2話 四人は最後
奏は紐を切って自由になった手で、まずナイフをもとの位置に戻す。
つぎにターゲットの目を盗んで素早く腕時計を外してあぐらの内側に置いたデジタルタイプの画面を確認する。
それは何も操作されていないにもかかわらずタイマーモードになっており、残り時間はジャスト一分をカウントした所だ。
「あと一分か・・・。」
奏は小さくつぶやき、シャツの上から、ズボン右の内側に隠されている特注のシークレットC Q Cホルスターにわずかに腕でさわり、得物の存在を確かめる。
もう一度顔を上げターゲットと自分、人質の位置を確認して記憶に刻み込む。
腕で制服のシャツをズボンからだし、銃のグリップを少しだけ露出させ、再び腕時計を盗み見ると、残り四秒。
そして、誰にも聞こえない小声でささやき始める。
「3・2・1・ファイア!」
ビシュッという音とともに窓ガラスに穴が開き、スーツの男がよろける。
僕は男の背中が床に付く、それより早く動く。ホルスターからグロック26を素早く引き抜き、マニアルセーフティーのないグロックの引き金を引く!引く!引く!
サイトは流すように横移動させ、ターゲットに合わさった瞬間にトリガーを引く。
9×19mmParabellum弾の乾いた音が連続して鳴り響く。
四秒弱で近い位置にいた四人を無力化する。
残りは窓際にいる二人だ。グロック26の装弾数は十発。
弾はあるが、銃というものは弾薬が同じでもバレル、つまり銃身の長さで飛距離と集弾性が大幅に変わる。
バレルが短いグロック26では少し遠い。
もちろん二人はこちらに銃口を向けてくるが、奏は表情を変えず武器を向けもしない。
二人がAKのトリガーに指をかけた瞬間。
背後の窓ガラスが粉々に割れ、特殊部隊御用達のパイロットヘルメットをかぶり、スキー用に似たゴーグルをつけた二人が外から飛び込んで来て、そのまま同時にAKを持った二人を蹴り飛ばしてすぐに首に手刀を入れ気絶させている。
「弓弦、刃弦一秒遅いぞ。」
テロリスト達をナイロン製の簡易手錠で縛り上げている、飛び込んできた二人組にため息交じりに言う。
「「すみませんでした!」」
二人は声を完全にシンクロさせて、詫びを入れる。
(毎度思うがすごい息の合い具合だ。)
ところで、なぜ二人は銃で撃たれたりしたテロリストを縛っているのか。
縛らなければならない。
つまり彼らは一人も人を殺めていない。
何故か。
それが彼らだからだ。
それから奏はすぐにグロックをホルスターに収めて、裏口に向かって歩き出す。
(人質達に顔をしっかり覚えられてちゃ困るからな。)
そして先ほど刃弦から受け取ったicom製の小型トランシーバーに作戦終了の宣言をする。
「コンディションオールグリーン。現時点を持って状況を終了する。各自エリア8、名古屋本部に帰投せよ。」
全員が武装解除し、片付け始めたとき、奏はふと無線にささやく。
「ところでさ~・・・。今のセリフカッコよくない!?オーバー」
プツッ・・・・・・プツッ、ザー
スピーカーからPTTスイッチ(押すと会話できるやつだ。)を押して、何も話さずに離した音がする。
「もういいよ!ア!ウ!ト!」
ガッシャン!奏はトランシーバーを床に投げつけてやった。
数歩歩いて思いとどまり、ため息をつきながらトランシーバーを拾ってその場を立ち去る柚留木奏であった。
さあ、次から本編です。




