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レッドな火の調和竜

帝国南方にある湖、クレーコ


 クレーコに隣接する町で、珍しく比較的まともな商売をしたクーパ。

「やっぱ中央から離れた所は、お客様もピュアだね。元値の三倍でも、あまり見聞きしない北の商品が売れるんだもん」

 比較的にまともな商売であった。

 そんなクーパが宿の一階にある酒場に食事しに降りた時、酒場では喧嘩が始まっていた。

「お前なんかが、火の調和竜様の御遣いになれるわけねーんだよ!」

「お前みたいな下品な男こそ火の調和竜様の御遣いに相応しくないな」

 大柄の筋肉隆々の男と高そうな服を着た男が睨みあっていた。

 クーパは大して気にせず、カウンターに座って言う。

「本日のお勧めお願いします」

 亭主が奥の店員に指示を出して言う。

「ノンアルコールもあるぞ」

 クーパは笑顔で言う。

「サービスだったら頂くけど?」

 亭主は、喧嘩している客を一瞥して言う。

「五月蝿くしてるわびだ。何が良い?」

「果実ジュースをお願い」

 クーパの言葉に亭主が、手近にあったビンの中身をグラスに注ぎ、クーパに出す。

「この辺りの名産のクレーコリンゴのジュースだ」

 クーパはそれに口をつけながら、口喧嘩から掴み合いに移行している二人を見る。

「あれって何日くらい続くの?」

 亭主は、グラスを拭きながら答える。

「明後日には嫌でも解決する。今日と明日だけ我慢してくれ」

 その言葉にクーパが納得する。

「詰まり、祭り関係の言い争いって訳だね。この程度の喧嘩だったら祭りの一部って所だね」

「そうでもないのよ。今年だけわね」

 料理を持ってきた女将が、喧嘩している二人を見ながら続ける。

「祭りでは火の調和竜様の御遣い役をやる人間が選ぶ大会があるんだけど、例年は多少競争があっても最後にはお互い納得していたし、また来年に挑戦すれば良いって事になるんだけど、どこかの馬鹿が今年の御遣い役を誰がやるかを賭けちゃったのよ。それが加熱して、職人代表のバードルさんと守備隊代表のクラーダさんのどっちがなるかで町が二分化してるの」

 クーパはお勧め料理らしい、湖の魚の焼き魚セットを口にしながら言う。

「日頃から対立していた人間達が、これこそ決着をつける時だって、止まらなくなったって訳だね?」

 頷く女将。

「このままどちらかに決まっても、恨みを残すだけなんだけどね?」

 遂に周囲の人間を巻き込んだ殴り合いになった喧嘩を見ながらクーパが言う。

「他の有力候補は、居ないの?」

 女将が肩を竦めながら言う。

「御遣い様には、戦いで決めるの。あの二人は、代表に選ばれるだけあって、喧嘩が強いのよ」

 クーパは筋肉隆々男、バードルの豪快な力技と上品な服を着たクラーダの洗練された技を見て言う。

「確かにあれだけの実力持ってる人間の相手は、素人には無理だね」

「今年の御遣い様は、飛び入り参加選手にならないかしらね」

 女将のぼやきにクーパが驚く。

「飛び入り参加なんて大丈夫なんですか?」

 女将は頷く。

「まーね。一番強い人を選ぶ試合だからね。予選から出ないといけないから、大変だけどね」

「御使いになると何か特典あるんですか?」

 クーパの眼が光る。(効果です)

「御遣いとしてのお仕事のお礼として、湖でとれるクレーコ真珠の売り物にならない小さいのを一袋分だよ。それ目当てで腕に覚えがある観光客が参加する事があるけど、たいてい予選で負けるね。本職が参加するには、ちょっと魅力が足らないから飛び入りには期待できないね」

「なるほど、クレーコ真珠だね」

 計算に入るクーパであった。



 自分の部屋に戻ったクーパが、胸のペンダントに居る、キキに話しかける。

「確かクレーコ真珠って輝石術には、有効なんだよね?」

 キキがテレパシーで返す。

『ああ、しかし小さい奴は、あまり高く売れないぞ』

 頷きクーパが言う。

「まーね。でもあいつ等を相手にするレベルだったら、十分な報酬だと思うよ」

『あまり目立つ真似は、勧められないぞ』

 キキの忠告にクーパは気楽に答える。

「大丈夫だよ、こんな田舎の祭りに、あちきの関係者が参加する訳ないもん」

 キキは、少し間を空けてから答える。

『何か気に掛かる事があるのだがなー』

「気にし過ぎだって。それより、普通に売るより加工して売った方が有効だよねー」

 クーパは賞品をどれだけ高く売るかの検討を始めるのであった。



 火の調和竜の御遣いを決める大会が始まった。

 エントリーしたクーパは、大会委員から配られた、協議用の竹刀を受け取り、説明を聞く。

「火の調和竜様の御遣いには、強い戦闘力と精神力が求められます。皆さんにはそれを競ってもらいます。勝負は、どちらかがギブアップするか、大きなダメージを受けたと審判が認めた時に負けですので、皆さん頑張ってください」

