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ワインレッドな笑みの役人

帝国東北部にある、貴族直轄領の町、バルンドス

「うーん、ここってワイン以外、名物無しか」

 クーパが商品の買出しを行っていた。

 その横に居たオシロが言う。

「だったらワインを取り扱えば良いじゃん?」

 クーパが肩を竦めて言う。

「酒は、薬と同じ扱いだから特殊な免許が必要なの。それより、何時まで付いて来るつもり? ロンの件が片付いたから護衛の必要が無くなった筈だよ」

 逆側に居たウドンが答える。

「一度、帝都に戻るつもりは、無いか? 陛下が前回の件で謝罪したいと申されている」

 クーパが睨む。

「二度と視界に入らないでって答えておいて!」

「陛下だって反省されています。だから」

 ウドンの言葉にクーパとオシロが冷たい視線を向ける。

「もしかして、ウドンもそっちの趣味があるの?」

「そういえば、お兄ちゃんも浮いた噂一つ聞いたことも無かったっけ。隠れて……」

「違う!」

 ウドンが力の限り否定する。

「あのー流石に、陛下の趣味を全面否定するのは、問題あると思うのですが」

 ウドン達に同行してきた文官、ミッド=リーの言葉にクーパが遠くを見て言う。

「男って皆、あんな恐ろしい趣味をしてるのかな」

 ミッドが慌てて言う。

「あれは、陛下のクーパ様への一途な思いの表れです」

 クーパがミッドの肩を叩き言う。

「それじゃあ聞くけど、付き合っても無い女性が自分そっくりな人形使って、そんな事をしてたらどう思う?」

 ミッドがはっきり答える。

「それだけ私の事を思ってくださっているのかと感動します」

 一歩後退するクーパとオシロにミッドが続ける。

「男性は、女性と違って、処理をしていかないと溜まってしまうのです。その解消法として、クーパ様を裏切らない方法としてしょうがない選択肢だったのです」

 クーパが頭を掻きながら言う。

「男性側の気持ちは、置いておいて、勝手に汚されていたあちきの気持ちを考えて無かったって事だよね?」

 ミッドが少し躊躇しながら言う。

「それは、陛下は、クーパ様に知られないで済む自信が、あったからだと思います」

 クーパが頷く。

「ロは、そういうところあるね。もしあちきと付き合い始めたら、ロは、あちきには、絶対汚いところ見せない。全てをあちきの知らない内に片付ける。一人で汚れを背負う。でも、あちきは、ロのそういうところ嫌い」

 ミッドが困った顔をする中、オシロが言う。

「でもどうして、いきなり方針が変わったの? 今までは、陛下とロン様を結婚させようとしていたじゃない?」

 ミッドが複雑な顔をしていると、クーパが答える。

「幾つかの要因が考えられるけど、調和竜様の予言が一番大きいと思う。それに、ロの権力が大きくなりすぎているのも問題の一つだね」

 更に首を傾げるオシロにミッドが諦めた顔をして言う。

「現在、陛下の意見に逆らえる人間は、居ません。全ては、完璧すぎる陛下の皇帝としての行動にあります。一部の例外を除き、完全に公人としての態度を通し、政治は、清濁両面で優れています。非の無い陛下に逆らうだけの力を持った人間は、いません。一番の問題は、陛下が他人の意見を真摯に聞くことによって、暴君と言えず、発言力を削る理由にならないのです」

「ロに従ってれば、確実に飴を手に入れられる。そんな空気が宮殿には、あるの。度が過ぎる利益を求めない限り、ロに逆らう理由が無いのが、誰も動かない理由。清廉潔白とは、いえないけど、文句の出ない皇帝。国民が誰もが望む姿。でも、それって宮殿の人間の理想では、無い。簡単に言えば、自己主張がし辛い宮殿は、権力者達にとっては、居辛いの」

 クーパの言葉にウドンが溜息混じりに言う。

「国民の誰もが望む、賢帝が、宮殿では、疎まれる。難しい話」

 強く頷くミッド。

「だからこそ、弱点が必要なのです。そこをフォロー又は、突けると思われて居れば、宮殿の人間も動けるのです。そんな状態ですから、陛下の隙を作るためにも、クーパ様にもお戻り頂きたいのです」

