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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
抗争

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小細工不要

 


「本来、人間の思考能力はそう大差ない。けれども個々人によって入出力される情報は偏りがあるのさ」

 壁際のカウンターテーブルに座り、足をぶらぶらとさせながら、そいつは口を開く。

「感情により、機能により、または視野の狭窄により、情報は著しく歪められてしまう。だからこそ、ぼくらは膨大な情報の取捨選択を怠けず試みて、偽報を見抜き、重要性を誤らない。そうでなければならないんだ」

 そこまで言って、そいつはにやりと笑う。

「同じ答えに辿り着いたのは、素直に褒めておこうか。きみたちの参加への反対を取り下げよう」


 僕らの出した結論を聞いて、レイトン・ドルグワントは偉そうにそう呟いた。




 一瞬止まった空気の後、エウリューケが地団太を踏む。

「別にー、あんたの許可なんていらんでしょーがよぉ」

「そうだね。別に構わないよ。作戦中に邪魔になったらすぐに切り捨ててもよければ」

 だが、エウリューケの抗議をさらりと受け流すと、レイトンは立ち上がる。それからグスタフさんのほうを見た。

「で、これからどうする予定なのさ?」

「もうちょっとで報告が来る。それからで遅くはねえさ」

 八の鐘には間に合っている。当然、定時報告よりも早くに参加試験が終わったため、少しの間待機と相成るわけだ。では、僕からも報告すべきことを済ませてしまおう。



「先ほど言いそびれたんですが……」

「……何だ?」

 口を開くと、グスタフさんとレイトンの視線が僕に集まる。もう一つ、エウリューケも不思議そうな顔をして見ているが、察しはついているだろうに。

「僕がエウリューケさんと初めて会った時にされていた襲撃。そこでもう一人、奴らの仲間と遭遇しました」

「……そういや、そこら辺聞いてなかったな」

 座り直し、話を聞く態勢になったグスタフさんは、唇を結んで僕の言葉を待った。

「僕を仮面の……いえ、もういいですね。レヴィンのもとに案内した男なんですが……、えらく特徴的でして」

 ミーティア人の姉妹も特徴的だったが、その男も特徴がいくつかある。もはや無意味だが、新たな手掛かりと成り得るほどに。

「身の丈ほどの大剣使い。体格は平均的で特徴も何もないんですが、傷がありました」

 僕は人差し指で耳から頬、顎にかけてをゆっくりとなぞる。

「左耳が削げ落ち、顔の左半分を大きく損ねるような傷が」

「……<剣身>のモノケルか」

 間を置かず、グスタフさんの口からその名前が出る。やはり有名人だったか。


 頭を掻きながら、レイトンも口を挟む。

「最近あいつ見てないけど、そんなところにいたのか」

「どんな方なんでしょう?」

「どんな……って、見たまんまだよ。自分の体と同じ大きさの鋼の剣を振り回して戦う。その剣で軍勢を割り、その剣を盾にして弓を防ぎ、どんな死地からも生還する傭兵。人馬一体、なんて言葉があるらしいけど、そいつの場合は人()一体と言ったらわかりやすいかな」 

 ……それは、見たまんまとは言わない。


「しかし、あいつもレヴィンの配下にいるたぁ……、何があったってんだ?」

「前回の戦争以来、あまり表舞台に立っていないからね。グスタフ、最後にモノケルの姿が確認されたのはいつだい?」

 レイトンの言葉に、グスタフさんは天井を見上げて一瞬悩む。だがその思考も本当に一瞬で終わり、また普通にこちらを向いた。

「七年前……ってとこかな? ……ああ、そうだ。ライプニッツ領に仕事で出かけたきりだ」

「怪しさ満点じゃないですか」

 そこで、仮面の一味に加わったのか。……ということは、五年前の竜騒動の時は、もう……。



 話が途切れ、不意にエウリューケが外を見る。

 すぐにバサバサと、羽の音が聞こえてきた。定時報告か。


 奥へ入っていき、何かの扉を開けるような音をさせた後、グスタフさんが戻ってきた。

「さて、レヴィンの最近の行動だが、やはり活発に動いてるな」

「最近は彼、王都近くのほうで活動しているらしいけど、今もかな?」

「いや、やはりライプニッツ領に戻ってる、が、そこから足取りが途切れている。まるで別人に生まれ変わったみてえにな」

 忌々しげにグスタフさんは顔を歪める。

 しかし、レヴィンが王都のほうで活動しているのは初耳だった。だから顔を合せなかったのか。


「これを見る限り、小さい依頼ばかり受けてたみてえだな。街と街をつなぐ運び屋みてえな仕事ばかり。『片腕の魔法使い』が勿体ねえな」

「何か目的でもあったんでしょうか?」

 グスタフさんをして、『勿体ない』と言わしめる仕事ばかり。領地貴族の末子としても、もっといい仕事はあるだろう。むしろ、仕事をしなくても遊んで暮らせるだろうに。

「その辺りは、『方法を間違えた』と考えるといいかな。『思っていたのと違う』と思ったからこそ、ライプニッツ領でもう一度再起を図ったのさ。今回起こす、騒動とやらでね」


 相変わらず、もう全て知っているかのように口に出すレイトン。

「ぼくらには無縁なことだし、別にわからなくてもいいさ。むしろ、わからないほうがいい。これは、善良な一般市民のぼくからの助言だ」

「どこをどう見たら善良と……」

「悪党だよねぇー、ねー!?」

「ヒヒヒ、厳しいこと言うなぁ」

 僕の言葉を遮り、二人は楽しそうに笑った。



「楽しいおしゃべりもいいが、ここからの行動だ」

 僕らの様子を見ていたグスタフさんが、そう一言口に出す。不思議なもので、それだけで空気が張り詰めたように緊張感を帯びた。その眼光は鋭く、僕らを睨むように見据えていた。


「最終的な目標はレヴィン・ライプニッツの始末。その位置が捕捉され次第始末する、が、今はまだようとして知れねえ。移動速度から考えてまだライプニッツ領ではあると思うが、そこで位置も知れない奴に襲撃をかけるのは非現実的だ」

「じゃあ何にもできないじゃーん」

 口を挟んだエウリューケは、少し勇気があると思う。だが、そのぽかんと開けられた口はグスタフさんの視線の先ですぐにパタリと閉じられ、何度も頷いて続きを促した。

「だから、炙り出す。エウリューケ、お前が動け」

「……あたしー?」

 圧力から解放されたように活動を再開したエウリューケが、首を傾げる勢いでそのまま体を傾げた。

「場所は追って伝えるが、明朝、イラインにおける奴らの隠れ家を一斉に発火させる。……出来るな?」

「はい喜んでー!」

 元気よくエウリューケは応えた。それを見て、満足げに頷いたグスタフさんはこちらを見る。


「カラスとレイトンは監視をしつつ待機。こちらの行動に反応した奴らの配下が確認され次第、指示を出す。各個撃破に向かえ」

「ヒヒ、りょーかい」

「……わかりました」


 簡単な指令だ。けれども、それできっと充分なのだ。

 クラリセンの鎮圧を彷彿とさせるような、簡単な指示。それは、それ以外が必要ではないということに他ならない。


「この街で存在できる悪党は、俺たちだけだ。新参の半端者は、確実に排除しろ。以上だ」


 小細工は不要。その強さが、グスタフさんの周りに見えない炎を作っていた。





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