2.死にたかったのに死ねなくなるとか笑えない
『蘇生が完了しました』
『セーフティエリアに転送が完了しました。まもなく意識が回復します』
脳内に直接響くような音声が聞こえ意識が浮上する。
「んあ?ここどこだ?俺は死んだよな……?じゃあここが俗にいう死後の世界ってやつか?想像と違ってなんもねぇな」
目をこすりつつ周りを見渡す。
俺が目を覚ましたのは何もない白い部屋だった。
「お、起きたか?」
部屋の観察をしているとどこからともなく声がして、ぽん!という音とともに羽の生えた小さな黒い犬がパタパタと宙に現れた。
「うお!なんだお前!」
突然現れた犬に驚き、びくりと肩を跳ねさせる。
そんな俺を尻目に犬は自己紹介を始めた。
「よっ!初めまして。オレはイデス。この空間の案内役みたいなもんだ。よろしくな、夜光紅月」
そういってニッと笑うイデスに警戒心を高める。
「なんでお前、俺の名前を知ってるんだよ。いや、待て。お前、ナビゲーターとか言ったな。ということは、死後の世界の案内人ってことか?なら、俺のこと知っていても不思議じゃないな……」
紅月は言葉ではそう言いつつも違うだろうなと思っていた。
大体俺は死後の世界なんて欠片も信じていない。
ここが死後の世界でないとすると可能性は一つ。
俺は嫌な予感がした。
そんな紅月の思考を読んだようにイデスが声を発する。
「残念だけど、お前の考えているほうが正解だぜ。ここは死後の世界なんかじゃない。ここは現実の続き。お前でいうところのデスゲームの真っ只中ってとこだ」
ちっと思わず舌打ちがこぼれる。
「それじゃあ、俺はデスゲームからの早期リタイアに失敗したってわけか。だが、俺は確実に殺されたはずだ。それでも今俺は生きている。ということは、このデスゲームは参加者に特別な能力授ける系か?」
イデスはにやりと笑う。
「察しがいいな。オレはお前みたいに頭が回るやつ好きだぜ。無駄な話をしなくて済むからな。さて、お前の言う通り今回のゲームはお前たち救済者にスキルを与える仕様になっている。お前もその与えられたスキルによって今生きてるってことだな」
「はっ、迷惑なことだな」
紅月は吐き捨てるように言う。
「ははっ、そういうなよ。スキルってのは誰にでも与えられるものじゃないんだぜ?スキルを真っ先に手に入れられたおまえはすげーラッキーってことだ」
イデスのその言葉に紅月はイラっとした。
どこがラッキーなんだよ!!
俺はさっさと離脱したかったんだよ!!
こんなくそみたいなゲームに参加なんてしたくないんだっての!!
紅月の心の叫びを知ってか知らずか話は続く。
「んで、ここはどこかっていうお前の疑問だが、ここはお前の派生スキル”憩いの場”で形成された安全地帯だ」
「派生スキル?セーフティエリア?なんだそれは?」
「その疑問に答えるにはまずスキルの説明をしなきゃな。スキルってのはお前たち救済者に与えられるプレゼントみたいなもんだ。スキルは複数の種類が存在する。まずは”メインスキル”っていう言葉通り主となるスキルだ。これは救済者が初めに手に入れることができるスキルだな。メインスキルを手に入れることができないやつもいる。まあ、そういうやつらはすぐに死んでいくんだけどな。
次にこのメインスキルから派生する”派生スキル”だ。これは、救済者がある一定条件をクリアすると手に入るスキルだな。そのスキルの能力、入手条件はメインスキルによって異なる。基本的には、メインスキルを強化、補助するような能力になっている。
他にもスキルはあるけどとりあえずお前が手に入れたこの2種類のスキルの説明だけしておくぜ。他のスキルの入手方法とか教えるのはフェアじゃないからな」
