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ブラウンな考えの町長

帝国南西部にある、田舎町、ナイーカ

 クーパは、小さく溜息を吐いた。

「あーあ、クレーコを急いで抜け出したから、仕入が出来なかった」

 クーパがかなり軽い荷物に落ち込む。

「ここら辺で何か売れそうな物が安く売ってないかな?」

 その時、近くに居た町民が反応する。

「それだったらこのナイーカ名物、ナイーカ印の饅頭はどうだ?」

「こっちの、教訓が刻まれた木刀が良いに決まってる!」

「何を言ってる、近くに住む、ナイーカリスをモチーフにしたナイーカちゃんぬいぐるみがいいに決まってる!」

 盛り上がる町民に対してクーパが切り捨てるように言う。

「どれもダサい田舎土産だよ」

 固まる町民達をほっておいて、進むと、一人の老人が立ちふさがる。

「ならばこの、ナイーカ名物、キノコ汁はどうだ!」

 周りの町民も不安の無い顔で見守る。

「旅人にも好評な、あれならばきっと!」

「あれだったら絶対よ!」

 クーパが一口食べて告げる。

「美味しいけど、日持ちもしない。これが目的で人を呼べる代物でもないね」

 老人が倒れると周りの町民が駆け寄る。

「町長しっかりして下さい!」

 老人、ナイーカの町長が弱々しく告げる。

「わしはもう駄目じゃ、後のことは頼む」

 意識を失うふりをする町長に、町民が悲しむ。

 そんな田舎芝居を見せられたクーパが言う。

「ストーリーが単純。すこし、反発する若者を事前に出しておいて、最後の最後で解り合えるって展開位用意して欲しいですよ」

 手を叩き、メモをする町民達。

 呆れた顔をしてクーパが言う。

「簡単に言えば、町興しをやってるが、上手く行っていないって事で良いんですか?」

 頷く町民達であった。



 宿屋の一階にある食堂のカウンターで食事をするクーパ。

「ここってそんなに危ないの?」

 店の女将が言う。

「そうじゃないんだよ、新しい皇帝陛下に成ってから、色々と便利になってきて、こんな田舎町でも人が来るようになってきたんだよ。そしてついこないだ隣町、カナーイが名物料理で町興しに成功して、近隣の町長の寄り合いで、自慢してたらしいんだよ。そんなもんで町長が町興しをするって騒ぎ出して、のりが良い町民がそれにのって騒いでるだけなのさ。本業に差し障りもないうちは趣味って事で、他町民も楽しんでるって所かね」

 苦笑するクーパ。

「確かに真面目だけど真剣さがなかったね。旅してると本気で町の存亡を懸けた町興ししてる所もあるけど、そことは気合が違うからな」

 女将が興味ありげな顔をする。

「そうなのかい?」

 大きく頷くクーパ。

「正直、町全体が、町興しの為に動いていて、当たればそこそこ盛り返すけど、外れたら目も当てられないよ。一度なんて、見世物小屋にしか見えない家から、道化にしか見えない人達が涙ながらに町を出て行くシーンにぶち当たりましたけど、笑うに笑えませんよ」

