ゴールドな絆の協力者
貿易都市、ルードト
「がんばって稼ぐぞ!」
元気いっぱいのクーパであった。
「売れない……」
酒場でうなだれるクーパであった。
「嬢ちゃん、新人だね?」
近くで商売していた商人の男性が声をかけて来たので無言で頷くクーパ。
「残念だけどここじゃ、嬢ちゃんつけた値段では、おのぼりさんしか買わないよ」
「これでもがんばった金額なんですけどね」
遠い目で告げるクーパ。
「まーね、地方だったら十分売れる値段だと思うけどね。ここは諦めて買いに徹底するのも一つの手だよ」
親切な商人の言葉にクーパが元気なく頷くのであった。
商人の助言通り、貿易都市ルードトでしか手に入らない品物の買出しに勤しむクーパ。
「これから南の竜が住むと言われる湖があるクレーコに行くから北の格安品を買うのが常套手段だね」
値段とにらめっこするクーパ。
そこに一人の女性が駆けてくる。
ぶつかると思ったがそこは、輝石剣士でもあるクーパ、あっさり避ける。
その為、勢いを殺し切れず、品物の山に突っ込む女性。
重い沈黙が辺りを支配する中、クーパが関係ないふりをしながらその場を離れようとした。
「見ていたぞ」
地の底から聞こえてくるような台詞にクーパの頬を冷や汗が垂れて行く。
「どうしてくれる?」
商人の男が詰め寄るとクーパが反論する。
「あちきは、関係ない。弁償だったらそこの女性に請求してよ!」
「同罪だ!」
色々あり、弁償金は半額ずつ出す事になった。
「大損だよ、これじゃろくな仕入れも出来ない」
クーパが愚痴をこぼしていると、さっきクーパにぶつかりかけた女性が現れる。
「ここに居た、探していたのよ」
その言葉にクーパはそっぽを向く。
「何の用か知らないけど、余計な出費が増えるから近づかないでくれる」
その女性が含みのある表情をして近づいて来る。
「お金儲けしない?」
その一言にクーパの耳が微かに動く。
「明確な犯罪はやらないよ」
クーパの答えに満足した様にその女性が言う。
「思った通りの性格ね。相手が勝手に誤解するだけだったら問題ないと思わない?」
クーパがあっさり頷く。
「嘘を吐かなくて良いんだったらね」
そして二人は結託する事になった。
「今回のターゲットは、大金持ちの貿易商人。まるっきしの成金男。商才があって金はいっぱい持ってるから、次はステータスだと金を湯水の如く使っているお馬鹿」
女性、ナイスバディーで、大人っぽいがまだ18歳の自称夢売人のギリナ=シロサが宿屋の個室で説明を始めた。
「そーゆー馬鹿に何を高く売りつけるの?」
勝手知ったるなんとやらでクーパが聞くと嬉しそうに頷きギリナが言う。
「皇族の人間が使っている、陶器セット」
首を傾げるクーパ。
「それって少し説得力に欠けない。どうせなら断罪された貴族が使っていたって思わせた方が良くない?」
「こっちには、奥の手があるのよ」
余裕たっぷりな表情でギリナが出したのは、皇族の血縁の証であるペンダントであった。
「それどうしたの?」
少し驚いた顔をしてクーパが言った。
「ギャンブルで勝った時に手に入れたパチモノよ」
それに頬を掻くクーパ。
「それって少し危ないね」
頷くギリナ。
「そうだね、持ってるだけでも下手すると捕まりかねないけど、今度の仕事が終わったら捨てるわ。そして今回の仕事も一回で勝負を決めるわ。その分金額も少なめになるけど、余計なリスクを負う必要はないからね」
少し悩んだ顔をしてからクーパが言う。
「そうだね、リスクは小さいほうが良いね」
その夜、クーパが部屋で荷物を探ってると胸の輝石に宿るキキが話しかけてくる。
『本気でやるのか?』