 クーパがはっきり答える。

「とにかく嫌! それこそ、頑張って代わりの人間を探すのが筋だと思う。その方が権力を握れると思うけど」

 ミッドが複雑な顔をして言う。

「同時進行で進んでいますが、成果は、今のところゼロです。逆に陛下から、政略結婚を勧められて、隣国や有力貴族との橋渡し役にされています」

 そんな会話をしながら、歩いていると、一人の女性がクーパにぶつかる。

「すいません」

 そのまま逃げようとする女性の腕を掴んでクーパが言う。

「このままだと逃げられないよ」

 青褪める女性にクーパが言う。

「追われているのは、手に持ったワインだよね。もしかして、献上ワイン?」

 女性が驚いている間に、数人のガラの悪そうな男がやってくる。

「その娘を渡せ! 大人しく言う事を聞けば痛めは見ないで済むぞ!」

 逃げようとする女性をミッドに押し付けてクーパが言う。

「そっちの素性を説明して。それで納得できたら渡すよ」

 男達は、舌打ちして剣を抜く。

「邪魔だ!」

 クーパは、ウドンの肩を叩く。

「任せた」

 ウドンもあっさり頷き、剣を抜く。

「どんな事情があるか知らないが、事情を説明できない者達に女性を引き渡す事は、出来ない」

「一人で何が出来る!」

 男達は、一気におそいかかるが、当然、ウドンがあっさり叩きのめす。

「覚えてやがれ!」

 気絶した仲間を背負い、逃げていく男達。

 女性が驚いた顔をしてクーパ達を見る。

「貴方達は、何者ですか?」

 クーパが苦笑しながら言う。

「謎の行商人とその仲間って所。事情くらい説明してよね」



「ありがとうございました」

 女性、マドラ=イナが案内した酒問屋の主人、ドーワイ=ザーバが頭を下げる。

「別に構わないけど、今更、献上ワインで揉め事が起こるってどういうこと? 確か、今年の献上ワインは、もう決まってると思ったけど?」

 ドーワイが頷く。

「はい。しかし、少しイレギュラーが発生したのです。今年の献上ワインを審査した役人の一人が、賄賂疑惑で更迭されたのです。その為、再度献上ワインを審査する事になったのです。そして、前回、役人に賄賂を渡していたと思われるヤダ屋が、今度は、確実に勝つために、こちらのワインを奪い取ろうとしているのです」