「「「おー!!」」」

 竹刀を振り上げる参加選手達を見てクーパが言う。

「意外と荒っぽい大会だね」



 クーパの初戦。

 相手は、クーパと同じ飛び入り参加の選手で、そこそこ良い体をしていた。

「直ぐにギブアップした方がいいぜ!」

 ぶんぶんと竹刀を振る相手を見てクーパは頬をかいている間に審判が開始の合図をする。

「試合開始!」

「いくぞ!」

 おもいっきり振り上げられる竹刀。

 クーパは高速で踏み込み、胴に打ち込みを決める。

 一発で地面をのたうち回る相手。

「勝者、クーパ」

 審判の言葉に会場から歓声があがる。



 当然といえば当然の様にクーパはあっさり予選を通過して、町民が選んだ代表者が出てくる決勝に駒を進めた。

「多少は心得があるみたいだが、俺は一発や二発受けたくらいでは倒れないぜ!」

 バードルがそう宣言して、竹刀を構える。

 クーパは、笑顔で答える。

「だったら数十発決めるね」

「その前に俺の一発が決まったらお終いだ!」

 バードルが返答する。

「試合開始」

 審判が開始の合図でバードルは意外にも、小さな構えで、防御体制をとった。

「少しは、考えたみたいだね、竹刀の攻撃だったら多少食らっても平気だから、攻撃で隙が出来た相手に自分のフルパワーぶつける。並みの相手だったら有効かもね」

 クーパは無造作に近付くと、目にも止まらない連続の打ち込みを放つ。

 攻撃が止まった時、意識を失ったバードルが倒れた。

「勝者、クーパ」

 有力選手の敗北に会場がざわめく。



 準決勝、クーパの相手はクラーダであった。

「その剣術、正式に習ったものですね?」

 頷くクーパ。

「あちきは、旅の商人だけど、うちは、代々剣士の一族だからね」

 クラーダは、竹刀を構えて言う。

「私も正規に剣術を習得したもの。年下の女性に負ける訳にはいきません」

「試合開始」

 審判の合図にも関らず、両者とも動かない。

 無駄な先手は自分がふりになる事を知っているからだ。

 そして、沈黙が苦しくなった時、クラーダが動く。

 常人には、目にも止まらない踏み込みからの高速の打ち込みだったが、クーパはそれを受け流し、カウンター的に竹刀を打ち込む。

 その一撃にクラーダはあっさり手を上げる。

「私の負けだ」

 その瞬間、町を二分にしていた賭けが無駄になったのであった。



「最後の決勝戦に勝ってクレーコ真珠貰うぞ!」

 クーパが会場に出たとき、思わず息を呑んだ。

『只者じゃないぞ』

 ペンダントのキキの言葉にクーパは頷く。

 クーパの相手は、赤髪の少年だったが、そこから噴出されるプレッシャーは並では無かった。

 相手の少年はクーパに笑顔を向けて言う。

「下らない賭けを無効にする為に出たんだけど、まさか君が、輝石剣士が出てくるとは思わなかったよ」

 その言葉にクーパは本気で驚いた。

「どうしてあちきが、輝石剣士だって解ったの?」

 相手の少年は、クーパの腰の短剣モードの蛇輝を指差して言う。

「それを見れば一発だよ」

 クーパは油断無く竹刀を構えようとしたが、少年は首を横に振る。

「試合は僕の負けで良いよ。だけど一手相手して貰うよ!」

 少年が握っていた竹刀が燃え上がり、炎の剣と化す。

「本気を出してくれるかい?」

 クーパも蛇輝を抜き、手を添える。

『我が戦いの意思に答え、我が前に戦いの姿を示せ』

 戦いの姿に変化した蛇輝の柄にサファイアを当てて唱える。

『サファイアよ、その力、氷の力を我が剣に宿せ』

 蛇輝に氷を纏わせるクーパが、油断無く構える。

 周囲はいきなりの展開に驚くが、少年は、炎の剣を振るう。

 クーパは氷を纏った蛇輝でそれを防ぐ。

「さすがは、輝石剣士、僕の炎の剣を受け止めたのは賞賛に値するよ」

 少年は、鍔迫り合いをしながらそう言うが、少年とは思えない力にクーパは返事が出来ない。

「力比べは、ちょっと酷かな?」

 少年は、大きく一度飛び退く。

 チャンスとばかりに蛇輝を地面に突き立てるクーパ。

