3話 京都ブリーフィング②
どうもお久しぶりです、弓雲です。
皆さんをお待たせして申し訳ありませんでした。
完全ではありませんが、ちょこちょこと変わっている箇所があります。
まあ、読み返すほどではないかと…。
しかし!二章二話 京都ブリーフィング①については大幅増筆しましたので、一部ずつ読み進めていただいていた方は、再び読んでいただけると幸いです。
「あ~重かった!」
「サブマシンガンやら弾薬やらが、わんさか入ってるんだから重いに決まってる。」
「そうですよね…。」
床に座り込みながら愚痴る彩音に、女子高校生の会話とは思えない内容の返答をいつもの平坦な調子で小鳩が返す。
guilty silenceの五人は休憩室で落ち合ってからすぐにホテルに向かった。
背中にある重い荷物を置くためであり、チーム内ブリーフィングをするためでもある。
たった今到着して、女子二人に割り当てられた部屋へ自分の荷物を置きに行ったところだ。
「彩音さん、カーテンを閉めてください。荷物の中身が外から見えたらまずいですから。」
「はい、わかりました。」
カーテンを閉めて日光が遮られことと、エアコンが効き始めたせいで突然汗が冷えてきた。
今まで緊張とかで気づかなかったが、彩音のTシャツは汗で結構濡れていた。
「結構汗かきませんでしたか?」
「いいえ。」
「そうですか…。私、シャツだけでも変えていいですか?」
「確かにシャワーを浴びてる時間はない。早く着替えて。」
「はい。」
先輩の許可が出たので、上に羽織っていたブラウスは脱いでベットの上に、汗で濡れてしまったTシャツはハンガーにかけて乾かしておく。
新しいシャツはカバンに入っていたので、鞄の置いてある入り口に行く。
上半身には下着しか纏っていないが、この部屋には女子しかいないのだから何も気にしていなかった。
もちろん、このビジネスホテルがオートロックではないことなど考慮には入れていない。
「小鳩、彩音、ブリーフィングするからこっちの部屋……。」
見事にそこをついて、部屋にはいってきたのは二人を呼びに来た奏だ。
「はわ、はわ、はわわわわ」
彩音が顔を真っ赤にして口を金魚みたいにパクパクさせる。
「…………白だね。ガフッ!」
奏が何かの色を言った瞬間、彩音の耳の横を何かが飛んでいき、彼は仰向けに倒れた。
Tシャツを出して胸を隠しながら近づくと、奏の口にはナイフが突き刺さっていた。
もちろんゴム製の。
振り返ると、
「ラッキースケベなんてRPGにぶち当たって吹き飛べばいい。」
とナイフのホルスター片手に語る小鳩がいた。
***
「遅かったな。」
小鳩と彩音を呼んでくると言って男子部屋後にした奏は、すぐ前の部屋からたっぷり五分をかけてようやく帰還した。
「弓弦、理由は聞かないでくれ。」
聞かれる前から口止めをした奏の後ろには無表情の小鳩と、何故か顔がほんのり赤い彩音がついてきていた。
「どうしたの?彩音ちゃん顔が赤…」
「聞かないでください。」
これまた最後まで言わせてもらえない刃弦。
「今からチーム内ブリーフィングを始める。
まず担当範囲を決めよう。僕らが割り当てられたのは名神高速を使って、車で京都入りしてくる要人の襲撃が予想される範囲だ。」
「「あれ?」」
奏がさっさと始めてしまったので、二人の疑問が解消されることはなかった。
刃弦が持ってきた地図を奏が五色の色ペンで五つに区切って、漢字が一文字書かれた矢印型の駒を真ん中に置く。
「あれ?この赤で囲まれたとこだけ広くないか?」
「じゃあ、じゃんけんで勝った人から好きなとこに自分の駒を置いて行ってね。」
自分の問いには一切触れることなく、奏の掛け声でジャンケンが始まってしまうが、このチームではよくあることなので弓弦は大して気にしなかった。
「最初はグー、じゃん、けん、ぽん!」
机の上に繰り出されたそれぞれの手は弓弦だけがパー、その他がグーだった。
「やった~、一人勝ち!さあ、どこにしようかな。ここだけはないよな…ってえ!?」
弓弦を驚かせたのは、奏が発した言葉とみんなが再び手を振り上げたことだ。
「あいこで、しょ!」
じゃんけんで勝敗が決まらなかった時の掛け声を受けて各々の手が再び机の上に戻ってくる。
弓弦が理解できずに固まっている間に、二回のあいこを経て勝敗が決まる。
「じゃあ、僕はここで。
人通りが多いし、車の速度域が高いから犯行を起こしにくい。
あと、お店があるから買い食いがしやすい。」
