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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
お伽の国

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どんぶり勘定

 


 まあ、勇者云々は『出来れば知りたい』程度のことだ。

 日本というキーワード的には僕と関わりがあるかもしれないが、僕自身は勇者とはなんの関わりもない。知らなくてもいいことなのだ。

 もはや、遠い過去の話。時間も空間も隔たってしまった、もはや戻れない世界と関わっていたとしても。


 話を戻そう。

「さてそれでは、僕の話もそれだけです。犯人がミーティア人。あの竜を誘い出した犯人については、それだけです」

「あー、そういや、そんな話だったなぁ」

 アントルが僕の言葉にとぼけて返す。サーロはわりと重大事だという返しだったのに、この男は軽い。

「……それで、身どもらにどうしろと?」

「協力してほしいんです、少しだけ」

 溜め息を吐きながらではあるが、サーロが話を進めてくれた。この男は察しが良くて助かる。ドゥミは、わかっているのかいないのかもわからない無表情に近い笑顔で黙っている。こういうのに口出ししないのは、先程の会議と同様だ。


「協力、とは」

「先程お話ししましたが、彼女らの仲間に、僕は命を狙われました」

 オトフシへの、僕の殺害依頼。明確に僕の命を狙っていた仮面の男。逃がすわけにはいかない。

「現在その犯人らしき男は何処かで静かに潜んでいます。僕の知る限り最高の調査能力を持つ人たちにさえ捕捉もされず、何処かで暮らしています」

「……復讐か?」

 サーロのその言葉に僕は首を横に振った。復讐なんて大それたことはしない。それにそもそも、僕はまだ何も奪われてはいないのだ。復讐も何もない。

「いいえ。ただ、その男のことについて僕は知らなければなりません。何故僕を狙うのか。何故今は音沙汰がないのか。そしてそもそも、何処の誰なのか。何一つ知らない現状を、どうにかしないといけない」

 あれ以来、未だに石ころ屋でも彼らの行方は掴めていないらしい。イライン周辺の情報では限界がある。

「そこで、その姉妹です。その男……仮面をつけていたので『仮面の男』と呼称していますが、仮面の男へと繋がるかもしれない数少ない手がかりなんです」

 手がかりは、僕自身とその姉妹の二つのみ。そして僕自身に覚えがなければ、姉妹の方を探すしかあるまい。


 僕の言葉にアントルは横っ腹を叩く。

「なるほどな。そいつらが誰だったのか知りてえ、と」

「ええ。この国を出た、元ミーティア人の名簿とか何かないでしょうか。彼女らの特定さえ出来れば、あとはなんとか……」

 僕がそう言いかけると、今度はサーロが首を振った。

「すまないが、無理だ。身どもら銅犬の宿り木持ちの処遇は、各集落の長に一任されている。出生した者の名簿に載るか載らないか、出生したという情報が、そういった名簿の管理をする者たちに届くかどうかは彼らが決めているからな。そして、宿り木持ちの多くは……」

「申告上は存在していない、と」

「……想像の通りだ」

 僕が言葉を継ぐと、重々しくサーロは頷く。まあ、被差別民であるし、そういった扱いを受けているというのは理解出来る。彼らが差別されるような存在かというのは置いておいて。


