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Forget me not  作者: 林檎亭
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城上の戦い

「…っ」

深夜、クロノは僅かな魔力に反応し、文字通り飛び起きた。

すぐさま剣を持ち、ルキアの部屋まで駆ける。

ものの数十秒で部屋の前に到着する。

部屋に来るまでに、また何度か魔法の発動を感知した。

ルキアの部屋の方面ではなかったが、安心は出来ない。

クロノにとって、ルキアを守ることは最優先で最重要だ。

扉の前につくと、手早く鍵に施された魔法で組まれた錠を解除する。

この錠の解除方法は王とシィル、それにクロノとグラフしか知らない。

人懐っこいルキアが下手に他人を部屋に上げないようにするためだ。

扉を荒々しく開けると、クロノは叫んだ。

「姫様! ご無事ですか!?」

クロノはベッドに視線を向けて、ルキアの姿を探す。

しかし、ベッドにはルキアの姿はなかった。

代わりに、窓辺にひっそりとルキアは立っていた。

「姫様、起きてらっしゃいましたか」

近づくと、ルキアはゆっくりとクロノに振り返った。

「うん。ちょっと懐かしい夢を見ちゃって。ところで、何かあったの?」

「えぇ、どうやら城内で戦闘が行われている模様です」

「それって、あれ?」

ルキアは窓の外を指差して言った。

その先では光が明滅するように、断続的に魔法が発動していた。

新月で明かりが少ないため、ほとんど見えないが、炎系の魔法などの際に、影が2つ揺らめくのだけは見える。

「おそらく、あれかと思います。今は少し距離がありますが、念のため姫様は窓から離れてください」

クロノはルキアを庇うように窓の前に立つと、ルキアを促した。

その瞬間、

「あ、」

ルキアが窓の外を見て声を上げた。

クロノが振り向くと、遠くで放たれた魔法がこちらに向かってきている所だった。

「ルキア様!」

咄嗟にクロノはルキアを抱きしめ、窓から距離を取るべく、跳躍した。

ベッドの影に身を隠すと同時、部屋が大きく揺れた。

「ーっ!」

部屋が崩れるのではと思うほどに激しく揺れたが、すぐにそれは収まり、室内は何事もなかったかのように静けさを取り戻した。

「ふぅ、何とか結界で防ぎきれたようですね。ルキア様、ご無事ですか?」

クロノが胸を撫で下ろしルキアを見ると、ルキアは真っ赤な顔で頭から湯気を出さんばかりに茹だっていた。

「ク、ククク、ククロノっ。だ、だだ抱きしめ、めるのは、もうっ、」

そこでクロノはルキアを抱きしめている事に気が付いた。

先程は、身を呈してでも守らなければ、ということしか考えていなかったため、全く意識していなかったのだが、1度冷静に状況を見てみると、割ととんでもないことをしでかしていることに気が付いた。

「ス、スイマセンっ! とんだご無礼を!」

パッと手を離すと、ルキアは脱力したように、クロノから離れて床にへたりこんでしまった。

「う、ううん! だいっ、大丈夫! クロノは私を守ろうとしただけだもんね!」

あまり大丈夫ではない様子で、ルキアが必死に平静を取り戻そうとする。

クロノはクロノで顔を赤くしたまま明後日の方向を向いていた。

そんな空気をぶち壊すように、再び部屋が軋んだ。

一気に冷静さを取り戻したクロノが窓に目を向けると、遠くで戦っていた筈の2つの影がすぐ近くまで来ていた。

(くそっ、他に気を取られてここまで接近を許すとは!)

クロノは心中で悪態をつくと、すぐさまルキアを背後にし、剣を構えた。

「クロノ」

ルキアの不安そうな声に、クロノは力強く応える。

「大丈夫です。貴女は何があっても守ります」

そして、窓の外が一際明るく光ったかと思うと、黒い塊が窓を突き破って、室内へ転がり込んできた。

ルキアの部屋には魔法で防壁が張ってあるのだが、2度の攻撃魔法の直撃で弱っていたらしい

クロノは一層警戒を強め、剣を握り直した。

「夜分遅くに失礼しますよ、姫君」

割れた窓からレックスもがルキアの部屋へと侵入してきた。

ふーッ!と猫が威嚇するように、ルキアはクロノの背中越しにレックスを睨む。

それを見たレックスは、やれやれといった感じで肩を竦めると、先に部屋に飛び込んできた黒い塊へと向き直った。

黒い塊はもぞもぞと動くと、頭らしきものが出てきた。

黒い塊、それはレックス暗殺を実行した黒衣の男だった。

黒衣の男は必死に立ち上がろうとしているのだが、上手く立つことが出来ず、俯せに寝たような恰好で、レックスを見ていた。

クロノが黒衣の男の姿をしっかりと確認した時、クロノは咄嗟にルキアの視界を遮った。

「どうしたのクロノ?」

「姫様は見ないほうがいいです」

黒衣の男はすでにボロボロだった。

片目は潰れ、口からは今なお血を吐きつづけている。

両手は炭化するほどに焼かれ、胴体で斬られていない箇所など無く、右足の膝はおかしな方向へ曲がっている。

それでもなお、黒衣の男は立ち上がろうとしていた。

「立つな!」

その様子を見たクロノは大声で叫んだ。

「っ!?」

今まで無感情を貫いていた黒衣の男が、ふいに顔をしかめた。

しまった、と言うように。

そして声がした方へと顔を向け、クロノとルキアの姿を確認した瞬間、崩れ落ちるように、再び地に臥した。

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