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グレーな経歴な少女

 片田舎の紙の生産で有名なパピリスの町



「いらはい、いらはい!」

 背が低いが元気が爆発している、髪を三つ編みにして、分厚い眼鏡をかけた少女が、客の呼び込みをしていた。

 少女の前には、帝都では流行遅れと格安で売られていたアクセサリーの類が並べてあった。

「帝都で大流行したアクセサリーがどれでもオニキスコイン一枚(約千円)でーす」

 周囲の客が疑わしそうに言う。

「本当ですか?」

 その質問に少女が輝石術を応用した映像保存・投影アイテム、夢月石ムゲツセキを使って、空中に一人の女性の映像を映すと、周りの女性が驚く。

「これって前皇帝の御后様のミーナ様ですよね!」

 大きく頷く少女。

「そうよ! よく見て、若いミーナ様が着けてるのがこれ等のアクセサリーですよ!」

 周りの女性客が一斉に群がる。

「買った!」

「あたしにも売って!」

「それはあたしのよ!」

 慢心の笑みを浮かべてアクセサリーを売っていく少女であった。



「さっきの何?」

 町の食堂で食事をとる先ほどの眼鏡の少女に、14歳くらいのロングヘアーの大人びた少女が声を掛ける。

「さっきのって?」

 眼鏡の少女が首を傾げるとロングヘアーの少女が言う。

「時代遅れのアクセサリーを帝都の流行みたいに言って売りつけた事よ!」

 机を叩き抗議をするロングヘアーの少女に眼鏡の少女は平然と答える。

「嘘はついてないよ、流行してたのは本当だからね。まー流行が過ぎたのに気付かずに大量生産して在庫がだぶついてたのを格安で手に入れたけどね」

「詐欺師!」

 ロングヘアーの少女の文句を聞き流しながら次の商売を考える眼鏡の少女であった。



「なんでついて来るの?」

 食事を終えて、食堂を出た眼鏡の少女が嫌そうに言うと、ロングヘアーの少女が答える。

「また詐欺を働かないように見張ってるのよ!」

「暇ねー」

 呆れた口調で言う眼鏡の少女にロングヘアーの少女が言う。

「あたしは、オシロ=コーナ。貴女の名前は?」

 苦笑してから眼鏡の少女が言う。

「こういう場合は、先に名前聞いて、あちきに『先に名乗るのが礼儀でしょ』って言わせるのがお約束だと思うけどな」

 オシロは溜息を吐きながら言う。

「下らない事を言っていないで、名前は?」

 眼鏡の少女が言う。

「クーパ、クーパ=ホーだよ」

「珍しい苗字ね」

 オシロの言葉にクーパが頷く。

「まーね。でもうちの親戚には、短い苗字が多いんだよ。何でも偉いご先祖様の苗字が短かったからって話だよ」

 オシロは、その言葉に何か引っ掛る用に首を傾げる。

「何か似たような話を聞いたことがあるんだけどな」

「まー親戚全部の話だから、あちこちではなしされてるんじゃない?」

 平然とクーパが言う。

「でも何か、凄く大切な事だった気が…」

 オシロの気がクーパから離れた。

「それじゃあまた機会があったら」

 クーパは重い荷物を持ったまま、近くの家の塀に飛び移り、そのまま屋根伝いにオシロの視界から消える。

「嘘? たかが旅の商人の身のこなしじゃないわよ」



「それで、お前は逃げられたのか?」

 オシロに良く似た少し年上の男性の質問にオシロは、渋々頷く。

「でもー、ウドンお兄ちゃん」

「任務中は、ウドン先輩と呼べ!」

 怒鳴る、オシロの兄、ウドン=コーナ。

「すいません。でも、あれだけの体術だと、輝石術師のあたしには追いかけるのは無理だよ」