 クーパが呆れた顔をする。

「随分直接的な手段で来たね。でも、賄賂を持った役人が居たのに関らず、選ばれたワインだったら、確実だと思うのも納得できるね」

 ドーワイが肩を竦ませて言う。

「樽や店には、警備をつけていたのですが、献上用のワインを店に運ぶ間を狙われるとは、思いませんでした」

「無用心ですね。一番狙われやすい箇所ですよ」

 ミッドの言葉にマドラが首をふる。

「ドーワイさんを攻めないで下さい。父さんが一番いいワインだと太鼓判を押したワインを一刻も早く見せようとあたしが勝手にやった事なの」

 クーパが頷き言う。

「なるほどね。事情は、あらかた理解できた。後は、用心してれば大丈夫だね」

「はい。これも皆様のおかげです」

 ドーワイが頭を下げる。

「これからは、気を付ける事だ」

 ウドンがそう言って店を出ると、クーパ達も後に続く。

 歩きながら、クーパが言う。

「今の話、聞いた事ある?」

 ミッドが頷く。

「はい。少し前に、献上品の審査に不正があった事が判明した為、その審査方法の一新を行い、発覚したトラブルです」

 クーパは、少し思案してから言う。

「ねえ、もしかして、ここの貴族って樽の材料になる木の森を持ってない?」

 ミッドが戸惑いながら頷く。

「はい。ここのワインの味の秘訣とも言われているのが、その上質な木ですから」

 クーパが微笑む。

「中々面白い仕入れが出来そうだね」

 そんなクーパを見て、オシロが言う。

「何か悪巧みをしてる顔だ」

 嫌そうな顔になるウドンを見て、ミッドが言う。

「どういう事ですか?」

 ウドンが苦虫を噛んだ顔をして言う。

「これからトラブルが発生するって事だよ」



 それから数日後、領主がバルンドスの町に訪れた。

 その立会いの下、ホーク帝国の役人が献上ワインの審査を開始する。

 町一番のイベントに、観客が集まる。

 その中、大半の町人が、ドーワイが献上したワインが勝つ事を予測した。

 しかし、勝ったのは、ヤダ屋のワインであった。

 それを見ていたオシロが首を傾げる。

「どういうこと? こないだの作戦失敗したんじゃないの?」

 ミッドが嫌そうな顔をして答える。

「役人を抱きこめるのでしたら、審査の献上ワインを誤魔化す事も可能だったって事ですよ」

 クーパが頷く。

「多分、自分達の持ってきたワインの瓶は、空にしておき、ドーワイさんの献上したワインを入れたんだよ。掏りかえて、後で発覚する危険性を考えたら、少しは、頭を使ってるね。審査を行う役人に、また賄賂を渡しておけば、選ばれる確率は、かなり高かった筈だよ」

 クーパが指すワイン瓶は、他の瓶より明らかに少なかった。

「でも、そんな事をしても、本当に献上するワインを出した所で解るんじゃないの?」

 オシロの当然の疑問にクーパが首を横に振る。

「残念だけど、無理。献上品は、今日最後に、領主が一杯飲んだ後、帝都まで決して開けられる事は、無い。そんな無礼な事をしたら即、首を切られる。献上されたワインも、不味くても、それが、実際にここで審査されたワインかどうかが解らないって寸法だよ。正直、長い目でみたら、帝都で悪印象を持たれて、デメリットが多い作戦だけど、そんな先の事まで考えてるとは、思えない」

