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クローズコンクリフト  作者: 弓雲
第二章 名家の堕ちた刃
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12話 仮の解決②

お久しぶりです。夏休みもいつもと変わらず、遅刻投稿の弓雲です。

最近『キャラの雰囲気とかこうしとけばよかったな』とか思うようになって来ました。

日之影さんみたいに一回全部消そうかな……

なんてね。


 

 奏はもちろん、弓弦も刃弦も小鳩も、JSPが、国が認めた董華の入隊だったが、一人だけ快く思わない者がいた。

 口をほとんど開いていない彩音だ。


「そんな簡単に認めてしまっていいんですか!?」


 彩音はガタンッと音を立てて立ち上がる。

 さらに董華を指さして、叫ぶように訴えかける。


「彼女は罪のない人を殺そうとしたんですよ!?」


 彩音は彼女の脅威を身をもって知っている。

 いや、正確に言うと、今になって恐怖の感覚がじわじわと襲ってきたのだ。

 董華との戦闘後は気絶していたため、自分が彼女に攻撃されて気絶させられたという認識は曖昧になっていた。

 しかし、片桐董華が、一度は己の生殺与奪の権を握った彼女が、自分の背中を預ける仲間になると理解した瞬間、ダムでせき止められた水が解き放たれるように、体中にその時の感覚が流れ込んでいく。

 震えるからだ、言う事を聞かない手足、詰まったように苦しい喉。

 今は安全も確保されているのに、涙がこぼれそうになる。


「そんなの間違ってます……。」


 今度は消え入りそうな小声でつぶやくと、彩音は立ち上がって、ふらふらと戸口に向かっていく。


「おい何処に行くんだ?」

「ちょっとお手洗いに。」


 弓弦が心底不思議そうな顔をして


『トイレならこの部屋にもあるだろ。』


 と言おうとするが、刃弦にお前は黙っとけと言った感じで口をふさがれた。

 そのまま彩音は廊下に出て、静かに扉は閉まってしまう。

 彩音のことを目で追っていた刃弦が心配そうな顔をする。


「あれはちょっとまずいんじゃないですか?

 相当きつそうでしたよ、あの顔は……。」

「大丈夫。大丈夫だよ彩音は。

 彼女は賢い。立ち直るのも時間の問題だよ。」


「お前等が何をいってるのかはよくわからないけど、その自信はどこから来るんだよ。

お前だって彩音ちゃんと会ったのは終業式の前日だろ?

 まだ、出会ってから一週間経ってない相手の考えることがわかるっていうのか?」


 弓弦も刃弦と同じような顔をして問いかけてくる。


「考えればわかることさ。

 賢い頭を持っている人は、物事について深く考え込む。

ましてや、今日は初めての実戦。自分より強い相手と戦って、負けて、その相手が今度は仲間になると言われた。不安になるだろうし、不満も生まれる。自分がこれからやるべきことについて悩むだろう。

 でも、考えて、決断して、自分なりの答えを導き出すことが出来たときには、前よりいい顔になって戻ってくるだろうよ。

 お前みたいな一直線に進む奴(バカ)には一生分からない事だろうけどな。」

「『一直線に進む奴』にとても失礼なルビが付いていそうだったが……。」

「それに、相手は親睦を深めようとしているんだ。すぐに打ち解けるさ。な、そうだろ?……董華、……っておい!!」


 部屋の窓際の一人掛けのソファー。

一人の少女が小さく丸まって、静かな寝息を立てていた。


 ◆◆◆


 廊下を挟んだ向かいの部屋にも似たような人影があった。

 目じりにたまった涙は溢れ出して頬を伝い、鼻をすする彼女の姿は、年相応のもので、違和感など微塵もない。

 しかし、彼女の涙の理由は、到底想像が及ぶものではないだろう。

『人を殺し、人に殺される』ことについて彼女は悩んでいた。

 そんな女子高生とは無縁なはずの思考が彼女の頭の中をかき乱す。


(上層部が決めたことなのだから覆せないというのは弁えているつもりだよ。でも……。)


