4話 夜の散歩
ペースが遅いですよね。
何故なら、ストック(ちなみに『銃床』の方ではありません)が無いからです!
頑張りますけど、さらに遅くなるかもです。
「あれ?でも私何すればいいのかよくわからないんですけど。」
「あ、そっか、忘れてた。今日は説明がてら彩音は僕と二人で巡回するんだった。
あ~。さっき頑張ってしゃべった意味ね~。」
一人歩きながらうなだれる奏を、小鳩の横を歩いていた彩音がハッと視線を向ける。
それを目ざとく見つけた弓弦と刃弦が彼女に早足で歩み寄る。
「せっかく二人っきりなんだからチャンスだぞ。」
「ちなみに先輩はフリーです。」
「ふぇ?あ!そ、そんなんじゃないです!!」
「だってさっき照れてたじゃん。」
「そ、そんなことないです。」
弓弦と刃弦が彩音の肩を片方ずつ叩きながら小声で言うと、彩音は慌てふためいて、否定の絶叫を上げるが、弓弦、刃弦、小鳩の三人にあたたかくほほえまれるだけだった(ちなみに小鳩は少し目が細くなっただけ)。
しかし、弓弦と刃弦の笑みはだんだん何かをたくらんだ目に変わっていった。
二人は少しの間耳打ちをすると、突然歩くスピードを落として彩音と小鳩の後ろに移動する。
彩音が異変に気付くのと彼女の背中が押されるのは同時だった。
努力が無駄になって、うつむいていた奏だったが、建物の出口で急速に自分に向けて接近してくる気配を感じる。
(なんだ?この建物の中で襲撃なんてことはありえないんだけどな。いちような……。)
奏は素早く重心を後ろに移動させて回れ右の要領で後ろに向く。
少し腕を引いた状態でカウンターの準備も忘れずに行う。
そんな奏の視界に飛び込んできたのは……
顔を真っ赤にして、なかなかの速度で、足をからませながら自分に突っ込んでくる、
(……彩音?)
疑問に思いながらも、左足を引いて今度は重心を前に移動させ、カウンターに使うはずだった手を彩音の肩にあて、衝撃を吸収しながら彼女を受け止める。
その結果、抱き合うような状態になって固まった二人。その隣を
「じゃ、お先!」
「お先です。」
「…。」
にこにこと邪悪な笑みを浮かべた弓弦刃弦と、無言の小鳩が通り過ぎてゆく。
その姿を見送って、やっと彩音が再起動する。
今まで顔を真っ赤にして抱きついたまま、フリーズしていたのだ。
「す、すすす、すみませんでした。大丈夫でしたか?」
「う、うん大丈夫だから。離れようか。」
「すみません。」
ようやく自分の状態を把握した彩音が再び顔を赤くしてあわてて離れる。
……。
(この沈黙…。どうしてくれる。あいつら覚えとけよ。)
「じゃあ行こうか。」
「は、はい。」
いまだに少しテンパっている彩音と冷や汗をかいている奏は、散歩に出かけていく。
「初っ端からグダグダでごめんね。」
「いえ、思ってたよりフレンドリーな感じで、むしろ安心したくらいです。」
最初は出口のことを引きずって喋れなくなっていた二人だったが、時間と共に会話も弾んできた。
その調子で決められている巡回経路を進んでいく。
今は夜の九時半だが、名古屋駅の西口付近はスーツを着たサラリーマンやOLなど仕事帰りの大人たちでごった返している。
「ところで、巡回って言っても何するんですか?
こんなに人がたくさん動き回っている中で不審な人物がいないか確認するなんて無理ですよね?」
「その通りだ。
だから、ただ歩き回っているという事にあまり意味はない。
発見は町中の防犯カメラをクラッキングしている不破の仕事によるものがほとんどで、指示ですぐに動けるようにという意味合いが強いな。」
言葉をくぎった瞬間、連絡用の携帯に着信が来る。
ベルトのポーチから携帯を取り出す。相手は不破。
(何かあったかな?)
「彩音ちょっと待ってくれ。…はいもしもし。どうした?」
「クラッキングじゃないもん。政府の認可を受けてるから、立派なハッキングだもん!訂正しろよな!」
ブツッ プープープー
「誰でしたか?」
「不破だ。かわってあげたかったけど切られちゃった。」
「内容はよかったんですか?」
「あ、うん。しょうもないことだった。」
その瞬間、再び不破から着信が来るが無視して携帯をポーチにしまう。
「続きを話そう。さっき意味がないって言ったけど、まったくという訳ではないんだ。
カメラにも死角がある。それを無くすのがこの経路なわけだ。
まあ、今回みたいに巡回で成果が出ることは稀だけどな。」
「なるほど。それにしてもみなさん無駄な動きがなくて本当に特殊部隊みたいですよね。
たしかチーム別のスキルランキングがありましたよね。
guilty silenceは何位なんですか?」
JSPは全国に百近いチームを持っている。
重要で危険度が高い案件で、ほかのチームに応援を要請するときの目安になっていて、時間的に間に合う中で一番ランクの高いチームに応援要請の通知がいく。
ランクの付け方は各メンバーの技能の高さやチームの今までの功績などなど。その為順位は常に変動する。
「二位だよ二位。一位の東京のチームと行ったり来たりだ。」
「二位ですか!!うむっ。」
思わずといった感じで叫んでしまった彩音の口をあわててふさぐ。
いくら見た目でわかんないといっても、目立つのはよくないのだ。
手を放すと彩音が口を堅く結んで、無言のままペコペコと頭を下げてくるので、まあまあとジェスチャーをして、話に戻る。
「トップレベルなんですね、このチーム。」
「うん。自慢のチームだよ。彩音もメンバーなんだから、全国で二位になったんだ。
いくら地元だったからと言って、ここに配属されたんだ。自信持っていいぞ。」
「はい。」
その日の巡回は酔って転倒した若いサラリーマンを改札まで連れて行ったこと以外は平和そのものだった。
十二時、巡回終了の時間になり、二人で家路につく。
(こっちという事は家近いのかな?)
などと、どうでもいいことを考えていた奏は、重要なことを言い忘れていたことに気付く。
「彩音。そういえば明日終業式だよな。」
「はい。」
「終わった後は少し時間があるから、僕の家で歓迎パーティーをしようと思うんだ。
ホームルームが終わったら門のところで待ち合わせしよう。
guilty allayのリーダー栞も来るから紹介するよ。」
「正門ですね。わかりました。ここ右ですので、失礼します。」
「うん。今日はお疲れさま。」
「お疲れ様です。」
一礼をして、去っていく彩音の後姿を立ち止まった奏が見つめている。
(あらためて、こうやって見るとただの学生だよな…。)
実際は、日本では持てないはずの武器を持って戦っている一人の自衛官。
それを隠し通せる国。
(つくづく脆いのかもな。この世界は。)
彼は踵を返して家に向かって歩き出す。
「さ、明日の用意でもしようかな~。」
思考が優柔不断な柚留木奏であった。
12月に入って少しするまで、執筆を止めさしていただきます。理由(言い訳)は活動報告の方にありますので、よかったら励ましの言葉でもコメントしてください。




