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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
副都イライン

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命の値段

 

 早速、高熱で意識が薄れているリコを、ハイロが引きずって連れてきた。

 意識はあるようだが、ぼーっとしているようで反応が薄いリコは、もたれるようにカウンターに突っ伏した。


「三日熱だな」

「なっ……!?」

 グスタフさんはリコの首筋に触れ、ハイロに二,三の質問を投げかけたあと、そう結論づける。


「み、三日熱って……!? 死ぬかも知れない病気だろ!? どうすれば……」

 グスタフさんは溜め息を吐いて、慌てるハイロから目をそらした。

「そうだ、薬、く、薬を!」

「銀貨三枚」

 慌てて薬を求めるハイロに淡々とグスタフさんは告げる。背中越しに掛けられたその言葉に、ハイロは絶句した。

「銀貨ったって、そんなの持ってねえよ!? なあ、爺さん、何でもするから、何とかしてくれ……!」

「何でもする、か。なら、金持ってこい。それ相当の物でも良いぞ」

「それがねえから頼んでんだよ!」

 とりつく島も無い。



「あの」

 堪らず、僕も声を上げる。


 僕がいることを今思い出したような顔をして、ハイロがこちらを見る。

 グスタフさんは不承不承といった感じで振り返った。


「治療院に行っても駄目でしょうか」

 薬が無くても、治してもらえばそれでいい。

 寄付金も別に決まってないし、ハイロが出せる分だけ出せばいいのではないか。


「無理だろうな」

 そうした考えも、グスタフさんには簡単に切って捨てられた。

「貧民街のガキに、治療師が治療する訳がねえ。足下見られて、突っ返されてそれで終わりだ。治療したとしても、適当にやって『治りませんでしたね』で済まされちまう」

「でも、僕は」

「お前の時は、テレットの勤務とわかっていた。あいつなら治してくれる。仮にテレットがいなくても大丈夫なように、ニクスキーをつけた。大人がいればあいつらも無下にはしねえし、何かあってもニクスキーは機転を利かせることが出来る奴だ」

「そう、ですか……」


 たしかにニクスキーさんも言っていた。スラムの人間にも分け隔てなく接するのは、この街では彼女くらいだと。

 しかし「大人がいれば」、そういうことであればまだ道はある。



「では、ニクスキーさんとは言いませんが、誰か大人を雇って」

「それも無理だ。というより、意味が無いだろう」

 間髪容れずに駄目出しが入る。そして、親指でハイロを指して、呆れたように言った。

「こいつに、誰か雇うような金が出せると思うか?」

 確かに、その通りだった。

「いくらか出せるか?」

 突然水を向けられたハイロは、慌てて首を横に振る。

「いいやいやいや、無理だよ」

「この通りだ」

 グスタフさんは不満そうに眉を顰めた。

「雇うような金があるなら、その金で薬を買えば良い。わざわざ大人を連れて、治療院に行くことはねえ」

「その通りですが……」

 何か釈然としなかった。




 場の空気が止まる。もう誰も、意見は無かった。

 子供二人には、リコを助ける手段が無い。

 助けられる力があるグスタフさんに助ける気はない。本当に、この人は商売人なんだ。


「……わかったよ…………」

 ぽつりとハイロが口を開く。

「何とか、金を稼げば良いんだろう? 最近の妙な噂のせいで警戒されててやりづらかったけど、またひったくりでもして稼げば良いんだろう? わかったよ。俺が何とかすれば良いんだ」

 そう言うと、リコに肩を貸して外を向いた。そのまま、なんとか歩き出す。

 振り返らずに、二人は店を出て行った。



 二人だけになり、店の中は静かになった。僕も帰って良いのだが、何故かすっきりしない。

 静寂に耐えきれず、僕は口を開いた。


「助けてあげれば良いじゃないですか」

「ああ?」

 面倒そうに顔を上げたグスタフさんは、いつもの無表情だった。

「常連客でしょう。少しは助けてあげても良かったんじゃないですか」

「儲けがありそうだったら、俺もそうしたさ」

 力なく言ってはいるが、きっとそれは本心だ。

「俺は聖人じゃねえんだ。金が稼げそうなら投資をする。お前みたいにな。実際大儲け出来た」

 小瓶の水を飲み干す。瓶を振って水滴を口の中に落とした。

「運良く稼げたとお前は言ったな。そうだ。お前は確かに運が良い。だから、他の人間をお前と同列に考えるな。世の中の人間には、それぞれ価値があるんだ。お前には価値があって、あいつらには無い。身分相応に生きるべきなんだよ」

「そう、ですか……」


 反論は出来なかった。





 石ころ屋を出て、二人を探しに行く。

 やはり、どうしても気になる。


 実際には、行動しているのはハイロだけだろう。リコはどこかで休んでいるに違いない。

 このスラムの中で、あいつらの行動範囲は狭い。きっと、拠点にリコは寝ている。

 まずは、そちらに行ってみよう。



「ごめんくださーい」

 一応声を掛けて、半壊した扉を開く。一室しか無いその廃屋は、埃と蜘蛛の巣に塗れていた。

 踏み場所を間違えれば穴が開きそうな床にソロリソロリと足を踏み入れると、やはりリコは寝ていた。

 荒い呼吸に上気した顔、高熱にうなされている。


「ぅ……」

 音を出さずに近づいたつもりだが、気配を感じたのかリコは目を覚ます。

「……ゃ、やあ……」

 そう手を上げながら言うと、力なく笑った。

「……さっきも石ころ屋で会ったね……。ハイロならいないよ……?」

「あ、いや、違います。お見舞いですよ」

 見舞いの品も無く、何の気なしに来たが、この姿を見ると心配になってくる。


 三日熱はたしかに死亡率が高い病だ。しかし、治療費を払える者にしてみれば、それは少し苦しくて感染力の高い風邪に過ぎない。

 しかし、ここは貧民街だ。罹るかどうかもわからないものの予防に回す貯蓄はないし、治療に使えるまとまった金を出せる者も少ない。

 みな、毎年運良く生き残っているだけなのだ。



「見舞いも持ってきていないので、あり合わせの物ですいません。氷枕でも、作りますね」

 持っていた飲料用の水が入っている袋を、中身ごと凍らせる。そして、もっていたボロ布で包むと、リコの頭をそこに乗せた。

「ああ、いいね、これ」

 少し笑顔を見せると、虫刺されのある手を枕に当てる。

「氷って、こんな使い方も出来るんだ。贅沢だなぁ……」

 そういって、少しまどろんだかと思うと。そのまま寝てしまった。


 見ていても仕方が無い。

 僕は立ち上がり、ハイロを探しに外へ向かった。





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悲しいけどど正論だな...
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