 大きく溜息を吐くウドン。

「にしても、陛下に献上する紙の受け取りの為、側近である、バン様がいらっしゃる時に、そんな身元もしれない人間が居ると言うのは、かなり危険だな」

 その言葉にオシロも頷く。

「名前も嘘っぽいし」

「とにかく捜索をかけるぞ」

 ウドンは、そういって手配書を作成しようとした時、一人の男性が現れる。

 整った顔立ちと言う事ならウドンもそこそこだが、彼は、若さが前面に出てしまっているが、現れた男性は、まだ20前だと言うのに、ある種の風格を持っていた。

 鍛えこまれた肉体を持ち、しかし不要に筋肉がついていない。

 腰に佩いた大型の刀がその男性が一流の剣の使い手である事を物語っている。

「どうしたんだ?」

 ウドンとオシロが慌てて敬礼をする。

「ロ親衛隊の新人、オシロ=コーナが不信な少女の商人を見つけたそうです」

 ウドンの報告に、男性に見惚れていたオシロの方を向き、その男性が告げる。

「どんな、少女だ」

 オシロは慌てて答える。

「眼鏡をかけた、三つ編みの年頃は、私よりも下だと思われます、クーパ=ホーと名乗っていました」

 その男性、驚いた顔をする。

「クーパと名乗ったのだな?」

「はい、バン様」

 オシロが戸惑いながら答えると、その男性、バン=セが言う。

「その子は、大丈夫だ。私の親戚だ。ホー家の人間で、特殊な事情があって旅の商人をやっている」

 バンの答えに、引っ掛っていた原因を思い出すオシロ。

「短い苗字の知り合いが多いって、皇家側近の輝石剣士の一族の特徴って説明されてたんだ」

「バン様の目の前だぞ」

 ウドンの注意に慌てて口を塞ぐオシロ。

「ただし、皇帝陛下にはクーパと会った事は決して話してはいけない。これは徹底するように」

 バンの言葉にウドンが戸惑うが頷く。

「了解しました」



 オシロを振り切ったクーパは荒稼ぎをした後、宿屋のある酒場で夕食を取っていた。

「本当に良いの!」

 酒浸りになった男の前に立つ16歳位の一人の少女の言葉に、男はへべれけのまま答える。

「良いんだよ、俺は元、町一の紙職人だからな!」

 少女は反論する。

「父さんは、今も最高の紙職人よ!」

 その言葉を聞いてクーパの眼鏡がキラリと光る。(効果です)

 男の傍により、クーパが言う。

「あのー商売のお話しをしませんか?」

 クーパの言葉に、男が言う。

「何だって言うんだ、元町一番の紙職人の紙なんて売れないぜ」

 クーパは首を横に振る。

「冗談は止めてくださいよ、貴方の、パピオ=パーシの作った紙だったら、そんな肩書きが無くても売る方法が幾らでもありますよ。売れてないんだったら大量に有るんですよね?」

 少女が頷く。

「はい。本当に買って下さるのですか?」

 クーパは、勝負どころと見定めて、サファイアコインを十枚(約五十万円)を少女に渡して言う。

「前金で支払います。これであるだけ売って下さい」

 その言葉に、目を白黒させる少女だったが、男、パピオはクーパを見て言う。

「本気か? うちにどれだけの紙があるのか解ってその金額をだしているのか?」

 首を横に振るクーパ。

「全然。でも貴方も一流の職人ですから、金額にあった紙を足らなければ作ってくれるでしょ?」

 その一言に、大笑いするパピオ。

「気に入った。今は工房には、その半分に見合う枚数しかない。これから作ったとしても普通の物では時間が掛かるだろうが、特別に最高の紙を作ってやるぞ。どうせ使い道が無くなった材料だ」

