初代国王
ルキアの提案で、シィルが食事を終えた後、3人は中庭で少し話をすることになった。
中庭に入ると、真ん中に立つ大きな銅像が目に入った。
初代国王が剣を掲げている姿を形作ったものだ。
シィルは像の前に立ち、無言で見上げた。
「姉様? この銅像がどうかしたの?」
「えぇ、私の研究がね…」
シィルは王族でありながら、魔導研究所という施設で所長として働いていた。
魔導研究所とは、先日クロノが使ったような魔導具の研究・開発を行っている施設だ。
彼女は幼い頃より、そちらの才に長けており、本人の希望もあって、年端もいかないころから研究所に入っている。
一度研究に没頭すると、月単位で引きこもるため、城内で姿を見るのは数ヶ月に一度というペースになってしまう。
「研究と初代国王様に何が関係があるのですか?」
「えぇ、ルキアとクロノは知ってるかしら? 初代の逸話を」
「もちろんよ、姉様。もうこーんなちっちゃな頃から耳にタコが出来るぐらい聞いてるもの」
「もちろん存じております。というか、基礎教養ですから、国内で知らない人はかなり少ないかと」
「ふふ、そうね。それでね、その中にこんな話があるのよ」
シィルは目線を再び銅像に向け、語りだした。
「初代国王は元は革命軍の指導者で、当時圧制を敷いていた貴族達を打倒したのだけれど、その時の彼はただの多少腕に覚えがあるだけの、没落した貴族だったわ」
シィルは一歩銅像に近寄った。
「そんな彼は伝記では一騎当千の英雄として語られているわ。何故ただの一貴族に過ぎない彼がそこまでの力を得たのか」
「よくある誇張表現ではないのですか?」
「いいえ、調べてみたら事実に間違いなかったわ。でも調べていくうちに分かったの。その秘密は彼、初代国王が手にしていた剣にあったの」
「伝説のものっ凄い剣とかだったの?」
「仰々しい由来などは全くない剣だったわ。でも普通の剣とは違うところは、その剣が、」 「その剣が?」
ゴクリとルキアが喉を鳴らす。
「人を原材料にした魔導具だったのよ」
「人を!?」
「人を?」
クロノとルキアは同時に驚きの声を上げた。
「上流階級の貴族に恋人を殺されてしまった彼は、復讐を誓い、魔法、いえ下法を用いて恋人を剣に組み込み、その力で革命を起こしたの。それが語られていない歴史の裏側」
2人は驚愕した。
人が剣になることに。
シィルがそんな研究に手を出していたことに。
「生物を、魔導具として利用するなんて、可能なんですか?」
クロノが努めて冷静に尋ねた。
「不可能ではないわ。現在でも、似たような技術はあるもの」
「似たような?」
「義手や義足といった、身体を補助するものよ」
「確かに、人と魔導具が魔力を通じて一体化する、という点においてはあれも同様ですね」
「そういうことよ」
「それを……姉様が研究してたの?」
ルキアは不安そうにシィルに聞いた。
「えぇ、そうよ。と言っても、さすがに人を丸々剣になんて気はないから、応用出来るように理論を研究してたの」
「そ、そっかぁ」
姉の研究が非人道的なものでないことに、ルキアは安堵した。
そして、姉と同じように銅像に近づき、そっと触れた。
「彼女は、死んだ後も剣になって、ずっと好きな人といられて、幸せだったのかな」
ポツリと、心から言葉が漏れ出たように、呟いた。
「それで、ルキアに頼みがあるのだけれど、いいかしら?」
「頼みって?」
「新しく作った魔導具を試してみたいの。だから訓練場まで付き合ってくれない?」
「そんなことならお安いご用よ!」