守護天使 楓
短い現代ファンタジーです。
日常の裏側で起きている、もうひとつの出来事を描きました。
気軽にどうぞ。
夕刻、帰宅中、近所。生姜焼きの香りが流れてくる。
胃の腑に届く、アレは致死性のガスにも等しい最終兵器だねぇ。
自宅のドアを開ける。生姜焼きの香りが濃くなった。
サイレン。TP(Top Priority:最優先事項)発生を告げるサイレンだ。
放送、通信、あらゆるメディアを利用して、事態と指示が即時に公知させる。
命に関わる以外の、すべてのシステムが非アクティブ化されていく。
「こちらは中央司令部だ。
エリアA-28-560に於いて、黒化の発現を確認した。
直近とその両サイドのゲートは閉鎖、他のゲートはフィルタの密度レベルを7にして待機。
セラフィム隊とミカエル隊は隔離と浄化にあたれ。
浄化の厳しいものは虚数空間へ隔離せよ。トリアージを誤るな。
ケルビム隊は状況の把握と解析を。新種かもしれん。
貴様らの真価を知らしめる時だ。昼行燈ども、惜しむな、励めよ」
目に見える範囲での対処は着実に進んでいる様に見えた。本件の報告書も定型文で済みそうだと安堵しかけたその時。
「セラフィム隊より中央司令部へ。
黒化、解消しません。むしろ広がって…、実体化しつつあります。
汚染速度に追いつけないため、エリアごと虚数空間へ隔離しました。
ヤツら、いったいどこからこんなエネルギーを…」
「ケルビム隊より解析結果と対応案を提示します。
タイガーストライプⅡ型、その亜種ですよ。
本体は従来仕様ですが、外部からのエネルギー供給が強化されて高速化しています。
対応案は2点、両方の実施が必要ですよ。
まずは、エネルギー供給を断ちます。
開いている全ゲートはフィルタの密度レベルを、現在の7から9に上げますよ。
そして守護天使による討伐が必要です。
そーですねぇ、「楓」が最適と思いますよ。
それにしてもですね、タイガーストライプⅡ型とは珍しいんですよ。
あれは5年前、一度相まみえたときにはですよ、……」
2隊からほぼ同時に報告があがる。…ケルビム隊の評価、上昇は難しいかもしれん。
「聞いていたか、楓。お役目だ、よろしく頼む」
「楓、了解。準備完了。いつでも顕現できます」
「よし。顕現せよ、楓」
薄暗い虚数空間--ヴォイドとも呼ばれる--に現れ出でる黄金のカタチ。
光あれ。
楓の主武装、それは多重魔導砲である。
それは折り畳まれた状態で楓の背にマウントされ、伸長すれば楓の背丈の倍を優に超える。
砲身は1門だが、運用時は仮想砲身を最大で6門まで追加展開、HESH(粘着榴弾)を驟雨の如くに連続発射する。
コントロールされた弾頭は確実にすべての汚染部へ導かれ、貼りついて黒化を解消、更に浄化の効果までを発揮する。
実体化したTP本体に対しても、その汚染機能を停止に追い込む。
楓に撃ち漏らしは無い。
多重魔導砲をフルバーストで発射する紅蓮に塗れた姿、それを上空から見ると、真っ赤に紅葉した楓の葉の様に見えるという。
故に、殲滅と浄化の守護天使。楓の由来である。
始まった。毎週やってる素人参加型のベイカー対決番組、今日はパン対決だ。
3回対戦して最優秀者を決める。
審査員のペール、その厳しい口調がイイ。
「緊急ニュースです」
あれれ。
「国営鉄道のホームにある自動販売機にコンピュータウィルスを仕掛けたとして警察は、都内に勤める会社員、A田B男容疑者を逮捕しました。
警察の取り調べによりますと、スマートフォンを利用して自動販売機で商品を購入した際に、スマートフォンに侵入し、帰宅などの際に家庭内ネットワークに侵入してパソコンやタブレット等のデータを破壊するウィルスである、とのことです。
警察では、動機などを調べています。
このコンピュータウィルスについて、専門家に聞いてみましょう。
自称ハッカーの南目輝さんにお越しいただきました。
では、南目輝さん、よろしくお願いします」
「ハッカーの南目輝です。恋人も仕事も募集中です。
ウィルスはですね、タイガーストライプⅡ型というもので、初出は5年ほど前になります。
ウィルスソフトをアップデートしていれば、何らの問題も無いと考えます。
ただ、自販機からスマホを経由して侵入ってのは新機軸ですねウラヤマシイ。
でも私ならもっと……」
「自称ハッカーの南目輝さんでした、ありがとうございました」
皆さんも、ご家庭のウィルスソフトをご確認ください
緊急ニュースでした」
ええー!!
1回目のパン対決、もう終わってるじゃん。何なのコイツラ。
……生姜焼き食べよ。
読んでくださり、ありがとうございました。




