エピローグ
オレは頷いた。
「オレもそう思います。トミーがジョーンズに、なにかをしたのは明白です」
「私が指名したので、」シスター・ロバートは眉根をよせた。「ジョーンズは命を奪われたのでしょうか」
「わかりません。そもそも、悪魔に死があるのかすらも。……とにかく、ジョーンズの魂はどういうわけか、オハラ神父のなかに閉じ込められてしまった。これはオレの推測です」
「ううむ」と神父が唸った。「身体を乗っ取られた本人は、まるでその自覚がありませんでした」
オレは続けた。
「じゃあ、身体を乗っ取られた神父は、いったいどんな存在になるのでしょう。オハラ神父と呼べばいいのか、それとも、悪魔?」
「どちらとも言えませんな。どちらでも、ある」神父が言った。
「オレは閃きました。もしこの状態でオハラ神父を『指名』したら、トミーはどうするだろうか。こう言ったら失礼ですが、悪魔にとって神父の命を奪うことなど造作もないはず。でもそれは同時に、神父の体内にいるジョーンズを殺すことにもなる」
「うわあ」シスターが歓声をあげた。「まるで『ベニスの商人』みたいですね」
そういうことだ。ジョーンズを傷つけずに、神父だけ殺すことはできないのである。
「ですが、これはオレにとって危険な賭けでした。もしオレの見立てが間違っていたら、取り返しのつかないことに……」
オレが神父を見ると、彼はやさしく微笑んだ。
「あなたは勇気をもって決断をした。結果がどうであれ、それは素晴らしいことだと思いますよ。……あなたの背中を押したのは、なんだったのです?」
神父の質問に、オレはちょっと考えてから答えた。
「そうですね……なんというか、見えない意思に導かれた感じです。囚人服の神父しかり、空白の二日間しかり、です」
「個人的に、」神父が言った。「その空白期間が気になります。あなたは、どうお考えで?」
「ええ、たぶん、ほかの考えに浮気しないための、神の御計らいではないか、と。指名する直前に神父の映像を見せられたら、たとえそれが幻であっても、もう神父を選ぶしかないじゃないですか」
オレがそう言うと、ふたりとも笑った。
「それにしても、」神父がため息まじりに言った。「厄介な連中に目をつけられたものです。……あなたが『指名』したあと、トミーはどうしましたか」
「なにも言わず残念そうな顔で、消えていきました」
神父は窓の外を見ていた。
「私の中に巣食っていたジョーンズの行方も、気になるところですね。彼らがこのまま引き下がるとは、とうてい思えません」
「彼らがふたたび現われないよう、神に祈るしかないのでしょうか」
シスター・ロバートが暗い表情で言った。
「いいや」と神父。「私がまたこちらの世に呼び戻されたのも、神のお導きでしょう。私は、具体策を執ります」
そして彼は言った。
「あの方に連絡します」
ゴルゴ?