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最終話 新たなる旅立ち

「見事だ。まさかこうもあっさりと仕事を成し遂げるとは……」


 怪鳥を氷系の魔法で葬り去り、倒した証拠である氷漬けの鳥の尾を入手後、飛竜はまっすぐ王都ガルナへと引き返した。その間、仲間たち二人はしばらく沈黙し、王都に近づいたころになってようやく口を開いたが、時間切れになってしまった。まあ、驚くのは無理ないな。こんな容姿の俺があれほどの強力な魔法を行使したのだから。


 先の言葉は証拠を依頼主である宰相ヘーゼルダイン侯爵に見せた際に彼が述べた言葉だ。仕事を頼んだ翌日の事で、彼もまた度肝を抜かれたようである。俺自身、こんなに簡単に大金を手に入れてしまっていいのだろうかと申し訳ない思いに駆られそうだ。


「本当に凄かったんですよ、彼。あの魔物を魔法で瞬間冷凍しちゃったんですから。最初に会ったときからひょっとしたらすごい魔導師かなと疑っていましたが、実際のところこのソールシアに彼ほどの魔導師はいないんじゃないかと思います」


 褒められると悪い気はしないが、この世界で一番の魔導師なのかと言われると正直疑問だ。元の世界でも、確かに腕に自信はあったけれど、お世辞にも最高だったとは言えない。何も出ないのに持ち上げすぎである。


「俺でもあんなことは到底真似できねえ。正直悔しいけど、お前は大したもんだよ。女みたいな見た目で変わったやつだと思ったが、中身はもっとすごかったな」


 二人に勘違いしないでほしいのは、俺も同じ人間だということだ。せっかく誰一人として知らぬ異世界でそれなりに親睦を深められた、友人とも表現してもいいかもしれない二人だし、これを機に距離が出来てほしくない。

 元の世界では友人はいても、望んで彼らと会うことはめったにできず、遊ぶなんてもってのほかだった。この世界にやって来て制限が解けたのに、理由は違えど俺が遠い存在であると考えてほしくない。そんなの嫌だ。



 侯爵は俺に話があると述べて、俺たちをトリナールの街まで送る特別便の飛竜のいる場所に去らせた。


「あの時の話ははったりかと考えた。しかしながら実力は本物であるらしい。あっぱれだ! 報酬は縮小して三等分と言ったが、君には三十万ギルダーを与えよう。……それでだ、まず尋ねたいのは我が兄、おそらくヘーゼルダイン家の当主であるはずの人物の消息だ。どうなんだね?」


 最初は愉快そうな笑みを浮かべていた侯爵であったけれど、兄の生死を問う時にはすっかり険しくなり、口調も落ち込んでいた。


「エドワード公爵のことですか? そうならば、残念なことに数年前に亡くなっています」


 マーカス侯爵はそうか、と小さな声で呟いてがっくりとうなだれた。泣きもせず、目を閉じている。曰く、彼は財閥の前当主の弟であり、大学在学中に異世界へと迷い込んでしまったのだという。それ以降家族とは当然のことながら不通だった。


 彼に現在のあの世界の情勢を簡略して伝えた後に、俺は去ることにした。マーカス侯爵を一人にした方がいいと判断したからだ。こういう時は逆に孤独な方がいい。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 トリナールに戻って二日後、町長に借金を返してこの街を去ってもう一度アンセルワープに向かおうとしていた。手に入れた金で世界旅行に必要な道具一式を買いそろえるためだ。俺は今、トリナールの城門から馬に乗って出発しようとしている。


「いいのかい? この街に落ち着いても構わんというのに」


 最初はこの街を拠点に活動しようかと思ったが、短い旅行で多くの事を経験し居てもたってもいられなくなってしまった。巨竜の背に乗って世界を見渡した時から、すでに俺の目には水平線の彼方しか見えていなかった。一刻も早くあの先まで行きたかったんだ。


 この世界に辿り着いて数日しか経っていないが、こうして万全の状態で旅立つことが出来そうなのは喜ばしい限りだ。でも悲しいこともある。その数日を共にした二人がここに居ないことだ。

 町長によると、新学期が近く、おそらく準備に励んでいるであろうとの事だ。チャーリーとは分かれたきり、リーネとは彼女の家に泊まらせてもらっている関係で数回顔を合わせたが、碌な会話が出来ていない。見送りに足を運んでくれたのは町長一人だった。


 これから広い世界に出ようとしているのに、気持ちはもやもやしている。やはり俺に引いてしまったのかなあ? 三十万ギルダーの代償にしては重すぎやしないか? 俺にとっては大金よりも人とのつながりの方が遙かに価値があるのだ。


「じゃあ町長、これで行くことにします。いろんなことを世話になって述べる言葉もありません。この町の繁栄を遠くから祈りたいと思います」


「いやいや、礼には及ばんよ。それじゃあ気を付けてな」


 悲しみに暮れていても仕方がない。これから新たなる出会いがあるに違いない。それに期待しよう。さらば二人とも。どこかでまた会えればいいな。ばっさり諦めようとしても、俺の気持ちは混沌としていた。門を出て、馬に乗った人影が二つ見えるその時までは。


 


これでお話はいったん終わりにさせて頂きます。最後に皆様のご感想等をお寄せ下さると作者の今後の糧になるので、どうぞよろしくお願いします。

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