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ブラックな視界に迷わぬ槍使い

帝国東北部にある、交易の町、ハルハスン

 帝都の宮殿の上告の間。

 ロの前に、貴族と農民が居た。

「陛下、聡明な貴方様でしたら、説明するまでも無い事だと思われますが。帝国に収める為、今回の税のアップが仕方ない事なのです」

 貴族の言葉に、ロの隣で控えていたバンが貴族に聞こえないように呟く。

「占領された元王が、以前と同じ生活が出来ると思うのが間違いなのだ」

 ロが苦笑をしながら頷く。

「貴方の意見は、解った。次に人民達の意見を申せ」

「愚民の意見など聞く必要はありません! この私の意見が全てなのです」

 貴族の言葉に農民が憎しみの視線を向けるが、ロは、落ち着かせる顔で言う。

「万人に意見を聞くことにしている」

 そして、農民が緊張しながら答える。

「今までより高い税など、納められません! おら達の土地は、何時も洪水に襲われ、疫病が発生するんだべ」

 貴族が農民を睨む。

「身の程を弁えろ!」

 農民が何か言い返そうとする前にロが告げる。

「解った。帝国の財力で、治水工事を行い、病院を設立しよう。技術支援も行う。それなら納税の増加も可能だろう」

 そして、その場は、収まり、元国王の貴族と農民が去った後、バンが言う。

「敗戦国の王に甘すぎないか?」

 ロが肩を竦めて言う。

「治水工事し、病院も設立する。高度な技術共に知識を与えれば、領主を選ぶことも出来る。さて、奴等は、無能な元王と我等、どちらを選ぶと思う?」

 バンが顔を引き攣らせる。

「まさか、最初からあの領土を取り上げるつもりなのか?」

 ロが笑顔で告げる。

「幾らでも税金を上げてくれれば良い。それだけ他の領主をつけた時に税金を下げた時に好感度が上がる」

 バンが冷や汗を垂らしながら言う。

「しかし、今の利権を持っているものが黙っていると思うのか?」

 ロが、数枚の約定書を見せる。

「大商人の方は、もう手を打ってある。他の現行の権力者で使えそうな人間には、使者を出す予定だ。無能な奴等には、領主共々、反乱で散ってもらう。これで、帝国に好意的な領土が一つ増える」