『サファイアよ、我が声に応え、真の力、氷結の力を解き放て』

 蛇輝の氷の力が増加する。

氷結波ヒョウケツハ

 蛇輝を中心に冷気の波が広がり、触れるものを凍らせていく。

「足止めのつもりかもしれないけど、その程度の冷気は効かないよ!」

 少年は剣の一振りで、迫って来ていた冷気を粉砕する。

 クーパは、少しだけ驚くがすぐさま、ガーネットを取り出し、蛇輝の柄に当てる。

『ガーネットよ、その力、熱の力を我が剣に宿せ』

 見た目は、変わらない蛇輝で、斬りかかるクーパ。

「熱を持っただけの刃では、氷の刃の時と違って、反発が生まれず、炎の剣を受け止められないと思うけどな?」

 少年が余裕たっぷりな態度で、炎の剣を振るう。

「当たらなければ良いんだよ!」

 相手の炎の剣の間合いに入らないところで、蛇輝を振るうクーパ。

 両者の剣が触れた所で、クーパは蛇輝の軌道を変えて突きに変化させる。

点熱突テンネツトツ

 クーパの突きは、蛇輝の刀身自体は、少年に触れる事は無かった。

 しかし、収束された熱が突きと共に放たれて、少年を襲う。

「なんの!」

 炎の剣を持つ逆の手を突きの熱に向けると、そこから凄まじい炎を発生させた。

「さっき自分で言ったんだよ、熱では炎を止められない。逆に熱は、炎の熱を吸収してパワーアップして通過する」

 少年が吹っ飛ぶ。

 クーパは、油断無く構えた状態で少年の動きを監視する。

 今の一撃で倒せたとは、とうてい思えないのだ。

 その予想通りに少年は平然と立ち上がる。

「さすがに今のは、驚いたな」

 クーパが次の一手を考えていると胸のペンダントのキキがテレパシーを放つ。

『ひさしぶりだな。火の調和竜』

 さすがのクーパもその一言に驚く。

「うそ、あの子って火の調和竜な訳!」

 キキのテレパシーが聞こえなかったが、クーパの言葉が聞こえた、周囲のギャラリーが驚く。

 少年は頭を下げる。

「本当ひさしぶり、キキ。さっきも言ったけど、僕の御遣いを決める為に、必要以上に争いになってるから鎮めに来たんだけど、必要なかったね」

 少年は、竜の姿に変化して続ける。

『忘れないでくれよ、僕は調和竜の一つ、不要な争いは好まない。相手を否定せず、高みを目指しなよ』

 そのまま炎を纏い、湖に消えていった。

 その後の騒動は物凄かった。



「キキは、最初から気付いてたんでしょ?」

 火の調和竜の御遣いの衣装を着ながらクーパが言う。

『あれには、何度もあった事があるからな』

 キキが当然とばかりに言った。

「それにしても盛り上がってるね」

 部屋の外から聞こえる活気にクーパが言う。

『今まで伝説と思っていた火の調和竜が実在して、その姿を現したのだ、当然だろう』

 クーパも頷いた後に言う。

「所で、火の調和竜が居たって事は残りの竜も実在するの?」

『言っておくが私もそれと同レベルの存在なのだぞ』

 キキの言葉にクーパが言う。

「始祖たりし、偉大なる神の養女に仕える者、輝石蛇キセキジャ。輝石剣士の中でも、一部の人間以外には、伝説としか残ってないもんね」

 着替え終え、最後に眼鏡を外すクーパ。

「火の調和竜の像の口にある玉を、中央から来た、名も名乗らないお偉いさんに渡せば役割も終わると」

 のんきに会場に出て、問題のお偉いさんを見た時、クーパは、固まる。

 そして、問題のお偉いさんの隣に居た、クーパの兄弟子でもあるバンもクーパを見て、慌ててアイコンタクトで隠れろと合図する。

 クーパは祭りの関係者に近寄り言う。

「すいません、ちょっと急用が出来たんで、御遣い様の役を交代する訳にはいきませんか?」

「駄目に決まってるだろう! 急いでるんだったらさっさとあれをとって、都のお偉いさんに渡してきなよ」

 大きく溜息を吐くクーパにキキが言う。

『思い出した。皇帝の役目の一つに、この祭りの様な、調和竜の祭る祭りの参加なんて言うのがあった筈だ』

 恨めしそうな顔でキキの宿るペンダントを見ながらクーパが言う。

