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クローズコンクリフト  作者: 弓雲
第二章 名家の堕ちた刃
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8話 刃と刃

予約投稿の日にちを間違えるというアクシデントがあり投稿が遅れていしまいました。


視点が戻りました。


そしてついにイラストです。

うどぁひ先生のすばらしいイラストをご堪能あれ。

 もちろん董華も気になってはいたのだ。

 奏が持っているナイフの形状が……。


挿絵(By みてみん)


 まず大きさ。

 一般的なタクティカルナイフと比べると少し大きい。

 ダマスカス鋼を使っていることを考えるとおそらく特注。

 しかし、最も目を引くのは鍔の手前で刀身から枝分かれした部分だった。

 刀と一体成型ながら、それこそ木の枝のように生える棒状のものを彼女は最初、鍔が変形した装飾品だと思っていた。

 しかし……


「その形状は鉤だったのだな。」


 ため息交じりに言葉を漏らす彼女の手に、数秒前まで猛威を振るっていた紅時雨は握られていない。

 この状況を作り出した原因こそがその鉤であった。

 江戸時代の奉行所が悪徒鎮圧に用いた武具『十手』。

 その十手に『敵刀をからめ捕る』ために与えられているのが鉤だ。

 紅時雨は鉤によって董華の手からもぎ取られたのだ。


 本当に一瞬の出来事だった。



 董華の突きの速度は時速30キロを超えていた。

 0.1秒程あれば 1メートル離れた奏の体を貫いて、息の根を止めることができる。

 間違いなく人間にはかわすことができない一撃。

 しかしかわす必要はないのだ。

 ナイフの峰を添える、たったそれだけで喉を狙っていた紅時雨の切っ先は空を貫くことになった。

 強力すぎて、過去一度も実戦で使ったことのなかった技を一撃目にして攻略されて、ようやく董華は相手の規格外な強さに気づいた。

 しかし一度繰り出した攻撃は戻せない。

 刀を引き戻そうとしたが、徒労に終わった。

 董華が父から受け継いでからこちら、一時たりとも手の届かない距離に離れたこともなかった唯一無二の相棒『紅時雨』。

 その柄がいとも簡単に手の中から滑り落ちていった。



 今になって、ようやく董華はその技を理解する。

 鉤によって固定された刀を、手の力が入りにくい方向にひねったのだ。

 初めから鉤が付いていることに気づいていれば防ぐことができたかもしれないと思う董華だが、後悔先に立たずである。


「まだやる(闘う)か?」

「いや、もういい。私の負けだ。」


 董華はあぐらをかいて地面にどっかりと座ってしまう。


「じゃあ。僕の勝ちってことで――しゅるしゅる――彩音は返してもらうよ――バサッ――あと、この後のことについてだけど――プチップチッ――ってなんで服脱ぎ始めてるの!?」


 奏が少し彩音の方に視線を向けた隙に董華はジャケットを脱ぎ、ブラウスのボタンをはずし始めていた。


「何故と問われても……。

 祖父が『女が戦で負けたときは敵の男にレ――あああ!――される』と言っていたからな。

 む、こちらが質問に答えてやっているのに何故突然大声を出す?」

「いや、そうした方がいいかなって。」

「最初からわかってはいたが、変な奴だな。」


 そう言った董華は止めていた手を再び動かしてブラウスのボタンを開けようとする。


「ぬ、脱がなくっていいから!!」


 すでに胸がはだけて、黒い下着がチラチラとのぞき始めている。

 暗闇の中で浮かぶ白い肌とレースをあしらった黒のブラジャーは何とも扇情的で……


(って、ちが~う!

 無いとは思うけど、こんな状況をJSPの誰かに見られたら、後から山のような始末書を書かされる羽目になる……。)


 奏はこの危機的状況を打破すべく、可及的速やかに董華の後ろに回り込んで羽交い絞めにする。


「ようやくヤル気になったか?」

「『殺る気』の意味で取っておくよ。ほら早く服装整えて。」

「しかし、祖父が言うには……。」

「お爺さんは後で僕が懲らしめるから。」


 董華はようやく奏の言葉を聞き入れ、ブラウスのボタンを閉めていく。


「ならば切腹か!?」


 そう言って彼女がジャケットの袖の中から取り出した脇差を奏は慌てて叩き落とす。


「む~。お前は私に何を望むのだ!?」

「うん。まず僕の話を聞こうか……。」

「……わかった。」


 ようやく会話が落ち着いた二人は初めに董華が腰かけていたデスクに並んで座る。

 銃声(サプレッサー(減音器)が付けられていたのでほぼ無音だった)やら刀をはじく音で騒々しかった倉庫は、今や完全に静まり返っていた。

 聞こえてくるのは、いまだに目を覚まさない彩音の規則正しい呼吸音だけとさえ思えてくる。


「まずは君の今後の処遇についてだ。

 今の君の罪は彼女と僕に対する暴行、いや公務執行妨害。銃刀法違反に殺人未遂。」

「うむ。」


 董華は腕と膝を組んだまま頷く。

 捕まっているというのに偉そうだ。


「普通なら即、刑務所行きという所だけど……」

「一つ質問いいか?」

「質問?どうぞ。」


(ようやく会話がかみ合ってきたぞ!)


「貴様はなぜそれ程に強い?」


(前言撤回だ。全然かみ合っていない。)


「私は幼少より現在に至るまで、一日たりとも鍛錬を欠かした日はなかった。

 その限界の一撃を打ち負かす圧倒的な強さ。

 どこで学んだ?」


 普通は律儀に答える必要など全くない質問。

 だが、奏には答えなければならない気がした。

 彼女のために。

 何となくだが、自分のために……。


「まあ、彩音はただの気絶みたいだし、時間もまだあるか。

 一様、僕が技術を教わったのは先輩だ。

 でも、あの人に教わったのは戦闘の技術だけではない。

 例えば片桐さんの職業は殺し屋だな?

 なんで君はこの仕事をしている?

 そこには何かしらの理由があるはずだ。

 よかったら僕に聞かせてくれないかな?」


 完全に敵意が抜けた様子の董華に、奏は優しく問いかける。

 その様子はまるで幼馴染の友達のようだった。

 もちろん初対面だし、育った環境も全く違う。

 しかし話し出すと自然な雰囲気がどこからともなく生まれてくる。

 二人は表に見えないどこかで似ているのかもしれない。


うどぁひ先生には度重なる注文を聞き入れていただき、僕の想像を超えたイラストになりました。この場を借りてお礼申し上げます。

これからも少しずつ、書いていただこうと思っているので、読者の皆様はお楽しみに!


それにしても……。

こんなはずじゃなかったんだ!

予約投稿を間違えるし。

もっと最後まで行く予定だったのに、時間がないし…(単に作者の時間の使い方が悪いだけですが)。

それに、またしばらく更新できなくなります。

どうか気長にお待ちください。

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