 ロは、余裕たっぷりの態度で、上告の間を離れる。

 一部始終を聞いていたロ親衛隊隊長、カン=ミホクが言う。

「心強いお方だ」

 バンが苦々しく言う。

「完璧すぎる。やはり、ロ様には、欠点が必要なのかもしれない」

 カンは、不満げに言う。

「今更、妹は、嫁がせないぞ」

 ロンの兄でもあるカンの言葉にバンが頷く。

「解っている。クーパでなくても良い。とにかくロの判断を迷わせる程の女性を妃に迎えないと、調和竜様が動き出すぞ」

 カンが肩を竦めて言う。

「無理に探させず、クーパを妃にすれば良いだろう。陛下もそれを望んでいる。多少の騒動は、起こるが、陛下の力を考えれば大した問題には、ならない」

 バンが遠くを見て言う。

「クーパも皇太后様も反対しているのだ、無理は、出来ない」

 カンが自信たっぷり告げる。

「クーパの方は、任せろ。あいつも武人だ、手は、打った」

 バンが眉を顰める。

「何をした?」

 カンが胸を張って説明を開始する。

「刺客を放った」

 バンが頭を押さえる。

「何を考えているのだ、今更、クーパを殺しても意味は、無いぞ」

 カンが手を横に振る。

「刺客といっても勝負を挑むだけだ。勝ったら、城に戻らせる。武人として、勝負の結果には、従うだろう」

 バンが複雑な顔をする。

「確かにクーパも武人だが、自分の分を心得ている。勝てない相手が居る事くらい理解している。無駄な勝負は、しないと思うがな」

「そこは、任せておけ、向こうも勝負を受けないとならない状況にする。そういうことに長けた人間を手配してある」

 カンが自信を持って答えるのであった。



「やっぱり、高級ワインの樽用の木材は、高く売れた」

 嬉しそうに言うクーパであった。

「そういう詐欺紛いの事は、止めて欲しいのですが」

 ミッドの言葉に、クーパが肩を竦ませて言う。

「こうでもしないと儲けが無くってね」

「だったら、帝都に戻れば良いだろうが」

 ウドンの投げやりな発言に、クーパが睨む。

「帝都には、変態が居るから近づかないよ」

「それは、困りましたね」

 その声にクーパが振り返ると、そこには、色々裏で画策をしていた男、ヤペ=ハヤシが居た。

「よく、あちき達の前に顔を出せたね?」

 クーパが睨むとウドンも剣の柄に手を当てる。

 ヤペは、間合いを外して言う。

「新しい主の命令でクーパ様を帝都へお戻り願うための工作に来ました」

 大きく溜息を吐くクーパ。

「あちきの堪忍袋だってそれ程大きくないよ、今度、汚い真似をすれば、殺すよ」

 ヤペが笑顔で答える。

「今度は、正々堂々勝負して貰います」

 そう言って指を鳴らすと、一人の槍使いが現れる。

「ソーレ先輩!」

 ウドンが声をかけると、その槍使いが答える。

「久しぶりだな、ウドン、オシロ」

「ロ親衛隊の人?」

 クーパの質問にオシロが答える。

「そう、親衛隊の中でも、魔術なしの戦闘では、兄さんの師匠、ダレナ=コイツに次ぐ実力者だよ」

 ヤペがソーレの後ろに隠れながら言う。

「彼、ソーレ=ヤーレンと戦って負けたら帝都に戻って頂きます」

 クーパが肩を竦める。

「どうしてそんな勝負を受けないといけないの? あちきは、もう商人。負けたって失うものは、無いよ」

 ヤペが笑顔のまま答える。

「だからです。この勝負を受けてもらえなければ、免許が取り消されますよ」

 顔を引き攣らせるクーパ。

「どこをどうしたらそうなるの?」

 ヤペがあっさり答える。

「ハクセイでの件は、クーパ様が陛下の親族って事で大事にならなかったのですよ。しかしながら、クーパ様がその関係を否定なさるのでしたら、あの件で、免許を取り消しになる可能性もありますよ」

 クーパが歯軋りする。

「同じ手は、二度と使わないでね!」

 ヤペが頷く。

「陛下の名にかけて」

 そしてクーパとソーレの対決が決まった。



「勝負は、三日後にしたけど、勝ち目あるの?」

 オシロの言葉にクーパがウドンを見る。

「実際の所、どう思う?」

 ウドンが少し悩んでから答える。

「普通の剣と槍の戦いなら、間違いなく勝ち目が無い。そういうわけで接近戦は、無理だな。勝機があるとしたら、試合直後に、大技を決める事だが、そういった意味では、槍は、剣の何倍も難しいぞ」

 クーパが難しい顔をする。

「それは、理解してるよ。戦場で最速の武器といえば、飛び武器を抜かせば槍だもん。一応、槍の対処法は、色々あるけど、そういった手って同格か、格下相手の時にしか使えないもんだよ」

「俺は、ソーレ先輩に、槍の指導を受けた事があるから、練習には、付き合うぞ」

 そんなウドンの袖を引っ張りミッドが小声で言う。

「何で、クーパ様の手助けするのですか? 相手は、先輩なのでしょう?」

 ウドンが嫌悪を前面に出して答える。

「あいつ、ヤペにだけは、手柄を立てさせたくないんだ」

 大きく溜息を吐くミッドであった。



「正々堂々と戦おう」

 ソーレが槍を構える。

『我が戦いの意思に答え、我が前に戦いの姿を示せ』

 クーパも刀に変化した蛇輝を構える。

「審判は、俺がやらせてもらいます。問題ありませんね」

 ウドンの言葉に両者が頷く。

 そしてウドンが手をあげる。

「試合、開始!」

 クーパが更に間合いを開けながら、蛇輝にオニキスを当てる。

「させるか!」

 ソーレが高速の踏み込みによる槍で一気に間合いを詰める。

『オニキスよ、その力、闇の力を我が剣に宿せ』

 クーパは、蛇輝に闇の力を宿らせると同時に、目標も付けずに力を振るう。

闇幕舞アンバクブ

 視界を遮られてもソーレは、動揺しない。

「輝石剣士の弱点は、なんだと思う?」

 ソーレの言葉にウドンが答える。

「詠唱ですか?」

 ソーレが頷く。

「輝石剣士は、輝石術と剣術を合わせ、高い攻撃力を持ち、単独で多数の敵と戦う事が可能、まさに実戦を想定したものだ。しかし、一対一の対決に対しての技が圧倒的に少ない。こういった試合においては、純粋な武具に長けた我等の方が有利」

 微かな気配を元にソーレが槍で突く。

『我が戦いの意思に答え、我が前に連撃の姿を示せ』

 クーパの呪文と共に、槍に巻きつくように蛇輝が伸びて、先端に残った刀身がソーレの首筋に当る。

 それに合わせる様に、闇が晴れ、二人の姿が確認される。

 ソーレの槍は、蛇輝に巻きつかれて動きが止まって居た。

「クーパの勝利で構いませんね?」

 ウドンの言葉にソーレが頷く。

「最初に短剣から刀に変化させた時点で、この可能性を考慮しなかった私の完敗だ」

 ソーレがあっさり負けを認めるとヤペが残念そうに言う。

「今回は、失敗しましたが、次は、勝てる人を連れて来ます」

 去っていくソーレとヤペを見送りながらクーパが言う。

「絶対にまた来るね」

 オシロが意外そうな顔をして言う。

「でも、ハクセイの件は、もう大丈夫なんでしょ?」

 ウドンが嫌そうな顔をして言う。

「あの野郎は、人の弱みにつけこむ事だけは、上手そうだから、違う取引条件を見つけてくるぞ」

「あの人が頑張れば、私の仕事も終ってくれるので、成功して欲しいです」

 嫌そうな顔をする一同の中で唯一、ミッドだけは、小声で応援するのであった。

やたら情けない姿が多いロの皇帝としての計算高い恐ろしい性格を出しました。

帝国の為になると思えば民を騙す事も平然とする、クーパ以外は、絶対に敵に回したら行けない存在です。

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