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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
副都イライン

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病は気から

 



 箴魚(しんぎょ)は儲かる魚だ。

 今日も僕は、箴魚の採れる川に来ていた。


 取り切ってしまうのはまずいと思うが、その加減がわからないので狩るのは取りあえず一日に五匹までにしている。

 この時期以外は必要にならない魚なので、絶滅しなければまた増えてくれるだろう。


 ネズミ鳥の相手も作業のようになっている。

 ネズミ鳥はあまり力が強くない。動きも、普通の鶏だ。魔法さえ使われなければ怖くない。

 なので、遭遇したら念動力で拘束し、首を刎ねればそれで終わりだ。不意打ちに気をつければ、もはや脅威では無くなっていた。




 何日か狩りを繰り返したあと、その日は狩りの前に石ころ屋に立ち寄った。一つ懸念が湧いたのだ。



「もうそろそろ値段が下がったりしませんかね」

 そう店主に問いかけると、店主は腕組みをして少し考える。

 そして唸った後、一言だけ答えた。

「そろそろ下がるだろうな」


 何故値段が下がるかと言えば、もう流行が始まって十日以上経つからだ。予防の時期はもう終わり、どちらかといえばもう治療のための手段を求める時期となっている。

「今年の流行はいつもより穏やかだし、治療もあまり必要が無いだろうな」

「そうなんですか?」

「ああ、主にお前のおかげでな」

 店主はニカっと笑った。


「僕、何かしましたか?」

「お前が流通させたせいで、今年は箴魚不足と無縁なんだよ。需要が無くなる前に、供給が多過ぎたんだ」

「ああ、もしかして、儲けも薄くなってますか」

「いや?」

 俺を舐めるなよ、と店主は笑って胸を張る。自信に満ちあふれている。

「その前に売り抜けてるさ。昨日の分までで、例年に無い大儲けだ」

 だから、と続けた。

「今日狩りに行く前にここに来たのは正解だったな。今日から、少し買い取り値が下がるぞ」

「ちょうど良かったんですね」

 勘が冴えていたということでもなく、ただ運が良かっただけだけど。


「どうする? また違う獲物を紹介するか?」

 うーん、どうするか。

「あー、いえ、今日はちょっとやめておきます」

「珍しいな」

 店主は少し声を上げて驚く。最近、店主の感情の起伏が激しい気がする。

「そうですね」

 コホン、と咳払いを一つしてから

「ちょっと今日は、体調が悪いもので」

 そう答えると、店主は少し下を向き考え込み、「そうか」と一言だけ答えた。




 石ころ屋で毛布を一枚買い、大人しく寝床へ戻る。

 今日は本当に少し体調が悪いのだ。

 動けないような酷いものでもない、少し気分が悪い程度だが、悪寒がしている。

 風邪でも引いたのだろうか。

 生まれてから初めてな気がする。何か新鮮だ。


 だから、今日は休もう。

 大丈夫、蓄えならあるのだ。

 初めて買った毛布にくるまって目を瞑れば、すぐに眠りがやってきた。

 寒い。




 夜半、喉の渇きで目が覚めた。

 よほど体が疲れているのか、昼前から今まで寝ていたらしい。

 朝に水を汲んで置いた水袋を口に宛てがい、飲み干す。喉が渇いているからだろう、とても甘く感じた。


 水をまた汲まなければならない。

 スラムの端にも、一応井戸がある。住民のために作られた手製の井戸で、特に取り決め等は無いが、住民は皆大事に使っていた。乱暴に扱い、水を汚そうものならリンチされてもおかしくないだろう。

 水を汲むため、ロープを引くが、とても辛い。

 何が辛いかというと、全身が痛んでいるのだ。俗に言う、関節痛というやつだ。

 熱もあるらしく、少し動くと視界が歪んだ。視界の周囲には、常にちりちりと何かが見える気がする。


 本格的にやばそうだ。

 魔法で何とかなれば良いのだが、頭が回らない。

 仕方ない。朝になったら、石ころ屋で薬を買おう。昼間に買っておけば良かった。




「薬は無えな」

 僕の様子を見た店主は、あっさりとそう言った。

「ゲホッ……、無い、ですか……」

 喉の調子もおかしい。やっとの思いでこの店に来たが、駄目か。

「このスラムじゃ売れねえから、確保してねえんだよ」

 というか、と呆れた顔で店主は続ける。

「お前、自分で獲ってんだから、一匹くらい食べとけよ」

「何をでしょう……」

 何の話だ。鈍い痛みで、頭が回らない。


「何をって……お前、これ三日熱だぞ」

「マジですか」

 なんてこった。



「昨日のうちにわかってたんですか?」

「いや、昨日調子が悪いと聞いたが、てっきり予防はしてるもんだと思っててな。普通の風邪だと思ってたよ」

「ああ」

 そういえば。

「三日熱だったら、店主さんにも感染っちゃいますかね」

「俺は予防しているからな」

 商売柄、人と接する店主ならば当然か。


「で、あの、じゃあ薬の手配は出来るでしょうか」

「出来るには出来るが、少し時間がかかるな」

 店主は腕を組んで考える。

「明日の朝以降になっちまう」

「じゃあ、それでもいいので……」

「いや」と店主は僕の言葉を切る。片目を瞑り眉を寄せた。

「少し待ってろ。治療院までの案内人を用意するから」


「案内人、ですか?」

 というか、薬じゃないのか。

「治療院で治してもらってこい。薬と値段は変わらないが、今日中に快復はするだろう」

「いや、でも」

 治療院は、スラムには無い。ならば当然、街の中にある施設に行くということになる。

「あんまり街に行きたくないんですけど」

「いいから行ってこい」

 そういうと、店主は部屋の中に入っていって何かを書き付ける。そして、更に奥に入っていくと、窓が開く音がして、すぐに戻ってきた。書いていた手紙が無いということは、もう何処かに連絡したのだろうか。


 強引だが、信頼に足る店主の指示だ。まあ、従ってみても良いだろう。

 僕は溜め息を吐くと、壁にもたれかかりそのまま座り込んだ。



 二十分ほど待っていると、静かに店の扉が開かれた。

 ここは店なので客が来るのは当然だが、入ってきたのは客ではないようだ。


「来たか」

「ご無沙汰しております。今日は何を」

 静かに喋るその男は四十代程の年齢で、緑色のマントで体を覆っていた。

 店主は僕を指で指すと、命令するのが当然のように男に告げた。

「こいつを治療院に連れてってやってくれ。一番近い、12番街と5番街の境にあるところでいいだろう」

「了解」

 男は、無精髭で覆われた口元からボソリと声を出すと、こちらを向いた。

「では、少年。付いてこい」

 そして僕は、誰だかわからないこの男に連れられていくことになったらしい。


「こいつの案内料はいらん。だが、治療費はお前が自分で出せ」

 店主はそう言うと、ドカリと椅子に座り込んだ。

「……いくらくらいでしょうか」


「銀貨3枚ってとこだな。催促はされないが、寄付してこい。詳しくはそいつに聞け」

 店主は顎で男を示し、男はそれに頷きで応えた。

「はあ、わかりました」

 正直、店主の意図が読めない。もっと情報が欲しい。しかし、今の回らない頭では、そう答えるのが精一杯だった。 



 そしてまた僕は、街まで行くことになってしまったのだ。


 嫌だなー……。





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