脅迫
黒衣の男の侵入騒ぎがあった次の日、国王やシィルにルキア、グラフ、クロノ等を含め、この国の重鎮らが謁見の間に集まっていた。
これは別段急な事ではなく、前もって予定されたものである。
レックスがこの国に使者としてやってきた際に希望したものだ。
その時はかなり急な訪問であった為、国の重要人物を集めることなどすぐには出来なかった。 そして本日、ようやくレックスが希望した人間全てが揃った状態での謁見となったのである。 しんと静まり返った中、レックスが呼ばれ、扉が開かれた。
レックスは様々な視線を身に受けながらも、堂々と王の前に歩み出た。
すぅーと大きく息を吸うと、部屋中に響き渡る程の声で演説でも振るうかのような調子で話しはじめた。
「王よ、急な私の願いを聞き入れていただき、真にありがとう御座居ます!」
そう言いながら、王にお辞儀をし、また左右にも深く頭を垂れた。
「して、どういった用件か?」
王は単刀直入に訪問の目的を問うた。
「はっ。近年、近隣諸国の武力技術の発展により、我等が国は非常に厳しい状況に陥っています。その為、我々は友好国であるこの国とさらなる強い結び付きを求めております」
王を仰ぎ見て、さらにレックスは続ける。
「我等が手を取り合えば、矮小たる国々など、物の数にもなりません。信頼し協力しあうことが大きな、大きな力を生むのです!」
レックスは要領を得ない事をただ力説する。
信頼することは素晴らしいだの、守る力がどうこうだの、手を取り合って云々、何を言いたいのか、レックスはひたすらに演説を続ける。
そして、大半の顔に疲労が出はじめた頃、
「つまり!」
今まで以上の大声を上げた。
「私どもは我等の国交関係をよりよいものにするため、ルキア王妃と婚姻を結びたいと考えております!」
その台詞が高らかに発せられると一瞬の静寂が訪れ、すぐ後に集まった面々は驚愕の表情を浮かべ、謁見の間は騒然となった。
全ての人間が浮足立っている中、ただ一人だけは俯き悔しそうに唇を噛んでいた。
「静かに!」
いち早く平常心を取り戻した近衛兵長、クロノの父グラフは腹の底に響くような声で一喝し、場を静めた。
「レックス殿、貴君の話は確かに伺わせていただいた。しかし、すぐに答えが返せる事柄ではない。 協議の後、改めてご返答しよう。それで、よろしいか!?」
「えぇ、もちろんです。じっくりお考え下さい」
グラフの問いに、レックスはにこやかに答えた。
「ふふ、我等の信頼関係に無用な傷が出来ないことを祈りますよ。私どもの王は女性に袖にされることに慣れてはいませんからね。傷ついてしまってはどんな行動に出るか、予想出来ませんから」
レックスは言った。
断れば、戦争をしかけると…。