吉兆
すいません、年末年始のせいで短めです。
明けましておめでとうございます。
「まずここかぁ……」
先ほどのリコの言葉をヒントにして、とりあえず目を付けた一つ目の島に到着する。
ここで終われば一番楽なのだが。
辿り着いた島には当然砂浜はなく、断崖絶壁に囲まれていた。雲と同じ高さに上ってようやく全体像が見えたというところからすると、かなりの大きさだ。これが浮いているというのが驚きである。
断崖絶壁からは中に向かってまず岩場があり、そこから十メートル以上離れたところで森が始まる。その森の中央に山がそびえ立ち、その山頂は雲の上にあった。
森は針葉樹林が主だろうか。広葉樹が主だったネルグとは違い、なんとなく冷たい印象を受ける、気温的にはむしろ温かい気がするのに不思議なものだ。
踏み締める土は、ネルグよりもむしろ柔らかい。周りが岩場だったが、内部は土の塊なのか。
匂いは、やはり潮風の匂いだ。多分潮風がなければそれなりに木々の匂いがするとは思うのだが、今は潮風が勝っている。
とりあえず島の様子を確認し、もう一度飛び上がる。遠くに川を見つけて、そこに降り立った。
「生き物は、いない、かな」
川を見てすぐに気が付いた。魚がいない。それは断崖絶壁を泳ぎ上ってくる魚がいないからか。同時に、虫も少ないのかいないのか、まだ一匹も見ていない。
この島に上陸してから見たのは、小鳥たちだけだった。
川辺には若干のなにも生えていない岩場があるが、これは調和水のサインだろうか。
とりあえず、川の水を一口飲んでみる。
……体に異常は見られない。
内心百まで数えてみるが、とくに脱力感も貧血症状もみられない。
これではただ喉の乾きが潤っただけだ。
やはり、川の源流を崩して確かめてみなければ。
上流に見えた山頂とそれを隠す雲を見て、僕は溜め息を吐いた。
『渓流』と呼ぶべき川が続く。
岩が並び水飛沫が砕ける。綺麗なその水は透き通り、どこからどう見ても無味無臭の普通の水だ。
あまり期待は出来ない。その考えは、源流とも呼ぶべき水源。岩山、その頂上付近の岩壁から染み出す水を確認するまで続いた。
山頂付近だ。雲が手に届く位置にある。気温も下がってはいるが、息は白く見えない。それだけ空気が綺麗なのだろう。
空気も薄くなっているとは思うが、あまり気にはならない。気のせいかもしれないほど変わらないのだ。これは僕の体が強化されているからとかそういう理由ではないと思う。誰か他に連れてこないとわからないが。
そして、水源だ。ここを割ればいいのか。
僕は拳を握りしめる。
崩れても構わない。鳥以外の生き物も見えないこの島の生態系なども、気にしなくてもいい。
岩壁を崩す。採掘というのがどれ程の深さまでかもわからないが、やってみるしかないだろう。
《山徹し》を、使うまでもない。
闘気を活性化させる。拳を思いきり振りかぶった。
「せえ、……の!!」
全身を連動させて、思いきり叩きつける
湿った足元の岩に反作用でヒビが入る。
そしてその作用の部分。一枚岩に僕の拳という杭が叩き込まれ、その衝撃が岩に浸透し、
「やべ!」
粉砕した岩礫と鉄砲水のように溢れる水が、僕に襲いかかってきた。
散弾のようなそれを障壁で逸らしながら、川岸に跳んで移動する。
一息つき、見ている間に鉄砲水はすぐに治まった。だがそれなりに残ったその豊富な水量は、川の水を一段増やして流れていった。
「とろりとは、してないよなぁ……」
ここは普通の水源か。掬って飲んでみても、普通の美味しい水だ。外れと確定した。
ぐるりと見て回るが、水が枯れた川のようなものも見つからない。『山頂から採れる濃いやつ』という話だから、中腹で採れるようなものでもない。そして何より、島に火薬を使った跡がほぼ見られない。一つだけあったが、これは左右の位置を調整するためのものだろう。近付けるためのようなものではない。
確認も終了だ。
次の山を目指そう。
同じ作業を三つの山で繰り返した。
だが、全て空振り。二つ目の山は枯れた川まであったため、期待はしたが岩壁を砕いても水が出なかった。
そして今。
期待をしていいかもしれない。アクシデントではあるが、これは吉兆だろう。
新たな島に辿り着いた僕は、戦うための準備を整える。まだ森にも入ってはいない。だがしかし、すんなりとは入れない。
「おじゃまします」
挨拶の先。僕の視界一杯に広がる大きな顔が、舌先をチロチロと見せて僕を見ていた。




