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クローズコンクリフト  作者: 弓雲
第一章 新生guilty silence
12/30

10話 第十九回ハンドガン技能大会②

前回に引き続き、彩音視点です。

台詞が少ないですが、彩音のところなんかは、自分が彩音になった気で読んでもらえると面白さが増すかもしれません!

 「いいかな?」


 奏先輩が尋ねてきた。

 始まる前に自分の武装を確認する。

 スカートの上からホルスターに軽く触れ、銃の確認。シャツの上からマガジンに触れ、三本ともポーチに収まっているか確認。

 最後に前を見据えて遮蔽物との距離感を覚える。


「OKです。」


 そう答えてから、少しだけ、見えないくらいに重心を落とす。


「セット。」


 一度目をつむって無駄な思考を頭から追い出す。

 再び目を開くのと、奏先輩が合図をするのはほぼ同時だった。


「GO!」


 私はスカートの右側を少したくし上げ、隠れる位置につけてあったレッグホルスターから出ているグリップをつかむ。

 Px4引きぬきながら一つ目の遮蔽物に走る。

 トリガーに指をかけないようにしてスライドを引きながら遮蔽物に隠れる。

 上からエジェクションポート(排莢口)を覗きこんで、空砲弾が装填されることを確認してから手を放すと、


 カションッ


 とポリマーフレーム特有の軽い音を鳴らしながらスライドが元の場所に戻る。

 薬莢がチャンバー(薬室)に入っていく感覚が手に伝わり、この銃(Px4)に弾を入れて撃つのは初めてなこと気づく。

 これからたくさんの時間を共に過ごし、あらゆる事態を一緒に解決していくであろうこの銃(Px4)を撃つことは、自分から今までの日常を捨ててguilty silenceのメンバーと命を懸けた戦いに身を投じると考えてもいいだろう。

 まあ、実際はJSPの人の勧誘を受け入れた時点で決まっているようなものなのだが・・・。

 この思考に〇・五秒。

 次の瞬間、私はもう走り出している。

 もちろんトリガーに指をかけて。

 私の戦い方は相手が『体制を整える』、『こちらの戦力を把握する』、その前に接近して優位に立つ。

 それを実行するべく、前に前に進む。

 パンッパンッパンッ

 だいたい顔より下に狙いを付け、車の陰に隠れようと走っている(ターゲット1)に対して素早く指を前後に動かし、三連射。

 スライドが激しく動き、空になった薬莢がエジェクションポートから飛び出していく。

 訓練に使用していたM92FSよりグリップが密着しているためか銃が暴れにくく、連射がしやすい。


(これなら訓練の時よりも攻められる!)


 一発が命中してその(ターゲット1)が倒れたのを見て、次の(ターゲット2)を定める。

 そこで二つ目の遮蔽物が近づいて来たので、体を傾けて隠れるフェイントをする。

 見事に反撃を始めた敵の銃口はバリケードの方へ行き、自分にはついてこない。

 (ターゲット2)にサイトを合わせて、トリガーを連続して引き絞る。

 ダウンさせたのと同時に反撃が私の移動についてきたので、三つ目の遮蔽物を挟む位置に移動し、被弾を防ぐ。

 栞先輩の技を混ぜつつ、遮蔽物に着くまでにさらに二人(ターゲット3・4)をダウン。

 ちょうど弾が切れて、銃がホールドオープン(弾切れを射手に伝えるためにスライドが後退したまま止まること)を起こす。

 すぐに右手でマガジンをリリースしたPx4に、シャツの下にあるポーチから取り出した予備マガジンを左手で叩き込む。

 さらに銃側面にあるスライドストップというパーツを右手の親指で押し下げるとスライドが前に戻って、空砲弾がチャンバーに送り込まれ、再び射撃が可能になる。

 二秒弱にリロード時間を短縮するために、ひたすらマガジンチェンジの練習をしたのは記憶に新しい。

 空のマガジンは自由落下したまま床に落としておき、三つ目の遮蔽物から残りの敵を掃討しにかかる。

 距離が縮まり、先ほどより銃撃が激しくなるが、三発に一回はヒットさせているので、すぐに敵の数が減っていく。

 最後の(ターゲット10)は背を向けて逃げ出した(なんで?)。

 私は狙撃の時に使われる呼吸法で呼吸を落ち着かせる。

 吸って、少しはいて、止める。


 パンッ……ドサ


 見事に一発で命中。

 (ターゲット10)は勢い余って一度前転してから地面で伸びている。

 無駄にシュールなシュミレーターだった。

 ちょうど弾が切れたマガジンは取り出してポーチに。ホールドオープンしたPx4はスライドを引いて元の位置に戻す。

 さらにレバーを操作して、ハンマー(撃鉄)をデコッキング(安全な位置に戻す)する。

 こうすることで銃を完全に安全な状態にできるのだ。

 私はPx4をホルスターに収めてからみんなのいるスタート位置まで戻ってくる。


「なんなんですか?あのシュールな敵の動きは。」


 敵が背中を向けて逃げ出すなんて普通のシュミレーターやFPSなどのゲームではほとんどないだろう。


「不利になったら敵だって逃げるだろ?リアルな方が練習になるじゃん。」


 私の質問に奏先輩はしれっと答えるが……


(斬新すぎるだろ!)