頷くクーパ。
「金稼がないと商売続けられないもん」
『金の事ならバンに頼めば殆ど制限なしに出すぞ』
キキの言葉に苦笑するクーパ。
「だろうね、バン兄もあちきが帝都から移動し続ける為だったら、お金を流してくれるね」
『施しは受けないと言いたいのか?』
首を横に振るクーパ。
「やってみたいだけだよ、自分の力でどこまでやれるか。詐欺紛いだろうが、これもあちきの力だと思うからね」
『あまりそんな力は付けて欲しくはないがな』
キキの台詞に苦笑するクーパ。
「戦うだけが人生じゃないよ」
「意外だわ」
心底驚いた顔をするギリナ。
「まさかあんたが、先の皇后様に似てるなんて」
目深にフードをした眼鏡を外したクーパが苦笑する。
「結構面倒なんだよ、眼鏡で顔を隠さないと目立って」
ギリナが不思議そうな顔をして言う。
「その顔だったら、男の方から貢いで来るんじゃない?」
クーパは、ギリナの胸を揉みながら言う。
「そっちこそ、そのスタイルだったら、男が捨てておかないでしょ?」
視線を合わせて笑いあい、腹を押さえながらギリナが言う。
「お互い、男に養って貰うなんてつまらない生き方できないって事だね?」
頷くクーパ。
そうこうする間に目的の屋敷に到着するクーパとギリナであった。
「勝負だよ、クーパ!」
「絶対に勝つ!」
「それでは、そちらのお方が先の皇后陛下の親族にあたると言うのですか?」
問題の金持ち、ネモチ=オオガの言葉にクーパは、答えず、その付き添い役を演じるギリナが頷く。
「はい。高貴な身分故、詳細はお話しできませんが、姫様のお顔を見ていただければ納得していただけると思います」
その言葉にネモチは、先程までフードで隠されていたクーパの顔を凝視する。
「確かにミーナ様にそっくりだ。しかし、その様なお方が何故ここに?」
本人は隠しているつもりだろうが、思いっきり疑いの目でギリナ達を見るネモチ。
ギリナは辛そうな表情をして言う。
「全ては、私が悪いのです。姫様の大切なお金を預かりながら、すられてしまうなんて」
クーパは軽く首を横に振ると大げさにギリナが嘆く。
「そんな、自分が無理言ってお忍びの旅をしたいと言った所為だと言われるのですか? なんと慈悲深いお方のでしょうか」
手で顔を隠し、仕込んでおいた目薬を使い、涙を演出するギリナ。
「それは大変お困りでしょう」
作り笑顔を浮かべるネモチの手を握りギリナはその豊満な胸を押し付けながら言う。
「そこで紳士で町の名士と名高いネモチ様に、旅の途中使っていたこのティーセットを買っていただきたいのです」
困惑するネモチ。
「しかし、何故私なのですか?」
ギリナは尊敬の眼差しでネモチを見る。
「それは、町で評判だったからです。貴方がこの町で一番物の価値が解る人間だと」
その一言にネモチの自尊心がくすぐられる。
「そんな噂があるのかね?」
ギリナが強く頷いて、告げる。
「はい。誰もが貴方に憧れています」
クーパの胸元のキキが常人には、聞こえない心の声でぼやく。
『確かに、あんな無駄な大金の使い方を一度はしてみたいって言っていたな』
「そうか、そうか」
有頂天になっているネモチに心の中でガッツポーズとりながら、哀願するギリナ。
「どうかお願いします。このティーセットを二十ダイヤコイン(約200万)で買って下さい」
ネモチは、鷹揚に頷き言う。
「陛下の親族の窮地、ご協力しましょう。ですが、さすがにそれだけの金額、用意に時間がかかります暫くお待ち下さい」
ネモチは別室に移動して爆笑する。
「よく、あんなミーナ様にそっくりな人間を見つけて来たもんだな。にしても良く集まる、こんな偽者のペンダントを配っただけなのにな」