と言って、『刃』と書かれた駒を高速の出口付近の大通りに置く。
次に勝ったのは彩音だ。
「私はここで。特に理由はありませんけど。」
そう言って、『彩』と書かれた駒を刃弦の駒の右隣(東)に置く。
次は奏が勝って、『奏』の駒を彩音の駒の上(北)、小鳩は『駒』の駒を刃弦の駒の上(北)に置く。
「わたしの駒だけ名字。悪意を感じますね。」
そんな小鳩のつぶやきは、九十秒をロードに浪費した弓弦の絶叫によってかき消される。
「どゆこと!?」
奏は血眼で詰め寄ってくる弓弦から少し、顔と心を引きつつ残っていた『弓』の駒を一つだけだだっ広い赤枠の中に置く。
「こゆこと。」
「違う。なんでこうなった!?」
「自分の腰に手を当てて考えてごらん。」
「腰?そこは普通胸じゃないのか?」
もちろん弓弦の腰には銃の入ったホルスターや、マガジンの入ったポーチがついているわけで。
それで思い当たることと言えばただ一つ……
「罰ゲームか。」
「そゆこと。」
どうやら、胸というワードに奏と彩音の肩がピクリと反応したことに気づく者はいなかったようだ。
「ロビーで俺だけトイレ行ったときに、なんか話してると思ったら…。
わかったよ、やりゃいんだろ。あ~、帰りて~!」
そう言って刃弦は気だるげに床に寝転ぶ。
しかし次の刃弦の言葉ですぐに起き上がることになる。
「なるほど兄さんだけは観光もせずにさっさと帰ると。」
「前言を撤回します。さあ、リーダー続きをしましょう!」
弓弦は一瞬で正座になった。
「お、おう。
これで範囲の割り振りはいいから、次は細かい注意点をまとめておこうと思う。
質問があったらその都度聞いて。」
「注意点って具体的にどういう目的があるんですか?」
さっそく挙手した彩音が奏に問う。
「もちろんみんなの安全のためだよ。一番大事なことだからね。」
そこで一度区切ってから一つずつ注意点を上げていく。
「まずターゲット。
狙撃の線が濃厚だろうけど、しかし、車を止めてから襲うとしたらサプレッサー付の拳銃やナイフもあり得る。
つまり、外見ではわからないから勘だな。
不審な人物がいたら少し尾行して、行動を確認してから接触しろ。
まあ、長もの持ってるやつがいたら明らかに怪しいよな。
次に歩哨のポイントだけど、ターゲットが拠点とする場所として人が住んでいない家や倉庫はもちろん、車を襲えるような道幅が細い通り、そこまでの人通りの少ない裏道は下見に来ている可能性があるから要チェックだな。
あと、定時連絡を行う事。十分に一回僕がMEGに連絡を入れるから、五コール以内に必ず出てくれ。
安全確認だから絶対忘れるなよ。
最後は武装。さっき京都支部の人が言った通り、今回のターゲットは単独の可能性が高いため、ハンドガンだけでいいと僕は判断した。
もちろんせっかく持ってきたから、他のも持っていくというなら止めはしないけど長時間歩くことになるからできるだけ身軽な方がいいと思う。」
「おい、こっち向くな。」
最後にわざとらしく、みんなより長距離を歩くことになる人に目配せをする奏に、その人である弓弦はジト目で返す。
「まあまあ。これでチーム内ブリーフィングを終わります。
質問がないなら、すぐに武装を確認してから出発だ。
…無いな。よし、日が落ちるまでは各自歩哨にあたってくれ。
解散!」
奏の話が終わったので四人はのろのろと立ち上がり、自分の荷物のところに戻って弾薬の確認などを行い、一人一人出かけていく。
「じゃあ行ってくるわ。」
「行ってきます。」
「……。」
「わたしも出ます。奏先輩はまだ行かないんですか?準備は終わってるみたいですけど。」
最後になった彩音がまだ部屋の椅子に座っている奏に聞く。
「戸締りとかの確認だよ。リーダーたる者細かい気遣いも大事なのさ。」
「じゃあ、ロビーまで一緒に行きませんか?」
「わかった。」
奏はすっと椅子から立ち上がると、二つの部屋を確認して戸締りをする。
「よし、行こうか。」
「はい。」
こうして、guilty silenceの五人はホテルを後にした。
読んでの通り、刃弦は弓弦のことを「兄さん」と呼んでいます。いまいち記憶があいまいでして、過去に違う呼び方の箇所が存在するかもしれません。『弓雲より先に見つけてやったぜ!』という方がおられましたら、指摘して頂けると嬉しいです。
さあ、ついにあの人が登場します(もしかしたら次回じゃないかも…)。
この話を書くためにクロコンを書いたといっても過言ではありません。
ということで、また来週?