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パープルなドレスのお姫様

帝国南西部にある、有力領主が納める町、バレロール

「クーパ、おひさしぶり」

 商品の仕入をしていたクーパに、ルードトで会った、自称夢売人、ギリナ=シロサが居た。

「久しぶり、そっちの景気は、どう?」

「まあまあね。そっちは、普通には、儲かってるところでしょ?」

 ギリナの言葉にクーパが頷く。

「行商人としては、栄えている町は、大商人が居て、余り実入りが少ないね」

 ニヤリとして、ギリナが言う。

「だったらあたしの仕事を手伝わない?」

 少し考えてからクーパが言う。

「こないだみたいな調査ミスがなければ良いよ」

 その言葉にギリナが不服そうな顔をする。

「あれは、急ぎ仕事だったからよ。今回は大丈夫、クーパのあのペンダントあれば確実よ」

 その言葉にクーパは手を叩く。

「そういえばあれって、預けたままで返して貰ってないや」

 その一言に驚くギリナ。

「誰に預けたのよ!」

「色々あって、今は、ロの所にあると思うよ」

 クーパがのんきに答えるとギリナが溜息を吐く。

「クーパが居れば出来ると思ったのになー。別の手を考えるか」

 クーパは、お金を払って商品を仕入れてから言う。

「詳しい話は、食事でもしながらしようよ」



「お姫様に恋した男が居て、出会うチャンスを作るの?」

 ランチメニューを食べながらクーパが要約すると、ギリナが頷く。

「その人は、商人で、そこそこ金は、あるんだけど、領主の狩りに同行していた女性に一目惚れしたの。現在、告白するチャンスが無いって嘆いて居るの。クーパがペンダント見せれば領主のパーティーには、フリーパスでしょ? 明日、丁度良い事に、領主の娘さんの誕生日パーティーがあるの」

 クーパが頬を掻いて言う。

「でもそれって絶対振られて、お終いじゃん」

 ギリナは、あっさり頷く。

「あたりまえじゃん。あたし達は、告白をするチャンスを売ってお金を貰う。若い頃の失恋は、良い思い出になるわよ」

 クーパが頷く。

「納得。あちきとしては、協力しても良いし、その気になればこの顔で入ることも可能だよ」

 クーパは、分厚い眼鏡を小さくずらす。

 手を叩くギリナ。

「クーパって皇帝の母親とそっくりなんだよね」

「叔母さんだしね。似すぎてるから、マザコン男に求婚されて困ってるけど」

 クーパが大した事無い様に言った時、机が強く叩かれる。

「頼むから、そーゆー危険な話題を漏らすな!」

 怒鳴るウドンに驚くギリナと違って、店に入った時点で気付いていたクーパは平然と言う。

「また会ったね、ウドン達ってまだ、ロ親衛隊?」

 ウドンは、クーパを睨み言う。

「誰の所為でこんな事になってると思うんだ?」

 クーパが諭すような顔で言う。

「親衛隊の人間が、あちきの従兄妹を批判したら駄目だよ」

 ウドンが言葉も出ない怒りを覚えるが、ギリナが言う。

「前から思ってたけど、ロ親衛隊ってエリートよね?」

 クーパが頷く。

「今は、年に数人しか入れなくなってる筈だよ。貴族の次男や武家の子息がこぞって参加してる上、一般人にも門を開いてるから、競争率で言えば、二千倍以上だって話だよ。親衛隊になっただけで、優秀な事の証拠だよ。実際、ウドンは、剣の腕なら、若手の中なら王宮でも一二を争う実力者で、入り口でへばってるオシロも、あの年で一通りの輝石魔術を使える神才だって話だよ」

