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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
魚の国

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毒の泉

 


 蛇の体が暴れる。土埃を上げながら、木々を潰しながら。

 だが今度は接合する頭部は消失し、血すらもう止まりつつある。流石に頭を生やすなどは出来ないようで、やがて動きが治まると、轟音を立てて倒れた。

 静まり返った島。騒ぎで小鳥たちもどこかへ行ってしまったのだろう、虫や魚はおろか、見える範囲に小鳥は一羽もいなくなってしまった。


 残心、とばかりに静寂を見て回る。それでもやはり、もう蛇は生き返らなかった。

 大した生命力だった。首を落とされてなお生きているとは、蛇酒にしたらどれだけの滋養強壮となるのだろうか。


 と、こうしてはいられない。

 岩山の確認に行かなければ。頂上付近を吹き飛ばしたのだ、水源があれば、何か変化が起こっているだろう。

 蛇の死体を放置して、僕は岩山に向かって飛び立った。




 雲の中。下を見れば、森の中に蛇の巨体が道を作るようにうねって倒れている。

 きっと、小鳥たちのいい餌場になるだろう。それはそれとして、枯れた川だ。


 岩山の麓から、ざっと見ていく。そして、乾いた川の痕跡はあった。岩山についた白い傷のようなその筋はかつてそこに川があったことを示している。その上、その跡を下に辿れば、その元川辺の木々は低く、周囲の木々よりも若いことが如実に表されていた。


 これは、当たりのようだ。

 その川を上流へと遡る。分解する微生物などもいないのだろうか、風化したミイラのような鳥の死体が散見される。水を飲みに来ていて死んだ、とそういうことだろう。

 ……そうすると、味と見た目以外は、特に匂いなどは無いのだろうか。察知できずに鳥が死ぬのだ。川に嘴を突き入れるまで、わからなかったということか。


 やがて、僕が崩した岩山の頂上、その断面で川の跡が途切れる。白く削れた溝の先は空中へと繋がり、その先はわからなくなってしまっていた。

 しかし、収穫はあったようだ。

「……残って……るかな? これ」

 ソフトクリームの上部を匙で削ったような岩山。その断面に、これまたアイスクリームを掬ったような穴が開いている。プールのように大きくはあるが、ぱっと見は水たまり。だがそれは《山徹し》の熱で沸騰しており、そしてボコンボコンと立ち上る泡の様子から、その液体の粘稠性を読み取ることが出来た。



 まるで、温泉でも湧いているかのような光景に、苦笑を漏らす。

 これは、のどかな光景などでは全くないのだ。飲めば死ぬ毒の泉で、こうして湯気を吸っているだけでも体の力が何となく抜けていく気がする。

 飲んで確かめようと思っていたが、もう飲まなくてもいいだろう。これは、間違いなく調和水だ。

 あとは品質の問題か。悪くなってくると黄色くなる……という話ではあるが、見た限りその水たまりは透明だ。塵やゴミなどは多少混じっているようだが、それはここで取り除いてしまえば問題ないだろう。底まで見えるほどの透明さ、なるほど、鳥が知らずに飲むわけだ。


 量の問題は……それも大丈夫か。水の玉を持ち上げて、塵をとってから落とすだけで樽がいっぱいとなった。

 まだまだ量もあるし、これを持って帰れば一儲けできるかもしれない。その分の容器を持っていないということを別にすれば。念動力で球にしたまま持って帰ってもいいが、液体はそれなりに掴みづらいのだ。長期間はさすがに面倒くさい。その分の報酬など、どうでもよくなるほどには。



 さて、採取も終わり。元々調和水が湧いていた島だ。毒水の泉は放置しておいていいだろう。

 帰ろう。夕方までに終わるとリコには言ったが、それよりも多少早く帰れそうだ。

 初めての探索で翡翠を採取した時、帰ったのは夜だった。だが、やはり僕も成長したのだ。今日はまだ日が高い。


 街に着いたのは、太陽が地平線に接する少し前だった。






「お前さん……これを、どこで……!!?」

 リコとともに、調和水をリコが手配した薬師に見てもらう。バンダナのような布を頭に巻いた壮年の薬師は、樽の中を覗き込み、盃で掬った調和水を揺らして驚愕していた。

「先ほど浮き島の一つから採取してきたものです。……何か、変わったことでもありましたでしょうか?」

 言い方からしても悪い感じはしないが、そう尋ねる。調和水と違う何かを採ってきた可能性もあるのだ。

「変わったことっていうか、これ、すげえよ。見ろよ、この照り、そして座り! 見たこともねえ特上品だぜ、これ!」

 興奮した様子の薬師は、笑いながらそう言った。照り……もちょっとわからないが、座りとは粘り気のことだろうか。

「調和水として売っても、大丈夫でしょうか?」

 リコは薬師の様子に戸惑いつつ、おずおずとその顔を覗き込む。そのリコに、薬師は何本か抜けた前歯を見せながら答えた。

「大丈夫も大丈夫! 割り増しで金とってもいいくらいだ! 俺が買い取りたいくらいだぜ。つーか売ってくれよ、いくらだ?」

「え、えっと、すいません、これしかないので……」

 薬師の剣幕に慄きつつ、リコは身を引く。別に採ってくればまだいくらでもあるが、今はそれは言うまい。

「かーっ! 上手いねぇ! まあ、そんな商談はさておき、まずは調和水の品質についてだったな。こいつぁ満点のもんだ。証明書も書いてやるよ!」

「ありがとうございます」

「それで、相談なんだが、一升だけでいいから譲ってくんねえか? そしたら証明書の分タダでいいぜ」

 先ほど品質確認のために掬った盃の中身を示して、薬師はそう言った。その証明書がいくらかは僕は知らないが、それなりに良い取引ではあると思う。見た目ほぼ変わらない程度の量で節約できるのだ。というか、一升程度なら誤差の範囲内だ。


 しかし、リコは首を横に振った。

「すいません。売る先がそういうのに厳しい人なので。出来るだけここから量を減らしたくないんです」

「そっかぁ……残念だ。が、まあ仕方ねえやな。うっし、そこで待ってな。すぐに証明書書いてくっから」

 そう言い残して薬師は店の奥に消えていく。下駄箱のような棚に並んだ薬草の瓶がその光景を映していた。


 二人になって、リコが僕を見て満面の笑みを作る。

「だってさ、よかったね! 満点だって!!」

「そこまで言われるとは思ってませんでした。ま、これでリコさんの面目も立ちますよね」

「うん! 俺一人じゃどうにもならなかったけど、ありがとう、君がいてくれて本当に助かった!!」


 心底ホッとしたようなリコの顔を見て、僕もホッとする。

 初めての仕事。それが失敗で終わりそうになくてよかった。


 僕の初めての探索は、ろくに翡翠も取れずに半ば失敗だった。銀貨は得られたが、成功とは程遠い。

 だが、今回は違う。高品質のものを要望通りに入手して、顧客に喜んでもらえる。それは、最上の成果だ。


 きっと今日は、気持ちよく眠れる。

 体の疲れはそれほどでもないが、僕にはそう思えた。



 

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