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クローズコンクリフト  作者: 弓雲
第二章 名家の堕ちた刃
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11話 仮の解決①

お久しぶりです。

不定期更新になって申し訳ありません。

 三人が建物を出ると、ちょうど一台のミニバンが猛スピードで走り込んでくるところだった。

 その車は三人の前でブレーキを軋ませながら止まり、助手席から一人の男が下りてくる。

 体はよく鍛えられていて、ニット帽とサングラスで顔を隠している。


「生きてるんだったら電話くらい出ろよ!

 心配するだろが!」

「悪い、いろいろ立て込んでてな。

 さあ、二人とも乗って。」


 奏はスライド式のドアを開けて二人を押し込むと自分も乗り込んでドアを閉める。

 ちなみに助手席側から彩音、董華、奏の順番だ。

 先ほどの男が助手席のシートに戻ると、今度は普通の速度で車が走り出す。

 中年の男性が運転する車はすぐに国道に出て、町の風景に溶け込んでいく。


「弓弦、こんなに急いでるってことは、京都の連中にもうばれたのか?」


 奏の問いに答える声が助手席から発せられる。


「ばれたどころか筒抜けだよ。

 お前バイクについてたGPS(グローバルポジショニングシステム)切り忘れただろ。

 不破の奴からそうやって連絡がきたもんで、回収班から車出してもらってまで向かいに来たんだ。」


 助手席に座っていた男が帽子とサングラスを取ると、その下からは弓弦の顔が現れる。


「だがな、今の状況を説明してもらいたいのは俺も一緒だぜ。

 そこの美人さんはどこのどなたさんなんだ?

 あれか、目撃者かなにかか?」


 その問いに、奏はあっさりとこう答えるのだ。


「彼女は今回の事で暴力団に雇われ、暗殺の実行を一人で任されていた片桐董華さんだ。」

「本人かよ!?なら扱い雑じゃね?

 わっか(手錠)も掛けずに……。」


(まあ、何気なく警察が容疑者をパトカーに乗せるときみたく、犯人を挟み込む席中にしているのはさすが奏って感じだけど。

 手が自由だから、抵抗する意思があったら何の障害もなく隣の二人を殴ることもできるだろうに……。)


 弓弦の心配とは裏腹に、奏は優しい声で董華に話しかける。


「逃げたりしないよな~。」

「ふん。そんなことをしたらせっかくの取り決めが水泡に帰してしまうからというだけだ。

 ただ、それだけ、だぞ……、ふふぅ~――」


 最初のうちは武士が喋るように硬かった口調が融解していき、最後には吐息に変わってしまった。

 そんな董華の声を不思議に思った弓弦と彩音が彼女の方を振り返ると――

 雇われとはいえ、警察の重役の殺害をもくろんでいた暗殺者が、治安維持組織のチームリーダーに頭をなでられて、表情を緩めている光景があった。


((既に手なずけられている!?))


 気持ちよさそうに目を細めて、なされるがままに頭をなでられる董華に、弓弦は苦笑、彩音は怪訝な顔を向ける。


「なんだ、二人ともその顔は……。

 お前らも僕になでられたいのか?」


 奏の笑いながらの問いに弓弦も笑いながら返す。


「そんなわけあるか!

 同性になでられたいとか、どんな性癖だよ!」


 それに対して彩音は――うつむきがちに窓の外に視線を移した。

 弓弦からは彼女の横顔が見え、その耳はほんのり赤みがかっていた。


「え!?まさか彩音ちゃん、図ぼ――うおっ!」


 弓弦は、彩音のショートフックによって、「し」の文字を飲み込まざるを得なくなる。


 ショートフックを避けられてしまった彩音は、確実に弓弦の口を封じようと両腕を使った連続ストレートパンチで追い打ちをかけ、弓弦が座るシートを大きく揺さぶる。


「や、やめて!

 い、息がっ!もう、なにも、喋りません!」


 という弓弦の言葉を聞いて、ようやく彼女の手は攻撃を停止するのだった。



 十分もすると、車は背の高い建物の前で停車した。

 guilty silenceが京都の拠点としているホテルだ。

 四人が降り、弓弦が声をかけると、車はどこへともなく走り去っていく。


「さっそく女をホテルに連れ込むわけだな。」

「董華さん、語弊がある言い方はやめましょう。」


 車を降りてすぐににじり寄ってきた董華を、奏は左手で密着するのを防いでいる。


「と、董華さん!?

 目立つことはやめてください!

