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クローズコンクリフト  作者: 弓雲
第二章 名家の堕ちた刃
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14話 敵だった人①

ちゃんと投稿したのはいつぶり?

 「――っていう感じだ。

 どうだ、完璧な『おかえし』だろ!?」


 新幹線で座席についてから、約束通りに話していた『おかえし』についての話を、奏は自慢げな顔で締めくくった。

 聞き手であった弓弦と刃弦は、奏が話し終わった後もしばらく黙っていた。

 いや、黙らざるを得なかったという表現の方が正しいのかもしれない。


「お前、いくら俺らを拘束するためにうるさい虫が追っかけて来たからって同じ組織の人間に装備(クレイモア)を使うのはまずいだろ……。」

「そうですよ……、報告書だけじゃなくて迷惑電話の対応までしなくちゃいけなくなるじゃないですか!?」


 二人とも京都支部がかわいそうみたいな内容ながらも、『うるさい虫』やら『クレーマー』呼ばわりしているあたりが、とってもguilty silenceなのである。


「違うぞ、単に追いかけられて捕まりそうだったからじゃない。

 僕は『おかえし』って言ったろ?」


 腕を組んで話す奏は眉間にしわを寄せて、機嫌が悪いことを隠そうともしない。


「あいつらが立てた作戦のせいで僕の大事な部下である彩音が命の危険にさらされたんだぞ。

 僕が出した二人組(ツーマンセル)を取り入れていればこんなことにはならなかったはずだ!

 だからこれくらいの報いがあって当然だと僕が判断したまでだ。」

「でもさすがにちょっと、な~?」

「う、うん。やり過ぎと言うか……。」

「お前ら……、

 なんかあっても助けてやんねー!」

「う、うそだろ!なんでそうなるんだ!?」

「理不尽すぎです!小鳩先輩もなんか言ってください!」

「――――どうでもいいです。」

「「「……。」」」


 小鳩の一言によって一瞬で会話がクールダウンするのだった。


「と、ところで奏さんよ。

 本当にこの座席でよかったのかよ?」

「もちろんだとも。」


 座席を回転させたボックス席には奏、小鳩、弓弦、刃弦の四人が座っている。

 そうすると、前のシートに座っている二人はおのずと決まってくる。


「いや、むしろこの座席こそが正しい!

 今一番話し合わなければならないのは彩音と董華(あの二人)を以って他にはいないよ。」


 奏は確信を持った口調でそう言うのだ。


「まあ、聞き耳でも立ててみるか。

 おい刃弦、窓の方寄れ。」


「やだよせっかくのいいすわり心地をなんで放棄しなきゃならないんだよ。

 それに盗み聞きは褒められたことじゃありませんでふぎゃぁぁぁ!?

 い、痛いよ!鼻が折れそうだよ!

 わかったから力任せに押すのはやめて頂きたい!!」


 実力行使最強だった。


 ***


 片桐董華は暗殺の下準備のために三日三晩もの間寝ていなかったらしい。

 だから、変則的ながらも仕事が終わって、緊張が取れた今に睡眠のしわ寄せが来るのも分からなくはない。

 しかし、ついさっき死闘を繰り広げた相手の目の前で爆睡できるその神経を、疑わずにはいられなかった。


(奏先輩が気を回して、この座席にしてくれたわけだから、少しは話しておきたかったのにな……。)


 なにげな~くみんなの動きを誘導して、この配置にしたのは間違いなく奏だと彼女は考えていた。

 彼の期待に応えるには片桐董華と話すことが必要不可欠。

 といっても、和気あいあいと表現できる世間話などをするつもりなど甚だ無い。

 生い立ち、持っている技術、どういうルートで仕事をもらっていたかなどを聞き出す、いわば事情聴衆のようなものだ。

 もちろん彩音が個人的に聞くものなわけで、事務的な物が伴う訳ではないが、彩音はそれを聞く権利を間違いなく持っている。

 董華をたたき起こして強制的に情報を聞き出しても問題ないのだが、それはどうにも気が進まなかった。

 董華を危険因子として認識していることに変わりはない。

 しかし、この無邪気で、隙しかない寝顔を見せられてしまうと、彩音の良心が彼女を起こすことを拒んでしまうのだ。

 だからと言って董華に対する嫌悪感が消えるわけもなく、作戦は終了したのにもかかわらず董華が隣にいるという意識のせいでいまいち気が抜けないでいた。


(周りの人はまさか同じ車両に日本刀を振り回す暗殺者が乗ってるとは夢にも思ってないんだろうな。――)


 もしそのことが知れたら乗客はどういう反応をするだろうかと、どうでもいいことを考えずにはいられない。

 まず動揺でパニックが起こるのは当たり前。

 その後必死で距離を取ろうとするあまり怪我人が出るかもしれないし、『今すぐ降ろせ』と言って運転席に詰めかける人もいないとは限らない。

 そんなことになれば、列車の安全な走行すら危ぶまれることになるだろう。

 しかし、JSPが存在して、guilty silenceがいて、齋藤彩音が付いている限りそのようなことは起こりえない。

 だが、その考え方にもほころびがあることは否めないの。


(だったらJSPだって……――)


 JSPの存在を表に出した時もまた、テロリストなどと大差ない扱いを受けるのだろう。

 たとえ事実、命を賭して国の利益を、国民の命を守っているとしても、平和に慣れ、平和が当たり前だと勘違いをしている多くの日本人にとってJSPは、『銃を自分の意志で振り回すことができる高校生』としか映らないのだ。

 ただでさえ兵器に対する目が冷たいこの国で、責任の所在が曖昧な未成年に戦闘行為をさせていることが露見すれば、その存在など露ほども知らない総理大臣すらも退任に追い込むことができるだろう。

 今までなし崩し的にJSPの一員として足手まといにならないようにと努力してきた彩音はここ(JSP)がどういう存在かというようなことは考える余裕がなかった。

 この機会に改めて考えてみるとどうだろう……。


 はたしてこの組織は必要とされているのだろうか?

 存在することに意味はあるのだろうか?

 確かに日本の治安維持の一翼を担っていることに偽りはないだろう。

 しかし、その資金・税を払っている国民に秘密にしてまでやらなければならないことなのだろうか?

 身内の人間に聞いたら、『そういうものだから』と返されてしまいそうだが、はたして本当にそうなのか。

 彩音が考えても考えても答えは出ない。

 いつかはわかるのかもしれないし、一生分からないのかもしれない。


(はあ~、JSPの仕事は胸を張れるものじゃないのかな?――)


 初の実戦のショックで、彩音は早くも自信を大きく削ぎ落されてしまっていた。

 シートにぐったりと座り、通路をぼーっと見ているその姿からは哀愁がにじみ出ている。


 そして、彼女に魔の手が忍び寄るのだ。


次回、魔の手とは!?

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