ネモチは、ギリナが持っていたのと同じペンダントを弄びながら邪な笑みを浮かべる。
「馬鹿な連中だ、皇族の偽称は死罪。それをネタに一生奴隷にしてやる。とくにあの侍女のふりをしてる女はいい体をしてたな」
いやらしい顔になり涎を拭うネモチであった。
「これで何個目よ!」
怒鳴るオシロに、不機嫌そうな顔で、ウドンが言う。
「四個目だ。随分命知らずが居るものだな」
ロの親衛隊の二人がルードトに居るのは、皇族の血縁者の証であるペンダントのレプリカが相次いで発見された為だった。
到着から二日目でこの状況な事にかなりのボルテージが上がっていた。
「これを作っている奴を見つけたら、生まれた事を後悔させてやる」
ウドンの言葉にオシロも怖い顔をして頷く。
「これでよろしいのでしょうか?」
ネモチは気前よく全額を支払う。
ギリナは袋の中身を即座に確認したい欲求を我慢しながら言う。
「感謝いたします。このお礼は必ず」
ギリナが去ろうとした時、ネモチが作り笑顔で尋ねる。
「すいません、最後の確認ですが皇族の血族の証を見せてもらえまませんか?」
その言葉に、急く気持ちを抑えてギリナが言う。
「了解しました。姫様すいませんがペンダントをお貸し下さい」
クーパは、自分の胸下からペンダントを出してギリナに渡す。
それを見て獲物が掛かった事を確信し、ネモチの口の端が吊り上がる。
受け取り確認するふりをしてからわざとらしく驚く。
「これは!」
ギリナの顔が引きつり、ネモチがギリナ達を睨む。
「まったくの偽者では無いか! 私を騙すつもりだったんだな!」
その言葉にギリナが必死に頭を巡らせている間にクーパが逆にネモチを睨み告げる。
「何を根拠に偽者だと言われるのですか?」
初めて聞くクーパの綺麗な声に驚きながらもネモチが自分のシナリオ通り台詞を吐く。
「本物は、中央の竜の周りに居る、四匹の竜の一匹が他と逆向きに首を曲げています。これは全部同じ方向です!」
その一言に青ざめるギリナだったが、クーパが肩を竦めて、お姫様モードを解除して、ペンダントを奪い返して言う。
「あんたが、偽者のペンダントを配ってる大元だね?」
痛い所を突かれ為か一歩だけ後退するが、反論するネモチ。
「何を根拠にそんな事を言うんだ!」
クーパは無言でペンダントを突きつける。
「そんなペンダントがどうした!」
怒鳴るネモチにクーパは冷静に一言。
「風の竜の首がちゃんと逆向きになってるよ」
その一言が信じられないのか凝視するネモチとギリナ。
「でも確かにあたしが手に入れたペンダントは、全部同じ方向だった筈よ?」
ギリナがもう芝居を忘れて聞くとクーパが頷き言う。
「うん。あちきが見たペンダントもそうだったよ。でも気になったのであちきが別口で手に入れたペンダントを使ったの。それなのにそこのおっさんはギリナのペンダントが偽物の証明を指摘してきた。それって何を意味してるか明白だよね?」
ギリナもネモチを睨み言う。
「なるほどね、偽物のペンダントをばら撒いて、それを悪用しようと自分の所に来た奴等の弱みを握って良い様に扱使っていたって訳だね」
ネモチが歯軋りをして怒鳴る。
「ただで帰れると思うな! 腕の一本や二本折っても良いから掴まえろ!」
隣の部屋から駆けつけてくる用心棒の男達。
「騙した奴が切れて暴れた時の用心に、腕っ節が強そうな奴等集めてたな!」
ギリナが怒鳴るが、用心棒の男達は、いやらしい笑みを浮かべる。
「犯っちまっても良いのか?」
「掴まえた後は、もうまともに考えられない位にしてやれ」