 クーパが指差す先に、とてもそう見えない神才のオシロが倒れこんでいるのを見てギリナが首を傾げる。

「そんなエリートがどうして、クーパに張り付いてるの?」

 ウドンが苛立ちを必死に堪えながら言う。

「この小娘は、陛下に求婚されていて、先の皇后様の姪にあたる。政権を左右しかねない存在なのだ」

「っていうのは、建前で、失敗の罰当番。本来は、出来るだけ接触しない様にしてる筈だからね。今回も公式には休暇中の筈だよ」

 クーパの暴露にウドンが切れる。

「その失敗の原因に言われたくない!」

 クーパは、冷静に周りを示す。

「目立ってるよ、休暇中のロ親衛隊のウドン=コーナさん」

 憤死しそうになるウドンであった。



「ようやく生き返りました」

 場所を変えて、オシロに果実ジュースを飲ませて居た。

「とにかく、これは、もっていてくれ」

 ウドンがクーパにペンダントを渡す。

「態々届けに来たの?」

 クーパの言葉にジト目で見てウドンが言う。

「前回のお前が陛下を餌にした時に止めなかった事の罰で、暫くお前の監視の任務をやらされているんだ」

「大変だね」

 他人事のクーパ。

「ペンダントも戻ってきたし、例のバイトをしましょう」

 ギリナの言葉にウドンが睨む。

「お前は、人の話を聞いていたのか? 俺達の仕事は、こいつに面倒になる事をやらせない事だぞ」

 ギリナは少し引きながら言う。

「でも、政権に関るような大事じゃないのよ。ただ、パーティーに出るだけよ」

「それが問題だと言っている。領主のパーティーには、帝都の人間も多く参加する。もしクーパの事が発覚したら大事なのだ」

 ウドンが断言する中クーパが手を叩く。

「それだったら、あちきが、顔を隠してペンダントだけで入ればいいじゃん。その際は、ウドン達が護衛役で、ギリナと問題の男性は、お付の人にするって言うのはどう?」

「駄目だ!」

 ウドンが完全に否定するが、クーパが小声でギリナに言う。

「ナイショでやろうか」

「だから止めろと言ってる」

 怒鳴るウドンにクーパが言う。

「別にウドンに命令されるいわれが無いよ。どうしてもと言うんだったら力尽くって事になるよ」

 クーパの挑発にウドンが剣に手をかける。

「輝石剣士だからと言って、負けるつもりは無い」

 クーパはあっさり頷く。

「そうだね、本気で戦いあえば、勝負は五分五分って所、オシロが参戦したら、勝てる可能性は一割以下だね」

 そんな絶望的な展開をサラッと言うクーパにウドンがいぶかしむ。

「そこまで解っていて、力尽くというのか?」

 クーパが答える。

「逆だよ、あちきはやらない方が良いって言ってるんだよ」

「勝てないからってやらないって言うのが通ると思うの?」

 会話に参加できるまで復活したオシロが余裕たっぷりに言うが、クーパは冷静に指摘する。

「あちきに怪我させて、ロ親衛隊に居られると思うの?」

 その一言に青くなるウドンに怒るオシロ。

「輝石剣士の権力を盾にするつもり!」

 クーパが首を横に振る。

「あちきは、そんな事をしないし、バン兄さんもしない。でもロに無実の罪を着せられて、処刑されるのまでは止められないよ」

 ギリナが驚く。

「それってどういう事?」

 クーパが普通に答える。

「あちきやバン兄さんが道理で、ロを説得した所で、あちきの事で感情的になった時に止まらないんだよ。あちきに怪我させたのがロの耳に入れば、その人間は、帝国内では絶対に生きていけない。本気で困った話だよね」