 表面上で分かっているつもりでいるのと、心の底から賛同できるものでは、やはり全くの別物なのだ。

 確かに片桐董華の戦闘力はJSPにとってはのどから手が出るほど欲しい物だろう。

 銃と違い、ほとんど音を出さない剣術はJSPの特性にピッタリだからだ。

 もともと戦闘力が高く、評価が高いguilty silenceに入隊したとしても作戦などの成功率、効率は格段に上がるだろう。

 ただし、それはメンバー全員の協調性が取れていればの話。

 今の彩音には無理な話だろう。それは彩音自身も理解していることだ。


(そもそも彼女は本当に仲間なのだろうか……。)


 体の震えも収まり、冷静になってきた頭で自分がすべきことを考える。


(先輩たちは彼女を信用しきっていて。

 スパイの可能性を進言したところで、変わることは何もないだろう。

 ……疑っているのは私だけ、突然の反逆に対応できるのは私だけ。みんなを守れるのは私だけ。)


 瞳の端に残っていた最後の涙を手の甲で拭い取り、ソファーから立ち上がる。


(私だけがみんなを守れる!)


 彼女は自分に向かって宣言する。

 奏や小鳩ほどの技量があれば大抵の相手には圧倒的な勝利をおさめることが出来るだろう。

 しかし、それは敵を敵と認識しての戦闘に限る。

 仲間に寝首をかかれてはどうしようもないはずだ。

 彩音は服のシワを直して、先ほどとは打って変わった軽い足取りで戸口へ向かっていく。


「決めたら善は急げだ。奏先輩に頼んで片桐さんの見張り役をさせてもらおう。」


 向かいの部屋に戻ろうとドアノブを握ったとこでなんだか違和感があった。

 だが、その正体に気づくより先に事は起こってしまう。


「え!?――きゃ!」


 体重をかけて開けようとした扉が、彩音の加えた力とは関係なしに、勢いよく外側に開いていったのである。

 彩音はドアノブに引っ張られるようにして廊下に転がり出る。


「いたたた。あれ、小鳩先輩?もう終わったんですか?」


 強打した背中をさすりながら立ち上がると、そこには扉を開けた瞬間、部屋から後輩が発射されるという珍事が起こっても全く動じない駒谷小鳩が立っていた。

 彼女は彩音に向かって無言でうなずくと何事もなかったかのように部屋に入っていく。

 終始無言だが、それが通常運転の小鳩だという事は彩音も知ってる。


(突然部屋抜け出しちゃったから怒られるかもって思ってたけど……。)


 実は怒っているんじゃ?と思って、部屋を覗くと、小鳩は歩哨のために出した装備品を長距離移動用の大きいバッグに詰めなおしていた。


「すぐに名古屋に戻る。あなたも準備。」

「予定ではもっと先だったはずですけど、変更ですか?」


 小鳩はまた無言でうなずくと、黙々と身支度を整えていく。

 言われた通り、彩音も部屋に戻って自分の荷物をまとめる。


董華(あいつ)のことはもういいの?」


 藪から棒に小鳩がつぶやく。

 彩音は周りのことに関してはほとんど口出しをしない彼女が人間関係について聞いてきたので、少なからず驚く。


「は、はい。自分にとっての『片桐董華のあり方』については考えたので。

 さっきは取り乱してしまってすいませんでした。

 他の先輩方にも後で謝ります。」

「そう。」


 それっきり会話はなくなり、すぐに小鳩の用意は終了する。


「廊下に出てる。」

「はい、私もすぐに終わらせて出ます。」


 小鳩が廊下に出てもまだ誰もいなかった。

 男子勢は整理整頓が苦手なようだ。荷物を床に下ろし、小さな体は壁にもたせ掛ける。

 目線の先には奏と弓弦と刃弦がせっせと荷造りをしているであろう部屋の扉がある。


(奏の言ったことは、ほとんどの場合実現する。『片桐董華の件』は採用を組織に認めさせ、『斎藤彩音の件』は見事に彼女が行き着くであろう思考を言い当てて見せた。それもほんの一部にすぎない。

 彼は自分の考えたように現実を変える能力でも持っているのか?それとも未来を予測する能力か?)


 一つため息をついて左手首の内側を見る。


(どっちみち私には、どこを突っついても見いだせない能力なんだろうな……。)


 彼女の細腕には、配給品ではない、私物の腕時計がはまっている。


ほのぼのパートの開始かな?

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