ここで一旦説明を止めて、ここまでで質問はあるか?とイデスが俺に問いかける。
「フェア……。フェアといえば、俺以外のプレイヤーにもお前みたいな案内役がいるのか?」
「いや、こんな風に一人に対してナビゲーターが付くことはないぜ。オレはあくまでお前が手に入れた派生スキル『憩いの場』についてるスキルの案内役、つまりスキルの一部だからな」
オレみたいな有能な案内役が付くなんてお前はほんとにツいてるぜとイデスは笑う。
「ああ、そうだ。お前はもうすでにメインスキルを獲得してるから教えてやるよ。メインスキルの獲得条件は”願い”なんだ」
「願い?」
「そう願いだ。誰にでも願いの一つや二つはあるだろ?でも、ただなになにしたいなぁとかこれがあったらいいなぁとかいうふわっとした感じの願いじゃダメだ。強く渇望すような願いじゃないとな。だからメインスキルを獲得するのは命の危機に瀕した時が一番多い。そういう時にこそ強い願いが生まれるからな」
イデスの話を聞きながら紅月は疑問に思う。
ん?じゃあ俺は?俺はあの時強く死にたいと思った。
おそらくこれがこいつの言う強い願いなのだろう。
強い願い……。
俺はあの時死にたかった。でも死んでいない。
蘇生されて今生きている……。
いや、待て。俺は当たり前にその願いに応じた、そう自分が望んだ能力が手に入ると考えている。
もし、この考え自体が間違っているとしたら……まさか……ッ!
一つの結論とともに紅月は視線をイデスに向けた。
イデスは嗤う。
「ピンポーン!正解だ!メインスキルの獲得条件は”願い”。でも、手に入るのはその願いとは逆、もしくは似て非なる能力だ!」
面白いだろ?とイデスは嗤う。愉しそうに。可笑しそうに。その目に狂気の断片を映して。
「最悪だ……ッ」
紅月は吐き捨てるように言葉を吐き出した。
「だから俺は死なずに今生きているのか……ッ。死にたいと願ったから……ッ」
そこまで言ってふと思う。
まさかまさかまさか……ッ!
俺の願いは死ぬこと。この願いと逆のスキルってことは……。
「俺はまた(・・)死ねなくなった……のか……?」
それだけはやめてくれ、そんなことはないと言ってくれという紅月のわずかな希望を打ち砕くようにイデスはその言葉を紡ぐ。
「そうだ、お前は死ねない!このゲームから死という逃げは許されない!ははっ、でもよかったじゃねーか。お前はこのデスゲームに参加しながら死というゲームオーバーがなくなったんだ。残機が無限なんだぜ?」
イデスの言葉に頭に血が上る。
「ふざけんなッ!俺は!デスゲームなんてもんに参加したくねぇんだよ!は?じゃあ何か?死という終わりがない俺はずっと苦しみながら辛い思いをしながら生きていかなきゃならないってか?はぁ、マジであり得ないんだけど……」
これじゃあ今までと何も変わらないじゃないかと俺は頭をかきむしる。
「くそが。なんでそんな仕様にしやがったんだ。こんなスキルならないほうがよかった。どうしてあのまま死なせてくれなかったんだ……」
そんな紅月の様子を愉しそうに眺めていたイデスは何とも思っていないように言う。
「えーだって、そっちのほうがおもしろいだろ?
死にたい奴は生かして死にたくない奴は殺す。力が欲しいやつには与えないで欲しくない奴には与える。
だいたいさぁ、お前たち人間は傲慢なんだよ。なんで当たり前のように自分が欲しいスキルが手に入ると思うんだ? そいつが望んだスキルを与えてゲームをクリアしてもそれは当たり前だろ? そんなのつまんねーじゃん。望んでいなかったスキルの力でクリアする。そっちのほうが圧倒的に面白いだろ?だからだよ」
そう言って嗤うイデスに紅月は無力感に包まれた。
ありがとうございました。