 ウドンが剣から手を離す。

「解った、付き合えば良いんだな?」

 クーパが微笑む。

「ありがとうね」

 態々眼鏡を外してお礼を言うクーパは、叔母に似て、物凄く綺麗で、男性のウドンだけでなく、オシロまで顔を赤くさせた。



 翌日、クーパは最高級のドレスを着て馬車に乗っていた。

「本当に大丈夫ですか?」

 依頼人の男性、まだ成人になってから数年しか立ってないパットランは、自分が金を出して揃えた服の中で一番、安い物を着せられていた。

「大丈夫ですよ。こっちは、身分偽証するわけではないですから」

 上等のメイド服を着るギリナが笑顔で答える。

 その横では、高級儀礼ローブに笑顔になるオシロが居た。

「あたし、一度着てみたかったんですよね。ずっと外だったから着る機会が無かったから嬉しい」

 溜息を吐く、儀礼用の鎧を纏ったウドン。

「オシロの訓練の一つだと思っておくか」

 そして馬車は、領主の館に着く。

 先に下りると、ウドンは、周囲の気配を探る。

 その洗練された動きに、周りの同業者から、賞賛の視線が送られる。

 しかし、その次に出てきたオシロがこけるのを見て、苦笑され、ウドンが真っ赤になり、小声で言う。

「難しい事は言わない。黙って、俺の後ろに居ろ」

 返事しようとしたオシロを視線で黙らせて、馬車に手を差し出す。

「姫、お手を」

 クーパは、慣れた様子で手を差し出して、降りていく。

 先導するウドンについていくクーパ達。

 入り口に居る執事が頭を下げてくる。

「失礼ですが、パーティーの招待状はお持ちでございましょうか?」

 その言葉に、慌てるパットランだったが、ウドンが、片膝をつき、両手を捧げる。

 クーパはその手にペンダントを乗せると、ウドンはそのペンダントを執事に見せて言う。

「この御方は、皇族の血族です。今回、お忍びでこの町に訪れたのですが、領主殿がパーティーを開かれると聞き、挨拶に参りました。一言だけでも挨拶をさせて頂ければ、退散する所存です」

