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クローズコンクリフト  作者: 弓雲
第二章 名家の堕ちた刃
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10話 目覚め

なんだかグチャグチャしている。文的な意味で……。

 

「流れで承認してしまったが、そんなことができるのか?

 お前の組織のことはよくわかってはいないが、所詮一チームのリーダーなんだろ?

 犯罪者を国側の組織に招き入れるなんて、正気の沙汰じゃないと突っぱねられるのが関の山だろう。」

「大丈夫、何とかなるよ。」

「適当だな。そもそもどういう立場なんだよ。」

「しがない公務員ですよ。」


 面白そうに笑う奏を、董華は怪訝な表情で見上げる。

 それは、言えないことはたくさんあるけどねと言外に伝える笑顔である。


「わかった、組織のことについてはもういい。

 だから、お前個人のことについ教えろ。

 私はお前のことが知りたい!」

「遠慮しておくよ。

 ぜんぜん面白い話じゃないし。」


 そっけない調子で返してくる奏に『聞きたいな!聞きたいな!!』と言う思いを視線に乗せて訴えかける董華だが……。


「そんな目をしても駄目だ。

 それにもう時間が無くなってきた。」


 奏は、董華がさっきから握ったまま離してくれない手を引っぱって、彼女をデスクから立ち上がらせる。


「だんだん携帯の着信の間隔が狭くなってきているから、そろそろ僕の仲間が僕らのことを回収に来るだろう。

 それまでに外に出ておかないと君が撃たれかねない。」


 奏はニコッと笑ってから彩音の元に歩いていく。

 その後ろを董華もトコトコと付いていく。

 奏は左手で彩音の首筋に触れる。


「脈は正常、深く眠っているようなものかな。」


 そう言って彩音を持ち上げようとするが、なぜか右腕が前に出て来ない。

 それはそうだ。奏の右手は、握手をしてからずっと董華に握り締められているのだから。


「あの、董華さん……。」

「なんだ?」

「……、いつまで僕の手を握っているつもりですか?」


 奏が一瞬黙ってしまったのは、振り返ったところにあった董華の顔に、キラキラとした素晴らしい笑顔が浮かんでいたからだ。

 女の子にそういう顔をされると、無条件にこちらの質問が無粋に思えてしまうから不思議である。


「ずっとだ!」


 これまた。

 満面の笑みで返してくるものだから、奏は再び言葉に詰まってしまう。


「あ、う、うん……。じゃなくて!

 このままじゃ何もできないから、離してくれないかな!?」

「ぬ。私の手を握っているのがそんなにいやか?」


(僕の言ってたこと聞いてたかな……。)


 心底傷ついたという顔をした董華を見て、奏は思わずジト目になってしまう。


「むむ……。

 わかった、離してやる。

 その代わりにいくつか私の願いをかなえてくれ。」


(なんだか立場が逆転してる気がするけど、ここで首を横に振ると、本当に一生離してもらえなさそうだからな……。)


「わかった。出来る範囲で対応させてもらう。」


 奏が戦々恐々としながらうなずくと、彼女は表情を隠すように俯きながら手を離す交換条件を話しだす。


「まずお前のことを名前で呼んでいいか?」

「あ、ああ。もちろん。」


 予想外に平和的な要求に、奏は肩透かしを食らった気分になる。


「あとな……。

 わ、私のことも、名前で呼んで、くれ、『董華』と。」

「おう。まだあるのかな?」

「あと、あと一つだけ。

 時間があるときでいい。

 ほんとにいつでもいいから、……また、私の手を握ってくれないか?