 改めて、『あんな獣ども』という言葉の意味がよくわかる。

 生まれたことを記録すらされず、存在していないように扱われてしまう彼らの辛さ。きっとそれは、貧民街の住民の感じている辛さと同質のものだろう。


 もしも彼らが、この国で受けた扱いに対する不満から、竜をおびき出したというのであれば。

 僕はそれを止めることは出来ない。正当な復讐とすら思ってしまうかもしれない。



 しかし、それは純粋に彼女らの意思で行われたという場合に限り思うことだ。

 仮面の男の正体が掴めない以上、まだ判断をすることは出来ない。

 目を閉じ、そして暫し考える。これからの方針を、僕が彼らに言うべき言葉を。


「……彼らはこの国で人間扱いされていない。それはわかりました」

「ハッキリと言いやがって……」

 アントルが文句を口にしようと唇を尖らせる。だが、真実だ。否定は出来ないだろう。

「ですが、彼らは人間です。この国で生まれて、この国で育った。途中からは違う国に移ってはいるかもしれませんが、ある日突然この世界に現れたわけではありません」

 ある日突然街に現れた、という僕ですら親がいるのだ。もしかしたら、兄弟すらいるかもしれない。もし出会っても、お互いに気付くことはないだろうが。

「彼らにも、親はいます。そして、ある程度まで……。それも、『あんな……』と言えるほどです、結構な年月をこの国で冷遇されていたのでしょう」

 だから、手がかりはある。記録に残っていなくとも、記憶には残っているはずだ。


 ニコリと笑顔を作り、サーロの目を覗き込む。

「そうですね。先程、『感謝する』とサーロ様は仰いました。そしてその感謝は、やはり形で返してもらわなくては」

「身どもに、その姉妹を探せ、と」

「無理にとは言いません。……銅犬の総人口を確認するついでに、いなくなった『姉妹』を調査する。そんな程度でいいでしょう」

 それでも膨大な数になるとは思う。だが、何の手がかりもないよりはいいとも思う。


「……これは僕の想像なんですが……、アントルさん」

「あん?」

「宿り木持ちが生まれる頻度はそう高くない。アントルさんのところでは、数世代に一人か二人程度……だと思います。違いますか?」

 これは本当に想像だ。多産の猪の子供たち、その兄弟の中のただ一人だけが宿り木持ちだった。地域や種族によって違いが出るかもしれないが、少なくとも猪はその程度だろう。

 サンプルが一家族のみと少ないから、間違っているかもしれない。そうしたら謝ろう。


 蹄の先を口の中に入れるようにし、アントルは空を見上げる。

「んー、確かにそんなんだなぁ……」

 猪はその程度で確定か。ならば。

「では、サーロ様。銅犬ではどんな程度でしょうか」

「身どもらでは、アントルより少ないだろう。赤子のときにそうとわかれば、母親が噛み殺してしまうからな」

 ……さらりと言われたその情景を想像してしまい、少し背筋に冷たいものが走った。


 乾いた笑いが口から漏れる。

「……ハハ、では、尚更。育った宿り木持ちが少なく、そしてその中で姉妹を探せばいいんです。どうですか? 簡単に探し出せそうに思えてきたでしょう?」

「クク、そうだな……」

 子供に説き伏せられた大人のように、サーロは笑う。無理なことを言っているのは僕にもわかっている。

「ちなみにそもそも、この国の人口はどのくらいなんでしょうか?」

「さて……銅犬の人口は五万に届かなかったと思うが……、他の氏族に関して知らぬからどうも言えん」

「照猪は一万いったかぁ……?」

 二人揃って首を傾げる。……この族長二人は……。サーロも、自らの国の人口すら答えられないのに、どうしてエッセンに勝てると思ったのだろうか。


「法狐は三千七十二人ざんす。内、宿り木持ちさんは今、三十八人でありんす」

 便乗して、ドゥミはそう発した。やけに具体的な数字だ。そう思いドゥミに尋ねようとすると、察したドゥミの方から補足してくれた。

「大したことじゃござんせん。わっちらは数が少のうざんすから、簡単でおざりんす」

「……凄いですね」


 他がやっていないのに、法狐の氏族は完璧に管理出来ている。それは誇ってもいいことだ。

 しかし、良い情報だ。

 ドゥミのところでは、宿り木持ちは一パーセント程度。他の氏族が同程度、銅犬が若干少ない程度だとしたら。

「では、銅犬の氏族では宿り木持ちは五百人いかないくらい。そしてその中で、単独ではなく姉妹のものたち。……お任せしました。良い便りを期待しております」

「……いいだろう。確かに、人口の把握は急務である」

 答えられなかったのが悔しいのか、サーロの顔が少し曇る。その仕草に、僕は少し笑いそうになった。




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