 引き攣る女将。

「確かにそれは笑えないね」

 その時、宿屋の扉が開いて、町長が入ってくる。

「今の話は聞かせてもらった!」

 クーパは冷めた口調で言う。

「この町の町長は、旅人の話を盗み聞きする趣味があるの?」

 視線を逸らす女将。

「とにかく君は多くの町興しを見てきたんだね?」

 町長が老人とは思えないスピードで歩み寄り、クーパの手を掴む。

 クーパが嫌そうな顔をしながら答える。

「そうですけど、それがなにか?」

「町興しに協力してくれ!」

「嫌です」

 町長の言葉に即答するクーパだったが、相手は諦めない。

「お礼は必ずする。なんだったら町興しで出た純利益の半分渡しても構わん!」

 その言葉に、クーパの眼鏡が光る。

「半分ですか……。お金は要りませんから、この町の工芸品を格安で提供して頂けますか?」

 その言葉に頷く町長。

「そのくらいならお安い御用だ」

 そして、クーパの町興し大作戦が開始されるのであった。



「この町の売りは大きく分けて三つ。ひとつはあのキノコ鍋。単体では旅人を引き付ける魅力はありませんが、この町に来た旅人に、好印象を与える事が出来ます」

 クーパは三本立てた指の一本倒すと頷く町長をはじめとする町民達。

 クーパは次の指を倒しながら告げる。

「調べて解ったんですが、この町は竹細工技術が優れているんですよね?」

 町民の竹細工職人が胸を張る。

「ああ、このナイーカの周りには上質の竹が沢山生えてるからな」

 そして、クーパは、デフォルメされた竹細工人形を見せて言う。

「オーダーメイドの自分や家族の竹細工人形を作り売るんです。帝国で一体しかないオリジナルの竹細工人形となれば、旅行の思い出として、かなりプッシュ出来ます」

 感嘆の声を上げる町民達を尻目にクーパが最後の指を倒し、邪悪な笑みを浮かべる。

「隣の町、カナーイが売れていることです」

 それには、町民達が首を傾げる。

「それがどう、この町の売りになるって言うんだ?」

 クーパが地図を広げると、ナイーカとカナーイに共に延びる道を指差す。

「ゼロから旅行客を集めるのは難しいですが、既に旅行モードの旅人の行き先を変えるのはそんなに難しくないんですよ」



 数日後のナイーカとカナーイへの分かれ道。

「ナイーカでは、ただいまオリジナル竹細工人形を格安の値段でお売りしています!」

 クーパが見本の竹細工人形をカナーイに向かう途中の旅人達に見せる。

 興味がそそられる旅人達にクーパが尋ねる。

「これからどちらに?」

「カナーイの名物料理を食べに行こうかと思ってるけど」

 その言葉にクーパが手を叩く。

「カナーイの名物料理は、確かに美味しいですよね。ナイーカのキノコ鍋も美味しいですけど、美味しさでは、一歩負けますね」

「そんなに美味しいのか?」

 旅人の言葉にクーパが頷く。

「それは、絶品です」

 興奮する旅人達にクーパが少し残念そうに言う。

「唯一つ残念なのは、その美味しさを持ち帰れないという事でしょうね。正直、あちきは思うんですよ、自分ひとりそんな美味しいものを食べて良いのか? 地元で待ってる人達に自分が体験した思いをただ言葉で伝えるだけで良いのかと?」

 その言葉に何人かの旅人が頷く。

「そこをいくとナイーカのキノコ鍋は確かに美味しいですが、悪く言えば、何処にでもある味です。別に地元の人間に伝える必要はありません。それよりも、帝国で自分一人しかもって居ない竹細工人形を作って貰い、それを持って帰り、その喜びを地元の人間にも伝えられる。あちきは、それこそ旅をする意味だと考えます」

 クーパの名演説に何人かの人間がナイーカに進路を変える。



 その夜の町長の家で、今日の売上の確認が終る。

「ダイヤコイン三枚の利益が出ました!」

 その言葉に町の住人がおおはしゃぎをする。

 町長など、踊りだしてしまう。

 そのなか、宿屋の女将がクーパの隣に来て言う。

「正直、以前よりはましだけど、カナーイの客をとると言ったから、もっと強引に引き込みをやるかと思ったよ」

 クーパはジュースを飲みながら答える。

「そんな明確な事をしたら、相手も怒りだして、喧嘩売ってきますよ。最初のうちはこんな所で良いんですよ。最初のうちは」

 意味ありげな事を呟くクーパであった。



 一週間も過ぎた後のカナーイでは、おかしな現象が起こっていた。

 多少は減ったものの、名物料理を求める旅人は順調に来ていた。

 しかし問題は、別の所にあった。

「なんで宿屋に誰も泊まらないんですか!」

 名物料理を求めて遠くからやってきた客目当てに、宿を拡張した宿屋の亭主の言葉に、カナーイ町長が困ったように言う。

「それがよく解らないのだ。多少は、減ったかもしれんが、そんな宿に泊まる人間が激減する程では無い筈なのだが……」

 その言葉に、一人の町民が手を上げる。

「その件なんですが、うちで名物料理を食べた旅人なんですが、どうもナイーカで宿を取っているみたいなんですよ」

 その言葉に首を傾げるカナーイ町長。

「どうしてうちの名物料理を食べに来た旅人がナイーカで宿を取るのだ?」

 するとその町民が竹細工人形を出す。

「理由はこれです。オリジナルの竹細工人形を作ってもらえるかららしいのですが、竹細工人形を作り終わるまでは多少の時間がかかるらしく、その間にこの町で名物料理を食べて、ナイーカで宿をとって、翌日、竹細工人形を持って帰るのが流行始めているんですよ」