 ほら、私が案内しますから!」


 そう言った彩音は、董華を奏から引きはがし、手を引っ張ってホテルのロビーに入っていく。

 その光景は誰が見ても仲のいい女の子二人である。

 そんな二人を見つめる奏の表情には軽い驚きが混じっている。

 それに気づいた弓弦は自分も歩き出しながら、何に驚いているのか聞いてみた。


 その問いを聞いた奏は弓弦の方を見て、フフッと小さく笑う。

 いつもの和やかな表情に戻してから弓弦の横について、董華の手がっちり握って『二人とも早くしてください。』と呼んでいる彩音に向かって歩き出す。


「あの二人、つい数時間前にお互い死んでもおかしくないけんか(・・・)をしていたのに、意外とフランクに話せるんだなと思ってさ。

 仲間になるうえでは最大の懸念だったんだよね~。」

「あれは単に、お前から引き離したかっただけかと……。

 ん?『仲間になる』?なにそれ。」

「おっと口がすべった。ほらおいてくぞ~。」


 そう言うと、閉まりかけのエレベーターにするりと乗り込んでしまう奏。


「お!?……おいていってから言うなよ!」


 弓弦はため息を一つついて階段に向かう。

 彼らが部屋を取っているのは六階なので、歩いて行っても大したことはないのだ。

 エレベーターがあるため、階段の付近には人気(ひとけ)がない。

 いや、一人だけ小さな体の女の子がいた。

 見知った顔の少女に弓弦は声をかける。


「お疲れ。今戻ってきたところか?」


 登ろうとしたところに声をかけられて振り向いたのは、駒谷小鳩。

 割り当てられた区画を歩哨していたところに入った不破からの連絡で戻ってきたのだろう。


「奏君は上ですか?」


 弓弦の問いには一切触れず、どこか怒りを含んでいるような口調で尋ねる小鳩。


「それがさ~、あいつエレベーターに乗るとき俺をおいていきやがったんだぞ!

 おまえも一緒に怒ってくれよ、――って、いねーし。」


 視線を戻した先に、すでに小鳩の姿はなく、無人の階段だけが蛍光灯の光に照らされている。


「グレてやる……。」



 ホテルの一室でguilty silenceのメンバー五人は、董華を囲むようにして各々が好きな物に腰かけている。

 まず口を開いたのは部屋に入ってからずっと、奏のことを睨み続けている小鳩だ。


「何を考えているんですかあなたは。」


 いつも無表情な顔がいかにも不機嫌そうに歪んでいる。


「事を一番素早く進めるためには彼女を僕が連れてくるのが――」

「そこじゃない。」


 小鳩は決して叫ぶことなく静かな口調に怒りを込めている。


「この作戦の全指揮権は京都支部リーダーの石田にあり、ゲスト(応援)である私たちが独断で行動することは組織への反逆に相違ない。」


 いつもは自分の意見を口にしない彼女がすさまじい威圧を放って語るものだから、誰一人として口を出せない。


「だから彼女の身柄を京都支部に引き渡すことを提案します。

 今後のこのチームの評価に関わります。」


 しかし小鳩はあくまで小鳩といった感じで、最後は冷静に『提案』という形でまとめてきた。


「あ、ああ。

 まったくもって君の言う通りだ。

 だけど、組織全体に情報を流して、そこから彩音を助けに行く?遅いだろ?」


 ここまでが石川の命令に背いた理由ね、と奏は一度区切る。


「それと董華を連れてきた理由。

 彼女な、めっちゃ強いんだ。

 僕が教えた接近戦闘ならば、JSP内で敵う者がいなくなってしまうレベルだ。

 なおかつ、すでに敵意はなく、僕の出した条件にも快諾してくれた。

 みすみす刑務所に放り込んでしまうのは国の損害といっても過言じゃない。

 それを踏まえてJSPの本部に進言したところ、正式な許可ももらった。」


 そう言って掲げたMEG(情報端末)には何やら小さい文字が大量に並んだ、報告書のようなものが表示されている。

 一番下にはJSPの最高責任者である防衛大臣の名前も入っている。

 その書類は彩音以外のguilty silenceメンバーには記憶に新しい物だった。

 三人とも、驚いたというより、あきれたという感じの表情を浮かべている。


わっか(手錠)も掛けずに連れて来たから何かあるとは思ってたが、……仕事が早いにもほどがある。」

「まあ、奏先輩らしい解決法ではありますね。

 どういうツテで申請を通したのかは気になりますが……。」


 と弓弦、刃弦は苦笑い。

 小鳩に至っては、もう知らんというかのごとく、窓の外でオレンジに染まりつつある空を睨み付けている。

 しかし、彩音だけはどういう類の文章なのか見当もつかず、首を傾げるだけだ。


「あ~、ごめんごめん。

 彩音はこの書類を見たことがなかったね。

 これはJSPへの入隊が認められた者に発行される物。

 つまり彼女はたった今から僕らの仲間という事だ。」


 奏が、拡大して見せた本文の一番下の文章にはこのように記されていた。



『以上のことを考慮し、本日七月二十四日を以って片桐董華をJSP隊員に任命し、名古屋支部へ配属する。』


夏休みですが、あまり時間がないので、遅くなるかもしれません。

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