 何時もの荒っぽい口調は何処に行ったのか、見事な口上であった。

 執事は、最初に問題のペンダントを確認して、その後、ウドンとオシロが身に着けた、ロ親衛隊のシンボルを見て頭を下げる。

「失礼しました。一言とは言わず、ごゆるりとお楽しみ下さい」

 ウドンからペンダントを受け取り、そして目元を隠したベール越しに見える微笑みの美しさに、執事も言葉を無くす。



 中に入った所で、ギリナが言う。

「これで潜入終了ね。お約束のお金をお願いします」

 ギリナの言葉に、ダイヤコインを十枚(百万円)を渡しパットランが言う。

「これでお互い関係無しだからな。もしお前達が皇族偽証罪で捕まってもしらないぞ」

 それだけ言い残して、パットランが逃げていく。

「偽者だと思われた見たいね」

 ギリナは、分け前を(クーパ=4・ギリナ=4・ウドン/オシロ=2)配りながら呟く。

「この後どうするの?」

 意外な収入と始めてのパーティーに少し興奮するオシロにウドンが言う。

「良い機会だから、お前にパーティーの作法を教えてやるから来い」

 ウドンは、オシロを連れて行くのを見送ってからクーパが言う。

「一番正解なのは、このまま帰る事だけど、結果見に行く?」

 ギリナも頷く。

「当然の事を言わないで」

 そして、二人は、パットランの後を追う。



 パットランは、目的の女性を見つけ、話しかける。

「初めて見た時から心を奪われました。付き合って下さい」

 そういわれたメイドの女性が驚く。

「あのー仕事中なので」

「答えは、ゆっくりで良いんです。気持ちが決まったらパットラン商会まで来てください」

 パットランがそう言い残すと、直ぐに屋敷を出て行ってしまう。

 戸惑うクーパとギリナ。

「どういうこと?」

 クーパの質問にギリナが頬を掻く。

「狩りの時に一目惚れして、会う事が出来ないって言うからてっきり……」

 少し考えた後、クーパが言う。

「確かに、領主の館に勤めてる人間に接触するのは難しいけど」

 ギリナが驚いた顔をする。

「そうなの?」

 クーパが釈然としない顔のまま頷く。

「スパイとかが紛れ込まないか気にしてるから、変に接触したら即座に逮捕される可能性もあるけど、領主の娘じゃなかったらもっと簡単な方法あったよね」

 ギリナが渋々頷く。

 その時、会場の中心から、ざわめきが起こる。

 クーパがそっちを向くと、そこでは、剣を構えた男達が居た。

「領主、貴様の横暴もここまでだ!」

 護衛の兵士に囲まれた領主が怒鳴る。

「我が娘の誕生を祝うパーティーを台無しにするお前等は何者だ!」

 男達はマントを外して、胸のマークを見せる。

「我々は、お前の策略で潰された、ミッテロスの騎士団だ! 何時かお前の首を刎ねるのを夢見て、屈辱を耐えてきた。今日こそ、我等の宿願を達成する時!」

 そして斬りかかるミッテロス騎士団。

「返り討ちにしてやれ!」

 領主の言葉に、兵士が動くが、決死の思いで剣を振るうミッテロス騎士団の前に切り捨てられていく。

 そして、腰を抜かした領主にミッテロス騎士団の刃が迫る。

「覚悟しろ!」

「助けてくれ!」

 領主の眼前でその刃が止まる。

「騎士の剣は決して私欲で振るわれるものじゃない」

 ウドンが剣で受け止めたのだ。

「お前は何者だ?」

 ウドンは、相手の剣を弾き飛ばして言う。

「私は、ロ親衛隊隊員ウドン=コーナ。如何なる事情があるかは、知らないが、陛下が認める領主の命を奪うとならば、私が相手になる」

 周囲からざわめきが起こる。

「相手は、一人だ、行くぞ!」

 ミッテロス騎士団が一気に進んだとき、呪文が響く。

『エメラルドよ、風の力で敵を撃て、風撃フウゲキ

 突風が発生して、咄嗟に防御した数人以外のミッテロス騎士団を弾き飛ばして、気絶させる。

 オシロがエメラルドの指輪を見せ付けて言う。

「同じく、ロ親衛隊隊員オシロ=コーナ。大人しく縛につきなさい。貴方達の思いが正しければ、陛下は決して悪いようには、しません」

 しかし、残ったミッテロス騎士団は、止まらず、攻撃を再開しようとしたが、ウドンの圧倒的な力量の前に、数合の内に剣を砕かれる。

 その様子を見ていたギリナが言う。

「あの二人、本当に強かったんだ」

 苦笑するクーパ。

「まーね。でもどう収めるつもりだろう?」

 そして領主がウドン達に近付き言う。

「助かりました、ロ親衛隊、ウドン殿。しかし、どうしてこのパーティーに参加なされていたのですか?」

 その一言に、さっきまで自信たっぷりな表情だったウドンが硬直する。

「何も考えてなかったな」

 クーパは溜息を吐いてから、必死に言い訳を考えるウドンの傍に行き、ベールを取る。

「彼等は、私の護衛の為に来たのです」

 領主がクーパの顔を見て、驚く中、クーパが礼をして言う。

「ご挨拶が遅れてすいませんでした。忍びの旅の為、名乗る事は出来ませんがお許し下さい」

 その一言に領主は慌てて頷く。

「構いません。貴女様が御忍びと仰られるのでしたら、私は、一切の詮索を致しません」

 周りの人間は、白々しいと思っただろう。

 一度でもロの母親、ミーナ=ゼロレの顔を知っている人間だったら、クーパがその血族だという事は明確なのだから。

 そしてクーパが済まなそうに言う。

「本当に申し訳ないのですが、今回の事は、私達が関った事が公になれば、大変困った事になりますので、内々に終った事にして頂けますか?」

 領主が強く頷き言う。

「了解いたしました」

 クーパは安堵の笑顔を見せる。

 その顔に周囲の人間が魅力される中、クーパがウドンに言う。

「挨拶も終りました。帰りますよ、ウドン」

 ウドンも慌てて頭を下げる。

「姫、御心のままに」

 そして去っていくクーパ達にその後、様々な憶測が発生するが、領主はクーパの願い通り、帝都には、何も連絡を行わなかった。



 町の食堂で、クーパが言う。

「考え無しに飛び出すのは、止めたほうが良いよ」

 ウドンはそっぽを見て言う。

「失敗した事は理解しているが、お前の仕事に手伝わなければ起きなかった事だ」

「あたしは、もう少しパーティーに参加して居たかったなー」

 無邪気なオシロに溜息を吐くウドン。

 そしてギリナが立ち上がり言う。

「また、儲け話が見つけたら声をかけるな」

 ウドンが怒鳴る。

「二度と近付くな!」

「宜しくね!」

 クーパは手を振ってギリナを送り出した後、ウドン達に言う。

「それでこれからどうするの?」

「暫く、お前と一緒に旅をする事になる」

 ウドンの答えに、肩を竦めてクーパが言う。

「了解、さあ次の町に行くよ!」

お気に入りキャラ、ギリナの再登場です。

今回は、ウドンが、エリートの筈なのにとことん不幸な事を証明ですね。

因みにパットランさんは、問題のメイドと結婚して幸せになりました。


次は、ボンが再登場です。

前回とは、違い、策士随伴で、分断されるクーパとウドン・オシロ

そして、一対一の正面からの対決にクーパは、ボンに勝てるのか?

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