8.幼いのに大変だなぁ
少女の瞼が震え、ぱちりと目を覚ます。
「……んん。ここは……?」
「姫様!目を覚まされたのですね?!私がわかりますか?」
「ディナ?あなたどうして……。ッ銀狼は?!」
目が覚めたばかりで状況を把握できていない王女はぼーっとディナを眺めていたが気を失う前の状況を思い出したのだろう、ばっと体を起こし周りを警戒し始める。
そして今は危険な状態ではないだということを把握すると見慣れないタダヒトの顔を見て困惑したようにディナに尋ねる。
「ディナ、こちらの方は……?」
「はい、こちらはタダヒトさんです!私たちの傷を癒してくださった命の恩人です」
「命の恩人だなんて大袈裟だ。初めまして、王女様。俺はタダヒトだ。森が騒がしかったから少し散策していたところ怪我をしていたあんたを見つけて治療した。どこか違和感があるところはないか?」
「え?あ、そういえばどこも痛くないわ……。もう助からないほどの怪我を負ったと思ったのに……。タダヒト様は強い加護を授かったのですね、この森を一人で行動できるだなんて……。なんとお礼を申し上げればよいか。何か差し上げられるものがあればいいのですが……」
「気にしなくていい。それに、俺に様なんかつけなくていい。俺も礼儀作法とかよくわからねぇし無礼なことも多々あるだろうけど見逃してくれると助かる。だが、お礼をしてくれるというのなら一つ頼みがある」
タダヒトがそう口にすると王女とディナは少し身構える。
「……ええ。わたしに叶えられることでしたら」
「じゃあ、俺をあんたたちの一行に加えてくれないか?実は、散策しているうちに帰り道がわからなくなってしまって帰るに帰られなくなってしまったんだ。森の様子が気になるしお前たちの国に案内してくれないか?」
ははっとおどけたように笑う。
「へ?あ、そのようなお願いでしたらこちらからお願いしたいくらいです。むしろこちらこそよろしくお願いいたします。ですがそれではお礼になりません。もしよろしければ王城までご同行願いませんか?そこでしたら十分な報酬をお渡しできます」
真摯な態度の王女に紅月は考える。
へぇ、王城まで案内してくれるのか。
それは願ったり叶ったりだな。
それに貰えるものは貰っておくか。
「これは断るのはさすがに失礼に当たるか。じゃあお言葉に甘えて、王城までご同行させてもらおうかな。よろしく頼む」
「はい!」
王女は満面の笑みを浮かべて嬉しそうに答える。
「それではこれよりわたしたちのキャンプ地にご案内します。ディナ、キャンプの状況はどうなっていますか」
「はい、怪我人は多数出ているものの死者は出ていない……はずです」
「……ディナ。何故キャンプの状況を把握していないのですか?」
「……申し訳ありません!姫様がおとりとなった後すぐに姫様を追いかけてきましたので他の者の状況を把握できておりません……」
「はぁ、ディナあなたという人は……。では、すぐにキャンプに戻って状況を把握しなければなりません。 そういえばタダヒトさん、銀狼……大きなオオカミを見かけませんでしたか?」
「いや、俺が王女様を見つけた時には倒れた王女様しかいなかったぞ」
「そうですか……。銀狼が獲物を放っておいてどこかに行くとは考えづらいですね……。もしかしたら何か銀狼の気を引く出来事があったのかも知れません。とりあえず今はキャンプの状況を把握することが最優先です」
そういうと王女は大きなぬいぐるみのクマを召喚すると、軽やかにクマの背中に飛び乗った。
「タダヒトさん、ディナ。早く乗ってください、急ぎますよ!」
王女に急かされるままにクマに乗る。
クマには人が乗りやすいように椅子が付けられており揺れを感じることもなく乗り心地は最高だった。
「これはすごいな……」
「驚きましたか?これが姫様が授かった”加護”です。魂をぬいぐるみに憑依させ、その魂の持ち主が生前有していた能力以上の力を与えこの世に呼び戻す能力です」
「それはすごい加護だな。だが、こういうタイプの加護はかなり偏見の目が向けられるんじゃないか?」
「はい……。この加護のせいで姫様はかなり苦労されてきました……。人の魂を弄ぶ魔女だのとひどい侮辱を受けたりとそれはとても一国の王女に向けられてよいものではありません」
ディナは悔しそうに唇をかみしめる。
それを聞いていた王女は悲しげに目を伏せただけで特に何か言ってくることはなかった。
「ですが勘違いしないでください!姫様の力は決して魂の持ち主に無理強いをするものではありません。 魂の持ち主が望まない限り発動しない能力なのです。ですから、今このクマに宿っている魂も自ら望んで姫様に力を貸しているのです。ただ、憑依したとき話すことはできなくなるというデメリットはありますが……。もし私が死んだとしてももちろん姫様の力となるべくこの魂を差し出すでしょう」
「ディナ!そんな起きもしていないことを話さないでッ!……あなたが死ぬだなんて仮定の話だとしても聞きたくないッ」
「……申し訳ありません、姫様。ですが、姫様に知っておいてほしいのです。死んだとしてもディナはずっと姫様のそばにいるということを」
「……わかっているわ。あなたならそうするってことなんて。私が生まれた時からずっと一緒にいるんだもの……」
暗い雰囲気が漂う。
うーん、暗いなぁ。
正直言うと他人の過去とかどうでもいいんだがこういうのってちゃんと聞いておいたほうがいいんだよな?
こういうのが後々重要になってきたりするし……面倒だな。
まあ、とりあえずこの姫さんは冷遇されてきたってことだよな。
んー、もしかして厄介者払いでこの森に送られたのか?
まあ、そうじゃないとこんな幼い子がこんな危険な場所にいるわけないか。
ということは、王城に無事戻っても大したお礼は期待できそうにないな。
まあ、俺としては王城に行けるだけで十分だけどな。
「あ、すみません!こんな話で空気を悪くしてしまいましたね。さっきの話は気にしないでください」
そういうと王女は無理やり笑顔を作った。
「王女様は苦労してきたんだな。そんな幼い身でありながらご立派なことだ。微力ながら俺もあんたの力になるよ。まあ、といっても俺は人を癒すことしかできないけどな」
お茶目に笑って見せる。
「本当ですか?人を癒せるなんてすばらしい力です。そんなタダヒトさんが力を貸してくれるなんてなんて心強いことでしょう。ありがとうございます!」
「タダヒトさん、ありがとうございます!」
「少しは元気が出たようで安心した。こんな瘴気に覆われた森の中じゃあ気も沈むもんだ。最悪の事態を考えるより明るいことについて考えたほうが精神衛生上いいだろ」
「ふふ、そうですね。ありがとうございます。あ、キャンプが見えてきました!急ぎましょう!」
話しているうちにキャンプが見え、クマはスピードを上げた。
ありがとうございました。




