ホワイトな決意の輝石剣士
帝都バー
「タイミングが悪かったかね」
蛇輝に付いた血を振り払い、クーパが呟く。
『確かにな、あんな大事の後に、帝都に戻れば、例の件を密告する為に来たと思われても仕方ないな』
ペンダントのキキの言葉に肩を竦めて、後ろに倒れている、傭兵達を見る。
「将軍に気付かれないで使える戦力だと、これが限界だね」
殺気を感じたクーパが大きく横に跳ぶ。
しかし、飛んだ所で、空気の塊の直撃を食らう。
血反吐を吐くクーパ。
蛇輝を杖に代わりにしながらも立ち上がり、クーパが言う。
「まさか、貴方が不意打ちしてくるなんて思わなかったよ」
クーパの視線の先には、ロン側に属する輝石剣士、ボンが居た。
「お前が、帝都に戻り、陛下に襲撃の件を話せば、ロン様が処刑される。そんな事は、絶対させない!」
鳥輝にダイヤを当てる。
『ダイヤよ、その力、光の力を我が剣に宿せ』
輝く鳥輝が、空中に華麗な光のアートを描く。
全身から血が噴出し、地面に倒れるクーパ。
「……光陣舞。天才と言われた使い手でも、習得するのは、鍛錬を始めてから二十年は、居るといわれている技なのに、なにが貴方をそこまでさせるの?」
極限の剣技に、全身から脂汗を垂らすボンが答える。
「ロン様は、僕の人生、全てを懸けられる人だからだ。僕は、二度も失敗をした。そして、今回の様な事も考えられたから、特訓に特訓を積んだ。正直、何度も死ぬかと思った。しかし、ロン様の幸せの為に何も出来ずに死ねない。その思いだけで特訓をやり遂げた」
クーパが複雑な顔をして尋ねる。
「愛してるの?」
ボンは、一瞬の躊躇いもせずに答える。
「世界を滅ぼしても構わないほどに」
キキがペンダントから語りかける。
『ここは、任せろ。あの強い思い。今のお前では、勝てない』
クーパは、出血で力の入らない体にむちを打って立ち上がる。
「あちきは、この世界を、ホーク帝国を護りたい。帝都に居た時は、知らなかった、色々な物を、事情を持ってる人達。そんな人達を護る為にあちきは、戦う!」
蛇輝に大粒のオパールを当てる。
『オパールよ、その力、地の力を我が剣に宿せ』
蛇輝を地面に突き刺して宣言する。
「まともな勝負で勝てると思えないから、この一撃に全てを懸ける!」
ボンもそれに答えるようにルビーを鳥輝に当てる。
『ルビーよ、その力、炎の力を我が剣に宿せ』
炎を巻き上げる鳥輝。
ボンが飛び上がる。
『炎鳥翼斬』
鳥輝が炎の翼を生み出し、両側からクーパに迫る。
クーパは、蛇輝を振るいあげる。
『地蛇撃斬』
大地が捲りあがり、蛇と化して、ボンに迫る。
空中で、炎の翼と土の蛇がぶつかりあう。
「僕は、負けない!」
「あちきだって、負けない!」
二人の最後の気迫が込められた時、両者の力がはじけ飛ぶ。
「最初に言っておくけど、あちきが立ってられるのは、このペンダントの加護のおかげだよ。威力は、蛇輝の力でなんとか互角だった」
クーパが胸のキキが入ったペンダントを見せる。
「まだだ、僕は、もう負ける訳には、行かないんだ!」
全身に大火傷を負い、もう動く事すら、死に繋がりそうなボンが立ち上がろうとする。
そこにロンが現れる。
「もう止めて!」
いきなりの登場に驚くボン。
「どうして、ロン様が?」
クーパがロンの出て来た茂みを見て言う。
「懲りてなかったの!」
そこには、ヤペが包帯を巻かれた手をあげて言う。
「懲りています。だから、こうやって不幸な結果になる事を防ぎにきたのですよ」
ロンが涙ながら言う。
「ボン、これ以上無理をしないで。解って居たの、あの腐れ女を殺した所でロ陛下の心は、私の物にならないことなんて」
きっちりクーパを睨むロン。
クーパが視線を逸らすなか、ボンが言う。
「しかし、あの娘がロン様の事を陛下に密告すれば、貴女の命が?」
ロンが笑顔で答える。
「その時は、一緒に逃げて、私を護って。その為に今は、生きて」
ボンが強く意思を込めて答える。
「この命に代えましても、ロン様には、傷一つ付けさせません」
いい雰囲気に居場所をなくしたクーパがヤペに近づき言う。
「あんた、大臣を見限ってこっちに付くつもり?」
