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我が家どこにでもある普通の家庭、父と母と高校生の娘。平々凡々な家族のはずだった。あの日までは。

 ある日家に知らない男がいたのだ。一年前の夏にふらっと現れて、今は私の目の前で朝ご飯を食べている。男は私の父よりも背が高くて、私が好きなアイドルによく似ている。色素の薄い瞳と髪の色、発光するように艶めく肌、アイドルの色違いだ。お椀の隙間から観察していただけなのに、気がついたのか目が優しく細められる。

「なあに光子ちゃん」

 ケーキに練乳をかけたような、甘ったるい声に胸焼けがする。なんでもない、と視線を外すが、男の愉快そうな気配がして不愉快だ。


「光子ちゃん、愛してる、君のために僕は今ここにいるよ。」

 空気が湿度をはらみ始めた5月、心地よく揺れるカーテン、鳥の鳴き声、男の体温、抱き締められた体、ズレたカーペットの感触。始まりのあの日。

 

 父も母もある日現れたこの男を、清澄くんと親しげに呼ぶ。「どうしたの、あなたが小さい頃から一緒のお兄ちゃんでしょ。いつもお兄ちゃん、お兄ちゃんって付いて回って。」「清澄くんにべったりだったのにどうしたんだ。」男の話をしている時の両親の顔はあまり見れない。「隣の白河さん、清澄くんのご両親が遠くに引っ越すってなってね、でも清澄くんはここに残りたいって言ってうちに、」隣は空き地だ。黄土色の地面に雑草が茂っている。

 それに男が寝起きしている部屋は物置き部屋だったはずだ。ホコリを被ったぬいぐるみ、小学校の頃の自由研究、読まなくなった絵本…、そう言ったものが詰め込まれていたのだ。「お母さん、私が自由研究で作った粘土の置物知らない?」「?、あなたそんなの作ったかしらねえ。」母は曖昧に微笑むがそんなはずはないのだ。なぜか母はそれをよく気に入っていて、ニスの剥がれかけた置物をたまに磨いていたのだから。

「光子ちゃん」

 味噌汁を片手に男が微笑む。粟色の髪が台所から差し込む陽光に照らされてきらきらと輝いている。

「どうしたの、ご飯進んでいないようだけど。」

 朝ごはんは一日のエネルギーちゃんと食べて、と母が続ける。

「…少し考えごとを」

「急に冷たくなってこの子は、ごめんね、清澄くん、そういう年頃かしらねえ。」

 急須からお茶を注ぎながら母が首をひねる。

 一年前から突如現れた男と警戒しないで話せるほど私は暢気ではないのだ。「有難うございます、保子さん」

 お茶を受け取りながら男は笑う。整った歯並び、すらっとした鼻、長い睫毛に縁取られたキャラメル色の瞳。人間とは思えない、曖昧であやふやな男は今日も私の家で団欒を演じている。

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