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警戒と疾走

 



 これからどうするべきか。そんなものは決まっている。

「現在周囲に敵影無し、伏兵は七名排除済みです」

 サーフィスに向け、報告する。

 そして提案。

「僕が先導します。全速力でこの森を抜けるべきかと」

 逃げるべきだろう。すっ飛んで、全力で。


 僕を見つめ、サーフィスは二,三瞬く。そして頷き、決断した。

「疑うべくもないな。良いだろう」

 皆が視線を交わしあい、そして意思を統一する。もっとも、統一出来たのは馬車の外側だけだったが。


「な、何事……」

 扉を細く開け、ストナが僕らに叫ぶように尋ねる。答えようとしたキーチを押し留め、サーフィスが振り返った。

「申し訳ありませんが、今は扉を開かれませんよう! 私の力で強化しております故!」

「私は、今何が起きてい」

「申し訳ありませんが!」

 言い募るストナを重ねて制し、サーフィスは扉を強引に閉める。そして閂をかけた。

「今は奥方様方の安全を優先させていただきます!」

 ドンドンと扉を叩く音が響くが、サーフィスは背を向け無視した。そしてもう一度、僕とキーチと視線を交わし、頷いた。


「配置はこれまで通り! カラス殿、敵影は!?」

 確認に、僕は確信をもって答える。

「変わらず、ありません」

「了解した、では、行くぞ!」


 三人ともハクに跨がり、そして出発。

 先程までの速足ではなく、襲歩で駆けて行く。

 後方に飛んでいく木々に合わせて、僕の脳内にも情報が溢れて行く。それを意図的に無視しつつ、生物だけは無視しないように気をつける。オトフシも索敵はしているだろうし、今頼ることも出来るのだろうが、何故かそれはしたくなかった。


 後方はキーチに任せてもいいだろう。だが、その他は僕がやる。後方が欠けた円上に魔力を張り巡らせ、警戒を怠らない。

 それに伴い情報量も飛躍的に増えて行くが、次の街に着いて安全が確保できるまで、加減はしなかった。




 予想に反して、敵はなかなか現れない。

 やがて、次の街の塔が森の上から突き出すように見えた。



 人が多い街に入れば人に紛れることは簡単になるだろうが、広場ならば見通しはそれなりに良くなる。

 そして魔法での狙撃に弱くなる分、武装した人間もわかりやすくなる。

 何処に逃げても一長一短だ。


 僕らにはセーフゾーンが無い。それがやはり足かせになっている。


 森の中で僕が障壁を張って守ってもいいだろうが、今狙われているのは僕ではない。

 僕は安全だ。その自信はあるが、護衛対象の事を考えるとやはりノウハウのある騎士を頼った方がいいだろうと思えた。


『街の中で大規模な襲撃は出来ない。なので、有事の際は街に入り広場で迎え撃つ』

 そう、事前に決まっていた。一般の人間を巻き込むことは勘定に入れていないというのが少し引っかかるが、それに従うしかなかった。




 騎士達がそう考えているということは、敵もそう考えていてもおかしくないのだが。


 僕の感知に誰かが引っかかる。

 襲歩で進む僕らの前に、一人進み出る人間がいた。



 チラリと後方を見てサーフィスの方を窺うと、ただジッと僕の方を見返してきていた。

 人間、恐らく僕と同年代の子供。そちらに目を戻す。見たところ武装は背中に横向きに差した剣のみで、オレンジ色のシャツと黄土色のズボンという簡素な服装だ。


 一瞬、敵ではないと思った。その服装は、戦う者の纏う服装ではない。街の外に出た、危機感のない子供。そういう印象が浮かぶ。

 しかし、すぐにその考えを翻した。



 戦う者の服装ではない。

 それはいつだったか。まさに、僕がそうだったのだ。そのせいで、何とか無双に絡まれた経験が、僕の脳裏に浮かび上がった。


 警戒を解く理由にはならない。ましてや、今は護衛中だ。

 僕の、僕個人の判断で警戒するかどうかを判断すべきではない。その存在が護衛対象にとって危険かどうか。そちらを見極めるべきなのだ。



 不穏な動きをしたら、すぐに始末する。

 背後に向け、『要警戒』の合図を送り、そして少年を観察していた。



 果たして、その少年は不思議な動きをした。

 横に跳び、森の中に入っていく。その動きには闘気が使われ、素の僕では反応出来るか厳しいレベルだった。薄い魔力で作られた僕の警戒網を突き破りながら、森を進み馬車の後方へと回り込むように走っていく。


 決まりだ。こいつは敵だった。

 そう決断した僕がその少年を攻撃していくが、それもまた不思議だった。

 当てに行っているわけではないが、躱せるようにとも思っていない。なのに、僕の攻撃が避けられていくのだ。頭部に穴を開けようとする衝撃も、胴を切断しようとする風も。

 ……魔法に関しての反省点かな。魔力を広くしすぎて、細かい制御が難しくなっている。



「……!?」

 僕は少し焦り、そして後方へ叫ぶ。

「一人抜けていきました! 右方! 森の中に一人進んでいます!」

「了解!」

「承知しました!!」


 後方から、迫力のある返答が聞こえる。敵が迫っている。だが、ハクの歩みは止められない。サーフィスから、停止の命令が出ないからだ。

 やがて、少年は後方へ到達。僕の警戒網を抜けるように、()()()()飛びかかっていった。


 ? 何故だ? 何故馬車ではなくキーチを?


 サーフィスが叫ぶ。

「速度維持! 襲撃はキーチに任せ、街へ急げ!!」

 不可思議な動きに納得がいかないまでも、僕はその指示に従う。

 他の敵影は未だに見えないのだ。先程の少年を何とかすれば、あとは急ぐだけだ。



 キーチの方を窺えば、少年の蹴りを剣で抑えている。

 馬上で下半身の動きが制限されているとはいえ、カソクのしごきに耐えていたキーチと互角の力とは、なかなかやる。


 急ぐ僕らの目の前に、やがて街の門が見えた。

 そしてその門の前に、大挙して待ち構える武装した男達の姿も。




「カラス! 止まれ!」

 全員排除しようと魔力を強めた僕に、サーフィスから停止命令が出る。もう少しで魔力圏内なのに。小さく舌打ちをしつつ、仕方なくハクを止める。



 前からジリジリと近付いてくる男達、そして後方のキーチと戦いながら追い縋る少年。

 僕の危機ではないが、護衛対象の危機だ。

 挟み撃ちの形に持ち込まれ、馬車の扉の中の叫び声が、やたら大きく聞こえた。




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