 あれはなんだか、とても、……

 いい。」


 ようやく上げられた董華の顔は恥ずかしさからか少し赤に染まっていて、それでもその勝気な双眸はしっかりと奏の顔をとらえている。

 董華のあまりにもまっすぐな態度と、男心をくすぐる表情にどぎまぎしながらも奏がうなずくと。

 董華は約十分もの間、奏の手を握り続けていた自分の手をスッとひっこめる。


「それじゃあ行こうか。」


 奏は彩音を、肩と膝の下に腕を入れて持ち上げる。

 俗にいう『お姫様抱っこ』で表に向かって歩き始める。

 途中鋭い視線を感じて振り返ったが、そこにいるのは決まって微笑を浮かべている董華である。

 本当に何度も何度もそれを繰り返していると、奏の腕の中で彩音がピクリと動いた。


「んッ……。

 せ、せんぱい?」


 あまりに何度も高速で振り返るので、その揺れで目を覚ましたようだ。

 最初はうっすらと、徐々に大きく目を開いていく。

 ようやく回復した視界は、覗き込むような格好で至近距離にある奏の顔で埋め尽くされていて、さらに謎の浮遊感の正体が奏によるお姫様抱っこだと理解した瞬間……


「ひッ!

 わ、わわわわわッ!」


 奏の腕の中で、顔を真っ赤にした一人の戦士(彩音)が全力で暴れだす。

 足と腕を四方八方に振り回し、生きのいい魚のように体を波打たせる。

 体が一センチと開いていない距離でそんなことをしたらどうなるかは容易に想像がつくことで、


 ガツンッ


 重い音とともに奏の上半身が大きくのけぞる。

 彩音のアッパーカットが見事に顎に入ったのだ。

 いくら見た目が細いと言っても、彩音はJSPの一員。

 その筋力は普通の女子高生とは比べ物にならない。

 もちろんわざと殴ったわけではないが……。


「え!?すいません!

 ……っと、大丈夫ですか?」


 奏がよろけたことでようやく我に返った彩音が、自分の足で立ってから謝罪を述べる。


「だ、大丈夫だ。

 うん、いいパンチだったよ。

 それに謝るのはこっちだ。無断で体に触ってすまなかった。」

「全然怒ったりしているわけではありませんよ。

 ただ……、

 お姫様抱っこは恥ずかしいというか、まだ早いというか……。」

「え?最後の方が聞こえなかったからもう一回言って。」

「そ、そんなことより、ここはどこですか?

 わたし、襲撃の実行犯だと思われる片桐董華と言う人物との戦闘で気絶させられてからの記憶がありません。

 現状の説め……

 え!?」


 周りを見回した彩音の首は、奏の斜め後ろという位置ですぐに固定されてしまう。

 まるで油が切れた機械のようだ。

 最初はただ、驚きに目を見張るのみだったが、彼女の(Px4)が董華の胸をとらえるのには三秒もかからなかった。


「片桐さん、今度は容赦しませんよ!

 先輩ここは私にやらせてください。

 さっきの失態の埋め合わせを!」


 彩音が鋭い視線を董華に突き立てるのに対して、奏は『やれやれ』と言った感じの表情で彼女に歩み寄る。

 静かに、素早く、最低限の動きで移動するその歩法は彼が近接戦闘(CQC)で多用するものだ。

 その流れるような動きはそのままに、すれ違いざまに彩音の銃を取り上げる。

 スライドをブローバックした状態にし、エジェクションポート(排莢口)に親指を入れることで発砲をキャンセル。

 さらに安全性を上げるために抜いたマガジンは左手でキャッチ、その間に右手を捻ると、一瞬にしてPx4は奏の手の中に納まる。


「詳しいことは後だ。

 今重要なことは早急にここを撤退することなんだ。」

「な、何を!?」

「董華はもう敵じゃない。僕が保証しよう。それとも僕が言ったことが信用できないかな?」

「そんなことはあり得ません!」

「よく言った。じゃあ撤退だ。

 入り口のクリアリング(安全確認)を頼む。」

「は、はい。」


 受け取った拳銃(Px4)を再装填し、斜め下に構えた彩音は、もう一度董華の方を一瞥してから入り口の方に走っていく。


「さあ、董華も行くぞ、って何ニヤケてるの?」

「え。

 ……な、名前で呼んでくれたから、に、ニヤケているわけではないぞ!」

「名前で呼べって言ったのは、董華じゃないか。」

「ッ!

 時間がないのだろ!ほら!」


 今の会話を無かったことにしたいらしい董華は、グイグイと奏の背中を押していくのだった。


再来週はテストだったと思うので(適当だな、おい!)投稿できるかわかりません。


マイペース投稿でほんとごめんなさい。

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