ヤペは、極々当然の様に答える。
「私は、元々、ガン=ミホク将軍の部下ですよ」
呆れた顔をしてクーパが言う。
「解った。見逃してあげるけど、ボンの治療は、ちゃんとしてね」
ヤペが頷く。
「当然ですね。ロン様の傍に居る限り、将軍の保護が受けられますからね」
「それが目的な訳ね。これ以上の邪魔をしないんだったら良いけどね」
クーパが宮殿に向かって歩みを再開させるのであった。
「お前は、馬鹿だろ?」
ロの側近で、クーパの兄弟子、バンの言葉に視線を逸らしながら言う。
「そんな事は、ないと思うけど」
バンがきつい視線を向けて言う。
「傷だらけのお前を見たら、ロが理性をなくして何するか解らなくぐらい想定しろ」
傷を見えないように誤魔化して貰ったクーパが立ち上がり言う。
「気を付ける。でも、ロに直ぐ会いたいんだけど、どうにかならない?」
バンが首を横に振る。
「無理だ。今は、重要な思案があると言って、誰も入れない部屋に篭っている」
「それでも会いたいの。会わないといけないの!」
クーパの強く主張した時、皇太后、ミーナがやってくる。
「何があったの?」
クーパが地の調和竜に言われた事を伝えると、二人は複雑な顔をする。
「調和竜様の予測が間違っているという事は、ありませんかね?」
バンの言葉をミーナが否定する。
「調和竜様の知識は、神々から授かったものよ。外れるのを、期待するのは、サイコロで一を出さないで、百回振るより難しいわ」
クーパがはっきり言う。
「あちきは、どちらが正しいかなんて解らない。だから、自分の気持ちをはっきりさせる為に、ロに会いに来たの」
ミーナが小さく溜息を吐く。
「解った。自分の気持ちをはっきりさせて来なさい」
クーパが頷く。
クーパの胸は、激しく高鳴っていた。
相手が自分の事を好きな事を知っている。
しかし、自分の思いは、解らなかった。
それが、帝国の運命を左右すると思うと、中途半端な決断が出来ないと、意気込み、ロが誰にも踏み入れさせない部屋の扉を開けた。
「あちきは、二度と帝都、特に宮殿には、近づかないからね!」
クーパの言葉に、ミーナは、真剣な顔をして言う。
「それが良いわ、幾ら息子とは、いえ、あんな変態を、大切な姪と結婚させられない」
「二人とも、帝国の運命がかかった事ですから、少しは、冷静に判断して下さい」
バンが庇うと、傍に居たバンの恋人で、ロのメイド、ムーメが冷淡な顔をして言う。
「庇うと言うことは、まさか、貴方も、同じ様な事をしてるの?」
一気に周りの人間から冷たい視線を浴びるバン。
「違う! 俺は、あんな変態な事は、しない!」
そして、クーパが再び帝都をあとにするのであった。
「……クーパに嫌われたかな?」
自分の執務室に態々きたロの言葉に、バンがあっさり答える。
「これ以上ないくらいに嫌われたな。ここを出る前までは、立場を考えての遠慮があったと思うが、今は、完全に虫以下の扱いだぞ」
バンに詰め寄るロ。
「どうして、あの部屋にクーパを入れたんだ! 誰も入れるなと、言ってあっただろうが!」
バンが遠い目をして言う。
「常人は、誰もお前が一人であんな事をしているとは、考えない」
ロが頭を抱えて言う。
「男だったら、性欲処理くらいするだろう? 他の女性を抱くより、よっぽど良いと思わないか?」
哀願するように言うロに対して、バンが断言する。
「だからといって、特注で作らせたクーパの等身大人形で自慰してるのを目撃したら、ひくぞ」
「戻ってきてくれ、クーパ!」
力の限り叫ぶロを周りの女性は、冷たい眼差しで見る。
何故、知れ渡っているかというと、ロは、クーパが衝撃の現場を目撃した直後に、去っていくのを、問題の人形を持ったまま追いかけてしまった。
その為、宮殿中に知れ渡ったのだ。
図らずとも、地の調和竜が求めた、欠点を暴露する結果になったロであったが、その人生に大きな穴が出来た事は、否定できないのであった。
前半は、思いっきりハードで攻め、後半は、オオボケを入れました。
予告していましたけど、ロの自爆ボケを予測できた人は、いるのかな?