 少女が驚く。

「あれは、皇帝陛下に献上する為の紙を作る為に取っておいた材料じゃない!」

 パピオは肩を竦めて言う。

「皇帝陛下に紙を献上するのは、町一番の紙職人の仕事だ。今の俺は違う」

 クーパは笑顔で言う。

「商談成立だね」

 パピオは立ち上がり言う。

「そうと決まったら帰るぞ。仕事があるのに酒を飲んでるわけには行かないからな。パピリそれで勘定を済ませておいてくれ」

 少女、パピリは頷き、亭主に溜まっていた借金を含めてお金を渡した。



 翌日、クーパは紙の受け取る為に、パピオの工房に来ていた。

「感謝すべきですよね。どんな状態でも父さんが仕事をする気になってくれたんだから」

 少し寂しげにパピリが言うと、クーパは、肩を竦めて言う。

「どうせ不正があったんでしょ?」

 パピリが頷く。

「献上用の紙の審査に来た役人がお金を掴まされて居たんです。それで負けてから、仕事が極端に減って、父さんは酒浸りになったの」

 呆れた様にクーパが言う。

「ここの商人も馬鹿ばっかりだね。町一番なんて称号なんて、通用するのは極々一部。献上品を作った人間の作品だって言ってもそれを立証するのは難しい。本当に大切なのは、紙の質。特に良い物を使い慣れた貴族に対して質が劣る紙なんて渡した日には、即座に取引中止もあるっていうのにね」

 クーパは受け取った紙の一枚を天にかざす。

「この紙の質。わかる人には解る。これだったら、通常ルートには、流れない最高の紙が欲しいって人間に売り込めばかなりの儲けね」

 含み笑いをするクーパ。

「そんな物なんですか?」

 パピリが不思議そうな顔をすると頷くクーパ。

「まー職人は知らなくて当然なんだけど、最高の物って一般ルートにはまず流れないの。一部の特権階級の人間が独占しているから、それを手に入れようとすると元の数倍の値段が必要なの」