 それに驚くカナーイ町長。

「そんな事になっていたのか」

 それに宿屋の亭主が激怒する。

「冗談じゃない! 借金までして増築した宿はどうなるんだ!」

 宿屋ほどではないにしろ、売上が落ちた町民達が賛同する。

「そうだそうだ、ナイーカに邪魔をするなといってやれ!」

 カナーイ町長も頷くが、最初にこの話をした、町民が言う。

「どう文句を言うんですか?」

「それは……」

 カナーイ町長が言葉に詰まるのを見ながら、その町民が言う。

「ナイーカではこちらの名物料理が自分達のところの名物料理のキノコ鍋より美味しいと宣言し、一度食べたほうが良いと、薦めさえしています。カナーイに対してなんの邪魔も行っていません」

 反論できないカナーイの町民達であった。



「しかし、どうしてこんな風になったんだい?」

 忙しそうに仕事をするナイーカの宿の女将に、その手伝いを有料でやっているクーパが答える。

「簡単ですよ、カナーイには、名物料理がありますが、それしかないんです。そしてこっちの竹細工人形には時間がかかります。それだったら最初から、竹細工人形を作っている間にカナーイに行くように仕向ければ、旅人は、こちらで必要以上にいらいらせずに済む。場繋ぎの出し物をカナーイに任せる形をとったんですよ。実際問題、名物なんて客寄せでしかなく、それだけで儲けを上げるのは難しい。逆に近くの町の名物を餌に客を呼んで、その客が使う宿代や食事代、特にこの町の場合は、お土産代で儲けを出せば良いんだよ」