「そういうことはもっと早く思い出してよ」

 クーパが最後の希望を込めて確認するが、都から来たお偉いさんは、皇帝のロに間違いなかった。

 そして、ロもクーパに気付いてしまう。

「クーパじゃないか?」

 その一言に、頭を抱えるクーパとバン。

 今にも席を離れてクーパの所に向かおうとするロにバンが言う。

「ロ様、祭りの最中です。いくらロ様でもそれを邪魔する事は許されません」

 少し不満げな顔をするが、皇帝としての職務を理解してるのかロが頷く。

 クーパは、バン達、ロの側近からの冷たい視線を堪えながらも、火の調和竜の像の口から、その力を宿したと言われる玉のレプリカを取り出して、ロの前に進み、伝統の台詞を言う。

「尊き、調和竜の分け身なりしが一つ、火の調和竜様と帝国の信頼の証とし、この玉を汝に授ける」

 ロは、久しぶりの生クーパに本気で嬉しそうな顔で受け取り、こっちもお決まりの台詞を言う。

「ありがたき幸せ。この玉の輝きが失われぬ限り、我等の信頼は失われないことでしょう」

 早足でその場を離れるクーパ。

 人気が無い所に出たところで、ウドンとオシロが居た。

「どういうことだ?」

 ウドンの責める視線と一緒に来る質問にクーパが言い訳をする。

「知らなかったんだからしょうがないじゃん。まさか、ロがこんな田舎の祭りに参加するなんてだれも思わないよ!」

 オシロが頷く。

「本当だね。なんでこんな田舎の祭りに参加するんだろう」

「そんなことはどうでも良い。陛下から逃げてる身でそんな事をやってるんだ!」

 ウドンのもっともな意見にクーパは、視線を逸らしながら言う。

「ちょっと揉め事になってたから、解決の為に仕方なくだったの」

 疑いの眼差しを向けるウドン。

「本当だよ」

 熱弁するクーパの後ろから、さっき相談に行った祭りの関係者が、クーパに近寄ってきて、袋を渡して言う。

「これは、約束の賞品だよ。問題があった参加者を準決勝までに倒してくれたのには大変感謝しているよ」

 ウドンの視線が零下に達した。

「言い訳はもう済んだか?」

 クーパは袋を手早く受け取ると着替えに走る。

「あちきは、祭りが終わる前に町を出るから、後はよろしくね!」

 大きく溜息を吐きウドンが言う。

「この後は大変だぞ」

 オシロが頷く。



 祭りの後、この周囲で一番豪華な宿の奥で、ロが暴れていた。

「どうしてクーパを引き止めておかなかったのだ!」

 バンは、頭を下げて言う。

「親衛隊の者を向かわせたのですが、クーパの決心も強く、強硬手段で逃げられてしまいました」

「「申し訳ありません」」

 ウドンとオシロが頭を下げる。

「今すぐ追いかけろ!」

 ロの言葉にバンがあっさり頷き、ウドンとオシロの方を向き、指示を出す。

「陛下の命令は絶対。遂行しろ」

 ウドンはバンと視線を合わせる。

「この命に代えましてもその役目を果たして見せます」

 その場を出るウドンとオシロであった。



 少し離れた所にある宿の前でウドンが止まる。

「何してるの、バン様の命令を護る為に、急がないと!」

 オシロの事態を理解していない言葉にウドンが溜息を吐いて言う。

「馬鹿が、バン様の視線を見て解らなかったのか? 今回の任務は、失敗しろと物語っていた。適当に数日探索してから戻れば良いんだ」

 オシロが不満そうに言う。

「それだと、またお叱りを受けるの?」

「諦めろ、間違っても連れて行くわけにはいかないんだからな」

 ウドンは諦めの極致の発言をし、オシロが肩を落として言う。

「暫く、バン様に会えないのかー」

 皇帝陛下の恋愛事情に振り回される、悲しいロ親衛隊の二人であった。

うーん、今回は、戦闘メインでした。

基本的クーパは、奇数が商売メインで、偶数が戦闘メインになる予定です。

次は、寂びれきった町にやってきたクーパ。

町興しをする事になったりします。

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