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放棄、緩慢、進展

「あ」


 強迫的とも言えるギスギスとした外圧に押さえつけられるかのように肺が収縮して、主将の意思と無関係に勝手に声が出る。もちろん吐き出された言葉に意味などない。


「ん? 何だ?」


 やはり上機嫌な監督。


 少し間を置いた末に、主将は考えるのをやめた。


 「もうどうにでもなれ」と、主将の心は覚悟も決めぬままに口に全てを喋らせた。


「この一年間ずっとやってきた練習の意味について教えてください。どうしてあれが野球の練習になるのですか? どうしてそんな方法を取り入れたのですか? 部員たちと衝突しながらもどうして頑なに変えなかったのですか?」


 太陽が沈んでいく。グラウンドを風が通過して、軽い砂埃が舞う。


 ついに言った。口は一気にまくしたてるように喋る。


 ついさっきのことなどまるでなかったことのように、皆の意見をぶつけてくれた主将に、モーションレスに賞賛の意を表す。主将は今、正に暴君に立ち向かう英雄の様である。


 後はこれに暴君たる監督がどう応えるかだ。こうなることは既に分かっていたことだったが、それを上回る環境の到来。


 監督にしてみれば完全に不意打ちだったのだろう。何やら感慨深そうだった表情を急激に一変させる。その変化の幅が大きすぎたためか、とんでもない過ちを犯してしまったのではないかという必要以上に後悔じみた雰囲気が部員たちの間を駆け巡った。しかし、それでもやはり一切の説明なしにこの練習内容を受け入れろというのには納得しかねる。


 問答無用に監督は怖いが、だからと言って理由を聞かぬままでは多分明日は戦えない。濃度の一様でない不安が乱雑にせめぎ合い、得も言われぬ空間を醸成していた。


 その空気に呼応したかどうかは定かではない。しかし監督はこれまでとは違い、問答無用で拒むというわけではなさそうで予想外にも「う~ん」などという声を上げながら、普段見せないような深刻な表情で腕を組んで真剣に考え込んでいる。


 感情が複雑に混線したままでその姿を見守る部員たち。これまでの経験から今回も無理なのではないか、しかし監督の反応がこれまでの経験とは違う。どういう結果になるのか、それはどうにも予測不可能で、彼が喋るまでは全く分からない。


 先程とは類を異にする緩慢な時間が訪れる。


 太陽は見えなくなり、地上付近だけが残り香のように朱く燃えている。既に訪れた青暗い闇とのコントラスト。名うてのバーテンダーの創造するカクテルのようなこの黄昏時の空は、日常に垣間見えるささやかな奇跡ともいえる。


 しかし、今の部員たちの心には、そういったものに気を配る程の間隙がない。


 次第に集中は研ぎ澄まされていき、グラウンドからの音さえも受け付けなくなる。唯々監督の言葉を待つばかりである。


 沈黙は暫く続いた。


 そして、監督は口を開く。


「……そうだな、皆ここまで来たんだ。しかしそんなに一気にまくしたてられてもな」


 そして一呼吸の後。


「さて、何から話したものか」


 永遠のようにも長く、また、瞬きのようにも短い時間が過ぎた。


 そしてこの瞬間、これまでとは別の類の沈黙が訪れた。監督の発言は野球部の隣で一緒に話を聞いていた、合同練習相手の化学部員にも静かな衝撃を与えた。


 監督はついに一年間決して触れることのなかった練習内容の意義について話し始めた。

 バカ展開の片鱗が少し見えましたが、バカ加減も含め本作は真綿で首を絞められるかのごとくあと少し続きます。

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