 クーパの言葉に女将が少し困った表情で言う。

「しかしねー、正直、うちのキャパシティーじゃとてもじゃ無いけど捌ききれないよ」

 クーパも頷いて言う。

「ここが決断の時かもしれないね」

 首を傾げる女将。

「決断って何のだい?」

 クーパが答えようとした時、外が騒がしくなる。

 クーパは嫌な予感を覚えて、外に出ると、ごつい男達が竹細工人形の店を荒らしていた。

「俺がこんな不細工だって言うのか!」

 怯える店員。

「それは、その……」

 男の連れがでかい刀を抜く。

「お礼をしないといけないなー!」

 震える店員達。

「営業妨害を続けるんだったら、あちきが相手になるよ」

 クーパの言葉に男達は爆笑する。

「そんなちっこいなりで何が出来るって言うんだい?」

 クーパは、めんどくさそうに蛇輝を抜くとその柄に、タイガーズアイをつける。

『タイガーズアイよ、その力、雷の力を我が剣に宿せ』

 帯電した短剣状態の蛇輝で、男達に触れて感電させて気絶させて行く。

 あまりにもあっさりとした展開に建物に陰に隠れていた男が出てきて叫ぶ。

「お前達、あんな小娘相手に何をやっているんだ!」

 その男を見た時、女将が言う。

「あれは、確かカナーイの宿屋の亭主じゃなかったかい?」

 その一言に周りの町民も事情を察知して、睨むとカナーイの宿屋の亭主が逃げ出す。

「絶対認めないからな!」

 その言葉にクーパが溜息を吐く。

「やっぱりこうなったか」



 町長の家、営業妨害として捕まった男達と町長の前に座る、ウドンとオシロが居た。

「どうして、ロ親衛隊の貴方達がここで出てくるの?」

 クーパの言葉に、周囲の人間が驚く中、ウドンが冷たい視線でクーパを見ながら言う。

「誰かの所為で暫く帝都には帰れないんで滞在していた所に、今回の話が来たんだ。お前が絡んでるから下手打たれると厄介だから、礼と偽ってこの仕事を請けたんだ」

「実際問題町同士の問題に国が干渉するのはどうかと思うよ」

 話しをずらすクーパにオシロが頷く。

「そうよね、こんな細かい事でいちいち騒ぎにしていたら、人が幾ら居ても足らないよね」

 そんなオシロの頭を叩きウドンが言う。

「いまは小さいかもしれないが、ほっておけば拡大化する。国内で下らない争いで人が傷つくのは陛下の望むところではない」

 その言葉に、すっかり萎縮するナイーカ町長。

「それでどうするの?」

 クーパの質問にウドンが困った顔をする。

「正直、困っている。公平に判断するのなら今回の事はカナーイの一方的な逆恨みだが、元々カナーイはろくな産業も無く、名物料理で呼びこんだ旅人相手の商売で成り立ってる町なんだ。それが、その収入源を隣の町に横取りされれば恨みたくなる気持ちも解る。もしこの状態が続いた場合、カナーイの町の存亡が危ぶまれる事になる」

 その言葉にナイーカの町民が青い顔をした。

「もしかして理解して無かった? 町興しで隣町から客をとったら、隣町が困るって?」

 クーパの言葉に頷く暢気なナイーカの町民達。

「わしは、ただ、自慢げなカナーイ町長を見返してやりたかっただけなんだ」

 ナイーカ町長の言葉に町民たちも頷くのをみてウドンも呆れた顔をする。

「カナーイもいい迷惑だな」

 萎縮するナイーカ町民達にクーパが言う。

「どうするの、国がどういってもこっちは悪い事はしてないから続ける? それとも止める?」

 悩みだすナイーカ町民にクーパが笑顔で答える。

「ちなみにあちきには代案が一つあるんだけど、聞く?」

 頷くナイーカ町民達にクーパは新しい可能性を聞かせるのであった。



「お客さんが減ったけど大丈夫なの?」

 宿屋のカウンターで食事をするクーパが女将に質問する。

「良いんだよ、女の細腕で経営するにはこの位が丁度良いんだよ」

 客が以前と同じくらいに戻った店を見てから女将が言う。

「それにしても、まさかこっちの竹細工人形をカナーイに届けるサービスが当たるなんてね」

 クーパが肩を竦めて言う。

「逆転発想だよ。どっちで宿を取るかが問題で、基本的には時間が掛かる竹細工人形を出来るのを待つ関係上、ナイーカに宿をとるのが普通。だけど、カナーイに宿をとっていても竹細工人形の方が届けられるんだったら料理が美味しいカナーイに宿を取るのが主流になるよ。後は、こっちの宿屋等の関係者が納得すれば、新名物が出来てナイーカも、来る理由が増えたカナーイも納得するって寸法よ」

 納得した顔に成る女将。

「なるほどね。ところでこないだ言っていた決断ってもしかして、この方法をさしてたのかい?」

 頷くクーパ。

「そう、あのままじゃ問題あったから、本格的に旅人目当ての町になるか、今回の方法を使って、副収入に留めるかの決断の必要があったんだよ」

 女将が笑顔で言う。

「これで良かったんだよ。今の町が一番普通で」

 頷くクーパが席を立つ。

 その背中には、殆ど材料費で仕入れた、大量の高級竹細工が背負われる。

「また機会がありましたら」

 その町を去るクーパ。



 今回の報告書を書くウドンとオシロ。

「結局、今回の一件ってなんだったんだろう?」

 オシロの言葉にウドンが溜息を吐いて言う。

「クーパが、不必要に騒動を起こして、沈静化されたそれだけの事件だ」

 オシロが少し考えてから言う。

「もしかしてクーパって思いっきりトラブルメーカー?」

 ウドンが机を叩き言う。

「それ以外の何だって言うのだ! 俺は、まともなロ親衛隊の仕事をしたいぞ!」



 悲しいかな、ウドンの願いが叶うには、もう少し時間が必要になるのであった。

戦闘シーンも少量でした。

取敢えず、ウドン達はもう暫く帝都には帰れそうも無いです。


次回は、内乱の兆しが漂う町にクーパがやって来た。

何の因果か、国政に不満を持つ集団と関係を持つことに成るクーパ。

このまま、ロと敵対する道を選んでしまうのか?

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