 ウドンが剣に手をあてて言う。

「ここで、問題を明確にするのか?」

 クーパが聞き返す。

「この場で、どっちのワインが注ぎ足されたかを証明する方法ある?」

 ウドンが言葉に詰まるとクーパが笑顔で言う。

「勝負は、献上ワインの出発の式典の時だよ」



 翌日、町の広場には、献上用のワイン樽が帝都から来た役人に渡された。

 その様子をヤダ屋の主人は、満足そうに見、ドーワイとマドラが悔しそうな顔で見ていた。

「絶対おかしい。ヤダ屋のワインが父さんの作ったワインより美味しいわけないわ!」

 マドラの言葉に対してヤダ屋の主人が勝ち誇った顔で言う。

「負け犬の遠吠えとは、見苦しいですよ」

 更に反論しようとするマドラをドーワイが抑えて言う。

「審査の結果ですから仕方ありません。来年がんばりましょう」

 無理に笑顔を作るドーワイに、マドラが唇を噛み締めるしか出来なかった。

 帝都に向けて役人が荷馬車に鞭を入れた時、その前にクーパが立ちふさがる。

「ちょっと待った!」

 それを見た、ヤダ屋の人間が主人に言う。

「あいつ、邪魔した奴です!」

 ヤダ屋の主人が舌打ちして怒鳴る。

「邪魔させるな! ついでにこの間の借りを返してやれ!」

 その言葉に答える様に、こわもての男達が一斉にクーパに向かう。

「ウドン、オシロ、少し懲らしめてやりなさい!」

 仁王立ちするクーパの後ろからウドンとオシロが出て、ヤダ屋の男達と戦う。

 その間にクーパは、ゆっくり荷馬車に向かう。

 そして、荷馬車を警護する兵士が槍を向けてくる。

「止まれ!」

 それに対して、クーパが答える。

「あちきは、その献上ワインを飲みたいだけだよ、邪魔しないで」

 受け取りに来た役人が献上ワインの前に立ち塞がりいう。

「ふざけるな! その娘を斬れ!」

 兵士達がクーパに襲い掛かる。

 クーパは、蛇輝にオパールを当てる。

『オパールよ、その力、土の力を我が剣に宿せ』

 クーパは、地面に蛇輝を突き刺す。

土縛陣ドバクジン

 土が盛り上がって、兵士達を捉える。

「輝石剣士だと!」

 驚いた顔をする帝都の役人だったが、それでも必死にワイン樽を護ろうとする。

 そこにミッドが駆け寄る。

「ワインを飲ませて構わないのだ」

 ミッドに気付き、帝都の役人が聞き返す。

「ミッド、どういうことだ? これは、陛下に献上する大切な品だぞ!」

 ミッドは、小声で言う。

「このお方は、あのクーパ様だ。クーパ様の願いだとしたら、陛下も納得なされる」

 帝都の役人は、慌てて叫ぶ。

「誰か急いで、グラスを持って来い。このお方に献上ワインをお飲みいただくのだ」

 意外な展開に困惑する周囲を他所に、クーパは、ワインを飲み、式典に出ていた領主に告げる。

「このワインは、献上ワインに相応しくありませんよ。もう一度、飲んで確認して下さい」

 領主が困惑するが、帝都の役人が慌てて、別のグラスにワインを注ぎ、領主に渡す。

「ご確認をお願いします」

 領主も戸惑いながらもワインを口にした瞬間、グラスを地面に叩き付ける。

「ヤダ屋! これは、どういうことだ! こんな出来損ないのワインを陛下に献上させるつもりだったのか!」

 顔面蒼白になるヤダ屋。

「これは、何かの間違いです!」

 土下座をするヤダ屋を睨みつけながら領主が言う。

「陛下への献上品に間違いが許されると思っておるのか! 献上品の審査は、やり直しだ!」

 クーパが騒然とする広場から帝都の役人を連れて領主の休憩所に向かう。

「今回の事は、ヤダ屋に不正行為があったのですよ」

 半ばそれに気付いていた領主がクーパを探るような目で見て言う。

「それは、間違いないだろうが、献上品のワインを飲んだお主は、何者だ?」

 帝都の役人が慌てて近づき、耳打ちするすると、領主が確認する様にクーパを見るので、クーパは、眼鏡を外して、その顔を見せると、領主も納得した顔になる。

 そして、罰の悪い顔をする、領主と帝都の役人に対してクーパが言う。

「今回の件は、あちきが、献上品のワインを無理やり飲もうとして駄目にしてしまった。だから献上が遅れたという筋書きで如何ですか?」

 意外な提案に驚く帝都の役人。

「そうなれば、我々の責任は、問われないと思いますが、本当に宜しいのですか?」

 それに対して、クーパが少し困った顔をして言う。

「確かに、お詫びをしない訳には、いかないでしょうね。そうなるとやはり新しい別個のワインを陛下に送るのが妥当だと思うのですが、それに相応しい樽を作る材木を持っていません」

 変な方向に進む話に困惑を深める領主を見てクーパが質問する。

「ところで、ここでは、ワイン樽にするのに良い木の森があるそうですね? もしかして、陛下に献上するのに相応しい材木がありませんか? 売ることが出来るほど?」

 領主が頷くと、帝都の役人は、何が言いたいのかを理解した。

「領主殿、我々としても無関係では、ありません。せめて、ワインを入れる樽の材木を売れる程、融通してもよろしいのでは、ないのでしょうか?」

 領主もここに来て、何も請求されているのかを理解する。

「当然の事、樽の材木でしたら、お譲りします。幾らでも言って下さい」

 クーパが済まなさそうな顔で言う。

「そんな、ただで頂くわけには、行きません。ですから、二十樽分をこれだけで」

 そう言って、出した金額は、市価の半額以下の金額だったが、領主もかるく頬を引き攣らせながら言う。

「もちろんですよ」

 そして含みがある笑い声があがるのであった。



「あのヤダ屋は、潰されたけど、結局、貴女は、何者なの?」

 町の出口でマドラが質問すると、クーパが笑顔で言う。

「だから、謎の行商人とその仲間ですよ」

 そして、町を出て行くクーパ達であった。

おもいっきり当初のプラン、水戸黄門形式が強く出ました。


次は、戦闘の回です。

ボンとの対決プラスアルファーって感じです。

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