 驚いた顔をするパピリ。

 そこに数枚の紙を持ってパピオがやってくる。

「これが俺の作れる最高の紙だ」

 それを受け取りクーパが頷く。

「確かに、皇帝陛下に献上された紙に劣らない質だね」

 その言葉にパピオが首をかしげる。

「どうでも良いがどうしてそれが解るんだ?」

 クーパは頬をかきながら答える。

「旅の商人をやっていると色々あるってことですよ」

 そこに数人の男達がやってくる。

「まーだパピオに仕事をやる奴が居たのか?」

 その態度にクーパが大きな溜息を吐く。

「お約束な展開だわ。こーゆーのは何処でも変わらないんだね」

「俺の客には手を出させねえぞ!」

 パピオがクーパの前に出ようとしたが、クーパは腰の短剣を抜いて言う。

「さっさと帰りな、あちきも無駄な体力は使いたくないの」

「なんだと、舐めるなガキ!」

 男が棍棒を振り上げる。

「危ない」

 パピリが叫ぶが、クーパは体を少しだけずらすだけで避けて、棍棒を持つ手に飛び乗り、短剣の柄で男の即頭部を打つ。

「よくもやりやがったな!」

 そう言って、刃物を抜いて斬りかかって来る男達だったが、クーパは短剣で刃を受け流して、同時に肘や蹴りを決めて蹴散らしていった。

「覚えていやがれ!」

 逃げていこうとする男達の一人に短剣を突きつけてクーパが言う。

「覚えるの面倒だからここで殺していい?」

 その一言に男達は止まる。

「いや、単なる決まりごとの台詞なんて無視してくれてもいいんですが」

 捨て台詞を言った男が低姿勢になって言うと、クーパが淡々と聞き返す。

「本当? 後で襲撃してくるつもりじゃないの? それだったらやっぱりここで一人でも多く殺しておいた方が…」

 クーパは、短剣で軽く男の肌を切る。

 突きつけられていた男が情けない顔になるのを見て男達のリーダー見たいのが言う。

「あんた旅の商人だろ? 俺達としてはこのままパピオが商売し続けられたら面倒なだけだから、あんたが町を出て行くんだったら何もしない!」

 その言葉にクーパは頷き、男を解放する。

 男達が完全に逃げて行ったのを確認してからクーパが言う。

「仕事が減った理由は、あいつらみたいだよ」

 パピリが涙目になって言う。

「そんな酷い、審査で不正を働いた上、仕事の邪魔までするなんて」

 パピオが大きな溜息を吐く。

「そんなに俺が憎いっていうのかパピダ」

 クーパが尋ねる。

「知り合い?」

 パピオは頷き答える。

「俺の弟弟子だ。紙作りの才能は正直無かったが真面目な奴だった。紙職人の道を断念した後、卸しになって成功したんだが、俺の邪魔をする様になったんだ」

 クーパが難しそうな顔をする。

「才能が無くて道を諦めた人間が、天才って言われる人を妬むか。ところで話は、変るけど、今のままじゃ仕事にならないよね?」

 パピオが頷く。

「まーな、しかしどうしようもない。俺に出来るのは紙を作るだけだ」

 諦めきった顔をするパピオにクーパが言う。

「この紙をあちきに売る用に常に用意しておいてくれるんだったら、あちきが今回の事件を解決してあげるけど?」

 その言葉にパピリが嬉しそうな顔をする。

「本当ですか?」

 しかし、パピオは首を横に振る。

「力でどうにかなる問題でもない」

 クーパは余裕たっぷりな顔で答える。

「あちきは旅の商人だよ。力でなく知恵で勝負するのよ」

 胸を張るクーパであった。



「それでなにか良い手ない?」

 クーパは自分の宿に戻って、何時ものつけているペンダントに話しかける。

 そのペンダントには通常の宝石とは、異なる不思議な宝石がついていた。

『また私まかせか?』

 不思議な事に、そのペンダントの宝石は、テレパシーでクーパの声に応えた。

「いいじゃない、キキの取柄ってもう知恵くらいしか無いんだから」

 クーパの容赦の無い言葉に、冷めた口調でその宝石、クーパにキキと呼ばれた存在が言う。

『本体から離れて長い事になるから仕方ない。まーあの約束は続いている以上、答えよう』

 そうして、キキの出した答えにクーパが笑顔で言う。

「それで行こう。そうと決まれば正確な日付調べないとね」



 クーパがパピオと約束を取り付けた二日後、バンは、町一番の紙職人と呼ばれる男とその卸しをやっているパピダを訪問していた。

「陛下に献上する紙を見せてもらおう」

 バンの言葉に、パピダは平伏しながら、数枚の紙をバンに差し出す。

「これが、この町一番の紙でございます」

 バンはその紙の検分を始めた。

 その時、外が騒がしくなる。

 ウドンが駆け込んできて告げる。

「賊が潜入してきました。お許しがいただければ我等の手で」

 バンは軽くパピダを見ると慌ててパピダが頷く。

