そうレイトンは笑いかけてきた。

「酷い目にあいましたよ」

「こっちには一人も来なかった。やはり、僕らの手は読まれていたようだ」

「やはり、って。何かあったんですか?」

「エウリューケがモノケルから聞いたらしいよ。『ルチア』という名前の誰かが、予測していたらしい」

 僕はエウリューケのほうに目を向ける。モノケルと遭遇していたのか。ならば、そこで首を取っておいてほしかったものだが。

 しかしそれよりも。

「そんな簡単に情報漏らして大丈夫なんですかね?」

 モノケルの口の軽さのほうが心配になった。僕が会っていた時には口数は少なかったし、そもそも最早口無しになっている彼ではあるが、エウリューケには口数多く話しかけていたりしたのだろうか。

「君も覚えておいておくといい。ああいう輩は、他人の功績を奪うことをよしとしない。どうにかして『自分の手柄ではない』と他人に伝えようとするのさ」

「……そういうものですか」

 あくまで公正に、ということらしい。僕も気を付けないと。


「となると次は、奴らから伝言が来るだろう。だよね? グスタフ」

「だろうな。諦めるたぁ思えねえが、手を引くだの延期するだの、そんなことを示唆するだろう」

 グスタフさんはそう言いながら、水を一口飲む。ふわりと、何処かで嗅いだ甘い匂いがした気がした。


「それは、何故です?」

「今回モノケルを派遣した理由がそれだろうからね。ぼくらの妨害が出来ればよし、出来なければ、その命を僕らへの手土産に使う。妨害にはどう考えても足りない戦力だったことを考えるのなら、それが最有力だ」

「つまり、初めから僕らをどうにかできるとは思っていなかった、と」

「あわよくば、とは思ってたんじゃないかな? それぐらいの男だよ、あいつ(モノケル)は」

 最近サーロやら大蛇やら、大物ばかり相手にしてきたから少し鈍感になっているのだろうが、それほどだったのか。たしかに、サーロを彷彿とさせる、とは思ったが。

「手土産ということは、内容は……」

 あまり考えたくはないが、それは人間を人間と思っていない感じの……。

「うん。『彼の命と引き換えに、少しの間見逃してほしい』という感じかな。勿体ぶった文章にはなっているだろうけれど」

「一応、突っ撥ねますよね?」

 わかりきったこと、だが一応尋ねる。石ころ屋基準で『交渉』という形にはなっているだろう。だが。

「当たり前だ」

 グスタフさんは短くそう言い切った。


 しかし、人の命が軽い。やはりレヴィンの起こす『騒動』は、僕には我慢ならないものになりそうだ。





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[一言] 「なんとまあ、無口な方がさらに無口に」 ←○しておいてこの言い草は鬼畜すぎて笑う
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