ネモチの言葉に歓喜の叫びを上げる用心棒達。
クーパを庇う様に立ちギリナが小声で言う。
「あたしが囮になる。一人で逃げな」
それに対してクーパが笑顔で答える。
「こんくらい一人で相手できますよ」
クーパは、蛇輝を抜き、手を添える。
『我が戦いの意思に答え、我が前に戦いの姿を示せ』
戦いの姿に変化した蛇輝を構えるクーパ。
姿を変える剣に用心棒達が危険を感じたのか躊躇するとネモチが苛立ち怒鳴る。
「あの剣が万が一にマジックアイテムだとしても、相手が小娘二人、どうにでもなるだろうが!」
用心棒達もそう判断して斬りかかるが、幼少から専門の訓練を受けた、輝石剣士の血筋のサラブレッドのクーパとは通常のやり取りでも天と地程の差があり、軽くいなされる。
「一気に決めるよ!」
クーパは、ダイヤモンドを取り出して蛇輝の柄にあてる。
『ダイヤモンドよ、その力、光の力を我が剣に宿せ』
光の力を宿した蛇輝を振り上げるクーパ。
『光波斬』
次の瞬間、ネモチの屋敷の屋根を貫いた光の衝撃波が用心棒を蹴散らした。
「さっさと歩け」
騒ぎを聞きつけて来たウドン達が、偽のペンダントを作った犯人としてネモチを掴まえて連行しようとしていた。
「そいつ等も犯罪者だ! 陛下の血族だと名乗ったんだぞ! 偽のペンダントも持ってるから調べてみろ!」
ネモチの死なば諸共の悪足掻きにギリナが舌打ちをする。
「往生際が悪い奴!」
それを聞いてオシロがクーパのペンダントを見て驚いた顔をして言う。
「クーパって皇族の血族の証のペンダントなんて持ってたんだ」
クーパは肩を竦ませて言う。
「ミーナ叔母様に旅に出るなら万が一の用心に持っていけって渡されたの。ガキ扱いされてるよね」
「実際ガキなんだからミーナ様が心配なされても当然だ。バン様が前回の事もあるからって護衛つけた方が良いかもしれないとおっしゃっていらしたぞ」
ウドンの言葉に嫌そうな顔をしてクーパが言う。
「それは絶対お断りだって言っておいて」
そんなやり取りを見てネモチが怒鳴る。
「何を言ってるんだ、あの娘達を捕まえないのか!」
ウドンは溜息を吐いて言う。
「今の話を聞いて居て解らなかったか? クーパは、ミーナ様の姪、つまり陛下の従兄妹だから血族の証のペンダントを持っていても何の問題は無い」
その言葉に、その場に居た全員が驚くのであった。
「それじゃあそいつ等よろしくね」
そんな中、クーパはギリナを連れてその場を離れるのであった。
「しかし、本当にミーナ様の姪だったなんて驚きね」
着替えに戻った宿屋の食堂で食事をしながらギリナが言う。
「色々あって帝都に居られなくなってね」
眼鏡をつけて、食事をするクーパだったが、手を差し出す。
「何?」
首を傾げるギリナにクーパが告げる。
「あのティーセット売ったお金の半額は、あちきの取り分だよね?」
舌打ちするギリナ。
「気付いてたか」
渋々あの騒ぎの中でも確り確保していた、ティーセットの代金の半額をクーパに渡すギリナであった。
「これで仕入れが出来るよ」
そんなクーパの言葉を聞いて軽く微笑みギリナが立ち上がり言う。
「今回はこんなになったけど、また機会があったら一緒に組みましょ」
クーパが苦笑をしながら言う。
「そん時は、もっと普通の相手の商売にしてよね」
頷き去っていくギリナを見送るクーパであった。
今回は、基本に戻り、クーパは実は偉い人の関係者だったんだネタです。
でも内容的には、詐欺のお話以外の何でもありませんね。
ギリナは珍しいナイスバディーキャラですが、結構気に入っています。
次は、今回少し出てきた、南の竜が住む湖が舞台になる予定。