「そうしていただければ助かります」

 その答えを受けてバンが言う。

「ゆるそう。ただし生け捕りにしろ」

「お任せ下さい」

 ウドンが駆け出す。



「貴女、バン様の知り合いなのになんでこんなマネをするの!」

 オシロがやって来たクーパに言う。

「あちきにも色々事情がありまして」

 呑気に答えながらも、用心棒の男達を蹴散らすクーパ。

 そこにウドンが来る。

「オシロ! バン様の許可がおりた。ただし生け捕りだ!」

 オシロが頷き、右手に嵌めたエメラルドの指輪を掲げ唱える。

『エメラルドよ、風の力で敵を縛れ、風縛フウバク

 呪文に答えて、風がクーパに迫る。

 クーパは、手に持った短剣に手を添えて唱える。

『我が戦いの意思に答え、我が前に戦いの姿を示せ』

 短剣は、通常の長さの刀に変化する。

 そして、腰から取り出したダイヤモンドの欠片をその剣に柄に当てて唱える。

『ダイヤモンドよ、その力、光の力を我が剣に宿せ』

 クーパを持つ、刀が光り輝き、その一振りで風の捕縛術を無効化した。

「輝石剣術を使うなんて!」

 驚くオシロに対して、ウドンは落ち着いた様子で、間合いを計りながら詰め寄る。

「輝石剣士でもあられる、バン様の親戚だ。それほど意外でもないだろう。しかし、ここを突破させるわけには行かない」

 周りの田舎町の用心棒とは異なる、鍛錬に鍛錬を積んだものだけが可能な高速な剣がクーパに迫る。

 クーパも光を宿した刀で受ける。

「流石は、ロ親衛隊だね。輝石剣じゃなかったら最低でも剣が弾かれてたよ」

「何故、こんなマネをしているのですか? バン様に迷惑かかると思わないのですか?」

 鍔迫り合いをしながらウドンが言う。

「簡単に言うと、大騒ぎにする為、うちうちで終わらせたくないからだよ。それじゃあ、大事になるように大技一発かましますか」

 相手が押してくる力を使って大きく後方に飛びのくクーパ。

 刀を振り上げて言う。

「あちきの輝石剣、蛇輝ジャキの力をとくとごらんあれ! 光波斬コウハザン

 振り下ろされたクーパの刀、蛇輝から強烈な光の波が放たれて、建物に大穴をあける。

 咄嗟に避けたウドンとオシロ。

「嘘、こんな事が出来る輝石剣士がどうして、旅の商人なんかやってるの?」

 オシロの呟きにウドンが答える。

「事情があるとバン様も言っている。しかし、いまはそんな事を気にしている場合ではない。これ以上騒ぎが大きくなる前に押さえる」

「その仕事は私がやろう」

 直ぐ後ろから聞こえたバンの声に、ウドンとオシロが驚く。

「ようやく出てきたね。久しぶりに一手、指南お願い」

 頭を下げるクーパ。

 バンも頷き、腰の剣を抜き、それにサファイアを当てて。

『サファイアよ、その力、水の力を我が剣に宿せ』

 バンの輝石剣に水の幕が張られる。

「我が輝石剣、虎輝コキの力、見ておくのだな」

 ウドンとオシロにそう告げて、一気に間合いを詰めていくバン。

 クーパは、蛇輝にオパールを当てて唱える。

『オパールよ、その力、土の力を我が剣に宿せ』

 両者の剣がぶつかり合う。

 虎輝の水の幕は、蛇輝の土の力に吸収されていく。

 両者の力が互角ならば勝負が一瞬でついてだろうが、両者の輝石剣の動きが止まっていた。

「流石にバン兄相手だと、属性勝ちしていても引き分けが精々だね」

「引き分けていると思ったのか?」

 バンの一言に、クーパが舌打ちする。

「いきなり大技は反則だよ!」

『サファイアよ、我が声に応え、真の力、氷の力を解き放て』

 バンの呪文に答えて、虎輝を覆っていた水が一瞬にして凍りつく、同時に水を吸収して無効化していた蛇輝もまたクーパの手ごと凍りつく。

 バンの蹴りがクーパにクリーンヒットしてクーパを壁まで吹き飛ばす。

 そしてバンは、壁に寄りかかるクーパに虎輝を突きつけて言う。

「終わりだ、負けを認めるか?」

 クーパはあっさり頷く。

「にしても属性負けしていたのに、あんな手があるなんて凄いね」

 バンは虎輝を鞘に収めながら言う。

「実力が劣るお前相手だから可能な手だ。互角ならあんな事をする前に、逆に切り伏せられている」

 口を膨らませるクーパ。

「何でこんな事をした?」

 バンの言葉にクーパは周りを見回して、町民が集まっているのを確認してから言う。

「騒ぎを起こして人を集めたかったの。集まっている人に教えてあげてよ、今回の紙の献上に対する回答を」

 バンは少し考えてから、後ろで隠れていたパピダを含める町の人間に告げる。

「今回を含めてパピリスからの紙の献上は不要とする」

 その一言に町民が困惑する。

「どういうことですか!」

 慌てて駆けつけて来たパピダに対してバンは先ほど受け取った紙を返して宣告する。