「お!彩音の成績が出たぞ。タイム27.9秒、スコア63.1だ。

 さすがだな。僕が予想していた以上の成績だ。」


 どうやら、技術的にも認めてもらえたようだ。

 暫定一位になれたことも合わさって、顔がにやけてしまいそうになったとき、


「「「えええ~!後輩に負けた!!」」」


 栞先輩、弓弦先輩、刃弦君が声をハモらせて絶叫している(小鳩先輩は無言)。


「おい奏。彩音ちゃんなんでこんなに強いの?」

「彩音は接近戦のテストの成績がずば抜けてよくって、歴代六位らしい。

 歴代って言っても設立から二年しかたってないけどな。

 まあ、あれだよ逸材ってやつ。」

「「「……」」」


 弓弦先輩への返答でみんな黙ってしまう。


「さあ、とりは派手に決めないとな!彩音、スターターやって」


 いつの間にか薄い上着を羽織った奏先輩は、私にモニターの操作方法を教えてからスタート位置に立つ。


「いいですか?」

「おう。」


 先輩の短い返事は心なしか、声が低かった。


「セット!」


 他の人たちはこの時点で少し威圧感を放ったり、構えを取ったりしたが、奏先輩はそれらを一切しない。

 ……いや、違った。

 むしろ逆といえる。

 気配が薄れていくのだ。

 目を放したらどこにいるのかわからなくなるほどに。

 接近した戦闘では相手の気配を感じる時がたまにある。

 それを完全に消されるのだから、敵にしてみればたまったもんじゃない。

 しかし、実際にできる人を見たのは初めてだった。

 驚きながらも、壁のモニターに表示されたスタートボタンを押して、合図をする。


「GO!」


 私の声と同時に先輩が右手を後ろに大きく振り上げると、上着の前がバサッっと音を立てて横に開く。

 次の瞬間には右手がシグ・ザウエル&ゾーン社製のP226を握った状態で前に突き出されていた。

 さらに片手持ちのままダブルタップ(二連射)を放つ。


 パパンッ


 セミオート(単射)で撃ったとは思えない連射で打ち出された二発は走っていた(ターゲット1)に両方とも命中している。

 というか初弾をチャンバー(薬室)に送る動作が見当たらなかった。

 左手の位置から推測すると、銃をホルスターから射撃位置にもってくる軌道上で、スライドに左手をひっかけてコッキングしたのだろうが……。

 とにかく口に出せた言葉は、


「……は?」


 その後はP226を両手持ちにし、普通に歩く速度で二つ目の遮蔽物方向に歩きながら一秒間隔くらいでダブルタップを放つ。

 ところで、九割方命中するのにダブルタップをする必要はあるのだろうか…。

 あまりにも早い攻撃に敵は反撃ができない。

 奏先輩は二つ目の遮蔽物の直前で腕を曲げ、銃を傾け、リロードの構えをする。

 まだホールドオープン(弾切れ)していないのに何で?と私は思うが、『捨てたマガジンが自由落下で地面に落ちる前にダブルタップを繰り出す』という神業と言っても過言じゃない技を当然のようにやってのける奏先輩を見て気づく。


(あれは確か、……タクティカルリロード!)


 タクティカルリロードとは、緊迫しているときに弾切れにならないよう、安全なところで弾の残っているマガジンを取り出し、フルロード(満タン)されたマガジンに交換するというもの。

 危険な弾切れを防止する他にも利点がいくつかあり、チャンバー(薬室)に弾が一発残ることから、装弾数が+1発になることや、初弾装填のコッキングが不要になることがあげられる。

 スピードシューティングという競技や特殊部隊などで好んで使われる方法だ。

 しかも先輩がやったリロードは、初めのマガジンで十五発中十四発を撃ったので、捨てたマガジンは空で、撃たずに捨ててしまった弾は一発もないのだ。

 しかも早い。

 間違いなく理想のリロードだろう。

 そんなことをさらりとやってのけた奏先輩は残りの三人もすぐにダウンさせてしまう。




「お~い。彩音~。大丈夫か?」


 あまりのことに思考が停止してしまっていたようだ。


「あ、はい。すいません。えっと、奏先輩の成績はタイムが14.2秒、スコアが88.8です。……って、え!」


 私は驚いた。


 あれで約89点だという採点に……。


 こいつは私たちに何を求めているのだろう。

 私がモニターを睨み付けていると、奏先輩が横から88.8の数字を覗いて言う。


「8っていい数字だよね。うん。」


 なんだか意味ありげな言葉に首を傾げる私であった。


次回で第一章は終わる……はず。です。


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