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猫がいなくなった。

作者: 豆狸
掲載日:2026/05/05

 ……えっと……ごめんなさい!

 本当は私、怖い話なんか知らないんです。

 でも人がたくさんいるところでお願いしたら、ガーちゃんを見つけてもらえるかなあって思って。


 ガーちゃんは猫です。

 黒猫。赤みがかったオレンジ色の……カッパー? の目です。

 男の子です。お母さんは、発情期で家出しただけでしょ、って言うんです。すぐ帰って来るわよ、って。


 でもガーちゃん去勢済みなんですよ?

 いえ、去勢してからもスプレーはしてたんですけど。

 発情期で家出したとしても、帰ってこないのは迷子になってるからじゃないかと思うんです。ほら、ヨソの猫の縄張りに入って追い出されて、気がつくと知らないところに行っていた猫の話をよく聞くじゃないですか。


 あ、ごめんなさい。

 これじゃわかんないですよね。

 えーっと、ガーちゃんがいなくなったのは、いなくなったのに気づいたのは一ヶ月前です。家にいなかったんです。


 いなくなったときのことはわかりません。

 私も家にいなかったんです。

 交通事故に遭って入院してた……ってお母さんは言うんですけど、私、全然覚えてないんですよね、入院してたときのこと。


 事故のときに頭を打ったからって言われたんですけど、そんなことあります?

 元気になって退院したときのことも覚えてないんですよ?

 中学校の帰りに横断歩道に足を踏み出して、気がついたら家にいたんです。お母さんは嬉しそうに泣いてたけど、ガーちゃんがいなくて。どんなに呼んでも出て来てくれなくて。


 あ、うちお母さんしかいないんです。

 お父さんは元々病弱な人だったのが、癌で亡くなっちゃって。

 もう何年前になるのかなあ。


 お父さんが亡くなったとき……ううん、闘病中だったのかな? 家の近くのお堂にお母さんとお祈りに行ったことを覚えています。

 鬼子母神様のお堂です。

 お母さんは私の両肩に手を置いて、凄く苦しそうな顔してました。


 ああ、そう。あの顔、ほかのときにも見たことがある。

 お母さんがガーちゃんを抱っこして、凄く苦しそうな顔でこっちを見てた。

 お父さんのときと違って、お母さんは私の後ろじゃなくて前にいたんだよね。


 お母さんが私のほうへガーちゃんを差し出すようにして、私はガーちゃんに手を伸ばして……ガーちゃんは毛を逆立てて怯えてた。

 あんなガーちゃん初めて見た。

 私のこと大好きで、初めて家へ来たときもすぐに膝の上で寝てくれたのに。


 あー、ごめんなさい。

 なんか話がズレちゃいました。

 えっと……お母さんがガーちゃんを抱っこしてお堂に行ってたのは、たぶん夢です。覚えてないけど退院した後で、入院中に心配してお堂へ行ってたのよ、ってお母さんに言われたことがあったのかもしれない。


 お父さんのとき? 普通にお祈りして帰りましたよ。

 そうですね。そういえば、鬼子母神様に病気や怪我の治癒をお祈りするのって変ですよね。

 鬼子母神様は安産と子育ての神様だもの。


 うーん、なんだっけ?

 お父さん、あのお堂で祀ってるの本当は鬼子母神様じゃないって言ってたんですよね。

 鬼子母神様と同じように子どもが多い神様で、お供えすると子どもを授けて命を戻してくれるんだ、って。んん? なんか不思議な話ですね。お供えしたら神様の子どもが守護してくれるってことだったのかな?


 お供えは鬼子母神様と同じ『柘榴』です。

 ふふっ。私の名前も『柘榴』っていうんです。

 お父さんが付けてくれた名前なんですよ。


 ガーちゃんの名前は私が付けました。

 私とお揃いなんです。

 普段呼びはガーちゃんだけど、本名はガーネット……柘榴石なんですよ。


 なんか脱線ばかりしちゃってごめんなさい。

 事故のせいか、頭の中がふわふわしてるんですよね。

 自分の記憶なのに自分のものでないような、他人の記憶を植え付けられているような……そんなことあるはずないのに。


 えっと……とにかくガーちゃんをお願いします。

 凄く人見知りする子なので、見つけても駆け寄ったり抱き上げたりしないでください。

 逃げます。引っ掻いちゃうかもしれない。


 凄く心配なんです。

 この町、そんなに治安が悪いってことは無いんですけど、私の中学の卒業生が数年前に猫の親子を殺したっていう噂があって。

 そんな人に会って怯えたガーちゃんが暴れたりしたら、って思うと……


 でも凄く頭の良い子なので、(柘榴)が探してたよ、って言ってくれればわかると思うんです。

 それで私の家の方向……あっちです……を指差して教えてもらえれば、きっと帰ってくると思います。

 ほかの猫の縄張りに入ったときに怒られて、怯えて右も左もわからなくなっちゃってるんだと思うから。


 黒い雄猫、短毛です!

 目は赤みがかったオレンジ色です。

 年齢は五歳……ああ、お父さんが亡くなってから飼い始めたから、お父さんが亡くなって五年なんだ。


 とっても私に懐いていたんです。

 別人が私に成り代わったとしても、絶対気づいてくれると思います。

 ……そんなことあるはずないですけどね。


<終>

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