「この程度の紙ならば帝都でも幾らでも手に入る。とても陛下に献上出来る物では無い」

 町民たちはざわめく。

「どうするんだ、皇帝陛下に紙を献上していると言う事がこの町の生命線なんだぞ」

「この落とし前、どうしてくれるんだ!」

 憎悪すら篭った視線がパピダに集まるなか、クーパが立ち上がって昨日作ってもらった紙を見せる。

「これだったらどう?」

 バンは細かくチェックをして言う。

「これならば十分に献上に値する。しかし、この紙をどうしてお前が持っている?」

 クーパが笑顔で答える。

「調査員の馬鹿が不正した所為で負けた町一番の紙職人が仕事にあぶれて居たって言うんで、前金弾んだら、作ってくれたよ」

 大きく溜息を吐きバンは町民に頭を下げる。

「先ほどの発言は撤回させてもらいます。陛下の臣下の人間の不正は、陛下になりかわり私が謝罪させてもらいます。後日公正な審査員を送ります」

 その言葉に町の人々は安堵の息を吐くのであった。



「仕事も戻ってきて父さん大忙し。陛下の献上する紙の材料確保が大変だと騒いでた」

 嬉しそうに言うパピリにクーパが貰った紙の売り先を考えながら言う。

「例の約束は忘れないでね。旅してるから、ちょくちょくは来れないけど、儲けになるものだから一年に一度は来るからね」

「待っているよ」

 パピリが笑顔で答えた。

「ところで、あそこでパピオさんの手伝いしてるのって、パピダじゃない?」

 出発の準備を終えたクーパの言葉にパピリが頷く。

「あの後、お店も潰れちゃって、路頭に迷うしかなかった所を弟弟子をほっておけないって父さんが雇ったの。元々仕事も増えて助手が必要になってたからって」

「パピオさんってホント、職人なんだね」

 クーパが苦笑しながら作業場の隣を通り過ぎようとした時、クーパの眼鏡に水が掛かる。

 クーパは眼鏡を外して拭く。

「ごめんね」

 そう言ってクーパの顔を見たパピリが驚く。

「貴女ってミーバ様によく似てるね」

 クーパが遠い目をして言う。

「実は叔母なの、まー似てるんで苦労することもあるんだけどね」



「組織とは、腐敗しやすいものだな」

 ホーク帝国の首都、帝都バーの中心にある、皇帝の宮殿の一室で、バンの報告を受けたホーク帝国若き賢帝、ロ=ゼロレが呟いた。

「陛下の心を悩ませる問題ではありません。全ては臣下の人間の問題です」

 バンの答えにロが首を横に振る。

「臣下の罪は、朕の罪だ。帝国の発展に一番大切なのは、下々の仕事の向上だ。それを一部の権力者の利益の為に阻害する事はあってはならない。各種審査員の監査を行うのだ」

「陛下の御心のままに」

 バンが頭を下げる。

 そして下がろうとした時、ロがバンの隣に控えて居たオシロに言う。

「初めての外部での護衛任務でトラブルがあり苦労させたな、感謝している」

 オシロは慌てて手を横に振り言う。

「そんな大した事はありません。途中、クーパという不信な少女に会いましたが…」

 クーパの名前がでた瞬間、場の空気が変った。

 バンの目が鋭く、オシロを射抜き、ウドンが慌ててフォローに入ろうとするが、ロがそれを許さない。

「クーパにあったのだな?」

 オシロはバンを見ると、目が否定しろと絶叫していた。

 それを察知したのかロが逃げ道を潰す。

「もしそちの発言に嘘偽りがあった場合、一族の人間全て、今の役職を失うと思え」

 涙目になるオシロ。

 その態度で全てを察知してロがバンに詰め寄る。

「なんで、クーパを連れ戻さなかったのだ、バン!」

 バンも先ほどまでの礼節を守った態度を捨てて言う。

「あのなー婚約者が居るのにクーパと結婚するなんてふざけた事いうから、クーパが問題にならない様に帝都を離れたんだ。連れ戻せるわけ無いだろうが!」

「俺が愛しているのはクーパだけだ! ロンとの婚約はクーパが皇帝なのに婚約者が居ないのはいけないと言ってきたから仕方なくだ。俺は絶対議会も何もかもを納得させた上でクーパと結婚するのだ!」

 ロが激しく反論するとバンも怒鳴り返す。

「母親に顔が似てるからって極端なんだよマザコン! お前がそんなんだからクーパが出て行ったって事くらい理解しろ!」

 二人の言い争いは暫く終わることは無かった。

「お前、その口の軽さ直せよ」

 事情を理解したウドンの一言に、強く頷くオシロだった。

このシリーズは基本コンセプトが水戸黄門です。

そして書きたかったのは偉い人間にほれられて、困って旅に出た少女の話です。

どこかで聞いたことある名前と名称をいっぱい出しましたので、探してみてください。

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